17-2 懐かしき冒険者しぐさ
——翌朝。
ボクは集合場所に向かう。
学院の庭にある噴水の前。そこに私服姿のシオンとショコラルテが立っていた。
シオンはいつもの私服で、ショコラルテは初めて見たが、タイトで長い紺色のズボンを履いており。上の服はズボンインと、おしゃれに疎いボクからすれば「腰が細く見える」という感想が出てくる格好をしている。
エルフがよくやるように、長い髪をポニーテールにしてまとめ、日光を遮るサングラスを着けている。そんな二人のところに駆け寄り、「待たせたね」と詫びを入れて合流。
「おっ、キタキタ! って、エディデア。質素な私服......すぎない?」
「動きやすいのが一番じゃないかな? 君のは逆に、歩きにくそうな格好だけど」
「自分をよく見せたいからね。さっ、とりあえず行きましょう。私たちのパーティーの最後の目的地に」
前期試験のパーティー。その最後の目的のために、休みの最初の日は集まったのだ。
何をするのか。それはこれから少しづつ、達成していくことになる。
王都に出て、イブリスを除く三人は適当な話題のタネを咲かせながら、話を弾ませていた。ショコラルテがおしゃべりなので、どんどん会話が進んでいくのだ。
最初は試験のことから、どんどん方向性が変わっていく。休日の過ごし方、趣味、街の名物。それらの話題で盛り上がっていくうちに、三人はとあるお店の前にたどり着いた。
ちょうどお昼時が近いこともあって、そこそこの賑わいを見せている。赤・青・白の三色が一枚になった旗を入り口にぶら下げて、少し洒落た形の看板には「ブレッド・フレン・ド」と書かれていた。
店内が見えやすいように、壁一面は大きな窓ガラスとなっている。
お店の前にいると、少し良い匂いがする。小麦が焼き上がり、香ばしい匂いが店内から漏れ出ていて、通りすがりの人々を誘うように巧みに醸し出しているのだ。
ショコラルテも通行人と同じく、そそっかしさを隠さないで扉を開けて行く。その後に続いて、ボクたちもお店の中に入って行き。
「いらっしゃいませ〜。......本当に来たのかよ」
「いらっしゃいました〜。それがお客さんに向ける態度なのかなぁ、イブリスくぅん?」
「ご学友がごらいてーん、さっさとお選びくださーい」
悪戯を楽しむショコラルテに「早く買って帰れ」と言わんばかりの顔で、ぎこちない笑みを浮かべるイブリスが、見慣れないエプロン姿で「ブレッド・フレン・ド」というパン屋で店番をしているのだった。
店内にはわずかながらイートインスペースがある。
そこに三人は座り、各々が買ったパンを食べつつ、休憩中のイブリスとお話しする。
「これウマッ」「美味しい......」
「褒めてもサービス無しだぞー。......んで、俺はまだ解放されないんでな。今日のぶんを全部売らねぇとならねぇ」
「休みの日だってのに大変だね」
「同情するならパンを買ってくれ」
一つ銀貨二枚ほどのパン。ショコラルテは大きく口を開けて、対してシオンは小動物の如く小さな口で食べていく。二人が驚くのも納得だ。
確かにここのパンは美味い。というか、ボクが勇者として生きていた頃に比べて、圧倒的に食のレベルが高くなっている。
(昔は街で食べる食事なんて、旅の道中より少し美味しい程度だったのに。今じゃ、香りづけや単純な味までもが高いレベルだ。これも平和が進んだからなのかな)
ボクが食べるのは甘いパン。以前の世界では考えられない代物だ。表面のサクサク加減と砂糖の粒が、口にする度に幸福という数値を高めていく。妙な模様はどこかで見た”果実”にソックリである。
学院に進学してからは、食事の探究も趣味になりつつある。自分の知らない世界がすぐ身近に転がっているというのは、不思議な興奮を招いてくれるものだ。
パンを食べ終えて思わず「明日の朝も食べたいくらいだ......」と、心の声が漏れ出てくる。その一言をパン屋の息子が見逃すはずもなく、ギラりと鋭く眼光を輝かせて「ウチは朝もやってるぜ」と、得意げに笑みを浮かべて商売に誘導する。
「なら伺おうかな」
「へへ、待ってるぜ。ちゃんと来いよ?」
「なんかイブリス、キャラ変わった?」
「お得意様を見逃すほど俺はガキじゃねぇんだ。......んで来た目的を聞くの忘れてたけど、打ち上げの話か?」
「そうそう、忘れそうになってた。私たち四人のパーティーも最後だし、初めての命懸けの戦いを乗り越えたからね。場所も決まったし伝えにきたってワケ」
「ボクの知り合いが行く酒場で、イブリスの気になってる”冒険者”も集まるところだよ。場所は——」
「——分かった。んじゃその時間に」
こうしてイブリスに伝えるべき情報を伝えて、三人は彼のパン屋を出ていく。
お店を出て「休日なのに実家のお手伝いなんて、大変ね〜」とイブリスの仕事ぶりを見て、他人事につぶやくショコラルテだった。
——待ち合わせの時間。時刻は夜の19時。
冒険者御用達のお店の一つ。「フライタウン」という名前のお店にやってきた。
ここは普通の食事の提供に加えて、食べられる食材ならどんなものでも持ってきて揚げてくれるのだ。冒険者たちが討伐した魔物の可食部を持ち込んで、調理してもらえる。その面白さを求めてやってくる人物が多い。
店主の名前は別名「揚げ物マイスター」で、自称「特殊技能」と言い張っている。無論、誰もが分かる冗談だ。
そして本日も同じように、面白さを求める荒くれ者の冒険者と地元の人間。外部から噂を聞いてやってきた者で溢れている。その中にボクたちも紛れている。
ギリギリ間に合ったイブリスを連れて、四人は店の中へ。一階奥側は厨房と冒険者の溜まり場で、喧騒を遠くから眺めるのが好きな人たちは手前側の席に座る。二階も似たようなモノだ。
「ここが冒険者が集まる店。まだ時間が早いから数は少ないけど、これから一気に増えてくるよ」
そう言って、案内された角の席に座る王立学院の生徒四人組。校則で特に酒場に行くなとは決められていないので、堂々とお店にも入ることはできる。
——そして十分後。
冒険者と思われる集団がゴロゴロと入室。中には知り合いもいて、ボクの姿を見つけると「よっ!」と手を挙げてくる。
こちらがニコニコで振り返すと「やっぱ顔が広いんだ」とショコラルテに、まるで疑問が確信になったように頷かれる。
「とりあえずボクらはボクらで始めよう」
先に運ばれてきた飲み物。これらは全部、ジュースなどだ。王国ダンデライオンでは、飲酒は十六からと決められていて、まだギリギリ年齢に達しておらず、飲むことができない。ちなみに勇者の時代は、飲酒に年齢制限は無かった。
「それじゃ、前期試験の無事と、この四人のこれからを願って。乾杯〜!」
「おうっ」「うん」
「ああ、これからを。乾杯」
ショコラルテの言葉を合図に、四人はそれぞれの飲み物が入ったジョッキを合わせて乾杯。立派な冒険者仕草だけど、ボクたちはただの生徒だ。
だというのに懐かしさが込み上げてきて、ボクはほんの少しだけ気持ちを噛み締めながら、今のこの瞬間を楽しむのだった。




