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第11話 屍肉を啄む大地の主

 初の戦闘を評価するなら、対魔物において及第点の評価だと傍目に見て思う。


 これが不確定要素の多い実戦だと、一気に変わってしまう。その経験不足を補うための前期試験なのだから、別に失敗しても構わないだろうが。


(魔力石はかなり集めた。これなら上位入賞は狙えるかな)


 その後もボクの探知とライカの鼻を使って、地道に得点を稼ぎつつ、ほとんど戦闘しないでゴールまで近づいていた。


 魔力石をホイホイと集めていき、手持ちでは運べない程度にためた。これだけあれば、あとはゴールするだけで良いだろう。


 合成獣を倒しながら向かっても良いかもしれない。試験用に右手首に取り付ける”腕輪”に記録はカウントされるが、生存し続けることで得られる得点も最大限、貯めておきたい。


「いや〜、エディデアとワンちゃんのおかげですっごい楽! 組んで正解だった〜。私たちが一番かもね」


「つまらねぇな。俺はもっと競い合うつもりだったのによォ」


「何言ってるんだか、”パン”くん。効率よく動いた私たちの努力の賜物だろ〜?」


「誰が”パン”だ! イブリス・”ブレッド”だ!」


「どっちも同じでしょ。実家はパン屋らしいじゃん」「なんでそれを知って......!?」


 ショコラルテも勝ちを確信して気が緩み、手を頭の後ろで組んで呑気にしている。イブリスはもっと戦いたかったと、つまらなさそうに口をとんがらせて、両肩を落として歩いている。


 調子に乗って軽口を叩くショコラルテと、実家がパン屋らしいイブリスの二人は、思いのほか順調に進んで気が緩んでいるようだ。


 そして、それはボクも同じだった。なんせ負ける展開を想像する方が難しい。


「消耗を抑えて目的地に着く。もし君たちが一人で森に迷い込んだ時とか、この方向性は重要となる心構えになるんだよ」


「へいへい、そーだな」


 イブリス相手に指を立てて、()()()()()()を聞かせる。興味なさそうだったけど、元勇者の経験談はバカにできないんだけどなぁ。まあいいか。


 完全に反省会の気分だった。いつもの放課後の時のように、教鞭の鞭をとっていると、隣を歩くライカが耳を立てる。


 ゴール直前で最後の敵、ということだろう。ライカから念話で「正面、少し歩いた先に大型の敵がいます」と報告を受け、皆に敵の存在を伝える。腑抜けた空気が少し、やんわりと固まった。


「最後の大暴れ、行くぜっ!」


「よぉし、私も張り切っちゃおうっと!」


「......私も、頑張る」


 ボクの報告を受けて、最後の大暴れ。出し惜しみせず、大型の敵と戦う決意を固める仲間たち。


「じゃあ、ボクも全力を——」と、その熱気に当てられて本気を出そうなんて、軽い冗談のつもりで出てきた言葉だったのだが。


 他の三人は一気に静まり返り、冷静に手を振って「エディデアはダメ」と、規格外の羊飼いの冗談をはたき落とすのだった。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 気配のある場所へ歩いて向かうと、大型の合成獣が、まるで近づくボクたちの動きに反応するように地面から生えてきたのだった。


「うわ、でっかいね」と、どんどんと大きくなっていく土の塊を見て呟いていると、左側の草むらから音が聞こえる。


「あら。わたくしたちの他にもいましたの?」


 草むらから姿を現したのは、橙色に近い金髪を持ち、長く胸の辺りまで伸びる髪の毛は特徴的な巻き毛。前世でもよく見た、貴族の令嬢で流行っている「縦巻きロールヘア」もしくは「ドリル型ヘア」だ。


 誰かがそう呼んだのだろうが、初めて聞いた時は、冗談に疎いボクでも吹き出してしまった。


 ”特徴的な橙色に近い金髪”を持つ縦巻きロールの少女。同じ学院の制服に身を包み、若干細部の異なる衣装ではあるが、仲間の筋骨隆々の生徒を連れてゾロゾロと出てくる。


 彼女は背後の男の生徒に小さな声で命じると、生徒たちは縦巻きロールの少女を守るように前に出てくる。そしてつまらなさそうに片手で口を隠して小さなあくびをしていた。


「なんだアレ」とイブリスが苦虫を噛み潰したような顔で言い、いかにも苦手な人を相手にした時の表情をしていたが、気づけば目の前の土人形は変形を終えていた。


 大きさはサンドワームほど。砂漠に生息する「サラマンダーオオトカゲ」という魔物で、落ち葉のような茶色の鱗を持ち、その鱗は並の攻撃を通さない曲者だ。


「これなら最後の強敵としてもいいレベルだな」とボクは考えながら、「やはり手を貸すよ」と言って杖を突き出すように構える。


「お願い。私たちじゃ無理かなぁ」


 ショコラルテの反応も予想していた。彼らには荷が重い相手だ。


「サラマンダーオオトカゲは炎と剣術に強い。打撃なら鱗は砕けるけど、骨が折れる思いをする。ここは逃げるか、柔らかい部位を狙うといいよ」


「詳しいな、お前。俺の『剛剣術』ならこの程度、砕いて見せるがなッ! シオン、続けよ!」


「分かった......」


 イブリスとシオンが先陣を切る。その様子を見て、縦巻きロールの少女の仲間の一人も飛び出していった。


 点数欲しさにとどめは刺すつもりだろう。あの少女も何かしらのスキルの用意をしているのは、魔力の探知をしているボクからすれば簡単に分かることだ。


「抜け目ない子だ」と思いながら、魔術の詠唱をする。二重詠唱で氷と風、ショコラルテは矢に風の魔法の威力を乗せて攻撃を放った。


 先陣を切った三人の攻撃が当たる前に、魔法と矢が鱗に当たる。ボクの攻撃は体を貫通し、ショコラルテの矢も鱗に深く突き刺さっていく。


 その矢に彼女は魔力を流し込み、小規模な爆発をさせる。これも「弓術士」のスキルの影響だろうか。


「ギャオオオ」と本物そっくりの悲鳴をあげて、サラマンダーオオトカゲはやってくる三人に狙いを定めて、まるで痛みなど本当は感じていないといった様子で両足で踏み潰そうとする。


 地団駄のカーニバル。踏まれるとただじゃ済まない恐怖の踊りをみんなは避けて、大きな胴体に反撃し、オオトカゲは前脚の機能を失う。


 そこをライカとボクが見逃さず追撃しようとするが、先に隙を窺っていた縦巻きロールの少女の”何か”が当たり、脳天を貫かれたオオトカゲは活動を停止。土に戻っていくのだった。


(早いな......それにアレ......)


「チッ、なんの冗談だよ。デカすぎんだろ」


「......取られた」


 オオトカゲへのトドメを横取りされたイブリスとシオンは不満げな様子で、”特徴的な髪の少女”の方を見る。


 ボクもチラリと彼女の様子を伺うが、腰から先端の細いレイピアに似た剣を見て、少し呆気に取られた。


 ”レイピア”にしては蓋まわり大きく、ほぼ槍のような剣を持って、オオトカゲにトドメを刺していたのだ。


 とんでもない破壊力だ。だが振るった本人は「ハァ」と大きなため息を吐き、涼しそうな顔でその場を去ろうとする。様子を見ていたイブリスが小さく舌打ちするのは、彼の性格を考えると仕方ないだろう。


「一点、取られたか〜」と悔しそうに頭を抑えるショコラルテ。とはいえこちらの成績は安定しているので、あとは時間いっぱい経過した後にゴールするだけだ。


 ——そう思って、戻ってきた仲間たちと共に、前に進もうとした。



「グルルル! (ご主人! まだ、何か来ます!)」


「何か来る? 地面からじゃなくて......んっ」



 するとライカが喉を唸らせ、警鐘を鳴らす。先にニオイで気づいた彼女に遅れて、ボクも魔力探知に何かが引っかかった。


 その様子を近くで見ていたショコラルテが表情を引き締め、異常を感じた二人もその場で足を止めて辺りを見渡し始める。


 魔力探知は遠方からやってくる反応を捉えている。射程ギリギリの範囲内から、こちらに来るまで五百メートルはあるというのに、一瞬で距離を詰めてきている。


 先に気づいたライカは凄いと感心しつつ、異常な速度で迫る標的に警戒する。その反応は徐々に、空を切り裂く轟音と共に、やがてボクたちの真上を影が通り過ぎていき......。


「っ! おい、”橙色”のお前!」


「あなたたち、何をしていますの?私たちは先に——」


 ——グシャッ。珍しくイブリスの緊迫した声を聞いていた、縦巻きロールの少女の方で、何かがつぶれる音が聞こえた。


「ウガァァ!」と痛みに絶叫する男の大きな悲鳴が、森に鳴り響いた。しかしそれを掻き消すように、不吉な羽ばたき音が、木々や空気を震わせていた。


 縦巻きロールの少女が振り返る。自身の制服に飛び散る赤色の鮮血。手を伸ばして助けを求める、男子生徒の悲鳴にも似た声。そして彼を踏み潰す巨大な脚を見て。


「——は?」


 彼女は言葉を失ってしまった。ぴたりと動かなくなった彼女を、巨大な脚の主は自慢の羽で薙ぎ払い、吹き飛ばすのだった。

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