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第18話 黒い花と羊飼い

 打ち上げは楽しかった。


 シオン・ブラックローズという少女の人生には、絶対に訪れることがないと思っていた。


 仲間と和気藹々とする。街に出掛ける。一緒にご飯を食べて、(いとま)を潰すために冗談を言って。


 それが全て新鮮で、私に一つの疑問を残した。


 そのことを打ち上げが終わって、学院の寮に戻る前に、エディデアに尋ねようとした。


「あ——」


 ......何かを言いかけて、その手を引っ込めて。なぜだか分からないが、ここで言うべきではないと思ったのだ。


 だけどその日は、胸に燻る違和感をそのまま、先に学院の寮に戻ったショコラルテに続き、私も戻ることにした。



 そして翌日の休暇は、エディデアの姿が見当たらず、私は目的もなく学院内を歩き回った。


 図書館にも行った。自分が読むには難しい言葉が綴られた本や、子供が好みそうな絵本。色々と手にとって、軽く目を通して、図書館を後にした。


 平穏で、退屈で、でもちょっぴり楽しい。そんな休日を過ごして、また一日が流れた。


 前期試験明けの初の学院。特別に何かが変わるのでもなく、私を待っていたのはいつも通りの日常——。


「あっ、シオンじゃん。一緒の授業、よろしく〜」


「うん。よろ、しく」


 だと思えば、何かが違った。ショコラルテと同じ授業。今回からメンバーが変わり、彼女と一緒に魔術の授業に参加することになった。


 どこか呆けているというか、やる時は真面目に思考を巡らせて動くショコラルテ。しかし同じ授業を受けていると、彼女は少し適当で、のらりくらりとマイペースに動いていた。



 続いて剣術の授業。


(この時間は、そんなに好きじゃない)


 剣術の授業は、私にあまり息が合わないというか。そもそもまともな剣術系のスキルを持っていないので「昔、見たことのある少年の動き」を真似して二本の短刀で戦うのが、私のスタイルだ。


 ブラックローズの家での修練から解放されたくて、なんでもいいからと切望し、何かしら身につける必要に追い込まれ、会得した我流の戦い方である。


 だからウマが合わない。自分自身で向いていない授業だと思っていたが、先生は剣術に加えて色々と視野を広く見ている。模擬戦などで私の戦い方を見て「前より動きについていけている」など、助言をくれた。


 正直、その言葉を受け取っても、理解する頭がないと思っているので、いつも首を傾げることしかできないのだが......。



 昼休みの時間がやって来た。


 この時間は、最近の私にとっては楽しい時間だ。


 あの子と共有できる時間。だから一日の中で一番、楽しみにしていて——。


「っ......」


 エディデアの周りには、私の知らない男子生徒がいたのだった。


 その姿を遠巻きに見て、足を止める。胸がズキっと痛む。数秒ほど迷って、その身を翻し、その場を去って行った。



 ......放課後。


 私はいつも通り、”偶然”、渡り廊下でエディデアと出会った。


「やっ、シオン。今日は初めてだね」


「うん」


「どうしたの? ボクは今から従魔のお世話だけど」


「私、は......中庭に」


「そっか。それじゃ」「あっ......うん」


 呼び止める前に、彼は行ってしまった。


 そんなこんなで彼とはすれ違う日々を送り、三日が経とうとしていた。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



(なんか気分が悪い......魔力不足?)


 週の中日。私が目を覚ますと、魔力欠乏症とは違う、微妙な気だるさを感じた。


 ベッドから起き上がれない。なんだかこのまま横になって、枕に顔を埋めて、何も考えたくない。ずっと寝ていたい.......。


 似たような経験はあった。王立学院に来る前に、部屋に閉じこもっていた時、目を開けて何時間も横になっていた。


(それとは違って......心が落ち着かない。何か、ヘン)


 胸に手を当ててみる。別に心音に異常はない。


 では何か。言い表せないモヤモヤが溜まっているような。そんな気がしてならない。


「!」


 すると学院の予鈴が鳴る。その音に反応して体が反射的に飛び起きる。


 うだうだしていられない。私は自分の体を頑張って動かし、いつものように準備を整えて、授業のある教室に向かっていく。



「......ハァ」


 そして放課後の中庭。この日の昼休みも、エディデアと話せなかった。


 というか最近、彼の周りに色々な人が集まってきている。以前までは一年生の間でも「変人」「魔術の天才?」「メイグスの腰を折った」「木刀を片手で砕いた」など、そういった噂が彼の周りに人を寄せ付けない原因になっていた。


 それが今ではどうだ。私にすら優しくする彼の人柄に惹かれているのか、知らず知らずのうちに彼の周りに人が集まっているではないか。


「......うぅ。なんか、モヤモヤする」


 頭を抱える。この気持ちの正体がよく分からない。せっかくの放課後を、私は意味もなく、中庭のベンチに座って過ごす。


「......」


 自分は彼にとって”ただのシオン”。知り合いの学生。それは自分自身がよく分かっている。


 じゃあその関係が、ある日突然終わりを告げたらどうなる?


......それは多分、今なのだ。


 皆がエディデアという人物に魅力を見出す。当然だ、彼は”影”にすら希望のカケラを与えてくれる。変幻自在の光なのだから。


(あの人にとって私は......)


「やあ、シオン。元気?」


「エディデア!?」


「あれ、驚かせちゃった? ごめんごめん」


「どうして......」


 するとひょこっとエディデアが現れて、慣れたように私の隣に腰を下ろしてきたのだった。

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