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6-3 研いだ原石の輝き

 ——王立学院での生活が始まって二日目の朝。


(めっ......めっちゃ見られてるぅ......)


 ボクは朝食を食べるため、食堂にやってきた。


 何気なく来たのだが、昨日は全くなかった”注目”というヤツをあらゆる場面で感じた。


 間違いない。昨日の授業のせいだ。師匠め......。


(魔術の授業で爆発事故とか、そりゃ噂にもなるか。......幸い、一年生の間でしか噂になってないのかな)


 パクッと朝食のパンを食べる。それをもぐもぐと食べながら、視線に対し気まずさを感じてしまう。


 一年生の間では、さすがに全員ではないにしろ。明らかにボクのことを知っているというか、まるで噂の誰かを見るような目で見てくるのだ。


 それはとても、心当たりがある。昔を思い出させる。


(まるで勇者を物珍しそうに見る人々と同じ。うわぁ、嫌だなぁ.......)


 かつて浴びたことのあるあの視線は、今は全く必要じゃない。


 そうなった原因である、あの性悪の師匠の顔を思い浮かべながら、パンを握る左手に少し力を込めて。


 恨んでも仕方ない。とっとと朝食を済ませ、食堂を後にした。



 そして一番、避けたい授業の時間がやってきた。第二回の魔術の授業だ。


 教室に入る。指定教室に入る。すると徐々に、ボクの存在に気づいた者たちが、腫れ物を見てヒソヒソと囁くように会話を始めるのだった。


 その中には先日、模擬試合でコテンパンにしたイブリスの姿もあった。目が合うと、イブリスはジッと目を細め「興味ない」といったように、ふいっと顔を逸らす。


 完全に嫌われてるなぁ。苦笑いが出そうになるのを堪えて、ボクは目立たない席に座って、メイグスの到着を待った。


「さて、おはよう諸君」


 メイグスが地面からニョキっと生えてくる。いきなりの出現に、教室の皆が驚き騒ぎ始める。


(本当にグリモワールの言う通りだ。”普通”じゃない斜め上のやり方が好きなんだなぁ)


 グリモワールが言ってた通り、メイグスという魔術師は当たり前の考え通りに動くのが嫌らしく、毎度奇抜な方法で現れてくるらしい。


 今回は地面から土が生えるように現れてくる。先にネタバラシを受けていたボクからすれば、「本当にやるんだ」くらいの反応しかないのだが。


「今日は......少々、予定を変更して話したいことがあってのぉ」


(予定変更?)


「今日の議題は『魔術の多重詠唱』についてじゃ」


「ぁ......」


 言葉が出ない。ピシッと体が固まる。


 一瞬、メイグスと目が合った。そんな勘違いを覚えた気がした。


「先生! 魔術の多重詠唱とは?」


「ほほほ。聞いたことないのも当然じゃ。というか、それが普通。魔術の多重詠唱とは、複数の神聖文字を重ねて使う上位魔術のことじゃ。文字を重ねる分、威力も種類も豊富なんじゃが......」


 チラリと。メイグスと目が合う。


 口の端が引き攣る。メイグスは小さく笑みを浮かべて、空中に神聖文字を書く。


「これは上級生でも扱いが難しい。単一の魔術をぶつける『二重属性』とは違う。例えばこの『ヴェントス』『フランマ』を同時に唱えると、『二重詠唱』として......」


「「「おおぉ」」」


「ご覧の通り。炎の風が出来上がる。これを三つ、四つと重ねるとだんだんと強くなるが、同時に魔力の暴走で部屋が吹き飛ぶような危険性も孕んでおるのじゃ」


(えっ。そうだったのか......)


「そして先日。その『三重詠唱』を唱えた優等生がいてのぉ」


「......」


「『多重詠唱』は失敗すると、内側から体が吹き飛ぶ。皆は愚かな真似はせぬように。良いな?」


 クラスの何人かが、ボクのことを見た気がした。最近は本当によく”視線”を感じるものだ......なんて思いながら。


「......ひとえに恐ろしいのは、魔力を安定させたまま、それでいて『成功』していたことじゃがな」


(気づかれてる......けど、なんだろう。あの”目”は?)


「間違えた譜面を弾き続けるようなモノじゃ。新入生たちよ、この授業では必ず指導に従ってもらうからのぉ」


 また、あの老人は視線を送ってきた。ボクに対して、まるで何かを探るように目を細めて......。



 ——そして剣術の時間。ボクは師範代に特別授業の時間を設けられていた。


「ボクだけここに呼び出して、何のつもりです?」


 呼び出されたのは学園の持つ修練場。今はそこまで人がいないようだ。


 それもそのはず。本来は授業時間で、利用者は暇な上級生か、ここに用がある人間か、授業をサボって抜け出してきた者しかいないのだ。


 そんな修練場に連れてこられたのは理由があった。


「一年生は基礎を身につける期間だ。何でもいい、剣術を身につけてもらわないと、この学院の教師として困る」


(まあ、確かに......)


「本当に何でもいいんだ。王国流剣術でも、何でも」


「じゃあ......この杖を使った”剣術”があるんですけど、それは?」


「おお、興味深いな。それでいい! 早速、俺とお前の模擬試合だ。お前の持つ剣術とやらを一人前のスキルにできそうなら、これまでの失点も覆せるぞ。全力でかかってこい!」


 師範代は大きな胸を張って、大剣のように大きな木刀を構えて「ワッハッハ」と豪快に笑う。


 随分と余裕そうだ。まあ、彼がそういうのならと、ボクはゆっくりと杖を構える。


 ——杖を握る方から、徐々に音が聞こえてくる。


 空気が軋む、鉄が超高速で擦れるような音だ。


「キィィィン」という独特の音は、やがて相対する師範代の耳にも入ったようで、彼は眉間にシワを寄せて。


「刃が熱を帯びて擦れるような、独特な摩擦音。その構え......まさか?」


「スゥッ!」


 鋭く息を呑み、ボクは”技”を繰り出した。


 ボクの技の正体に気づいた師範代は、ただ身を守る動きしか許されず......。


「亜流の抜刀術......”あの剣士”の動きをなぜ......」


 師範代が驚嘆する。()()()()()()でバキバキに折られた木刀を捨てて、やれやれと首を横に振る。


「ボクの村にいた先生の技術(スキル)です。まあ、まだモノにはできていないですけど」


「......イブリスでは歯が立たないわけだ。たまに逸材が紛れ込むことはあるが、お前のその剣術は想像以上だな」


 ボクが繰り出した剣術は、母の直伝。その先ぶれを放ったに過ぎないが、師範代の語った「亜流の抜刀術」が答えだ。


 そう、母には決して届かない偽りの剣技。剣を持てないボクの身につけた、杖で繰り出す技。


 ただ、この技術が師範代のお眼鏡に適ったようで、彼は「合格だ。もう授業の必要はないな」と言って、後片付けを始めようとする。


「えっ? そんなわけには......」


「免許皆伝だ。単位はやろう。お前の技術は一年生の枠をとっくに超えているからな」


「はぁ......」


 無論、納得はいかない。この程度で免許皆伝なんて、冗談だろう? と首を傾げたくなった。


 でも師範代は本気だ。彼はそのまま、理解が追いつかないボクを置き去りにして修練場を出ていった。


「......」


 ボクも杖を片手に握りしめたまま、無言で立ち去る。戦闘用では無い、羊飼いの長杖を地面に突きながら、その度に「シャララン」と鈴の音を修練場に鳴らして。


「......?」


 修練場を出た後に、視界の端に()()()()()が映った気がした。


 ボクの杖の音に気づいて立ち去ったのだろうか?

 一瞬だけ見えた、”水色の髪”を揺らす()()()()()()の姿は、どこかで見たような気がしたのだけれど......。


(気のせいか)


 思い違いだと思って、ボクは記憶を辿るのを中断した。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 そんなボクの記憶の探索は、数分後に幕を開けた。


 免許皆伝を受けて、残った剣術の時間に出席しなくても良くなり、暇をもて遊ぶのも興が乗らないので、ライカたちに会いにいくことに。


「マルバス」


「メェ(イエス。マイマスター。マルバスです)」


「羊毛を貰う。餌は足りるかな?」


(......イエス、ギリギリです。どうぞ、我が身包みを剥いでください)


「言い方が......まぁ、ありがとう」


 マルバスのお気に入りは、サンドワームの住む砂漠から取れる透き通った緑の花。困ったことに、その花以外にこの羊は受け入れないのだ。砂漠の生物を倒すと手に入ることもある。


(そう。ボクの羊は、一つの体を共有して『性格』を入れ替える。性格に応じて能力、好み、外観が変わってくる)


 これが「羊飼いの極意・勇」の力。現状、ボクにだけのみ許された力だ。


 父に尋ねても知らない、グリモワールも初めて耳にしたという。正真正銘の「ユニークスキル」というヤツである。


(しかしボクのスキルはあまり注目されていない。それもそうか、文面で見てもただの『羊飼い』なんだから)


 このスキルは実際に目で見ないと分からないだろう。それに多分、本来は戦闘に向かないポンコツスキルだ。


 羊を育てるコストや、強敵を倒すことでドロップする花。そこらに咲く適当な花を食わせる。文字に書き起こすだけで色々と面倒な能力だ。


「これくらいでいいかな」


 こうして羊の毛皮を刈って、再生するのを待つのすら時間がかかる。だから無限ではあるけど、有限の能力で、戦闘中は使い所が悪い。


 それに羊そのものの耐久面は高くない。まるで元勇者という超絶ハイスペックな体から、ただの少年として生まれ変わったボクのように......。そう考えると羊とボクは似ていて、なんだか変な気分だ。


 思わず口の端がニヤけているのが分かる。ボクは羊なんだと想像して、一人で笑っていたらしい。しかし、そんな一人の時間も唐突に終わりが来た。


(ご主人。誰か見てます)


「どこ?」


(三階の教室窓。あそこです)


「ん?」


 同じく宿舎にいるライカが視線に気付き、教えてもらった方を向く。


 するとそこにいたのは、どこかで見たことあるような女の子の顔。


 よくよく目を凝らしてみると、彼女のことを思い出す。


(昨日、目が合った子だ。誰だろう)


 オリエンテーションで目が合った、肩まで伸びる()()()()()()()()()()だ。


 その子の視線に気づくと、向こうもボクの視線に気づき、慌てるように窓から離れていく。


(ご主人。あの娘、なんか嫌な感じです)


「そうかなぁ」


 ライカの忠告。その意味はよく分からないまま。この時は羊の世話を優先するように、考えを後にした。

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