4-2 新しい家族(フェンリルだけど)
家に還って両親に説明したところ、あっさりとライカのことは受け入れてもらえた。
(ご主人。部屋の中では人間体になっても?)
「ダーメ。見られたら騒ぎになっちゃうよ」
「クゥン......」
そう。フェンリルではなく「拾ってきた犬」という設定で。
なので部屋に連れて行っても、彼女は犬の姿のままだ。
それには申し訳ないが、ライカは悲しそうな声を出すものの。
「その分、撫でてあげるから。おいで」
「ワン!!」
ご主人様の誘惑には勝てず、尻尾を振りながら飛びついてきたのだった。
(あのフェンリルがこんな小さく、愛らしくなるなんて。生物はきっと、平和の道に繋がるために進化していったんだな)
顔をぺろぺろと舐められながらうんうんと頷き、ライカを撫でてあげる。
続いて体を掴んで膝の上に乗せ、首周りをさすると、気持ちよさそうに喜んでくれる。......なんて愛でたくなる可愛さなのか。
そのまま流れるようにシュタッとお腹を見せてきて、「おぉ、よしよし」と可愛がってやりながら、ふと考えをめぐらせた。
(つまりあの『ゴリアテ』も、この世界に生きるただの獣ってことか? 『魔獣』や『魔族』が、1500年後の今はただの生物......?)
フェンリルが人と交わり、ゴリアテは魔界の存在を知らない。
つまりこの世界の常識は、想像以上に変わっていると思って良さそうだ。
(それにボクのスキルも分からないことばかりだ。『アモン』と『バエル』。その二匹を使ったけど、条件と能力の関係がまだ不明だ。一体、ただの羊飼いに何でこんな能力が?)
急に意思の宿った羊たちも、正体がよく分からない。
バエルについても、元の姿に戻ったまま放牧地に放置してある。
別れる時に「バエル、じゃあね」と声をかけてやった時、ボクが拾った花をむしりながら(マスター、また)と。念話で別れをつげてきた。
まだまだ未知の領域が多い。そのためにも、やるべきことは多くありそうだが。
「まぁ、ゆっくり考えよう。どうせボクは、羊飼いとして一生を終えるだけだし」
この人生でやることは特に決めていない。
せっかく与えられた雄大な時間。前世のように忙しく過ぎ去ることもないだろうと、この時は思っていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
——そして五年後の現在。ボクが十五歳になった頃。
「エディデア・ホフマー。入学おめでとう。これからも励むように」
「ありがとうございます」
悠長に時間の流れに身を任せて色々としていたら、気づけば入学する年だった。
入学式が終わり、案内された部屋でそれぞれの部屋の鍵や教科書など、色々と受け取ることになる。
制服などは試験合格の翌日に家に届いた。
太陽のような赤い色の制服。しかし目立ちすぎず、デザインとしては綺麗にまとまっている。
このまま成績に応じて制服も変化し、王族が着けるような肩掛けとか、なぜかマントがもらえるらしい。
「それでは諸君。これで終わりだ、解散!」
支給品の配布が終わった。
教授が部屋を出ていく。ボクも席を立とうと、テーブルに手を乗せた。
(従魔を連れてきたせいで目立ってたからなぁ。視線を感じる)
ライカと羊を一匹、宿舎に預けてある。
部屋に持ち込むことはできず、宿舎に預けるのが”従魔”を引き連れることの決まりだ。
ただ、羊と犬を連れてきたせいでかなり目立つ存在となってしまった。
自分の身分がバレると厄介なことになる。追放された王族の息子なんて、どんな扱いをされるか......想像するだけで恐ろしい。それだけボクは、貴族に信頼がないんだから。
そう思いながら、ボクは人の流れに身を任せて、教室を後にした。
自室にて、ボクはいくつか編んだ羊毛の布をテーブルの上に広げて整理する。
大きさは片手に収まるほどのもので、厚みは少し薄い。糸にしてからできるだけ薄く束ね、五枚ほど携帯している。
赤色が二枚、青が一枚。薄い黄色が一枚。そして紺色の一枚だ。
「ちょっと少ないな。あとで『ベリト』に頼むか」
学園に入学する前に身につけた力。それがこの羊毛の布に宿っている。
一見するとただの染めた羊毛だが、見た目が違うだけじゃない。
(魔力を込めると『スキル』が使える羊毛。これ、やっぱりバレるとマズイかなぁ)
うぅむと腕を組んで眉間に皺を寄せて考える。
そう、羊飼いの元勇者が生まれ変わって手にしたのは、なぜか羊毛に能力を与える技能。
それが「羊飼いの極意・勇」だったのだ。
赤は魔力を込めることで、火属性系統のスキルを。青は水。薄い黄色は固定されたスキル「フラッシュ」という光で照らす力。紺色の布は「詐称」という、嘘をつくのに特化したスキルだ。
「一言でいうと『使い勝手が悪いポンコツスキル』だ。羊毛だって羊の調子次第だし、世話とか餌やりも......なんでこんな力がボクに与えられたんだろう?」
ユニークスキルを通して羊に能力の付与をする。その結果、羊はわずかな戦闘能力を持つが、ハッキリ言って強敵相手には扱いにくい。
だから能力を与えた羊毛を刈って、家業を思い出すような織り物作業をしないと、スキルとして成り立たないくらいポンコツである。
編み込んでしまえば力が発動できる条件を満たせる。割と意味が分からない能力で、結果としてボクは裁縫がとても上手くなってしまった。
(あはは......まあ、まだ魔力の扱いに慣れていないし助かるけど、うぅむ......羊になんて力を。あのイタズラ好きの女神ならやりかねないなぁ)
頭の中で”豊穣と大地の女神”のイタズラに笑う姿が浮かんでくる。生前、仲が良かった女神は、生物に変な能力を与えることを得意としていた。
時には空飛ぶ蛇が生まれたり、悲鳴をあげるニンジンができたり。何度、そのイタズラに振り回されてきたのかわからない。
「ふふっ......懐かしいね」
思わず笑みがこぼれて吹き出してしまう。窓の外を眺め、しばらくしてその笑みは消え。
「......だからちょびっと、寂しいな」
神の声や気配すら感じないことに。まるでたったひとりぼっちでこの世界に放り込まれたようで、ボクはどこか、胸の内にぽっかりと小さな穴ができたような気がするのだった。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
次回からエディデアの学園生活開始。第二章に突入します。
第5話もよろしくお願いします。




