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第4話 新たな従魔と羊

 「変な”花”を拾ったけど、これは? それに......」


 調子を確かめるように肩をぐるりと回してみる。


 戦闘中は気づかなかったが、ボクはかなり魔力を消費していたらしい。お陰で全身が重く、頭もどこか痛い。つまりとってもダルい。


(どうやら『女神の力』をちゃんと使えるように練習しないと、魔力を垂れ流す”欠陥技”にしかならないのか。どうにかして魔力の扱い方を覚えないとなぁ)


 この体に生まれ変わった影響か。魔力の扱いが全く上手くいかないのだ。


 なので剣を握れない代わりに会得した「魔力の剣」や、杖に魔力を纏わせて強化する術も、最初の方はかなり苦労した。


 今ではある程度の安定と引き換えに、それ以上の力を引き出せず、ゴリアテ相手に通用するか怪しい部分があった。


 ”あの人”の教え通りだ。ボクは自分が思う以上に、魔力の扱いができていないらしい。


 今一度その事実に気付かされ、ため息を吐いて森から出てくる。体をほぐすように両肩をクルクルと回し、羊がついてきていることを確認。


 色もツノも雰囲気も変わった羊を、観察するように目を細めて見下ろしながら、”その名前”を呼んでみる。


「バエル?」


(イエス、マスター)


「まだ喋れるんだ......。それにこれは”念話”ってのかな? 前世でも経験したなぁ」


(先程の”花”ですが、後で食べさせてください)


「えっ、いいけど......」


 頭の中に声が響くというのは、少し奇妙な感覚ではある。


 バエルの声は礼儀正しい執事と言ったイメージか。無条件に、彼?からの忠誠を感じる。そんな声色だった。


 森を出る頃には連れの羊は元の色に戻っていると思ったが、姿形にも相変わらず変わった様子は無い。


 色の変わった羊を連れて帰るとどうなるか。腕を組んで想像し、ハァと小さくため息を吐く。


「......一匹だけ色が変わってるってバレたら、どのみち母さんに何か言われちゃう」


「メェェ(ではこれで)」


「えっ。元の色に戻ってる!?」


(地面を潜って帰りますか。マスター?)


「いや地面に戻らなくても——」


 バエルの色が元に戻る。スゥッと水が引いていくように、元の白いウール姿の羊に。


 これにはまた、驚きを隠せない。そんなことできるんだ......というか、これはどういう理屈なんだろう?


 もっと色々とバエルに尋ねたい。そう思った時、背後で気配を感じ、足を止める。


 この気配は先ほど感じたものと似ている。


 しかし、なんだ。似ているが、何かおかしい。


 フェンリルにそっくりで、フェンリルではない。何かが混じっている?


(何だ、誰だ?)


 まるで人の持つ気配だった。


 勇者として戦い、感覚を研ぎ澄ませてきた。フェンリルの放つ雰囲気と人間を間違えるはずがない。


 だから困惑した。羊を背後に隠して、杖を構えた。


「......え?」


「見つけた!」


「誰を?」


「ご主人様!!!」


「おぉ......おわぁ?」


 目が点になるとはまさにこのことか。


 森から出てきたのは、獣の耳を生やし、隠しても隠しきれない尻尾を生やした、見た目は十五くらいの女の子だった。


 その子は満面の笑みでボクを指差して、素っ裸のまま両手を広げてこちらに飛び込んでくる。


 アレ?と首を傾げる。このままだとこちらにダイブしてくる、獣耳の少女を抱えることになってしまう。


 それでいいのか。内心の勇者ジジイは精一杯に熟考し、悩み、そして。


「おいでおいで〜」


「わ〜い!!」


 敵意はなさそうな少女を、ボクもにっこりと笑みを浮かべて受け入れたのだった。




「わわ......こほんっ。私はフェンリル一族の娘です! 名前をライカと言います!」


「フェンリル一族?」


「はい! ご主人様!」


「なんでボクがご主人なのかな」


「フェンリルを襲ったクソゴリ野郎をぶっ(ちゅう)してくれたからです! それにフェンリルは、自分より強い男性に嫁ぐと決まってますので!」


「おわぁ、ワイルドだねぇ」


 森の前で正座しながら、ボクとフェンリルのライカは話し合う。隣にふわふわの羊を添えて。


 フェンリルのライカはボクより年齢が上なのか。少し大人のような見た目で、女性としては魅力的な姿だと一目で感じた。


「人間の姿になれるんだ」


「ええ。フェンリル一族は人間との混血で、トニトルス大森林に生息してるんです!」


「じゃあ『魔族』じゃなくて、本当にこの世界に生きてるんだ。すごいなぁ」


「? マゾク? あっ、魔物ってことです? いいえ、フェンリル一族は獣人の一族ですよ?」


 へぇ、そうなのかと頷きながら、彼女の全身や耳、尻尾などをくまなく見つめる。綺麗な毛並みで触りたくなるなぁ。


 物欲しさが伝わってしまったのか、ライカは「ちょっと恥ずかしいですね」と頬を赤く染めて照れていた。


「ああいや、ごめんね。......そうか、何となくわかってきたよ(差し詰め魔力を持つ生物。魔族の果ての姿が『魔物』ってところか?)」


「?」


「こっちの話さ。それよりも、ボクはただの羊飼いだよ。それでもいいの?」


「問題ありません! むしろ、犬にできることは何なりと! ライカも犬みたいなものですよ!」


「いやそれは......あっ。もしかして犬の姿になることはできる?」


「はい! あらよっと!」


「おぉ〜」


 ライカの姿が中型の犬くらいのサイズになる。オオカミより一回り小さい。


 その姿でお座りし、こちらの顔を見上げて不思議に思ったのか。


(でもご主人。何で人間体ではいけないのです?)


 頭の中に直接、疑問の声を飛ばしてきた。


「ボクはあまり目立ちたくないんだ。色々と事情があってね。だからそれに協力してくれると助かるんだ。窮屈な思いをさせてごめんね」


「いえ、全く! むしろこの状態でお腹を撫でたり頭をポンポンしたい、ぐふへへ......」


「それじゃ戻ろう。家に帰ってから、色々と説明をしないとね」


 こうしてフェンリルを仲間に引き入れてしまった元勇者。......彼女を迎え入れても不利益はないし、正直なところ羊飼いならいずれは持つべき「愛犬」というものを手に入れたかった。


(ご主人様?)


「これからよろしくね、ライカ」


「ワン!!」


 ......まあ、たとえ「フェンリル一族の娘」であっても、犬の姿でいてくれるのなら別にいい。魔族でないなら()()必要もないのだし。


(ボクの知るフェンリルに比べれば、可愛いものじゃないか。あはは)


 たしかに、以前の世界では考えられない事だったが、帰る道中に腕を組みながら「まあエルフも獣みたいなモノだし」と。あの仲間に聞かれたら矢で撃ち抜かれそうな、とんでもなく失礼なことを思っていたのだった。

次回は4-2を投稿します。

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