7-2 ストーカー!?......って何?
翌日の朝。
「おはよう。待ったかな?」
「おはよう......ございます。エディデア......さん。大丈夫、です」
休日は私服で出ても何も言われない。なのでボクは軽いシャツとパンツを着て、木陰の下にやってきた。
対して先に待っていたシオンは、全身黒ずくめの衣装に身を包んでいる。
細い体を上から覆う黒い......”女子が着るような衣服”と称すべきか。少し丈の短いスカート。全体的にふんわりした衣装だなぁ。
ボキャブラリーも服の知識も低いので、褒めるべきかどうかを悩むより、ボクはさっさと用事の優先をすることに。
「それじゃあ行こうか。特に希望がないなら、ボクの用事に付き合う形になるけどいいかな」
「......」
無言の承諾を受け取る。少し目を逸らした? 何か受け答えを間違えたのだろうか。
シオンという子はなかなか、意思表示が控えめで、感情を読み取りづらい。
まだ彼女のことをよく知らないが、まずはお互いをよく知るのが先だ。ボクは彼女と歩幅を合わせて、休日の王都に繰り出して行く。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
こうして学院に入って最初の休日は、特に大した意味もなく終わりをつげた。
まだ知らない王都の探索、お店巡り、一緒にランチ。ボクからすれば、前世では滅多に経験できない贅沢な一日に、少しだけ胸が高鳴った。
そのワクワクをできるだけ抑えて、シオンの様子も気にしつつ学院の寮に戻ってくる。
そのまま集合場所で別れ、ボクは自室に戻ることに。
(シオン・ブラックローズ。一日中、一緒だったけど、寡黙な子ってこと以外によく分からなかった)
基本的にシオンは無口。そしてボクも、世間話をするほど世間を知らない。
なのでお互いに会話しない時間も多々あった。シオンについて知りたいことも、ほとんど知れなかったように思える。
(まあ、いっか)
部屋の中で背伸びする。窓の外を眺め、宿舎の様子をチラリと確認。
あとで夕飯をあげないとな。なんて考えながら、カーテンを閉める時。
「視線......。いや、気のせいか」
シオンが度々送っていたあの視線。それを感じたような気がした。
一日、ずっと一緒にいたからだろう。錯覚だと思って、対して気にしないのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「やあ、シオン」
「......」
王立学院の日々が再び始まった。
そして最初の授業が終わると、その合間にシオンがひょこっと現れた。
軽く挨拶をする。次の授業の教室に向かう。
シオンとは時間割が違うので、授業も別行動だ。なので顔を合わせる機会は少ないのだが。
——二時間後の休み。
「やあシオン」
「こんにち.......は」
魔術の授業が終わって、渡り廊下で彼女と出くわす。
軽く挨拶して、次の教室に。
——昼休み。
「一緒に、食べ......よ」
「やあシオン。いいよ」
「!」
(上機嫌だなぁ。いいことあったのかな?)
目立たないように隅っこにいた時、大勢の学生で賑わう食堂の中で、シオンはしっかりボクを見つけてトコトコと駆け寄ってきた。
窓際でギリギリ日が当たるこの場所は、ちょっと眩しいので人気の無い席なのだ。
「どうぞ」
「あ、りが......と」
「どういたしまして」
日光を避けるように座りたがっていたが、あいにくそこはボクが座ってた。ああそうか、眩しいのは嫌だろうと内心を察してあげて、シオンに席を譲る。今は少年でも、ジジイまで生きた気遣いの心構えは残っているんだ。
——剣術の授業。この時間はボクが一番、暇を持て余す。
なんせ免許皆伝を受けてしまい、授業に出なくても良いからだ。
その間、羊の餌をやったり、ライカのお世話をしたりするのだが。
「あっ、シオンが見てる。あはは〜」
「.......ワンっ」
「どしたのライカ?」
(ご主人、いくらなんでも異常です!! 気づかないんですか!?)
「?」
(ああもう、なんでそういうところは疎いのですかっ! 獣の殺気には敏感なくせして......)
もう体で分かってしまうほど特徴的なシオンの視線を感じたので、三階の窓に向かって手を振る。すると、従魔のライカが宿舎で不機嫌な様子だったので、何かあったのかと尋ねた。
ライカはさもありえないと言った様子で、犬の瞳を大きく見開いて、いつも以上に強い念話を送りつけてくる。
こちらが耳を塞ぎたくなるような、そんな威圧感を感じる。なぜそこまでするのか、首を傾げていると。
(今日だけで何回。シオンという娘に会いましたか?)
「え〜っと......三回?」
(六回です! ライカが確認した限りでは!)
「まあ学院内ですれ違うことくらい——」
(ご主人。ハッキリ言いましょう。その危機感ゼロのほんわかした顔に、現実を突きつけます。落ち着いて聞いてください)
いつになくライカの声が神妙というか。いや、これはどちらかというと呆れているに近い。
それはどういうことか。彼女の誠意を汲み取って、ボクは耳を傾ける。
(彼女は......ご主人様の『ストーカー』です)
「? ”ストーカー”って、何?」
「ワッ.......(ご主人、マジですか......)」
「ごめんね、俗世に疎くて。それでその、スト......? は、どんなことなのかな? 良いこと?」
(悪いことです! 世間一般的には『つけ狙う』ことを言うんですよ!!)
「はぁ、なるほどぉ」
ストーカーがなんなのか。シオンのやっていることが、悪いことなのかな? 気になる人に声をかけるのは、悪いことじゃないと思いつつ。
いまいち危機感の無いボクは、ライカの言葉を聞いて、とりあえず言葉の意味は理解したのだった。




