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6-2 紅の魔術師「グリモワール」との出会い

 ——グリモワールと出会ったのは、ボクがまだ六歳ほどの時のこと。


「ここがダンデライオンの王都......」


 両親に連れられ、彼は初めてダンデライオンの王都に足を運んだ。


 まだ寒い冬の日だった。ウールで編まれたモコモコの衣服に身を包んだボクは、さながら歩く羊のように街を駆け巡った。


 その時の様子は父曰く「羊の妖精みたいで可愛かったぞ」とのこと。ご丁寧に魔道具で記録した写真まで撮ってある。


「エディ。ここがダンデライオンの王家が住む城だよ」


「ここが......。父さんも、ここから?」


「ああ。とは言っても、すぐにはなれの屋敷に移されてしまったがね。あははは」


「......ここが、王家の城」


 雪の積もったダンデライオンの街を歩き、最後に王家が住むという城が見渡せる場所までやってきた。


 王家の住む城はとても大きく、父がその城から出てきたというのは、今の家を見ていると想像もできなかった。


 花形のレリーフ。純白の壁。隙間から覗ける豪華な庭園。


 流石の元勇者といえど、ここまでの王城は見たことがない。そう言わしめるほど、立派な城だった。


 その城を父は懐かしそうに、されど「戻りたい」と思わせるような表情を感じさせることはなかった。


 そうしてダンデライオンの観光を終えて、両親に連れられて宿に泊まり、家に帰る。


 その手筈だったのだが、ボクはこっそりと宿を抜けて、夜の街を一人で出歩いていた。


「夜の王都もキレイで、良い街だ。徹底的に管理、治安維持されているのがよく分かる」


 平和になった世界で、平和に対する努力が続いている。その現状に満足し、目的もなく街を歩いていた。


 そんな時に、彼は不意にたどり着いてしまった。


 いや、導かれたと捉えるべきか。それとも、そうなるように仕向けられていたと思うべきか。


「ここは......」


 ボクの目を引く一つの建物があった。


 看板は雪で隠されるように覆われ、上手く読むことができない。


 しかし、妙に気になる。答えを探るようにお店の外観を見渡すが、店内を覗けるような見やすい窓が無く、小さな窓が二つあるだけ。


 夜の闇に溶け込むように外壁は暗く、扉は重厚な見た目をしている。


(何だここ。魔力の流れが、何というか。管理されている街の中に、ポツンと区分けされてるような......?)


 注意深く観察すればするほど、ボクは気になって仕方がなかった。


 気づけばボクは、その家の扉に手をかけてきた。


 流されるように、彼は重厚な扉を押して、店の中に入っていった。看板の雪がどさっと落ちて、ボクの頭の上に乗っかった。


「......」


「今日は店仕舞いだ。見えなかったのか?」


「お店......」


「ん? ん〜......おぉ、ほほぉ」


 お店の中は暗く。人を寄せ付けない雰囲気を感じた。


 その中を、六歳のボクは気にせず進んで行った。


 店の主人の声が段々と、興味のある様子に変わっていった。当時は少し短めの赤髪だった彼女が奥から出てきて、六歳の少年の前に立ち。


「お前。魔力が漏れ出てんな?」


「?」


「見たところ使い方が分からないって感じか? もったいねぇ、くぅぅ。こんな才能を見過ごすほど、ワタシは......なァ?」


「うぁ、えっと......」


 ボクの目線に合わせるようにしゃがみ、その頭に手を置いてわしゃわしゃと撫でてくる赤髪の女性。


 寒さなど感じないといったような、半袖と長いパンツを履き、彼女はニヤリと笑みを浮かべて「お前、名前は?」と、ボクの名前を尋ねてくる。


 ......どこか怪しい雰囲気はあったけど、ボクは正直に答えた。


「エディデアです」


「そうか。おいガキ。お前に魔術を教えてやる」


「えっ。どうしてそうなるんです?」


「ワタシが教えたいからに決まってんだろ! ウッヒッヒ!」


 赤髪の女性が魔術を教えてやると。いきなり初対面で言うものだから、この時は何かがあるのではと感潜ってしまった。


 そんな警戒心をあらわにするボクをよそに、彼女は己が道を行くように。


「ワタシはグリモワール。大魔導士だ。よろしくな」


「......」


「よ、ろ、し、く、な?」


「よろしくお願いします。(頭、掴まれて動けないや。変な人に捕まったなぁ)」


 首を横に振ろうとしたボクの頭を片手でガシッと掴み、縦に振るまでその力を緩めることはなく。


 こうして自らを”大魔導師”と名乗る魔術師の女性。グリモワールと出会ったのだった。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ——そうして彼女から、この体に合う魔力の使い方を学び続けた。


 その成果はかなりのもので、王立学院に入学するまでに、ボクは様々なことを教わったのである。


「はい師匠。終わりましたよ」


「フゥゥ。いやぁ、お前のその力は効くねぇ」


「羊毛を編むのはボクなんですから。会うたびにこれじゃ、()()()()()()()()かもしれません」


「んまぁ、分かってんよ。酒はほどほどにしとくさ」


(『マルバス』の羊毛も補充しないとな。でもアイツ、ちょっと頑固だからなぁ......)


 ”薄い緑色の羊毛”を頭の上に乗せて、魔力を込めて、グリモワールの二日酔いを治癒する。


 これも一応、彼女に教わった恩恵というか。羊飼いのスキルの応用も彼女の工夫による部分があり、感謝はある。


 しかし頼り過ぎは依存を招く。ボクは遠回しに「ほどほどにしないともうやらないぞ」と釘を刺しておいた。その忠告の意味が伝わっているかどうか怪しいが。


「それでクソ魔術師。なんの用です?」


「あっ、そうですよ師匠。教えてください」


 早速、忘れそうになっていた本題に突入する。


 師匠は椅子から立ち上がり、顎に指を当てて腰に手を当て、片眉を吊り上げてボクを見つめる。


 あの目は何か、期待していた結果を待っているような......割と長い付き合いだからすぐに分かった。


「エディが学院に入ったって聞いてな。どうだった? ワタシが教えた魔術を見て、あのジジイはどんな顔してた?」


 学院での授業の風景について、まるで息子の成長が気になる母親のように。いや、それとは少し違うなと頭の中で訂正しつつ、当時の状況を記憶を遡りながら思い出していく。


「......貴方のせいで、先生と一緒に黒焦げです」


「ほぉ、そうかそうか! ウッヒッヒ! よくやったぞエディ!」


「ちょっとォ! 離れなさいッ、それはライカの特権ですゥ!!」


 明らかに様子のおかしい師匠。小馬鹿にするような態度で、それはボクに向けられているのではないと分かるのだが、イマイチ理解が追いつかない。


 何が”よくやった”のか分からないが、喜びを”力”で感じるように抱き寄せられる。「黒焦げにしたこと」がそんなよかったのか?


(いや、そんな感じじゃないな......)


 少し臭う衣服越しに、柔らかな胸に顔を埋め込まれ、息ができない。これは絶対、徹夜明けだ。


 必死にもがいて何とか顔だけを真上に覗かせて「何の話です?」と、自分がやったことの詳細について尋ねる。


「ワタシが教えたのは、オリジナルの魔術だ。お前が望む”ちょうどいい塩梅”のな」


「ええ。だから言われた通り、三つの神聖文字を唱えて、酷い目にあって......」


「そりゃ、入学したての一年生がいきなり『三重詠唱』なんてやったら、ジジイは腰抜かして死んじまうだろうからなァ! ワタシが教えた魔術は『失敗』じゃない。『成功してあの結果』なんだぜ?」


「え? 成功してって? それに......『三重詠唱』?? ......まさか」


「や〜い騙されたなエディ!」


 胸に抱き寄せられたまま、大ため息を吐く。グリモワールはとてもとても、愉快な顔だ。誰かを馬鹿にして、ボクを騙して、とても気持ちがよさそうだ。


 つまりボクは師匠の言うことを信じたが......。一年生が使うにはレベルが高いらしい「三重詠唱」を、その難易度を騙して、学園で使うように仕向けたらしい。


 しかも、教師を巻き込むために「爆発する魔術」をご丁寧に教えて。


 ......完全に騙された。一般人の扱う魔術のレベルなど、ボクは知らない。両親も魔術はからっきしだ。だから知識の源はこの性悪の大魔導師で、その大魔導師はイタズラが大好きな人でなしなのだ。


 ボクはもう一度、大きなため息を吐く。十分笑って満足した様子のグリモワールに解放され、「さて次だ」と続きの要件について話を進められる。


「魔力の扱いはどうだ?」


「まだぼちぼち。今日、気づいたんですが、どうやら微妙な匙加減が苦手のようです。こう、強火と弱火の間の火加減が難しいというか......」


「燃やす燃料が大きすぎると、中火の火力も調整が厳しい。お前の魔力量は膨大だからな。ワタシの目から見れば、まるで魂から溢れ出て止まらないと言ったような感じだ」


「うっ......そう見えるんですか」


「まあ、魂がどうとか言われても難しいよな。とりあえず今日も、魔力の調整をやるぞ。クソ犬、お前も付き合え」


「......ふん」


 気に入らないと言ったように顔を背けつつ、グリモワールの指示に従って三人は円を描くように一箇所に集まる。


「『転移』」


 グリモワールが口で魔術の詠唱をする。「口詠唱」だ。実力だけは本物なんだよな、この人は。......などと思っていると地面に魔法陣が浮かび上がり、ボクたちは光に包まれていく。


 その光が目を覆うと同時に、肌で感じる空気が変わり。


「今日は?」


「サンドワームをぶっ殺せ。一分以内にな」


 誰もいない砂漠。そのど真ん中に、ボクたちは連れてこられたのだった。


 日課の魔術特訓。この日は一分で、砂を泳ぐ大ミミズことサンドワームを一匹。そしてまた一匹。師匠の助言に従い、魔力の調整を施しながら進めたのだった。

レビューが書かれました。何気に小説家人生で初めてです。書いて下さった方、心より感謝申し上げます...。


「大魔導士」「大魔導師」の二つが出ることがありますが、ただの表記揺れです。

難しい漢字で同じ意味を持つアレと同じだと思ってください。


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