表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/49

10-2 前期試験 開始!

 前期試験の日がやってきた。


 慣れない方法だったけれど、ボクは知識と”かつての経験”をもとに、メンバーの育成を行った。毎日の放課後、それぞれの特性を伸ばす方向で。


「ルールは事前に伝えた通りですが、今一度。まず、腕輪が赤くなった者たちから失格です。例えば他者を——」


 引率の教師が”腕輪”についての説明をする。



 今回、生徒全員が右の手首につける銀色の腕輪。これは学院の用意した試験用の管理システムで、この魔道具によって特典の加算状況を記録したり、失格したりした時にわかりやすく伝えてくれる。


 獲物を倒すと薄い青色に輝き加点される。逆に不正行為を働くと——例えば他の一年生を傷つけると——赤く点滅し失格までのペナルティが加算。一定のラインを超えると腕輪が赤く輝き出し、腕輪に仕込まれた魔術による強制転移で失格だ。


 また、生命の危機に瀕したりする時も転移が発動する。他にも禁域の森の指定エリア外に五分以上、離れてしまうと失格だ。



 この学院は生徒のことをかなり大事に思っているのだろう。先生は確認事項をもう一度、とても丁寧に説明してくれているのだが。


「チッ、早く行かせろ。ダルイな」


 メンバーの一人、イブリスが教師の説明にうんざりした様子で、背中を丸めて舌打ちする。「早く行けばいいってものじゃないでしょ」と仲間のショコラルテに呆れられ、ボクも共感するように肩をすくめる。焦りは危険を生むんだ。


「何笑ってんだよ」


「ショコラルテの言う通り。ボクたちはこの日のために、しっかりと準備してきたんだ。急がなくても大丈夫さ」


 試験に持ち込む物に制限はない。それぞれが持って来れるなら、なんでもアリだ。


 言うなればそれは持ち運べる範囲のモノということ。今回、ボクはいくつかの羊毛布の他に、従魔の二匹を連れて試験に臨む。


 狼のようなサイズになったライカを従魔の”ワンダーウルフ”という、魔法を使う狼の魔物ということにしてある。見た目は愛らしい犬だと、主人(ボク)は思っているが。


「ところでその犬っころと羊を戦いに参加させるつもりか」とイブリスに問われ、正直に「そうだよ」と答えた時は、ありえない物を見るような目で見られた。ショコラルテも似たような反応で、何やら引いていた様子だった。


 人の言葉が分かるライカは”大好きなご主人様”が馬鹿にされたと思い、唸って食いかかる寸前だった。......落ち着かせるのに苦労したなぁ。


「——以上です。それでは禁域の森へ。ゴールは”開かれた館”。準備のできた者たちから入りなさい!」


 早速、前期試験の開始の合図が下された。自身のみなぎった様子の生徒たちが、どんどんと禁域の森へと入っていく。


(ていうか”禁域の森”って、ボクの家の近くなのか。歩いて帰れるかもなぁ)


 禁域の森の場所は、ボクの実家の近くの森。つまりゴリアテの生息地に近いかもしれない場所だ。帰ろうと思えば帰れるんだよなぁ......変な感じだ。


 危険な森の一部を学院側が整備し、管理された試験なので、あのレベルの魔物が出てくることはないだろう。先に自信ありげに入っていく生徒たちを見送り、数分後にボクたちも森の中へと入っていくのだった。



 禁域の森には、あらかじめ配置されている"魔物"が存在している。


 戦っても逃げてもいい。比較的、自由に作戦の幅が決められている。一年生の課題として、良い経験を積ませたいという学院側の意見が透けて見える。


「魔物の群れだ」


「数はそこそこだね」


 人型の魔物。この世界にもちゃんといるゴブリンの集団が眼前に群れをなしていた。


 その群れから距離を取るように、ボクたちは木々に身を隠して様子を伺っている。


「ここで倒しても得点は低い。私たちは魔力石の回収に行こう」


 今回、パーティーリーダーはショコラルテだ。経験豊富な元勇者が立候補しなかったのは、この試験の目的である「生徒へ経験を積ませる」ことに反すると思ったから。


 なので未熟でも文句は言わず彼女の指示に従い、四人は無言で頷いて見つからないように迂回する。


 実際、魔力石......もとい”魔石”は赤と青があり、赤色が高得点。魔物をいちいち相手にするより、その宝物を探し当てた方が早い。


 しかしこんなことをしていると「勇者だった頃からは考えられない素行だ」と苦笑いも漏れ出てしまうものだ。魔物を避けるのは世界の救済に真っ向から反しているし。


 ......なんて冗談を考えていると、一人で不気味に笑っていると勘違いされたのか、シオンにひっそりと「大丈夫?」と声をかけられてしまった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 無駄な戦闘での消耗を避け、効率よく試験を進んでいく。その作戦方針のもと動いているので、体力的に余裕のまま、ゴールの道中にある魔石探しに勤しむ。


「魔石、見つけたよ」


 そして回り道をした先で、青い魔石を見つけられた。切り株の上に目立つようにポツンと置かれており、森の中とはいえ近づけば見つけやすいのだが、ここまでたどり着くのが一苦労である。


 ではなぜ、ボクはすんなり見つけられたのか。それは、もちろん——。


(魔力探知の方法はグリモワールに倣った。ずるいかもしれないけど、これくらいなら簡単に探せるね)


 前期試験の内容を知っている師匠から教えてもらったからだ。幼い頃から特訓はしていた魔力の扱いの応用で、魔力を使って周辺の様子を探る探知方法である。


 この技術は学院では習わない。勝手に身につけるか、才能のある者は入学時点で持っている程度の技だ。それでも仲間からは「ずるい」「頼りにしてるぞー(棒)」「......」とさまざまな反応をもらう。


「そしてこの魔石を守るように魔物が配置。みんな、いけるかな?」


「おう」「もちろん」「うん」


 青い魔石を手にすると、少し遅れて地面から魔物が生えてきた。


 命を持たない合成獣。土と魔力で作られた、ゴーレムの一種だと学院で教わった。先ほどのゴブリンも同じで、姿を模した魔術の人形というわけである。これが「用意された魔物」だ。


 それが二体。なるほど、レベルに合わせているなと一眼見て理解できる。


 それぞれが二足歩行でゴリアテのように大きな体を持っている。禁域の森にいるという、ボーンベアを参考にしたのだろうか。見た目の特徴と細部、再現された毛並みが似ている。


 熊型の魔物とは()()()()に戦ったことがある程度だ。つまりその当時の自分でも倒せたので、二体に増えようがたいした問題はない。


「エディデアは待機! 二人とも、前衛を!」


「『剛剣術 ストライクバニッシュ』!」


 魔物を視認し、ショコラルテが指示を取る。前衛の二人がボクとショコラルテを守り、準備を整えて獣に突っかかる。


 イブリスは力が自慢の剣術士。しかし彼には経験が足りない。模擬戦闘でも感じたことだ。また、汎用剣術スキル「剛剣術」の練度は必要十分だが、動きが遅く当たらない。


 だから今回の戦いでは、その剣術を当てるための作戦を立てた。


「シオン!」


 イブリスがシオンの名前を叫ぶ。呼ばれたシオンは二つの短剣を携えて、まずは近い方の一匹の両脚に攻撃を加える。


 シオンも同様、戦闘経験は少ない方のはずだが、鍛錬の結果と彼女の元々の努力が相まってポテンシャルは高い。獣の足を砕くことなど容易いことだ。


 バランスを崩した合成獣は地面に片手をついて、自らに迫る「剛剣術」の一太刀と相打ちするように、大きな右手の一撃を繰り出そうとする。


(普通の獣にはない攻撃性だ。そういう指示命令を受けているのかな)


「ウォォ! こんなっ、もんかァ!」


 合成獣らしい攻撃性とイブリスの闘志がぶつかり合う。彼の大剣の一振りは、合成獣の腕ごと体を一撃で砕き、見事に屠るのだった。


 間髪入れずにもう一体の合成獣が迫ってくる。剣を振ったばかりのイブリスを狙ってきたらしい。


「ショコラルテ!」


「『フランマ』......『ストロングアロー』!」


 まだ未熟ゆえに動けないイブリスを守るため、ショコラルテが一撃。炎の魔術と「弓術士」のスキルを発動し、威力の高い炎の一矢を打ち込む。


 矢は合成獣に命中し、脳天を貫く。「エルフの弓を思い出すなぁ」と仲間の成長を懐かしむ気持ちで観察しながら、禁域の森での初めての戦闘が終わった。

ちなみに今更ですが、この世界の人間は”魔力”なんてエネルギーを使うので、基本的に身体スペックが高いです。

まるで忍者のように着地や跳躍も可能ですが、「犬も歩けば棒に当たる」のと同じ、身構えていなければ普通に怪我もするし骨折もします。

なので、”学生”といえど力は軍人を軽く倒せるくらいだと思ってください。”我々”とは基本スペックが違う世界を生きている異世界人なので、細かい描写は気にせず読み進めていただけると助かります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ