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15-2 狂おしき代行者

「真実の眼が伝える」


・アレは、九つの剣に名を連ねる魔神たち

・第五位、第六位の分霊である

・心して壊せ......虚像など、手に取るように”砕け散らせる”だろう?

  容赦はない。魔族には死を。魔王には神の怒りを。それらがいないのなら、勇者の矛は、限りなく似た”悪”に向けられるのみ。


 勇者として求められた矜持を胸に、秩序を守るシステムとして、ボクは行く先々で人々を助け続けた。


 ......勇者(ボク)は狂った正義の代行者。そう悪意を持って蔑む者どもも、少なくなかった。



 表情筋が固まる。瞳は目の前の敵を逃さないと、瞬きすら最小限に抑えて捉え続けている。意識のスイッチは、既に無意識に押されていた。


「野郎ッ、本当に人間なのかッ!? グアッ!!」


「よく言われたよ(()()()()。コイツらの肉体は脆く、砕け散るのか)」


「デュナを一撃で......」


 最初の一撃に耐えた女......ハワードに「デュナ」と呼ばれた彼女を、光の剣をまとわせた杖で薙ぎ払う。


 そして、二人の人質を助け出し、獣人形態のライカに預けて、ボクから離れないように近くに待機させる。


「殺す前に聞いておきたいことはないのですゥ?」


「......あぁ、確かに。危うく忘れるところだった」


 警戒を緩めぬまま、両脚を失ったハワードという男の方に近づき、ゆっくりと杖の”切先”を向けた。


「ハハ、思いとどまってくれて何よりィ。理性も無く暴れるほど、獣ではありませんでしたねェ?」


「......」


「おぉ、怖いですよォ。あなたは笑顔が似合うお方ですが、何やら”覚悟”を決めた今のお顔も好みですゥ。......お戯れでしたねェ。ええ、我らの目的は『芽のある母体の確保』とでも言いましょうか」


 黙って敵の言うことに耳を傾ける。語る内容は特に興味を惹かれる話題ではなく、注意して聞かないと右から左に耳を通り抜けていきそうな話題だった。


 特に、最初の戯言のオンパレードは気持ち悪く、微妙な好意を寄せられる理由も見つからない。


 油断ならない相手なのは分かる。敵の首元に杖を添える。つまらない答えをしたら、ボクの手は考えるより先に動いてしまうだろう。


 無論、ハワードもそれが分かっている様子で、首筋に一筋の汗を垂らして「では」と。剽軽(ひょうきん)な調子を崩さず、語り始めた。


「王立学院の試験、その上位に来るであろう生徒を狙う。上級生? ()()()()彼らを狙うのは骨が折れますから、力のない一年生をターゲットに。そして今、ゴール近くで様子を伺い、我らが”手先(エンジェルズ)”を使って策を通したところ、生き残ったあなたに見つかり切り刻まれていますゥ。おほほほ!」


「『普通とは違う才のある人物』を狙うってことか?」


「ククク、どうですかねェ......」


「!」


 突如、異変に気づく。ハワードの首に光の刃が数ミリほど刺さるが、杖そのものを何かで弾かれた。


(足がいつの間に? それに奴の武器は......大型の大剣『クレイモア』に似ている形だ)


 仰け反った体を慌てて戻し、構え直す。......怪我も治っているが、現れた剣の様子がおかしく、眉を寄せて凝視する。


 大きな剣は、”剣”と呼ぶには不気味な形で、先端が横に大きく、歪な形で、黒ずんで欠けたような意匠をしている。”神聖文字”のような単語が刻まれているが、小さすぎて読みきれない。


「平和に溺れ数を増やし続ける人間ッ、そんなものはつまらないのですよッ! 邪魔をしないでもらいたいィ!」


 大剣を構えて敵は飛び込んでくるが、気づけばもう一人、斧槍(ふそう)に似た......まるで先端に斧の刃がついたような”大剣”を振り翳し、上から叩き割ってこようとする。


 奴の腕も完全に元に戻っている。ハワードと同じく、普通の体ではないのは確かだ。


「ブッ潰れろ!」


 アレを杖で受けると自分の体ごと切り裂かれる。聖剣があれば、もしくはそれなりの剣を握れるなら話は変わるが......。


「斬った! どうだ、ザマァ......ん? 霧?」


「幻覚......ふふふ、はははっ。幻視とはすなわち、理性を惑わすモノ!」


(『詐称』を使い切った。どう出てくる?)


 ともかく敵の力を甘くみてはいけないなと感じ、距離をとって策を行使し、様子を伺っていると。


「力のまま暴れなさい、デュナ」


「そのつもりだ! 『バーサーク』!!」


 残る羊毛布は回復が二枚と炎が一枚。バエルの地面が一枚。マルファスの魔術障壁が二枚だ。正直、手札は心許ない。


 詐称のスキルで様子を見るつもりが、雄叫びを上げて気合いでも入れ直したのか。それとも未知のスキルか。女の方が、霧の中でも正確にボクを捕捉し、追いかけてくる。


(意識を発狂させた? 理性を失って狂乱した者には、確かに幻視は効かない。うん、理屈はなんとなく分かるな)


「アアアァァ!!」


「バエルとマルファスを合わせて......『ディフェンスタワー』!」


 二つの布に微量の魔力を流すと、布が手のひらで消える。布が消えた場所の地面から、魔術障壁を持った土の塔が生えてくる。これを壊さない限り、ボクには近づけない。


 しかしバーサーク状態に入ったデュナという女は、たったの二発で塔を破壊する。即席の魔術障壁も、準備を整えた相手には通用しないらしい。


「どこに行きやがったぁぁぁ!! っ、そこかぁぁ!?」


(狂乱したアレは敵の姿を捉えるのに条件がありそうだ。ともかく)


 不自然にボクを見失ったデュナから距離を取って、控えているライカと皆を守るように、杖を構えて魔術の準備をする。


 すると仮面の下で鼻を突き出すような動きをした後に、デュナはこちらを見つけたような素振りを見せて、威勢の良い雄叫びと共に突撃してきた。思ったより早く間に合わない......。


 急いでにグリモ君に「魔術障壁」の詠唱を肩代わりさせる。この本は、ボクのもう一つの口だと思っていい。指示を受けたグリモ君の手により敵の刃が届く前に、ボクたちを守る強度の高い魔術障壁が展開される。


(精度の荒い”口詠唱”より丁寧な詠唱込みの魔術障壁なら強度も高い。羊毛布のモノよりも良くできてる。......そういう差があるのか)


「ご主人様!」


「前に出なくていいよ。心配するな、それよりも二人を守れ」


 深く紺色の魔術障壁が敵の猛攻を凌ぐ。守りながらの戦いは、勇者だった頃に比べてかなり難しく、同時にかつての力の強大さを身に沁みて思い知る気分だ。


 ライカにも心配され、指示をし釘を刺しておく。


 とはいえ面倒に変わりなく、小さくため息を吐いて次の一手に繋げようとすると、敵がボクのことを訝しむように見ていることに気づく。


 バリア越しに「何かな?」と問いかけると、ハワードは剣を握ったまま軽く首を傾げて疑問を投げかけてきた。


「底が見えない、恐ろしい子供だァ。しかしなぜ、そこまでするのでスゥ?」


「理由は必要かい? 目の前に人を苦しめる存在がいるなら、ボクは振るえない剣を握ってでも止めに行く。それだけだよ」


「なんと歪んだ少年かァ! 自己犠牲? それが素晴らしいとお考えなのかァ?」


「蛮勇だな、反吐が出らぁ! 見苦しいガキが、死にたがりならいいぜ、ぶった斬ってやる!」


「......君たちの言っていることは、興味の無い理屈。それに勇気は行動で示すモノだ」


 魔術障壁を無数の攻撃で破壊しようと試みてくる。


 もってあと数秒。それまでに、ボクは魂に宿る”勇者の力”を引き出さなければならない。


 一度、ゴリアテと戦った時に繰り出そうとした。その後はグリモワールの手ほどきで、今の自分でも扱えるレベルまで格下げした。


 いわゆる母の抜刀術を学んだのと同じ理屈で、勇者の技を無理やり再現したのだ。


「再生する相手を一瞬で消しとばす。”アレ”をやる」


 その許可を求めるように、ボクはグリモ君に話しかけた。


 ボクの純粋な殺意を感じ取ってか、敵は一瞬だけピタリと動きを止めた。その瞬間、風すら吹くことを許さぬように、冷徹な殺気が周囲の熱を少し、奪ったような気がした。

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