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第19話 魔神

 ボクはこの世界で初めての「友人」と呼べる相手と出会えた。


 それが昨日、中庭でお話ししたシオン・ブラックローズという少女である。


 グリモワールは友人とは言えない。アレはただの魔術の師匠だ。ライカも違う。冒険者の人たちも知り合いと呼んだ方がいいだろう。


 なので純粋に彼女が初の友人だ。それはなんというか、少し達成感をもたらしてくれる一方で。


「エディ。今日は一緒に街に出よう」


「今日はちょっと......」


「なら明日の放課後、いや週末はどう?」


「ちょぉっと待ってねぇ」


 友達宣言以来、シオンは距離感がおかしくなってしまった。


 放課後は必ずボクを探してやってくる。とてもベタベタとくっついてくる。まるで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 (いや、それは別にいけど、ライカの怒りが爆発しそうで......できるだけ節度な距離を保ってほしいなぁなんて)


 それが本音だが、数日前まで翳りが見えたシオンの表情が、今では小動物のようになっているのを見て否定しづらかった。......つまり妙に愛くるしい。


 ボクに庇護欲が湧いてくる日があるとは思わなかった。勇者の頃は万人を助けることを強いられたから、一人一人に深く付き添うこともあまり無かった。羊飼いとして動物を愛でていたからかな?


(まあ色々と事情のある家庭だろうし、ボクは構わないんだけど......)


「エディ?」


「ええと、こほん。シオンさん。ちょっとお話があるので、来てください」


「!!!」


 シオンがショックを受けたような顔で立ち止まる。


 やがてみるみる表情が暗くなっていき、なぜか「ごめんなさい」と即座に謝り申してくる。


「別に謝って欲しいわけじゃなくて」と慌てて宥めて、しかし言うべきところは言うべきだと思い、ボクはシオンを宿舎の前に連れて行った。


「え〜と、シオンはもしかしたら知ってるかもしれないけど、彼女は僕の従魔。名前はライカ」


「......フェンリル」


「あぁ、やっぱり気づいてたんだ」


「念話で怒られたから」


(そうなのライカ?)(アレはッ......そこの小娘がピーピーしてたからですよ!)


 主人に怒られそうな気配を感じて、ライカがビクッと震えて萎縮する。上目使いでボクを見上げてくるので、どうやら本気で怒られたと思っているらしい。


「別に怒ってないんだけどなぁ」と頬をポリポリと掻く。そんなに自分が怒りっぽく見えるのだろうか。


「えっとね。ライカはボクの従魔で、フェンリル。それで確か......う〜ん?」


「ワンっ(フェンリル一族は強い相手に求婚する生き物! ご主人は渡しません、小娘が!)」


「というわけらしくて......今の念話、聞こえてた?」


「うん」


 どうやらこれで、お互いの意思疎通は済んだらしい。


 ボクとしては、ライカとシオンがお互いに仲良くなってくれたら、なおさら良いのだが......なんて思っていると、シオンがボクの腕に両手を絡めて、ぴたりとひっついてくる。


 そして口を大きく開けて驚愕する様子のライカに向かってニンマリと、どこか得意げに微笑み。


「だったら私も負けない。エディは私の友達」


 なぜかライカの神経を逆撫でするような、挑発する一言を言ったのだった。


 ライカもコレにはブチギレ。念話で「食い殺すぞ!」と、耳を塞ぎたくなるような圧と共に怒りを投げ飛ばしてくる。


「いや勝ち負けじゃなくて、ボクは世界に一人しかいないんだから......距離感をね?」


「むぅ......分かった。これからは気をつける」


「ライカも怒らないで。これから仲良くね?」


(......善処しますよぅだ)


 不貞腐れるライカと、ちょっぴり反省する様子のシオン。


 この先、大丈夫なのだろうかと若干の不安を抱えながら、ボクは天を仰ぐ。


(......この先『大丈夫』か、ね。平和だと思ってた世界で、果たして無事にやっていけるのかな)


 一抹の不安が胸の中にある。


 魔王が存在しない、人間のための世界。そして美しい王国のダンデライオンと、穏やかな学生生活。


 しかしボクが知らないだけで、勇者の時代には存在しなかった新たな脅威が、この世には確かに存在するのだ。


 その存在を知ったのは数日前。師匠と会って、色々と話をした時だった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 シオンと友達になる二日前。


 その日の放課後はライカを置いて、一人でグリモワールのところに奔放していた。曰く「二人きりで話がしたい」とのこと。


 数日ぶりに訪れたボクを、二日酔いの頭痛に苛まれた彼女が出迎えてくれた。いつも通り治し、軽い説教をして、早速その時の本題に移り変わった。


「”グリモ君”の情報って、師匠の手元に転送されるんでしたっけ?」


「ああ。ワタシの知識領域の片隅に、必要だと判断された情報が送られてくる。だからお前と奴らの戦いも見ているぞ」


「知識領域......やっぱり師匠はすごいですね。ボクじゃ叶わないことばかりだ」


「お前もその可能性を秘めてるんだ。ワタシなんてあっという間に抜かすかもしれない......な?」


 ニヤリと、何か期待するような表情のグリモワール。あの顔色には、何か別の......例えば「期待」のほかに「競争心」のような色が見えるが気のせいだろうか。


(変に期待しないでほしいんだけどなぁ......)


「それにしても『魔神』と出くわすとはな。相手がお前じゃなかったら、ブラックローズたちは攫われていただろうよ」


「それです師匠。『マジン』って、どういう意味なんですか?」


「あの時のお前は興味なさそうだったが、気になるか?」


「戦闘中は余裕も無いし、何より自分の中の心構えが邪魔というか......。当時は考えることを後回しにしてました」


「まあ一介の学生じゃ余裕なんてあるわけもないか。異例とはいえ、まだエディも年相応の部分はあるんだな」


 試験の途中に現れた謎の二人組。その相手は正直、負けるか勝つか、一歩スレスレの戦いだった。


 ボクには相手を殺すためのとっておきの隠し玉。対して向こうは、底知れない実力と不気味な能力があった。その見えない駆け引きをしていたが故に、思考に隙間があまりなかったのは本当だ。


 だが師匠の「年相応だな」と言うセリフには、何か違うモノも混じっていると、師の些細な表情の変化で気がついた。冗談を言うような顔をしているが、まるでボクのことを探るような眼もしているのだ。


 何を考えているのか。追求したところで話が逸れる、時間の無駄だと思い、ボクは黙って「マジン」とやらの解説を待つ。頭の中に浮かぶのは、かつて戦った”魔族”の姿なのだが——。


「奴らは魔の力を持つ神。すなわち『魔神』だ。ただ本当の神様ってわけじゃない」


「”魔の神”?」


「魔神はある条件で、人間が進化した存在のことだ。そして奴らは()()()()()に人格をじわじわと支配されていく。その最上級があの『ナイン・オブ・ブレード』と名乗った奴らだ」


もうすぐで第二章が終わります。

最終話で報告が色々とあります。

次回は19-2です。また、今週末の3連休は忙しく家にいないため、投稿はお休みさせていただきます。

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