表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/49

12-2 私の”光”

「真実が伝える」

・死肉を啄む王など偽りの姿

・すでに根は張り鉢は出来上がった

・意志の無い”第九位”が顕現する

 あり得ないものを見る目で、ボク以外の全員は腰が引いていく。ただ一人、元勇者の目には、カラスの背後に何かが見えていた。


(『女神の眼』が真実を写している。なんだ、あの”背後の霊”は?)


 左右が不揃いの不気味な翼を持ち、顔は人間に近いが、目は無数にある。上半身のみの怪物の姿をした霊。それがカラスの背後に現れ、指先や体から糸のような物を伸ばしていた。


 その見えない糸はカラスの体を動かし、まるで生きているように動かしていく。


 カラスの頭部の切断面から、ボコボコと血や肉が湧き立つように蠢く。やがてそこからは、”背後の霊”にそっくりの()が現れたのだった。


「「!!」」「何ですの、気持ち悪い......」「っ!!」


 見たことも聞いたことも、前世ですら記憶にない謎の怪物と化したカラス。その姿は悍ましく、醜くて、この世の生物とは到底思えない見た目をしていた。


 その生物は、カラスの頭に寄生するように生えてきた”ソレ”は、無数の不気味な瞳を動かしてボクたちをジロリと見つめる。


 舐めるような視線......睨まれた皆が恐怖で怯え、身がすくんでいる。


 その様子を嘲笑うように無数の目玉がぐるぐると動き、一斉に真上を見上げる。


 再び肉が蠢き、首の断面から真っ白の腕が二つ。続けて、細くこけた上半身。最後に、刃のように鋭い羽が飛び出てきて、背後の霊と同じ姿が()()()()()()()()


 .......その背後の霊は消えていく。いかにも意味深だが。


「なんだこれ、鳴き声!?」


 耳障りな金切り声。言葉では形容し難い不快な音。それが全身の肉体を、骨を、まるで舐め回すように駆け巡る。ボクもこの気色の悪さに思わず身震いしてしまう。


(ライカ。アレは何かわかる?)


(いえ、初めて見ました。ご主人様、皆を下がらせて逃げないと、私たち以外は全滅します)


「全滅......」


 ライカですら存在を知らない相手。これはいよいよ、放って置けない。


「ボクが人柱になる。皆は逃げるんだ」


「は? 何言ってんだ、俺はまだ戦えて」「私だって!」


「ここで死んでも良いのはボクだけだ。まあ大丈夫、死ぬために戦う人はいないよ」


 生まれた意味はまだ分からないけれど、ボクは今、ここで()()()()()()()


 理不尽に弱者を弄ぶ気でいる、”悪”の根絶を。


(まずは、”下準備”が必要だ)


 ......真実が伝える”第九位”とやらを、ボクはこの瞳いっぱいに映し出し、静かに「スゥゥ......」と息を吐いて睨みつけた。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ——何を言っているのか、理解できなかった。


「エディデア......」


 唐突な自己犠牲の言葉に、”私”だけではない。他の皆も、エディデアのことを、各々の思いが宿る瞳で見ている。


 怒り、困惑、不満。私はそのどれでもない。


 ただ「わからない」のだ。彼の瞳は曇りなんてなく、純粋に自己犠牲を提案している。まるで()()()()()だと言わんばかりに、彼は自ら進んでその役を買って出る。


 その理由が分からない。理解したくても、理由が見つからない。疑問がただひたすら、私の頭には埋め尽くされていく。


「っ、おおお!? ぐはっ!!」「イブリ——え?」


「何してますの!!」


 イブリスがカラスの足に掴まれ、地面に叩きつけられる。二度、三度と。唐突なカラスの攻撃に対処できず、彼はなすすべなく無抵抗でやられてしまう。


 そのままゴミを捨て去るように、カラスはイブリスをどこかへ投げ飛ばす。木々が薙ぎ倒される音が聞こえ、心配するショコラルテに次の標的を定める。


 そっぽの方に気が向いていた彼女を守るため、”色が特徴的な髪”の女子生徒がカラスの爪を刺突剣で弾く。しかし先の戦闘の負傷で、動くたびに斬られた傷から血が噴き出ていき、その度に苦痛に表情を歪めていく。


 そんな満身創痍が持つはずもなく、二人ともまとめて羽で殴り飛ばされる。剣で守った片方とは違い、もう片方は受け身を取ることもできず、地面を何度か跳ねて、ピクリとも動かなくなる。


 ショコラルテの足が、あり得ない方向に曲がってしまっている。何か、見えてはいけないものが突き出ていて、その姿を見てしまって、私は口を押さえて後ずさる。


 ......体が激しい拒否感を示し、喉の奥から勝手に込み上げてきそうなモノを、グッと押し返す。


「シオン!」


「!!」


 激しく動揺する私を守るように、(エディデア)が庇ってくる。私の”光”が、緊迫した声で名前を呼んで。


 羊飼いの杖に魔力を通して、”不思議な光の剣”を操って、カラスの攻撃を捌き続ける。カラスの攻撃も先程までとは別人というか、洗練された人の動きのように隙なく翼と足の攻撃を叩き込んでくる。


 続いて上半身。首から生えてきた上半身が、両手を広げてエディデアに何かを飛ばす。高速で飛んでくる攻撃は避けきれず、エディデアの体を小さな穴が貫通する。


「ッ......」


「エデ——」


「あはは、勘が鈍ってるなぁ」


 無数の目が動く。楽しそうに両手を叩き、背中の羽を二つむしり取る。


 白い液体が飛び出ていく。いや、アレは「血」だ。私ならそれが分かってしまう。


 見るだけで、触れたくないと感じる血液。体が拒絶するような違和感。あの怪物に近づきたくない、戦いたくない。


 だというのに、怪物はむしり取った羽の形を変えて、ねじりまきの槍のようにして両手で握る。カラスの体を動かして、エディデアに近づき、無数の手数で翻弄して槍を腹に突き刺す。


「なるほど、そう来るか。ちょうどいい——」


「ケヒッ、シャアアア!!」


 なぜか避けようとしないで、エディデアが無抵抗でやられた。貫かれた体が持ち上げられ、彼はポイっと投げ捨てられる。


 残るは私のみ。不気味な怪物の瞳が、私を睨む。怖くて、それにエディデアがやられてしまった衝撃で動けない。両足が無様に震える。力無くへなへなと地べたに座り込む。


「ひっ!!」


 槍が飛んでくる。まるで目的もなく、ただ殺すことを楽しむような怪物の攻撃が、私の体を狙っている。


 恐怖で涙が、汗が、涎が垂れてくる。......とっても無様だけど、股の間から、滑稽にも"漏らしてはいけないモノ"が出てきて、下着と制服を濡らしていく。


 ——お前なんて、生まれてこなければよかったのに。


 ......そうだよね。私は、とっとと死んでおけばよかったんだ。


 両手を下ろす。震えが止まったような気がした。一瞬が何倍にも感じられる。そんな錯覚に陥った気がした。


「グルル!!」


「!?」


「ワン! (何チビってやがるんですか、腰ぬけ女!)」


「頭の中に声......?」


(ご主人が命をかけて戦った! ならばお前も、そのくらいはしてみせろッ!)


 エディデアの従魔が、私を助ける。カラスの肉体に噛みつき、雷の魔術を披露して戦う。


 雷は直撃してもカラスの体表を焦がすくらいで、対して効いている様子はない。


 従魔が私を鋭い眼光で睨みつけてきて、ビクッと体が震える。見知らぬ女性の声が頭の中に鳴り響く。まるで従魔が話しかけてきているような......?


「喋る従魔......」


 喋る従魔はかなり知性が高く、高位の精霊や魔物に当てはまる特徴だ。しかしあの狼は、高度な知能を持つとは思えない。普通の従魔くらいのサイズでしかない。


「ガゥッ!(チッ、カースオレグの呪いが気化してッ......)」


 カースオレグの呪い。それはあのカラスの腹の中に溜まっている特殊な液体で、外に漏れたり吐き出したりすることで、有限だが周囲の生物の動きを抑制する毒を撒くことができる。


 それを「カースオレグの呪い」と、先程エディデアが簡単に説明していた。奴がそれを使い始めたら、近づいてはいけないと。


 その呪いの原液が、カラスの体から流れ出ている。よく目を凝らすと、ドロドロの油のようなモノが地面に垂れて、空気に触れて薄暗い毒となって周囲に広がっていく。


 最初に吸ったエディデアの従魔の体がピクピクと震え始め、続いてダメージが大きくて動けないオレンジゴールドヘアーの女子生徒が毒にやられて倒れる。


 その毒は私の周囲にも漂い始め、辺り一帯を支配してしまった。


(シオン・ブラックローズ!)


「!」


「グルル! (何もしないで死ぬくらいなら足掻け! 理由なんて考えるなッ。生きる意志を示せ!)」


 従魔が震える両足を堪えて立ち続ける。その体がどんどんと大きくなり、巨体な一匹の銀狼へと姿が変わる。


 あの姿は知っている。昔、書物で読んだことがある。


 人里から離れた秘境で暮らす、先祖から代々受け継ぐ獣人の一族。圧倒的な力を誇り、独立した生態系で生き続ける伝説の獣の力を継承する者たちの......魔物と獣人の狭間で生きているとされる一族、すなわち——。


「フェンリルの......?」


「グゥゥ......ゥッ!」


 フェンリルの姿に似ている。従魔が詠唱も無しに魔術を放つ。


 雷の力がフェンリルの体を覆う。フェンリルは弱点だと思われる、人の姿をした白い何かを食いちぎろうと、カラスの肉体を力で押さえつけて、噛みつこうとする。


 フェンリルの喉に、あの羽の槍が深々と突き刺さる。それでも止まることなく、フェンリルは雷の牙で対象を加え、噛み砕く。骨の砕く音が聞こえ、無数の目がぐるぐると激しく動き回る。


 その間、私は近くで倒れているエディデアに近づいていく。周囲の毒で体が徐々に動かなくなっていく感覚に襲われながら、健気にゆっくりと、地面を這いずり進む。


 ——自分の生きる意志。そんなこと、分からない。


「エディデア......」


 倒れるエディデアの体を起こす。仰向けで寝かし、綺麗に整った顔をじっと見つめる。よく見ると、先ほど傷を負ったはずの場所は、服が破れているだけだった。


 無事だったんだと安堵しつつ、彼の顔を間近で見て、その光の強さで目を焦がされそうになって。「ああ、やはりそうだったんだ」と、私は気づいてしまった。

11/3(月)は投稿をお休みします。申し訳ありません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ