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妄想公園  作者: 奈屋一郎
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妄想公園 2

最新デバイスが揃う情報高校といっても特別な事などせず、通常通りの入学式が終わり、正門で記念撮影をする生徒や保護者、それを横目に写真など撮らずに帰路につく生徒も複数。そんな中、友乃と梅は正門とは逆方向を早歩きで体育館に向かっていた。

「入学式よかったね、体育館でやらないところが都会って感じがしたよ。すっごい生徒も多いし」

 小学校は生徒数が数十人単位で、中学校は過疎化のためインターネットによる通信教育を行っていた友乃にとって、何百人と一緒に受ける入学式はそれだけで興奮ものだった。

「嬉しそうに話してるけどあんた半分くらい寝てたでしょ。まあ、長旅だったから仕方ないでしょうけど。体育館じゃない入学式はあたしも初体験よ。ホールで劇観るみたいに受けるのも悪かないわね」

 そう言うと梅は顎に手を当て、記憶を探る様な表情を浮かべる。

「にしても、理事長と友乃は全然似てなかった。すっごい仕事できそうじゃない、あんたのお父さん」

 入学式で壇上に立ち挨拶をしていた友乃の父は、キリッとした表情をして、ハキハキと通った声で話し、更に緊張感を醸し出し、理事長の威厳を存分に出していた。

「普段からあんな感じだよ。って言っても別居だから一人のときはどうか知んないけど」

 仕事から帰ってくるとナイター中継を観ながらゴロゴロしている庶民な父とはこうも違うものかと、梅は感心する。

「あんたのお父さんもオーラが出てたけど、やっぱり山冨練会長最高だったわ」

「そうだった?」

「何? 疑問形? 喧嘩売ってんの?」

 違う違うと慌てて手を横に振る友乃。

「わたし寝てたから覚えてないの」

 それは勿体無いことをした、と友乃はため息をつく。

「綾は街で芸能人とすれ違っても気付かない、人生損するタイプね。山冨会長、高校生とは思えない落ち着きと、意志の強さが溢れ出る挨拶だったじゃない!」

「ハマっちゃってるね。山冨さんに」

「だから崇拝してるって言ってるでしょ。実物を見て更に好きになったわ」

 手を組みマリア像に祈るポーズをとる梅。それを見て友乃はクスッと笑う。

「今、体育館に向かってるんだよね。随分慌ててるけどそこで何するの? 帰ってる子も何人かいるけど」

 友乃の質問を訊き、梅は、はあっと先ほどよりも深くため息をつく。

「本当に何も聞いてないのね……。寮に入る新入生のための歓迎会が行われるのよ。そこでご飯食べたりお喋りしたりするわけ」

「うわー。ご飯楽しみ」

「まだ話しの続きよ。入寮歓迎会には三年生も一緒に行うわ。一年生は三年生と二人で住む決まりになっているからね。その同室者を決める場でもあるの、わかった?」

「どうして三年生と一緒なんだろ?」

 そうね、と梅は呟き、手で顎をさらりと撫でる。

「三年生なら学校のことをよく知ってるし、あと新入生だと、学校で配られる最先端デバイスが嬉しくて依存症になる可能性があるからじゃない? そういうメンタルケア的な部分も考慮してるんでしょうね」

 体育館に近づくにつれ、梅の歩くスピードが落ちていき、体育館の前まで来ると、一旦立ち止まり、大きく深呼吸を始めた。それを不思議そうな目で友乃は見つめた。

「緊張してるの?」

 梅は答えないでスーハースーハーと大きく息を吸っては吐き、頬を両手で挟むように叩き、鋭い眼で体育館を見据えた。

「当たり前でしょ。これから同室になる人を選ぶのよ」

 その言葉を聞いて友乃は梅の緊張の理由を理解した。

「もしかして梅、山冨会長と同室になりたいの?」

「ええ、その為に今日はがんばらせてもらうわ。うん、大丈夫。行こう友乃」

 友乃は頷き、足を一歩踏み出すと服の裾をつままれた。

「どうしたの?」

「あんたspysを使えないから同室になる人のポイントをひとつ。あなたはセンリガンですか、ジュンプウジですかって訊くこと。がんばってその三年と一緒になれればオッケーよ、わかった?」


 体育館内は橙に近い明るい色の照明が照らし、並べられた複数の白の円卓が光を反射し、床に敷かれた赤の絨毯が高級感を引き上げる。壇上には『入寮歓迎会』と、行書体で書かれたプレートが上から吊るされていた。

 円卓には和洋中の料理がバイキング形式で食べられるようになっており、円卓を囲んだ生徒達は早く食にありつきたいと思いながら、始まりの挨拶を雑談して待っていた。

 そして時刻が十一時を指した瞬間、体育館の照明は消え、光は全て壇上に当てられた。そこには一人の女生徒がマイクを持ち、凛とした表情で会場を見つめていた。すぐに会場のざわついた声が消え、段上の女生徒が口を開く。

「まずはお忙しい中、誘いを受けて頂いた新寮生の皆様に感謝いたします。今日の朝に入学式でも挨拶をさせて頂きましたので、ご存知でしょうけれど、生徒会長を務めています、三年センリガン科の山冨練です。今日は歓迎会ですので、楽しむ、それだけを考えて頂ければ、わたし達三年生は嬉しく思います。同室者を決める際はspysを用いれば、会話ではわからないことも見つかるかもしれませんので、ご自由にお使いください。では長い挨拶は野暮なので終わらせて頂きます」

 再び照明が場内を照らすと明るい調子のクラシック音楽が流れる。その音が合図だったのか、耳に届くと三年生が一年生に話しかけ、料理を皿に盛り始めた。

 山冨練との同室を執拗に願っていた梅は、友乃と別行動を行い、グラスに注がれたオレンジジュースを片手に館内を歩いていた。もちろん山冨練を探して。

 どこを見ても人だらけで、友乃はグラスを両手に持っているものだから素早く動けず、少しイライラしながら館内を二周した。すると肩を軽く叩かれた。山冨練以外の人と話している時間は無駄だと思っているので、素早く振り返りキツく睨みつける。

「すみません、人を探して――」

 いますので。とまで言えず、相手の顔を見た友乃は、体も表情も凍ったように動けなくなってしまった。

「あら、怖い顔。同室者探しに勤しんでいるのね。ごめんなさい、それでは」

 淑やかな微笑みを浮かべて詫びる少女は、軽く手を振り梅に背を向けようとした。その瞬間、目前にグラスを差し出される。

「いえ、探していたのはあなたです。山冨会長、山冨練さん」

 頭を下げてそう口にする梅に、練はふふっと柔らかな笑い声を上げた。

「spysで確認しなくても大丈夫? 私が山冨でなければ、それは失礼なことよ?」

 梅はじっと彼女を見つめる。ふわりとした柔らかそうな黒髪。色白な肌に奥二重のまぶたと深みのある黒い瞳、そして柔らかそうな唇。笑顔を浮かべていてもどこか陰りがある、ミステリアスを感じさせる表情。

 視線を徐々に下げる。スレンダーな体つきだが身長が高く骨格はしっかりしている。普通よりもかなり腰が高く、スラリと細いしなやかな足は、つい視線を向けてしまうほど魅力的。

 このような美少女が二人といてたまるかと、友乃は自信ありげに笑う。

「私は山冨練会長を敬っています。なのでその方の顔を間違えるはずがありません。それにもし間違っていれば、それは私の敬う心が足りなかったと反省し、同室者の権利がなかったと判断いたします」

「あら、あなた私と同室者になりたいの?」

「あっ!」

 梅は段階を踏んでその言葉を口にしようと思っていた。その為のリハーサルを何度も脳内でイメージし、この日に備えていた。けれど、実際のところ、本人を目にして言葉を交わせば、そのイメージは泡沫のように消えていた。

 やってしまったという自分への怒りと恥ずかしさで顔を赤く染める梅。

 練は二、三度瞬きをした後、差し出されたグラスを受け取った。

「倭久井梅さん、尊敬する人物は私、そして入学試験トップの成績。そして何より私に対する思い、清々しくてすごくありがたいわ。あなたのような方が同室だと朗らかな日々を過ごせそうね」

「では、私と同室になって頂けるのですか?」

 期待を灯した瞳をゆっくりと練に向ける梅。

「ええ、たったの一年間だけれど、よろしく」

「こ、こちらこそ、よ、よろしくお願いします」

 こんな簡単に決まっていいのだろうか、と思う反面、これは当然の結果ではないかとも梅は思う。たった一日で相性の良い人を探せと言う方が難しい。ならば何を基準に選べば良いか。その最重要項目に大体の人は学力を選ぶだろう。

 学生にとって学力は信頼と同意。ただの知識量だが、それは素行がいいかどうかと直結して考えてしまう。勉強が出来ないものはバカで出来る物な利口。同室者が馬鹿か利口か、どちらが良いかは考えなくても答えは出る。彼女達もその考えに乗っ取っただけ。

 梅のプロポーズの成功を讃え、周りにいた者が拍手を行う。梅は照れながらも小さくお辞儀を繰り返す。

 梅は半ば夢心地だった。この学校に入学した大半の目的は練と同室になることだったのだから。

「倭久井さん。あなた私の呼び名が統一でないようね。どれか一つにしてくれないかしら?」

「わかりました、ではさんぷちゃん」

「ああ、プログラムの和名ね。って、なぜこの年齢になってちゃん付けで呼ばれなければならないのよ」

「さん付けで呼ぶと、さんぷさんになってどこか回文っぽくないですか? 回文って嫌いなんですよ」

 ムスッとした顔で練は左手を広げ梅に向けた。

「五秒以内に違う呼び名を考え、私が許可しないと同室者の件はなかったことにすします」

「えっ、そんな殺生な!」

 動揺する梅を無視し親指を折る練。

「じゃ、さんぷさん!」

「安直すぎ」

 静かにそう言って人差し指が折られる。残りは三つを数えるのみ。

「え、えっとあの」

「数打てば当たるかもしれないわよ」

 そう言って悪戯な笑みを浮かべ中指を折る。

「山冨会長!」

「普段から会長なんて、どこかやるせないわ」

 薬指が折られる。

「練、練さんで!」

 小指が……折られ…ず、すっと練は手を下げた。

「よろしい、最初から妙な呼び方なければ済んだのよ。少しは楽しめたわ」

 こっちは心臓が止まるかと思ったよ。梅は安堵し大きく息を吐いた。視線を上げると練が人差し指を向けていたので体がびくつく。また時間制限で何か答えなくてはいけないのか? 

「まだ何か決めごとでも?」

「いえ、違うわ。私の視界に見ず知らずの方が手を振っている姿が映ったので、もしかして私ではなく倭久井さんに向けているのではないかと思って」

 梅が振り返ると円卓の三つ先辺りで数十分前に別行動をした友乃がいた。眼が合うと振っていた右手を正面に突き出し、力強く親指を突き立てた。

 それに対し、友乃と同じような手の形を作り突き出す。そしてありがとうと上は呟いた。

 視線を練に戻そうとした瞬間、サラダを貪る友乃が男子生徒に声をかけられる。

「うわ、ナンパだ。あの男子ロリコンか?」

 小さく笑って梅は茶化したあと、携帯電話のspysのアプリを起動して、友乃に話しかけている男子生徒の情報を見ることにした。

「あの人三年ですよね……えっ!」

 spysが表示したデータを見て梅は驚愕した。

「あの、spysであの男の情報技術の成績が一位になってるんですけど……マジですか?」

「間違いないわ。私が唯一ここの生徒に負けている教科であり、負けてはいけない教科なのにね」

 練はつまらななそうな顔をして、その寝癖まじりの男子生徒を見つめた。


「よお。中々良いミニトマトを皿に盛ってるな」

 声をかけられた友乃は馴れ馴れしい声の方を向くと、そこには少し長めの髪に寝癖がつき、眠そうな顔をした背が小さめの男子生徒がいた。男子生徒は友乃の方を見ずに、一点にミニトマトを見つめている。

「この赤く熟れた艶を見抜くのはまあ、ちょっとしたトマトニストなら出来ることだが、この張りを見抜くとは大したものだ。俺以外でその眼力を持った者を初めて見たよ。相当やるなお前」

「それほどでも。一つ食べますか?」

 照れながら皿を差し出し、遠慮なく、と一つ口に放り込む男子生徒。

「旨い。お前はやはり俺が思った通りの人物だ。自分が探し求めた至高のミニトマトを惜しげもなく人に差し出す。ミニトマトの美味しさを皆に伝えるというその心意気は他のトマトニストにも見習ってほしいものだな」

 更にもう一つ口に放り込み、何度か頷くと、男子生徒はミニトマトから視線を外し、友乃を見つめた。

「では本題に入るぞ。こんな短時間で一年間も同じ部屋に住む人間を決める方法に、俺は相手の性格を問題視する奴なんてアホだと思う。いや、アホだ。たったの数時間でそいつの人格なんてわかるはずがない。でないと離婚者なんて出るわけないからな。そしてもう一つ、成績で決めることもアホだ。性格よりはマシだが、成績=良い同居人と結びつけるなんて不可解極まりない、だろ? 意味不明だ。じゃあ、何で決めれば良い? 簡単だ。何の為に和洋中がこの場に用意されているのか考えれろ。三大欲求のどれかが一致すれば人間関係は簡単には壊れない。味覚が合えばお前の飯がまずいなどと言い合いにならない、だろ? 夫婦の不仲の原因の大多数を占めているのが味覚の不一致だからな」

 話が長いな。と半分ほど聴いていなかった友乃だが、梅の言っていたあのことを思い出し口にした。

「質問だけど、あなたは千里眼ですか? それとも順風耳ですか?」

 その言葉を聞き、男子生徒は顔を歪める。

「お前、俺の話を聞いてなかったのか? 成績を同居人に決めるステータスに入れちゃ駄目だ」

「いえ、友達がその質問は大事と言ってたから。で、千里眼ってこの学校に超能力者がいるんですか?」

「何言ってんだ? センリガンとジュンプウジは学校で使用するデバイスだ。二年になると成績優秀者順にセンリガン、ジュンプウジ。そして一年でも使っていたタブレット型のデバイスを使用する普通科に分けられるんだよ」

 なるほど、と友乃は頷いた後、トマトを口に入れた。

「でだ。どうする? 俺と同室になるのかならないのか?」

 トマトを飲み込み一息ついて友乃は口を開く。声は少しどもっている。

「あの、狸だけどいいですか? それで良ければ私は大歓迎です」

 狸? と一瞬戸惑う男子生徒だが、手を差し出し握手を求めた。

「俺は三年普通科の人見、人見源太郎。長いから人見と呼んでくれ」

「私は綾友乃。お世話になります」

 こんなに早く同居人が決まると思っていなかった友乃は嬉しくて笑みを浮かべる。差し出した手を握る手は力強くて安心感を与えてくれた。

 が、周囲はパートナーが生まれたと言うのに、梅の場合とは違い拍手がなかった。囁き戸惑い引いている。

 そんな周囲に気付かない友乃だったが、強い視線を感じ、そちらに目を向けた。するとそこには梅と話しながらもこちらに視線を向ける練の姿があった。


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