第9話 迫る学院の前期試験と仲間集め
師匠のグリモワールの言う通り、一ヶ月半ほど経った時に前期試験の内容が発表された。
(こういう感じなのか)
学院内の至る所にある掲示板。そこに前期試験の内容が書かれた紙が貼られていたのだった。
掲示板に集まっているのはほとんどが一年生で、その様子を見た上級生が「懐かし〜」と言って通り過ぎていく。前期試験の期間は上級生と被らないように設定されているのだろうか。
とはいえ少々、困った状況だ。猶予はたっぷりあったのに、ボクは仲間を見つけられなかった。それに最近、シオンすら姿を見かけないのだ。
(三週間くらい見てない気がする。大丈夫なのかな?)
「おっ、エディ。そんなとこで突っ立って、どうした?」
「ああ、ジャック。ちょっと考え事でね」
「ほぉ。悩みか? 相談か? 情報なら俺に任せなッ!」
「うん、頼もしいよ」
掲示板の近くで考え事をしていると、最近知り合った同級生に声をかけられた。
坊主頭で頬に少し傷のある、細い目つきの男。彼の名前はジャック・ダニエル。口癖は「どストレートに酔いしれろ」だ。
同学年で一番、顔が広いと言ってもいいだろう。別名「お調子者のジャック」で、自ら情報屋の真似事をしているらしい。
悩みと相談は彼の大好物。そしてコミュ力も高い。なので獲物を見つけたような目で、ボクに話しかけてきたのだろう。
そんな彼の情報筋を頼って「最近、シオンという子を見たか」と尋ねてみる。
するとジャックは「確か......」と心当たりのある様子だった。少々時間をおいて、数多の情報の箱からキーワードを探し当てるように頭の横で指をクルクルと回し、答えを待つ。
やがて閃いたように「ああ!」と言った後。
「ブラックローズなら体調不良だとよ。確か持病だって噂だ」
彼の口からシオンに関することを聞けて「分かった。ありがとう」と、感謝の言葉と一礼をして、去ろうとする。
くるりと身を翻して踏み出そうとした時、ジャックに肩を掴まれる。まだ何かあるのかなと顔だけ振り向いて、彼の様子を伺うと。
「そういやお前さん、前期試験のメンバーはどうするんだ? 悩んでるんだろ?」
なぜそれを......まるで計っていたように、ちょうど困っている話題を持ち出してくるじゃないか。
そんな内心が顔に漏れ出ていたのか。しっかり図星を当てられている。内心を見透かすように、ジャックはニィと笑みを浮かべている。
「そういうのもお見通しなんだね。悩んでいて、シオンと他に誘おうと思ってたんだ。あっ、そうだ。ちょっといいかな?」
「おぉ、依頼か? まかせろ! 代わりに報酬はもらうけどな」
「早めに解決したいから助かるよ」
悩みは早めに打ち消したい。そう思って相談を持ちかけると、先読みしてきたのか。それとも、どこか他のとこで彼も相談を受けたのか。前期試験のメンバー集めに話題は移り変わった。
協力には前向きだが代わりに報酬をいただくという彼の条件を呑み、「何が欲しい」と尋ねる。
「時にお前。好きな物は?」
「え? う〜ん。動物の世話と花?」
「よし、分かった。報酬はそれでいい」
「えぇ? まあ、そちらがそう言うなら」
報酬はなぜか、ボクの好物についてだ。
なぜそれを尋ねるのか。理由が気になって聞いてみると、ジャックは口に指を当てて「投資だ」と。これまた訳の分からない答えを返すのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
——二日後。前期試験のメンバー集めについて。
ジャックに伝えた要望に従い、二人の候補と中庭で待ち合わせることに。
ベンチに座って待っていると、背後で「げっ」と男の声が聞こえてきた。
どこかで聞いたことあるような声だ。立ち上がり、振り返ると、その容姿を見て一目で思い出す。
「あっ。君は模擬戦の時の」
「お前がジャックの言ってた奴かよ。あの野郎、効率重視にもほどがある」
「まあまあ、いいじゃん。初めましてエディデア。私はショコラルテ。よろしく! コイツはイブリス・ブレッド。知ってると思うけど」
「初めまして。エディデア・ホフマーです」
ジャックの紹介してくれた人というのは、模擬戦で手合わせのしたことがある相手。イブリス・ブレッドだった。
そしてもう一人は、見たことのない女性。耳が長いのでエルフェンだろう。母に似たような紺色の髪を束にしてまとめていて、キリッとした眉と目つきの持ち主の女性だった。
二人ともボクより少し大きい。イブリスは不機嫌な表情で、その表情が加速度的に死んでいくというか。段々と思考を放棄していくような、心底楽しくなさそうな顔である。
ショコラルテは「あとはもう一人を待つだけ。そこんとこ聞いてる?」と、イブリスの微妙な態度に呆れた様子で肩をすくめつつ、最後の一人の行方について尋ねてくる。
「確かジャック曰く、今日から戻って来るとか......」
なぜ二日後に待ち合わせることになったのか。それは、ジャックの計らいによる。
持病で療養中のシオンが、今日から戻ってくる。そう聞いたからだ。
(あっ。噂をすれば)
彼女がどこから来るのか辺りを見渡していると、背後から視線を感じて振り返る。
もはやこの感覚が懐かしい気がした。ボクを捉えたら離さない、音もなく飛んでくる、刺さって抜けない矢のような視線だ。
「......シオン・ブラックローズ。です」
「見たところ元気そうで安心だよ。シオン」
「よろしく、シオンさん。さあ全員揃ったんだし、演習場に向かいましょう!」
これでメンツが四人揃った。次は全員の能力を知ることだ。
というわけでボクたち四人は、それぞれの力を示すために、学院の演習場に向かった。
学院で情報屋をやっているジャック。報酬はお金じゃないの?と思われるかもしれませんが、彼はもらった情報を横流しして、さらに別の人から大きな情報と報酬をもらっています。
一体、誰が「エディデア」の情報を集めているのでしょうか。
彼はコミュ力の化身なので、柔軟に、誰とでも話や取引ができます。「誰とでも」です......。
スマホがない世界だからできる情報の売買ですね。




