8-2 力の秘密と冒険者ギルド
——グリモワールの修行が終わり、その日もクタクタになりながら、夜の王都を歩く。
(今日の魔物も強かったなぁ)
「うへぇ、クタクタです。ご主人。ギルドに寄り道ですか?」
「ああ。冒険者ギルドに行けば、多少のお金に換金できるからね。”花”とかの植物以外、基本的にボクはいらないし」
「そうでしたねぇ。羊どもの強化に使うのは......ふぁぁ。ご主人、とっとと行きましょう」
本日は残念ながら、羊たちの強化に使えそうな植物は手に入らなかった。
(『羊飼いの極意・勇』の特徴。『だいたい72のヒツジ』は、食べた植物で才能が花開く)
ボクのユニークスキル「羊飼いの極意・勇」には、奇妙な特徴があった。
これもグリモワールと解析して、やっと理解できた仕組みの一部。使い手の本人にもよく分からないのだが。
まず第一に「魔物を殺すとか敵を倒す、特定の行為」の結果、近くに「魔力で作られた存在しない花」が出現することがある。この花を羊に与えると、新たな人格が宿るか能力が成長する。
第二に、そこらに咲く花とか植物を与えると、同じく覚醒することがある。ただこれは数打ちゃ当たる戦法だ。
第三に能力が成長すると「フェーズワン」「フェーズツー」へと進化していく。今のところ、アモンが「フェーズツー」で、以前より火力が高くなった程度だ。この成長幅も羊により異なる。
以前、ゴリアテと戦う時にバエルが言っていた「だいたい七十二のヒツジ」。それは言葉の意味を解釈するに、羊には最大で七十二の能力と人格が宿ると言うことだ。
今、使える数は全部で十ほど。正直、覚えていないのでメモを見るか、主人格である「バエル」に聞くしかないのだが。
色々と考え事をしているうちに、冒険者ギルドに到着した。
「いつ来ても騒がしいよね」
「本当ですよね」
この世界にも存在する冒険者ギルド。役割は世界の探究、普通の人間には手に追えない困りごとの解決など多岐にわたる。
(おおむね、勇者時代の冒険者と今は変わらない。多分1500年も経っているのに、不思議と時代は進まないんだなぁ)
「たのもぉ!」
「こら、静かに入りなさい」
「お邪魔しまぁす!!」
「そういう意味じゃないよ」
ギルドの中に入る。ライカは大きな声とかに張り合いたい本能でもあるのか。威勢の良い言葉と共に扉を開けて、飼い主として注意しつつ、受付に向かう。
「あっ、エディデアさん。久しぶりですね、今日も素材ですか?」
「はい。最近忙しくて、すいません」
「いえいえ! って、その制服......エディデアさん、王立学院の生徒さんだったんですね。驚きましたよ、服が変わっていたので」
「ええ。今年入学しました。これ、換金できます?」
「今年入学ですか、それはそっ......えっ。入学? ということは今まで......」
「?」
「い、いえなんでも。承ります。......ムーンベアのツノですか。こんな綺麗な物は中々見ないですよ」
「とーゼン! ライカのごしゅ——ぬぐっ」
慌ててライカの口を塞ぐ。何かを言いかけていた彼女の様子を気にしていた受付嬢さんだが、ここは満面の笑みで疑問の視線をスルッと受け流しておく。
(ライカがフェンリルで従魔だってことは絶対にバレちゃマズイからね。分かってる?)
(むう、ご主人様の素晴しさを伝えたいだけなのに)
(だとしてもボクがライカにご主人様呼びを強要させると、色々と勘潜られる。ごめんね)
「それではどうぞ。3000クリュソスです」
(うわっ、こんなに貰っちゃった。学生の身分でありがたや......)
ダンデライオン王国のみならず、世界で共通の通貨「クリュソス」。金貨三枚を受け取る。
金貨一枚で1000。銀貨は一枚で100。細かい数字は銅貨で調整する。
さらに大きな金額になると、紙幣として交換される。
これがこの世界の通貨だ。勇者時代に比べて「すべて金貨だったり、国によって違ったりしたあの時よりわかりやすい」くらいである。
「......相変わらず規格外な方ですね」
「ん? 何か言いましたか?」
「坊主〜! 元気だったか!」
「あっ、みなさん。こんばんわ」
お金を受け取るとき、受付嬢が呆れたように肩を落として何か呟いていたが、言葉の意味を尋ねる前に一人の男に声をかけられた。
その人の方を見ると、見た目は冴えない三十代くらいの男性が、ボクに手を振っていた。数人の男女で一緒に食事中だったらしい。
彼のもとに近づいて「お久しぶりです」と声をかける。
「最近見ないと思ったら、学院にいたのか。初めてその制服姿を見たが、三年生とかそこいらか? いやはや、懐かしい!」
「若人の成長は早いのね。お姉さんもビックリ」
「皆さんも相変わらず元気で。誰一人欠けていなくてよかったです」
「お前、サラッと物騒なこと言うなっての。昔からどこか大人びていると思ったが、その制服を着ると立派な青年だな」
「あはは。あとボクは今年入学したばかりです。今までは家業の傍ら......」
ギルドの知り合いは何人かいる。
元々、グリモワールの勧めでギルドに登録した。学院に入る前にこっそり、色々な場所に行ってみたものだ。
その間の羊飼いの仕事は、内密にグリモワールに手を貸してもらい、他にも父に協力してもらい、なんとかやってきた。
まるで遠い過去のような思い出だ。つい最近まで、同じような生活だったのに。
などと思いを一部、馳せながら会話していると、彼らが突然黙り込み目を大きく見開く。
何事かと思って首を傾げると、一人が「ガハハ、冗談言うなっての!」と。......本当になんのことだ?
「お前ほどの実力者が一年生のペーペーだ? 酒のつまみにいい冗談言うねぇ!」
「その魔術の知識に、魔物の討伐報酬を当たり前のように持ち帰る姿。どう見ても......ね?」
「ふふん、ライカも鼻が高いです!! もっと褒めてください!」
なぜか分からないが、ライカと冒険者たちがボクを話題に盛り上がっている。聞き耳を立てようにも会話の流れがうまく掴めずほったらかしのままだ。
なのでボクは頭を空っぽにしたまま、目の前で時計の針のように激しく揺れるライカのフサフサな尻尾を眺めていると。
「何かあったら俺たちを呼べよ?」と言ってくる頼もしい隣人たち。......会話も終わったようなので彼らと別れ、ギルドを出て夜道を歩く。
「ライカ。何を話していたんだい?」
「ご主人様のことで......ふぁぁ。眠たいですぅ......」
「......まっ、いいか」
眠たげに目を擦るライカ。話の内容はともかく彼女の手を握り、迷わないように案内を先行しながら進んでいき、ボクたちは学園へと戻っていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
(前期試験か。どうやって人探しを進めようか)
時刻は消灯の十分くらい前。自室に戻ってきたボクはベッドに寝っ転がり、色々と考えを巡らせる。
前世の経験を思い返す。魔法と回復、弓で戦う賢人エルフ。皆の盾となる前衛の戦士。小細工と力に特化したドワーフ。そして、勇者である自分。
(理想はその四人だ。でも今のボクに勇者の役割はできない。この条件に当てはまる人選選びかぁ)
かつてのメンバーと似た編成にしたいが、どう考えても無理な話だ。
そもそもそれは安直な思考というもの。与えられた限りない人材と資源を、知識を振り絞ってこそ、前世の経験が生きるのではないか。
などと頭が脳疲労しそうな勢いで考え抜き、消灯の時間になったので電気を消してベッドで横になり、気づけば夢の中へと旅立っていくのだった。
金貨1枚=1000円
銀貨1枚=100円
銅貨=サイズにより1~10円。
くらいの感覚です。日本とあんま変わらん感じです。どっちかって言うとアメリカドルのイメージが近いかも?
金貨3枚は学生にとって高値ですが、社会人からしたら豪華な飯に3回くらい行けるイメージ。日本の金銭感覚と同じです。
あんまり出てこない表現なので気にしないでください。




