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第10話 魔力欠乏症、色褪せた世界

 ——昼休みに中庭のベンチで人を待ちつつ、詰め込み修行とすり合わせの結果を振り返る。


 前期試験。通称「禁域の森」でのサバイバル。そこに失格はない。到達点としての目標がいくつかあり、ランク分けされている魔物の討伐が点数として加算される。


 また、得点となる"魔力石"の確保や生き残ることでも得点を得られる。同じ学院の仲間で潰し合うのは禁止だ。


 一年生はまだ未熟な者が多いので、色々とルールを厳しく、かつ試験の内容としてはそこまで厳しくない範囲に定められている。死人は絶対に出ないと保証はされている。


(成績上位者のグループは三位まで、報酬も設けられている。まあ、学院が出すモノだから、大したモノじゃないだろうなぁ)


 あと二日で前期試験だ。グリモワールの言うように、本当にあっという間だった。その間、仲間のレベルをある程度まで仕上げて導いた。それぞれの特性を理解し、今回の試験では及第点だろう。


「エディデア。話って、何?」


 待ち人のシオンがやってきた。お昼を軽く済ませ、食堂ですれ違った彼女に場所を伝えて、わざわざこうして待っていたのには理由がある。


 とりあえず隣に座らせる。少し遠慮気味に腰を下ろし、ボクの意図を察したのか不思議そうに首を傾げて見つめてくる。


 シオンの戦い方も色々と調整した。彼女のスキルは、家系に代々伝わる伝統的なスキルらしい。すなわち「特殊技能」の一つだ。


 その名称は秘密にしたいと言っているので知らないし、「女神の眼」で覗いてもないので分からない。ちなみに、”無闇やたら”と他人の能力を暴かないのは、ボクとしてのマナーだ。自分がされたら嫌だろう?


 ......しかし、誇ってもいいものを、なぜか自らの実力に対し懐疑的なのはどうしてか。彼女の瞬間火力は一年生の中では上位に食い込む。客観的に評価できていないだけかと思っていたが、その答えは別にあった。


「単刀直入に聞くよ。シオン、君の持病についてなんだけど、聞いてもいいかな」


 彼女の気になる点。つまり戦闘以外のことについて、知っておかないといけない。持病があるなら尚更だ。


 場合によっては考えを改める必要がある。シオンを誘った以上、無碍にはしないが、彼女の成長する機会を奪ってでも自ら前に出て戦う必要があるからだ。


 その懸念点を素直に尋ねる。持病についての話題を切り出すと、シオンは困ったような顔で眉を落とす。目線を逸らし、数秒ほど待って、答えが返ってきた。


「......『魔力欠乏症』」


(なるほど。グリモワールに聞いたことがある)


「私......魔力を回復、できない」


 魔力欠乏症。この世界の人々に現れるという、原因不明の病気だ。先天性がほとんどで、根本的な治療方法は存在しない。症状は人によってばらつきがある。


 具体的には、食事や睡眠で回復する魔力が回復できない状態のこと。似たような症状に魔力が枯渇して「魔力低体状態」になることがあるが、こちらは一時的に魔力を大量に失うことで起こる。


 対して「魔力欠乏症」は、上述の”普通”を通しても魔力が回復しない体質だ。魔力がゼロになれば、どんな生命も活動を停止してしまう。「魔力は魂に宿る」のが前提条件だから。


(勇者の頃には聞いたこともない症状だ。逆にボクは魔力が溢れているけど)


 つまり昔は存在しなかった症状ということになる。はるか先の未来と思われる現代、なぜそんな症状が世の中の生命に出現するようになったのか。


 それはグリモワールの知識を持ってしても分からない。逆にボクは魔力が溢れているというのに、不思議なものだ。


「私は、薬じゃ回復......追いつかない。だから『入院』して、元に戻す。その......繰り返し」


「病院に行くほどなんだ。大変だね。じゃあこの学院には、その病気を良くするために?」


「そんな、ところ。エディデア......は?」


「新しい世界を知りたくて、かな」


 少しもたつく口調で答える彼女が学院に来たのは、自分のことを自分で解決したいから。その言葉を信じるなら、とても勇気のいる決断だっただろう。


 それに対し「ボクはお気楽な考えだった」と、逆に問われて小っ恥ずかしい気持ちになる。ボクが抱える問題が、なんだかとても小さく思えてしまった。


「シオンは勇気があるんだね。自分に降りかかる理不尽に、真っ向から立ち向かおうとしている」


「でも私は、臆病。病気だって......」


「植物は雪の重みに負けず抗う。人も同じだよ。自分の弱さを知って、乗り越えようとする。その苦労を”神”は見ている。隣人は知っている。”親しい人”は支えてくれる」


「......」


「だから、ボクも()()()()になる。頑張ろう、シオン」


 隣に座るシオンにニコリと微笑む。お昼の日差しがボクの顔に差し込んで、少し目を細める。


 木の影がシオンの顔を覆う。彼女は少し目を見開き、手を伸ばしそうになって、その手を引っ込める。代わりにチラリとこちらに控えめな視線を向けて、口元を緩く結び、こくりと頷いた。


 何かを言いたそうな様子で手を伸ばしかけていた。理由はなんとなく察すれど、ボクはあえて踏み込もうとしない。


 それは別に、ボクが頭の回る人物だからではない。どちらかというと天然なタイプの人間だ。勇者の頃も、仲間に支えられた場面はいくつもあった。


「昼休みが終わるね。それじゃボクは、次の授業に行くよ。放課後にまた会おう」


「......うん。また、ね」


 時間割が違ってもシオンはボクに健気に会いに来る。「またね」の次がやってくるのは放課後だ。


 最近は付きっきりな気がして、従魔のライカに知られたら不機嫌な様子になるのは目に見えている。いや、もうすでに遅いか。


(『魔力欠乏症』のことを聞けただけでもよかったかな)


 ボクは立ち上がり、シオンに手を振ってベンチを去っていく。中庭に植えられた花たちの香りが、風に乗せられてふんわりと漂ってきた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ——エディデアが行ってしまった。


 また、求めようとして手を伸ばそうとした。風が吹いて、花びらが散った。黒い花の花弁が飛んでいき、ひらりと舞って彼の首近くに乗って、スルッと落ちていく。


「っ......」


 自分の手を叩くように落とす。唇を噛み締める。日光から引くように手を戻し、木の影に閉じこもるように体を丸め、ベンチの上で三角座りをする。


「求めるな」と、”私”は自らに言い聞かせる。


「引き金を引くな」「蓋をしろ」「傷つけることになる」


 自分の声が頭の中で響く。グルグルと、何度も何度も、止めたくても止まない声が。


 ブラックローズの家の人々の、私を見る目を思い出す。異物を見るような目。憐れむ目。避けたがる目。


「私は生まれてきただけ。なのに、どうしてこんな想いをさせられる」と、何度思ったか分からない。


 いつしか自分の瞳を通してみる世界は、色褪せて見えるようになった。全ての色が薄い、食べ物の味もつまらない、他人の顔が覚えられない。


 ——でも、彼は違った。初めて見た時から、あの人だけは世界に浮いているように見えた。


「......エディデア・ホフマー」


 彼の名前を口にする。再び、自分に色を与えてくれた少年。幼い頃の記憶にある、"あの子"にそっくりの輝き。


 彼を見ると血が疼く。自分の欲望に歯止めが効かなくなる感覚がある。喉から手が出るほど欲しいと、切望していまう。


 理由は分からない。初めての感情に、私は振り回されている。


(迷惑はかけたくない)


 前期試験。そのメンバーとして、自分は彼の役に立つ。


 それだけを見ていろ。それ以外は求めてはいけない。私は自らに言い聞かせ、ベンチを立ち上がり、授業のある場所へと向かって行った。

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