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第5話 王立学院、初日

 ——そして学院に入学して、最初の授業が始まった。


 オリエンテーション。学院内を探索し、それぞれの施設の使い方を学ぶところから始まった。


 大講堂、食堂、実験室、修練場、中庭。勇者の頃にちらりと覗いたことのある学院と似ていて、この王立学院も立派なものだった。


(通り過ぎる上級生たちも、みんながのびのびと暮らしている。本当に平和な世界になったんだな)


 勇者の時代の学院も良いところはあったが、やはり戦時中ということもあり、空気はピリピリしていた。


 それに比べるとなんと穏やかなことか。小さく笑みをこぼしても、仕方のないことだろう。


「......」


(そして見られてるな......)


 そんな些細な様子すら、お隣の学生は気になるらしい。


 というかオリエンテーションの時からずっと、”彼女”はボクの様子をじっと伺っている。


 他の生徒は学園の中を楽しく見て回っているというのに、一人だけ「ダンデライオン」の血族に注視しているのだ。もしかしてバレたのかなと変な勘が働くが、どうもそういう感じはしない。


(どこかであったのかな?)


 子供の頃にこっそり村を抜け、自分の力を試したことはあった。


 その時に出会った可能性もある。しかし、こんな女の子とあっただろうか?


 青っぽくて、どこか暗めの雰囲気を感じる髪色をしている。顔は見覚えはないが、今は目を合わせないようにしておく。


「以上が学院の案内となります。時間が余りましたが、ここで終わりますよ。解散です」


 オリエンテーションが終わり、各々が散らばっていく。"あの女の子"の視線を感じたまま、逃げるように次の場所へと向かった。




「こんにちは諸君。入学おめでとう、魔術の教師である『メイグス』だ。よろしく」


(この人がメイグスか)


 続いて最初の魔術の授業が始まった。


 彼の名前はメイグス。とても聡明な雰囲気を感じる、老齢の男性だ。


 いかにも魔術を扱うといった風貌で、大きな帽子に青いローブを身に纏っている。


「どうしてそんな格好なのですか」と一人が尋ねる。彼曰く「ジジイは皆、見た目が似てるからのぉ」と。......つまり”キャラ付け”だと察して、数人はブフッと吹き出していた。


 ボクはただ一人、彼の風貌を眺めるように見ていた。それは好奇心がもたらしたのではなく、()()()()と照らし合わせるためだ。


「さて、皆は魔術についてどれだけ知っているかな」


「はい! 魔術とは高次元の領域にある神秘の再現です! 人体に宿る『魔力』を通して操るものと......」


「そうじゃ。魂は肉体に宿り、魔力は魂に宿る。これらの関係は複雑で、まだ解明されていない部分が大きいんじゃ」


 へぇ、そうなんだと内心で頷く。元勇者の知識としては「魔力が魂に宿る」のは当たり前の事実で、昔から謎が多いことだけは知っていた。でも、それ以上でも以下でもなく、だからどうしたというモノだった。


 なんせ理論などを追い求めても、勇者の役割に関係はなかったからね。今世では研究者に進むのも楽しそうだなぁと、少し上の空になりつつ授業に参加する。


「では『魔法』との違いはわかるか?」


「魔法はすべての根源であり、最初に生まれた技術で、勉学がなくとも簡単に使えます。しかし魔術は『神聖文字』の印が必要で、扱いが難しい。そう聞いてます」


「その通り。優秀な者たちよ、感謝する」


「神聖文字」の印。それはすなわち、空中でも物体でもいい。魔力の線で文字を書き、魔術の発動に繋げるということだ。


 慣れるとものの数秒で全ての文字が書けるほどになり、人によっては一文字だけで高位の魔術も使える。しかしそれには才能と努力が必要不可欠。......というのがこの世界の常識らしい。


 前世では特にそのような細かい指定はなかった気がする。「魔術文字」と呼ばれるモノを描く手順はあったが、そんな面倒な技術は敬遠されていた。魔術師ぐらいの凝り性がやる物だったはずだ。ゴリアテ戦で使った時は、安定した魔術の発動を狙って用いた。


 そしてもう一つ、魔術を使う上位技術がある。それは「口詠唱」だ。文字通り「魔術の詞を言葉にして発動する」という、おおよそ学院の新入生が使える領域を超えた技術である。


(『口詠唱』の方が慣れてるけど......あの人の言ったことがよく分かったよ)


 内心で苦笑いを浮かべる。やらかす前に、色々と”常識”を教えてもらっておいて正解だったと。自分の判断は合っていたんだなと、ボクはある人の顔を思い浮かべる。


「魔物は魔力に深く傾倒した生き物じゃ。奴らは詠唱なしで魔術を扱える。火口付近に住むゴリアテは炎の力を操り、一流の魔術師や国の精鋭剣術士すら蹴散らすんじゃ」


「えぇ〜、ずるい!」


「そうじゃずるいんじゃ! 我々も似たようなことを鍛錬さえ積めばできるがのぉ。ただ、我々は魔物にはない圧倒的な知恵を持っている。我々の強みはそこにあるんじゃよ」


 これにもまた「へぇ、そうなのか」と頷く。そして同時に心の中で苦笑いだ。なんせ「子供の時にゴリアテを倒している」んだからね。あはは......。


「では実際にやってみよう。皆、中庭に移動するぞ」


 魔術の実演を行う。先生はそう言って、教室の全体を覆うように魔術の術式を展開した。


 文字を書いている素振りはぱっと見で見えず、まずその点で生徒が動揺する。



 ——そして、中庭に転移したことで、第二の動揺が走った。


 生徒が騒がしい。それもそうだ。今言われた魔術の常識は「神聖文字を書いて魔術を行使する」からだ。


 その過程をメイグスは無視した。数人の生徒が驚くのも無理はないだろう。


「これが『似たようなこと』じゃ!」


(転移の魔術の術式。それを部屋に刻んであったという、考えれば簡単な話だ)


 ネタは単純。部屋にあらかじめ文字を刻んであった。


 そういう使い方は前世でも経験した。「魔道具」も同じように作られるからだ。


 懐かしいなぁと、これまた妙なところで昔を思い出していると。


「さて、ではまず君から。あの池の上になんでも良い、得意な魔術を放ってみよ」


 早速、生徒による実演が始まった。


 指名された一人。緑の髪を持つ少年が一歩、前に出て。


「......『ヴェントス』!」


 空中に文字を書く。風を表す神聖文字を、手持ちの小さな杖でクルクルと描く。


 すると小さなつむじ風が池の上に浮かび上がった。


「次!」


 数人が拍手。そして次。その繰り返しが続いていき。



「さあ次は君じゃ」


 ボクの番がやってきた。


「......なんでもいいんですか?」


「もちろん。なんでも良い」


「何でもかぁ。それが一番、困るけど......」


 腕を組んで考える。魔術を使うための支給品、木の枝のようなサイズに「魔術の杖」を指先でクルクルと回しながら、頭をひねって考える。


 引き出しが多いということは、それだけで悩みの種である。


 ある程度の成績が見込め、かつ行き過ぎたレベルじゃない程よい力加減が必要だ。いかに弱体化したとはいえ、元勇者の力は一年生のレベルを超えている。それに......。


(まだ魔力の扱いに自信はない。やはり、()()()()()()信じてみよう)


 下手に失敗するのもマズい。紆余曲折あって「ゴリアテ」を倒したボクの”力の価値基準”を信じるくらいなら、ボクは()()()()()()()()()()()を信じようじゃないか。


 無論、口詠唱は御法度だ。だからあえて面倒な手順を踏み、魔術の杖を使って文字を三つ書いていく。


「『コスモス』『ステラ』——」


「ん? 君、それは()()()()じゃ——」


「——『エラプティオ』!」


「ぬっ!?」


 複数の魔術を掛け合わせてできた「小さな夜空に浮かぶ星」。それを池の上に披露してみせた。


 その後、ボクは最後の詠唱を重ねた......が。


 ......ボクの唱えた言葉にいち早く反応したメイグスが必死に止めようとし、間に合わず。


「え?」


 ボクが唱えた魔術は「ピカーッ」と怪しく光を放ち始め、二度ほど瞬きを繰り返した瞬間。


 魔力を集めて作られた小さな”夜空と星”は、深く青い光と共に爆散し、ボクとメイグスに襲いかかってきたのだった!



 ——後にボクは、黒焦げになったメイグスにこんな評価を下された。


「評定は、同じく黒焦げになったお主の見た目通りじゃ」......と。

 ”ボロボロ”のボクを、深く皺の刻んだ目尻を僅かに持ち上げて、細い瞳で何かを()()()()()()見つめて。

次回は5-2を投稿します。

ここから学園生活の始まり&最初のヒロインとの物語です。

本格的に世界観が広がっていきますので、「第二章」を含め、今後もよろしくお願いします。


また、興味のある方はどうぞ。

魔術の補足説明↓


魔法と魔術の違い。

算数と数学の違いのような物です。


魔法は詠唱がいらない。誰でも簡単に使える。原始的な技で、魔力を使って単調な神秘の行使ができる。


魔術は公式を覚えないと使えない。発動のための「神聖文字」の書き方と組み合わせを覚えて、魔力を使ってより難しい技術を行使する。その分、威力も魔法と比べ物になりません。

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