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5-2 剣を握れない"元勇者”

 続いて剣術の時間が来た。


(やっぱり剣は無理だ。この体じゃ、杖を振っていた方がまだ良い)


 ハァとため息を吐きながら、他の皆と違って自前の「羊飼いの杖」を両手で握りしめる。


 ボクはどうやら、剣を振るうのには向いてないらしい。


 というか、剣の方から拒んでいるというか。木刀を握ると、必ず割ってしまうのだ。


「魔物に対抗するには魔術だけでは不十分だ! 剣術も大事だぞ! 特に『フェンリル』や『サンドワーム』は、ミスリルの剣ですら当たりどころが悪ければ弾かれる!」


(ボク、その『フェンリル』を従魔にしちゃってるんですけど......ってか『フェンリル』は魔物寄りの獣人だよね?)


「次はあの的に、各々の得意技を叩き込んでみろ! 魔物と出会う前の予行演習だ!」


 次は標的に見立てた大きな木に、木刀で得意技を打ち込む練習らしい。


 よく見ると、とても立派で大きく、今までたくさんの生徒の攻撃に耐えてきたのだろう。歴戦の戦士のように傷跡が無数にあり、中には少し深い切れ込みまである。


 多くの生徒が「自分こそは!」と勢いよく打ち込んで、あの太い丸太に弾かれて終わる。ただ一人「剛剣術」を使う生徒がいて、彼の筋は良く、しかし木を折ることはできなかった。


 その過程をボクは通れず。なぜなら木刀が握れないから。


 先生は少し頭を押さえて「どう評価したものか」と悩んでいた。......その悩みはボクだって同じなのだけれど。



 ——続いてその日の最後の課題。


 実戦を想定した模擬戦闘の開始だ。


 模擬戦闘。それぞれ得意な武器を握り戦う。実戦経験を積む前に大事な過程だ。


 ウンウンとボクは腕を組んで頷く。この段階はバカらしく思えても、絶対に外すべきではない。


 それはボクの人生がよ〜く知っている。実際の戦闘とイメージとでは、動きに全く差が出てしまう。その差をできるだけ縮めるのに、この過程は必要不可欠だ。


「エディデア、木刀はいいからお前は杖で戦え」


「えっ。いいんですか?」


「何もしなければ0点だが、負ければ1点だぞ」


(負ける前提なのか......)


 師範代の目には、どうやらボクは「木刀すらまともに扱えない落ちこぼれ」に見えるらしい。


 事実、結果だけ見ればその通りだ。理由はどうあれ、ボクの評価は正当に行われない。


 それだけは......避けなければ。目立たずとも、退学勧告だけはあってはならない!


「イブリス。彼の相手はお前がやれ」


「チッ。まあいいけどよ」


 イブリスと呼ばれた男が、木刀を片手にやってくる。


 どうやら先生に対する態度が悪かったせいか、名前で指名されてしまったようだ。


 ズカズカと大袈裟に模擬戦の指定範囲に入場し、肩に木刀を構えて上から目線の物言いで「しゃらくせえ」と不満を吐き捨てて向かってくる。


「テメェ、召喚術師か? それか魔術師だろ」


(分類的にはそうなるな)


「なに黙ってんだ。舐めてんのか?」


「あ、いや別に。考えてた」


「呑気な野郎だ、気に入らねぇ」


 そんな怒らなくても......と言いかけて口を閉じる。なぜか妙に敵視を寄せられている気がした。


 剣を握れない男と戦わされるからだろうか? 確かにボクは羊飼いで、戦い方は召喚術師の類いと同じだろう。剣術の試合を望むなら、この戦いに意味を感じないのもまあ納得する。


(とはいえボクは従魔を格納するスキルは持ってないからなぁ)


 召喚術師は従魔を異空間に収めるスキルがあるらしい。それゆえ「召喚」をする術師なのだが。


(ボクの羊は地面から生えてくるし、フェンリルのライカは......)


「オラァあ!」


 自分は本当に召喚術師を名乗っていいのか。そう悩んでいると、イブリスが突っ込んできた。


 考え事をしている最中も、待ちきれない様子なのは十分と伝わっていた。


 向こうの動きは少し手慣れていて、まるで「頭に思い描いた動きを真似する」ことに関しては満点だと言えるだろう。ボクだって、警戒は怠っていなかった......が。


(とても遅く見えるな)


 流石に経験値の差が違いすぎるというべきか。目の前の彼には申し訳ないが、ただの子供の動きを見切れないほど、”元勇者”は落ちぶれていない。


 彼の自信満々の剣筋を読み、必要最小限の動きで避けていく。たとえば、体を少しのけぞらせたり、地面と踊るように軽やかに足を運んだり。


「あぁ!? なんでっ、あたらっ、ないっ!?」


「ボクは非力だからね。こんなずるい真似しかできないのさ」


「チッ、このヤロー!」


 そのまま、軽く杖をクルリと動かし、ヒョイっと足を引っ掛けてやる。


 するとたまらず彼は転び、地面にどさっと倒れてしまった。


 剣は使えない体でも、子供をあしらうのは簡単だ。


「こんなもんか」と小さく頷いて、スタスタとその場を去ろうとする。


「まだ終わってねぇ!」


 それでも諦めきれない様子のイブリスは、声量だけは一丁前に突っかかってくる。


 歳の割には動けていると褒めていいかもしれない。


(なるほど、これが”常識”の動きか)と、子供のレベルを把握し、攻撃せず避けることしかしないボクに対して相手は苛立ちを募らせる。


「......木刀が耐えるか、お前が折れるか! 『剛剣術』......『ストライクバッシュ』!!」


 イブリスは焦っている様子に見えた。どの攻撃も自信があったのが、今では精一杯に木の棒を振っている。虫を嫌がる子供のように滑稽だ。


 それを笑う真似はしない。未熟な期間は誰だってある。人は折れて、折れた物を直すために立ち上がり続けて成長する。


 なので加減はしない。彼の繰り出した”本気”に対して、ボクは咄嗟に杖を()()()()()()


 その様を見ていた師範代は「ん?」と、ほんの少し何かに気づいたように見えたが、その小さな疑問は数秒後に消し飛んだ様子だった。


「”敬意”は大事だと、五年ほど前に学んだからね」


「その構えは一体、なん——」


 向かってくるイブリスも、相対する”鬼迫”を悟り、一瞬だけ足を止めた。その勘の良さだけは、すでに死線を潜り抜けるには十分なモノだろう。



 ——しかし彼には足りなかったのだ。



「ふぅ。......君はもう少し相手を見るために、自分の動きを完成させるといい」


 人が瞬くほんの一瞬の間に、決着はついた。......イブリスは()()()()()()()()地面に伏していたのだ。


「終わりだ! 二人ともよくやった。戻って良いぞ」


 試合終了の合図を聞いて、ボクは観戦する生徒の中に戻っていく。


 起き上がったイブリスは、首を傾げながら自分の体を何度もペタペタと触る。明らかに感じたであろう異変を探るように。


 しかし答えが見つからない。そのうちに彼の周囲を、少し小馬鹿にするように人が集まっていく。友達だろうか?


 耳を傾けると「イブリス、なんで転んでばっかなんだ?」「床ペロするとからしくないな」「地面とのキスどうだった?」などと、揶揄うような話題で盛り上がっていた。


 師範代ですら悠長に腕を組んで「おいおいイブリス、『剛剣術』が勢い余って転んだか?」と口にする始末だ。つまり何が起こったのか、この場で誰も理解していなくて——。


「俺は......っ、クソっ」


「イブリス?」


「......ふん」


 イブリスが悔しそうな表情でこちらを睨みつけてくる。あの様子は、ボクにも心当たりがある。彼はその悔しさを踏み台に、立ち上がって欲しい物だ......なんて思いながら。


「エディデア。後日、課外授業だ。不戦勝では点数はやらんぞ」


「えぇ......」


 メイグス同じく、ボクは剣術の師範代にも目をつけられたのだった。

次回は第6話を投稿します。

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