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わたしと時々妄想ばっちゃんの日々 番外編2

高校に入って初めての夏休みだったが真理を支援する為に勉強強化の塾を学校でやると言う。勿論建前は希望者を募っているが。が、演劇部は何時もは夏休み前に台本も配役も決まる筈なのに今年はそれがない。そこで主任の先生に電話すると真理に遠慮しているとか。真理の抗議に部員は集められ真理と敦だけ一年で役を貰う。塾も終わり昔の部員で劇を老人ホームで行いその仲間と幼馴染達と近くのキャンプ場へ一泊旅行。その後は劇の全国大会に向けて練習。色々悩んだが敦君は両親、真理は父方の祖父母、幼馴染達などが応援に駆け付け全国高校演劇買いが始まる。掛け声禁止を言い渡した真理だったが真理登場の最初から拍手と掛け声が上がり、まるでそれが劇の最後のようになってしまった。結果は如何に?

 良く晴れ渡った青い空。久々に六色沼に向かって「おはよう」と叫びたくなったが、15歳にもなってそれは出来ないと諦めた。梅雨は早々に終わってしまい、猛暑が顔を効かせる日々が始まっているのだ。足元には猫のチャトラーがいて頭を擦りつけて来る。

「チャトラー、お前と遊んでいたいけどわたしは学校に行かなかちゃあならない身なんだ。分かっておくれ、と言っても分からないだろうけどさ」

するとチャトラーはわたしの顔をじっと見つめて「ニャー」と鳴いた。

「ねえ早くしないと敦君が待ってるんでしょう」母の急かせる声。

「はーい、今六色沼に行ってきますの挨拶をしてた所なの」

と言う訳で何時も通りあたふたとカバンを持って、チャトラーの頭を一なでし玄関を後にする。

駅にはこれも何時も通り敦君がにっこり笑って待っている。

「待った?」

「ううん、そんなに」何時も通りの答えが返ってくる。

乗客は何時も盛り沢山で、これが御馳走だったらどれ食べようか迷う所だけど残念ながらどちらを見ても食欲をそそる顔には会ったためしがない。

「どう、高校の演劇部面白い?」

「え、何、演劇部?面白いかって?」

「うん、どう?敦君にとって今の演劇部は面白いと感じてくれてるのかなあと思ってさ。少し元気がないみたいだから聞いてみようと少し前から考えていたの」

敦君直ぐに答えようとはせず暫く窓の外を見つめていた。

「僕は芝居するのが大好きだから、どんな役でもやれと言われれば喜んでやるさ。只今までと違ってさ、劇の内容も稽古の仕方も、それにもちろん雰囲気も全然違って、少し戸惑っているんだと思う。大丈夫だよ、そのうち慣れるよ・・必ず慣れてきて元の僕に戻るよ」

「そうね、芝居大好きの敦君だもんね、敦君が一人前の役者になってくれるのはわたしのもう一つの夢でもあるんだ」

「えっ、ま、真理ちゃんのもう一つの夢だって!」敦君は真理に視線を移した。

「そう、わたしは化学者にならなくちゃいけないんだから、役者の夢は敦君にかけてるんだ」

「そ、そりゃ責任重大だなあ、真理ちゃんのあのお芝居を、凄く心に迫るあの芝居を引き継ぐのはとても難しいよ」

「大丈夫よ、あなたには誰にも負けない芝居に対する愛があるわ、わたしはあなたのその愛の強さにかけたのよ」

「うん、僕、これから元気出して頑張る」

「良かった敦君がこのままへこんじゃったらどうしようと心配してたんだ」

期末試験も終わり、夏休みも間もなくの朝の短い会話だった・

 「オイ島田、島田さんよ」とホームルーム受け持ちの松下先生が声をかける。

「はい、何でしょうか?」

「うん、もう直ぐ夏休みに入るだろう?それでさあ、あんた、それ以外に数人ばかりピックアップしてさ、塾みたいなものをやる事になったんだ。お前がこの学校に来る時の約束みたいになってるって演劇部の林田先生が、あの人演劇部の責任者だから、あの先生の言い出して。処でお前、夏休みに学校来る?」

「ああ、そう言えばそういう約束でしたね。いえ、覚えてはいましたが、もっと後からだと思っていました。でも早くしてもらえるならそれはそれでとてもありがたい事だと思います」

「まあ、夏休みと言っても10日ばかりだが、まずは英語と数学、それに古文をするそうだ。調子良いようなら、2学期の放課後もやるらしいぞ」

「そうですか、ありがとうございます。頑張ります、出来る限り」

「うん、お前の成績ならば、まだ全然予備の勉強は要らないと思うが、まあ学校の期待もあるしな、みんなと一緒になって頑張ってくれ」

そうか、いよいよ始まるのか大学受験の準備が。私は少し唇を嚙み締めた。もう夏休みなんて浮かれていられない、プールも海も、ましてキャンプなんてことも言ってられないのだ。

「でも、ちょこっとの日数だったら大丈夫よ、平気平気」と母は全然意に介していない。

「そうだなあ、2,3日だったらキャンプぐらい平気だよ。何しろまだ1年の夏休みだもんんあ」

父も同じような気持ちで、それどころか心配する娘を何処か遊びに連れて行きたがっているようにさえ見える。

「うん、心配はしてないけど、何か学校の方が期待してるみたいで頑張らなきゃいけないなと思っているのよ。でもどこかに行きたくなったら、その時はちゃんと計画立てて出かけるわね」

わたしはこの暑いのを気にする事もなくチャトラーがゴロゴロ言いながら寄り添っている頭を撫でた。

 翌日敦君に言われた。

「ねえ、夏の学校の強化塾、勿論出るよねえ、君の為にあるんだもんねえ」

「うん、ありがたく受けさせてもらうわ。敦君も受けるんでしょう?」

「僕も受けさせてもらうよ、喜んで。父も母もそりゃあ喜んでるよ」

「そう、それは良かったじゃない、内ではその後どこか遊び日行ったら良いって言ってるのよ。父も母もノンビリムードなの」

「そう、それはそれで好いんじゃない?僕も1日くらいどこか行きたいなあ」

『そうか、美香ちゃんや篠原女史、そうね武志君は無理だろうから、健太と睦美ちゃん、それに沢口君も誘って何処か一泊キャンプに出掛けようか」

「いいねえ、みんなに話してみようよ、きっといい返事かえってくるよ」

 学校塾は親にも好評で思ったより人数的には38人に迫る勢いだった。何しろ普通の塾に通うより費用的にもうんと安く済むし、何時もの通いなれてる所で安心でもある。

その中に敦君や北村さんを含む演劇部のメンバーも10人近くいるようだ。

「みんなやる気満々だから、こっちも張り切らざるを得ないなあ」と数学を指導する押川先生。

「まあ、殆どが親の意向でやらされいるんだろうけど、折角やると決めたからには頑張ってもらってみんな良い大学入ってさあ、お、あそこの高校も演劇だけじゃないんだという所を見せてあげようじゃないか」と英語の棚崎先生も本筋をついている。

兎も角学校主催の勉強会は始まった。殆どが勉強の出来る子達なのですいすいと進む。心の中ではあああ、プールに行きたいな、とか、山好きの子なら。憧れの山がちらちら脳裏に浮かんだりするかも知れないが、そんなことは皆心の底に押し込んで勉強に勤しむ。

1日3時間、先生達が教える、それが済めばフリー、何をしても良いのだ、学生の本分を外れていなければね。

わたしは終わったら敦君と仲良く帰る。殆ど何処にも寄らず帰る毎日だ。でも今日は何となく他の子と同じように少しだけ寄り道をしたくなった。

「ね、敦君、今日凄く暑いよねえ?何時もみんなが寄ってるあの店に入って、アイス買って食べない?」

「え、アイス?そうだねえ、入ってアイス買おうか」敦君も賛成する。

お店に入るとみんな一斉に二人を見る。

「珍しいね、二人で買い食いするって」

「ほんと品行方正の島田さんとそれに輪をかけたみたいな谷口君。ま、谷口君は島田さんのナイトだから仕方ないけどねえ」

「そうそう、俺たち島田さんに声かけようにも谷口が目光らせてるからなあ」

こう言った声が二人に浴びせかけられる。

「はい皆さーん、みんながわたし達の事話したくってうずうずしてたんでしょう。わたしと彼はね幼馴染なの、と言っても他に似たような関係の子が5,6人いるんだけど、残念ながらそれぞれ賭ける物が違うの。方や医学部に入りたいと燃えてる者あり、バスケの選手や、テニスの選手になりたいと思っているのあり。谷口君とわたしは演劇部に所属してたからこの学校に来たのよ」

「あ、先生が言ってたわ、この夏休みの勉強強化はこの二人のどちらかの為に開かれているんだって」

「うんうんそれは勿論この島田さんの為にあるのよ。彼女わたし達とは全然出来が違うもん、その人が演劇部に入っているのが可笑しいのよ」

「でもさあ、彼女の溢れる演劇の才能に惚れてさ、演劇部に入れるために今回の勉強の強化塾も学校に申し込んだらしいと聞いたわ」

「ふうむそれじゃあわたし達は彼女のお陰で学習強化を受けられてるのね」

このにぎやかな野次馬集団の中、アイスを食べ終わった二人は店と友にさよならを告げ駅へ向かう。

「ごめんね、嫌な事に巻き込んじゃって」と直ぐに敦君に誤った。

「別に真理ちゃんが誤る事ではないよ、陰ではもっといろいろ言われているし・・その為に真理ちゃんが僕のボデーガード嫌がったらどうしようと思っていたんだ。あのくらい平気さ」

「へー、敦君強くなったんだなあ」

当然ながら仲良くなる女子達も出来るのは当たり前。取り分け瀬川さんという子はとても気になる存在だ。彼女は大人しくているかいないか分からないような子だが、看護学校に行って看護師になるという志をきちんと持っていて、そのためにコツコツと努力している。他には趣味らしいものは全くない、確かに堅物と言えば堅物だが、決してがり勉タイプではない。

「ねえ、瀬川さん,お家近いのそれとも遠い?」と聞いてみた。

「家?そうねえ近い方なのかなあ、電車で10分乗ってそれから歩いて15分位かかるわ」

「まあその位だったら近い方だわねえ。わたしの家は隣の県でしょう、もう少し、あと20分以上はかかるわねえ。でも環境は抜群よ、わたし、大好きなのそこの周り」

「そう、いい所に住んでるのね、わたしの住んでるとこは、マンションはマンションだけど小さくていろんなところを無理して建てたみたいで、住んでみるとその狭苦しいのがよーく分かるわ」

「そう、交通の便利な所ってそういうのには目を瞑らなきゃならないのねえ」

「うん、でもあたし、も少し広々したとこに住みたいなあ」

「そうだねえ、広々したとこ住みたいよねえ。それは理想だけど現実は便利が一番になって来るのよ」

「うん、それは分かっているのよ、でももうちょっとで良いから広いとこ住みたいなあ」

これで瀬川さんの望みは看護師になることともう一つ、広い家に住みたいと言うことが分かった。

もう一人友達が出来た。彼女はお父さんが医師であり、彼女自身は薬剤師になるよう小さい頃から言われていたので、当然薬剤師になることを狙っている。趣味も様々ピアノも絵画も習っているらしい。家も勿論マンションだが、瀬川さんの所と違ってそれなりに広く出来ている。名前は横田さんと言う。

「ね、ね、島田さんのお母さんは画家なんですって,どんな絵を描くの?」

「あ、母は風景を描くのが得意なの。でも名前は島田じゃなくて河原崎って言うんだ。画家の間ではまあそれなりに有名になりつつあるわ」

「でもさ、お父さんて何してるの?やはり美術関係の人かしら」

「ハハハ、父は母の絵のファンだけど仕事は全然関係ないの」

「ふーん、普通の会社員か」

「ま、会社員じゃないけどそう言った所ね」

わたしの頭の中に哲学の教授と准教授が交互に行きかう。母は父の事を准教授と嫌になるくらい力説して来たが、効果は全くなくて、父は正教授としてみんなの中に存在してるのだ。

「何言ってるのよ、彼女のお父さん大学の教授よ、しかも哲学の」

横から中学からの演劇部だった村中さんが口をはさむ。

「違うわ、父は教授じゃなくて准教授よ、教授と准教授じゃ全然違うわ。玉葱と普通の葱くらい、いえ、トマトとイチゴくらい違ってるのよ」

「あなたのお父さんは普通の葱で大学教授は玉葱なんだ」

「イチゴとトマト、これはどっちがお父さん?お父さんがイチゴだったら好いわねえ、哲学も優しく聞こえるわ」

「もうあなた達、教授もとっても優しいし父だって優しいのよ。只見かけは似てるけど全然内容的には違ってるの、力も貰うものも」

母が何時もみんなに必死で説明してる姿が、今はまさしく自分に成り代わっている。

「でも僕は島田さんのお父さん、とても尊敬してるし感謝してるんだ」

そこに敦君が割って入った。

「アラー、谷口君島田さんのおとうさん知ってるの」

「僕が演劇の世界で生きて行きたいと思っていた時、そうなる様に力を貸してくれたのが島田さんのお父さんだったんだ」

「じゃあ恩義があるから絶対島田さんを守らなくてわねえ」

どうやら父のややこしい仕事上の問題は何とか片づいたようだ。でも母の姿を見ているとこう言ったことは中々すっきりいかないらしいので今後も要注意だ。

段々暑さが厳しくなってくると、例の店にも帰りには顔を出すことになる。

「ねえ、他の部活は夏休みに強化練習や合宿があるけど、演劇部にはないの?」と尋ねられた。

わたしは演劇部に所属してるけど、前みたいに台本描いたりその他もろもろ部活の責任のある仕事をやってる訳ではない。

「わたしはなんにも聞いてないわ、敦君、何か聞いてる?」

「えっ、いや何も聞いていないよ。只2学期には発表会と全国大会に向けて色々忙しいらしいとは聞いてるけど」

「あ、少しなら先輩から聞いてるわ。8月の中旬ごろ呼び出しがあって、台本を渡され配役も決められるのよ。本当は夏休みが始まる前にやってたんだけど、勉強の強化塾が始まったから今年は特別に延期になったんだって」

「ええっ、そうなの?わたしはまるっきり知らなかったわ、敦君は?」

「ぼ、僕も全然知らなかったよ。何にもしなくて演劇部大丈夫かな、と不安は感じていたけど」

「わたし、みんな島田さんに遠慮してると思ってるの、中学の時は演劇部一筋とみんな思っていたけど、高校に入ったら目標は化学者、それも一流の。何故この高校に来たかと言うと、わたし達他の演劇部員を全部推薦入学させる為だったんでしょう。だから只管島田さんの邪魔にならないようにしてるのよ」

わたしはビックリコ、それで演劇部の質が落ちて全国大会に出られなくなったら元もこうもない、これは何とかしなくては。

学校から帰ると電話帳を引っ張り出した。2度とは使わないと思っていた懐かしい中学校の連絡帳、そうだ、この中の松山君は音楽を専門にやるために別の高校へ行ったんだな、なんて感慨に耽っている場合じゃない、ええっとそうね小栗さんが良い、彼女なら詳しいこと知ってるわ。

早速電話してみた。折よく彼女が出た。

「あ、あのう、島田ですが、ちょっと話が合って電話したんですが」単刀直入に聞こう。

「ええっ、、あの島田さん、一年の?」

「はい島田真理です。小耳に挟んだんですが今年の高校演劇部大会の為、毎年夏休みに入ると直ぐその練習の為台本を渡し、役も決めているそうですが、今年はそれがない、これはどういう事なんでしょうか?聞く所によるとこのわたしに関係があると言う事らしいと噂されていると聞きましたが本当でしょうか?」

「そ、それは・・あ、あのう、べ、別にあなたの所為ではな、ないと思うわ。ただ、今年からわたし達の学校も勉強の方にも力を入れたいと言う意見が多くなって、今年はこの方針でやろうと上の方で決まったのよ。本当よ、絶対にあなたの所為じゃないわ」

「で、でも台本渡したり役を決めたりは出来ると思うんですが、どうでしょう?」

「そそれは・・・そうね、わたしもそう思うわ。こ、これはわたしに聞くよりも林田先生に直接聞いたらわたしは演劇部の方でそんなに存在感のある方じゃないから、こういう事に意見を言えるような立場じゃないのよ」

そうか、仕方がない林田先生に直接聞くしかないのか。うん、どうやって、電話番号は?最初の時確か渡された書類に書いてあったような。

「ありがとうございました、ではそういたします」

電話を切って演劇部関係の書類を探す。あったあった、まるでガラクタの中から見つかった宝物と言った所だ。でもやはり嬉しい、これで林田先生の考えている事が分かると云うもの。でもこの林田先生とはろくに話したこともない。いきなり電話して良いものだろうか?少し躊躇する。うん、でも電話しなくては事の真相は不明のままだ、番号を押す。留守録の音声が響く。ああ、彼は仕事中なんだ。夏休みは生徒だけのものだったか。兎も角留守録に要件を吹き込む事に。

夜彼からの電話が鳴った。「わたしだと思うから、わたしが出る」と母を制して直接取った。

「島田です」

「あ、あのう、島田真理さん、本人かな?」

「はいそうです、林田先生ですか、電話お待ちしていました」

「よ、良かったよ君が直接出てくれて。お父さんやお母さんが出たらどうしようかと思って気が重かったんだ」

「べ別に父や母が出てもどうと言う事もないんですけど。決して大きな声を出したり文句を言ったりしませんし、まして先生を襲うような無謀な事も絶対にいたしません」

「そ、そりゃそうだろうけど、何しろお父さんは哲学の教授だし、お母さんは有名な画家でいらしゃると聞いているもんだから」

「いえ、それは違います。父は教授じゃありません、只の准教授ですし、母はそんなに有名な画家ではなく、この間まで殆ど売れない、父がいなかったら貧乏絵描きの見本みたいなもんでした」

「は、はあ、そうかな。で、君の用件と言うのは君の為に今年の演劇部は方針を変えて生徒に台本も渡さず、役も決めず夏休みに入ってしまったのかと言う事だったね」

「まあそう言う事です。みんなが何時も夏休み前に台本も渡され役も決まって、準備万端、夏休みの終わりにはもう稽古も殆ど終わっているとか聞きましたけど」

「うーん、まあそうだねえ何時も通りだったらねえ。でもさあ、君の成績を見るとそうは行かなくなって。君は余りに成績優秀でさ、そんな君を一演劇部の為に犠牲にするなんて出来なかったんだよ」

「はあ?そ、それは本末転倒です。わたし一人の為に演劇部部のみんなが泣くようになったら、それこそわたしが演劇部に顔向けできません、お願いです、みんなに連絡とって遅くなったけど台本と今度やる役だと言って渡して下さい。そうすればどんなにすっきりするでしょう、わたしもそれでこそ勉強できますよ、心おきなく」

先生暫く考えていたがやっと決心がついたようだった。

「分かったよ、何とか連絡とってみんな集めよう、うんそうしよう」先生の声も明るくなった。

やれやれこれでわたしの心の重荷も取れた。一体どんな台本なのか、どんな役を貰えるのかすこぶる楽しみだ。今夜はぐっすり眠れるぞう!

直ぐ翌日に連絡網で電話が入った。強化塾の終わった後演劇部全員集まる様にとの事。

「一体どんな劇かしら、敦君何か少しでも知ってたら教えて」

「え、全然知らないよ。只ウクライナ関係で戦争反対みたいな劇とは聞いてるけど」

「あ、やっぱり情報入ってんだ、わたしはまるっきり蚊帳の外だな、ちょっぴり寂しいよ、こんな立場に立たされると」

「でもみんな秘かに頼りにしてるんと思うよ、入る前から真理ちゃんの噂耳にしてただろうし、先生達も何とか演劇の道に踏み止まって欲しいと願っているんだから」

勉強の時間が済むと演劇部の教室へ向かう。

先生が3人、それに部員の殆ど全員が揃っている。随分の人数だ

「えー、本来なら夏休みの前にやるべき事を、少し遅くなってしまったが、まあ色々あってなあ、今日やる事になった。悪く思わないでくれ。今年は戦争の悲劇にスポットライトを当ててみたんだ。今世界は、特に中東やウクライナ等泥沼の中にある、それはみんな知ってるよね。台本は新聞の内容を参考にして3年のみんなが意見を出し合って書き上げたものだ」

林田先生が3年生の方を見つめる。

「役はだ、これも殆ど3年がやる事になっていて、彼らには前もって言ってあるので多分今、一生懸命練習している最中と思う」

三年生の間から笑い声が漏れる。

「で、残りの2年1年は群像劇をやってもらう事になる、戦争がバックにあるからこれは大切だ。頑張ってやって欲しい。例外があって・・・島田と谷口は両親を亡くした子供とその兄をやってもらう事になってるんだ」

ざわめきが起こった。それが羨望によるものかああやっぱりねと言う心からの声だったのか天知るのみである。

当のわたしは初めて知らされて吃驚仰天、みんなのざわめきをどう受け止めるかなんて事は二の次三の次殆ど気にも障らなかった。

「はあ、わたしがですか?」

「うん、この役は小柄な島田にぴったりだと思う。反対の声は外の先生からも3年のみんなからも一切出なかった」

他の先生や三年のみんなが頷いた。2年一年もざわめきが消えてしんとなる。これじゃあ受けるしかないのかと敦君を見つめる。敦君はにこにこ笑っている。

「はい、分かりました、力いっぱい演じます。三年生の足を引っ張らないようこれから稽古に励みたいと思います」

「うん中々好い返事だ、と言っても出番は少ないがな、まあ頑張ってもらおう。谷口も良いな」

こうしてこのミーティングは終わった。

「これで夏休みの思い出作りもなくなっちゃうかな?」

「そんなことないよ、僕たちの出番は本の少しだし一泊ぐらいのキャンプだったら平気だよ」

「そう、そうかな一泊旅行ぐらいなら平気かなあ?」

「まあさ、真理ちゃんは大学の入試目指して勉強しなくちゃならないけど、でも一泊位平気なんじゃないの?僕はそう思うけど」

「そうだよねえ、一泊位でおたおたしてるようじゃ真理も落ちたもんだと笑われちゃうね。よし、好い所探して計画練って出かけよう」

「うん、僕が男性の方の連絡は引き受けるから好い所探してみて」

家に帰って先ずは台本に目を通し大体の筋書きを掴む。これは本当に戦争もので、悲劇のオンパレードだ。次に自分の出る所をチェックする。ううーむ、劇の始め爆撃の激音と共に両親が二人とも亡くなってしまって呆然とする幼い女の子。そこにその兄が妹の名を呼びながら探しに来る。へーえタイミングよくねえと思わないでもない。いやいや、この破壊された建物の中を必死に探した後だろう、うんそれじゃあ傷もおってるだろうし体も衣服も汚れているだろう。小さな子供が両親を求めて瓦礫の中を探している姿が浮かぶ。セリフにはないけれど「お父さん、お母さん」と言う言葉位欲しいな。などとその場面を想像して自分勝手に作り上げる。楽しい、久々の芝居だ、体の奥にy喜びが押し寄せて来る。

「わたしって本当に芝居好きなんだなあ、敦君、台本見てどうしてるんだろう?多分わたし所じゃないだろうなあ」

そこで敦君に電話することに。電話にはすぐ敦君が出た。

「あ、敦君、真理よ島田真理よ。ねえ、台本読んだ?」

「うん大体ね、中心人物の2,3人以外はみんな一言か二言しか喋らないねえ。まあ戦争の終結を描くんじゃなくて悲劇を描いてるんだから、まあこんなもんだろう?」

「そう言う事よねえ。でさあ、君の出番の所チェックした?」

「うんチェックしたよ。何か問題でも?」

「冷静なんだね敦君て。わたしは久々の台本だったから少し興奮しちゃったわ。両親を探す所とか、傷の状態とか服の汚れとか書いてないことが気になって。それに台本を、人が書いた物だけど何かじわじわ嬉しくて、こんなにお芝居するのって楽しいものだと改めて感じたわ。わたしがこうなんだから敦君はもっとだろうなと思って電話してみたのよ」

「も、勿論だよ、ぼ、僕も嬉しいよ。久々だし、本来ならセリフなしの団体行動だろう、それが立派なセリフ付きの役だろう。天にも上る心地だよ。多分僕が君の友人と言う事で急遽作られた役だろうけど、訳はどうでも良いんだ、君の名に恥じないように一生懸命演じるよ」

「そんなことないわ、敦君の芸の確かさは先生達も十分承知してらっしゃる。それを知った上での役なのよ、まあ、兎も角選ばれたからには選んで良かったと思われる芝居やりましょうね」

こうして興奮の一日は過ぎて行った。

「あなた、演劇部の稽古始まったんですって」と横田さんが先ず問うた。

「え、そうなの、わたしは林田先生はあなたに遠慮してこの勉強会が終わるまで演劇部、稽古ないと思ったわ」

「私も当然ないと思っていたわ」

外野は煩い、憶測も飛び交う。

「林田先生さ8月の終わりに何か旅行の予定があるとか聞いたわ」

「へぇーそうなんだ、。そう言えばこの頃、前よりきれいにしてるって2年生の先輩から聞いたわ。何かあるのかな秋になったら?」

まさか目の前のちっこい女子が電話してこうなったとは知らない彼女らは楽し気に火のない所に盛んに煙を立てている。私は別に林田先生の肩を持とうという気はないので噂話はほったらかしにしておこう。

どうやら楽しい勉強会も終わりを告げた。明日からこの我々の夏休みだ。

と言ってもまだまだ宿題は目白押しだし、ボランティアもやらなくてはならない。うん、高校生はとても大変、辛いのだ。まあ勉強の方の宿題は簡単に済みそうだけど。が?ボランティアって何をするべきや?

先ずは母上に聞いてみる。

「そうね、駅の掃除とか、公園の掃除。ここいらは沢山するとこあって良いわねえ」

「うーん、そうねえ、前六色沼には自発的に掃除行ったけど・・何か変わったボランティアないかなあ」

「変わったボランティアねえ・・あ、この近くに老人ホームがあるけど、そこであなたの得意なお芝居をしてあげたら、喜ばれるんじゃないかしら?」

「ええっ、お芝居?うーん、そうね‥短いやつを、敦訓や他の仲間も読んでやるのねえ。少し時間が必要だわ、それこそお金もない、設備もない、いるのは人間だけ」

「そうね、お面だけ付けて、その役になりきってやれば大丈夫よ」

「台本はうん、注文の多いレストラン、あれからもらう事にしようかな。まずは賛同者が多ければの話よええ。いなけりゃ公園の掃除にしよう」

先ずは敦君だ。

「ああ、それは良い提案だねえ、男3人劇をしたくてうずうずしてるんだ、きっと大喜びするよ」

次に北山さんに電話する。

「えっ、好いの。私みんなの足引っ張らないかしら?その心配がなけりゃ喜んで参加するわ」

最後に村中さんに電話したが、彼女も大喜びで参加を表明した。

これで全員参加が決まる。もし足りない場合、篠原さんの友情出演も頭に入れて台本描かなくちゃあ。

場面1

ナレーター

 ここは岩手の山奥、都会から遊び半分に狩にやって来た若い男二人と犬2匹、結局何も取ることが出来ず腹をすかして山道をとぼとぼと歩いて来ました。

左手より男二人犬二匹が登場

男1

 ああ腹減った、何か食い物は売ってないかなあ

男2

 こんな山奥ではなーんも売ってないよ。早く引き返して戻ろうよ

男1

 おっ、あれは何だ、看板が出てる、何々注文の多いレストラン、って書いてあるぞ

男2

 こんな山奥にレストランが、しかも注文が多いレストランだってさ

男1

 評判良くってさ、だからわざわざひっそりこんな山奥でやってるんだよ。あんまり街中でやってたらお客がさ押し寄せるだろうy?

男2

 うん成程、それは言える。兎も角お腹空いたよ、どんなごちそう出るか楽しみだなあ。早く中に入ろう。お前達はここで我々が出てくるまで大人しくしてるんだ

男達右手に退場

犬2匹を残して男たちは消える

犬1

 ご主人達大丈夫だろうか、何かこのレストランうさん臭いぞ

犬2

 うん俺もさっきから怪しげな臭いがしてしょうがないんだ

犬1

 まあ様子が変わるまでここに待機するしかないなあ

犬2

 そうするしか仕方がない、ちょっと昼寝でもして待つとしよう

犬1

 あそこの草むらが好いね

犬2

 ああ良いね、そうしよう

犬、同じく右手に消える

場面2

下に籠が4個置いてある。左手からウエイトレス二人、右手より男二人が現れる

ウエイトレス1,2

 ようこそいらしゃいませ、遠慮は要りません、中へドーンと遠慮なく中へお入りください

ウエイトレス1

 ささ、料理にはお荷物は無用です。その籠に入れてください、はい全部、全部入れるんですよ。特に鉄砲はいけませんねえ、歯触りが悪くなるといけませんので

ウェイトレス2

 では次にお召し物を脱いで下さい。変な事だとお思いでしょうが、そこがそのう、このレストランの一番重要な所でして、遠慮は要りません、どんどん脱いで下さい。靴も帽子も勿論脱いで下さいよ、何にもない、これが一番良いのです、はい、スッポンポンが一番でございます、

奥から白い服を着た店長らしきものが現れる

店長

 まだ用意は終わらないのか?早くこの油、いやいやしっとりクリームを体にべったりべったり塗って、この小麦粉、嫌この小麦粉のようなおしろいを全身にまぶして、次に隣の部屋のたっぷり煮えたぎった油壺の中へ飛び込んでもらえれば、それはそれは良いこんころもち、夢心地の内にそれはそれは美味しいディナーの出来上がりでーす

男1男2

 そそれは、お俺たちをフライにして食べようと言う、そういう言う話なのかあ

ウエイトレス1,2

 はい、はいお客様、色々注文付けましたがこれも美味しく食べるためでございます、ささ早く裸になって香油を縫って下さい。私たちが小麦粉を振りかけてあげます

男1,2

 やだーだれか助けてくれー

犬1,2が右手より走って登場、ウエイトレス、店長変身して山猫に戻り犬との格闘

山猫負けて退場

男1,2

 本当に危ない所助けてくれてありがとう

犬1,2

 へへへ、どういたしまして

男たちと犬たちが共に笑いあう

と言う具合でどうだろう。少し短いし話もおおざっぱだが勘弁願おう。うん、どうしてもあと一人か、二人人数がたりない。ここはアイツに友情出演を願うしかないか。

電話を押す。出てくれ瑠美奈。へえ瑠美奈って名前があったんだ。中々良い名前を持っていたんだな。

「はい篠原です」運良く本人か、それとも母上か将又姉妹か?

「あのう、私、島田真理と申します、瑠美奈さんいらしゃいましょうか?」

「はいはい、おりますよ、ここに。どうしたの久しぶり。あれからどうしてるかなとは思っていたんだけど中々電話しずらくてさ。携帯持ってる?」

「うん持ってるよ、高校入った時スマホにしたけど」

「あいいなあ、わたしはいまだにガラケイよ」

「でさ、あなた秋の演劇大会の稽古でいそがしくない?」

「飛んでも八分よ。一年は裏方なの。と言ってもちゃんと稽古に出てさ、先輩のやる事見てなきゃいけないのよ。あなたのとこはどうなの?」

「うーん始め、稽古どころかどんな事やるのかさえ知らされていなかったの。そこで主任の先生に電話をかけたのよ」

「へー随分のんびりしてんのねえ」

「その代わり、勉強の強化塾が開かれていたの、わたしの為に」

「あ、成程ねえ、それも大事だわねえ学校にしてみたら」

「それを聞いたから林田先生に、主任の先生林田先生と言うの、先生に電話してみたの。先生はわたしに遠慮していたのね、そこで先生に遠慮することない、早く集めてどんな劇をやるのか、配役も決めてほしいと発破かけたのよ」

「ふんふん、いかにもあなたらしい」

「それで一応台本と役割は発表されたの。ま、稽古は夏休みの後半だけど」

「で、あなたは役貰えたの?」

「うんまあね」

「貰えたんだ。やっぱり島田さんは別格だもんね。谷口君は?」

「ええ彼も貰えたわ。でも電話したのは学校の演劇部の話じゃないの。わたし達ねえボランティア活動が義務づけられてるの」

「あ、そういえばわたしの所もだっけ」

「駅や公園を掃除するのも良いけど、老人ホームで演劇を披露したらって話になって谷口君始めみな大賛成。一度やった事のある注文の多いレストランを短い台本にしてみたんだけど、人数がどうしても足りないのよ、あなた、友情出演してくれない」    

「へっ、友情出演?」

「そう友情出演よ、良かったら林さんも出演願いたいわねえ」

「わたし達さ、お芝居が好きで好きでさあ、やりたくて仕方がない、で演劇部に力を入れてるとこに入ったはいいけど、あんたらは一年、裏方をして先輩がやる芝居を見て勉強するんだと言いくるめられて辛抱するしかなかったの。多分林さんも喜んで参加すると思う」

「まあ、ありがとう、恩に着るわ」

「ううん、このうじうじした気持ちを晴らしてくれて、こちらこそありがとうよ。さっそく林さんには連絡するわ、彼女も泣いて喜ぶわ」

こうして旧中学校の演劇部3年だった8名が谷口君家に集まった。

「篠原さんと林さんは友情出演と言う事になるけど、彼女らもボランティア活動義務づけられてるから、わたし達が友情出演になるのかしら。まあそんなことはどうでも良いわねえ、これは私が下書きしたものを、谷口君のお父様がプリントしてくださったの。色々書き加えたり削除する所もあるだろうけど、そこは各自でやって頂戴」

「でさあ、男3名だろう、ここは獲物狩りに来た二人と山猫の親分をやらせてもらえないかな」

敦君が仕切る。

「じゃあ犬2匹と山猫の子分2匹、それにナレーター、これを女5人で分けると言う事になるわね。最初友情出演が不確かだったので、ナレーターのセリフ、すこししかないの。これは場面2の所をふやさないといけないわねえ」

こうして話し合い男1は敦君男2は南都君山猫親分は岸部君に決まった。女の方はナレーターをだれにするか少しもめたが、ここはどうしてもわたしにやらせてと北山さんが引き受けることになった。犬は村中さんと林さん、わたしと篠原女史が子分のやまねこを演じる事に相成った。

山猫の変身は支配人やウエイトレスの頭の被り物を取れば、その下に猫の耳が存在するというわけだ。犬のお面も、山猫のお面も母に頼もう。鉄砲は南都君の友人が美術志望なので彼に頼む事にする。

一度やった劇だからみんな大体わかっているので本格的な稽古は各自それぞれ3日間稽古しその後全員集まり、3日間練習してその後老人ホームに交渉しようという話になった。勿論その本格的な稽古も谷口君の家を使わせて貰える様になっている。感謝、感謝だ、敦君のお母さんありがとう。

そこでもう一度台本に目を通し、北山さんのナレーターのセリフを増やす所を検討してみた。場所は場面が切り替わった所しかないではないか。

ナレーター

 ここはその注文の多いレストランの店内です。予算の関係から何の飾りつけもありませんが、見かけはちゃんとしたレストラン風になっております、あしからず。男たちが腹をすかしてやって来ましたよ

これを場面の切り替えの時に言ってもらえれば、好いアクセントにもなるし北山さんの好い声の聞かせ所になるわ。

だが母に話したら「そんなことは早く日にちを決めて直ぐに申し込まなくちゃ駄目よ」と言われ、それもそうだと敦君や篠原女史ともに早速申し込む事にした。

「へええ、君たちが劇を披露したいって?ちょっと待って上と相談してくるから」と暫く待たされた。

「あ、君たちかあ劇を披露したいと言ってるのは?」

「はい、と言ってもわたし達2校なんです。合同して注文の多いレストランをやりたいと思いまして。ボランティア活動として是非させて下さい」

「2校ね、じゃあ大勢来るのかな?」

「いえ。高校一年、しかもこの地域に住んでる演劇部員だけですから、男3人女5人合計8名で演じます」

「成程ねえ、じゃあここにさあ必要な事書いて提出してくれないかな」と言って書類を渡される。

生徒手帳を持ってきて良かった、持ってきてなかったら又出直さなくてはならないとこだった。篠原女史も同じであり、二人胸なでおろす。

「本当はさ。全員の住所と名前がいるんだけど、良いよ、君達3名の名前だけで。うんお盆前だねえ、ちょっと待って・・うんこの日なら空いてるな、良しこの日なら大丈夫だ、やってもらおう。みんな楽しみにしてるって他の子達にも伝えてくれたまえ」

やっと許可が下りて3人ほっと溜息。

「お母さん、教えてくれてありがとう、お蔭で何とか許可が下りたわ。私、もっと簡単に出来ると思っていたから、書類書かされて吃驚仰天よ」

「今は変な人が沢山いて子供だって油断出来ないのよ。命にかかわることだってあるんだから」

「怖いわねえ、だから人数を聞いていたのねえ、男3名で良かったわ」

稽古はスムーズに進んで、お面も小道具の鉄砲も出来上がった。衣装は各自用意することになっていたが、犬は茶色が一番良いと言う事で上は茶系統のティーシャツ、下は褐色の夏用の短めのパンツで揃えた。篠原女史とわたしは上はグレーのTシャツ下はカーキ色のパンツ、その上に白いウエイトレスらしいエプロンを付ける。山猫の親分はそれらしく大きめのグレーのティーシャツに同じくカーキ色のパンツだ。その上に白いトルコ帽のようなのを母上が縫ってくれたそうでそれを被り、白い前掛けを付けることにした。男二人は頭には何処からか手に入れたベレー帽をかぶり、下は普段道理で済ますことに。

「一応それらしく見えれば良いと言う事にしよう。何しろスポンサーなしの貧乏劇団、許してもらおう」

と言う訳で昼食を済ませ、約束の1時に間に合わせて、その老人ホーム、ハッピーライフへやって来た。

「やー君たち待ってたよ、あれからさあ君たちの高校へ電話してみたんだ。島田さんて言うの、君凄く有名なんだって?今日宜しく頼むよ、わたしも楽しませてもらおうと思っているんだ」

この間の渋皮を張り付けたような顔と違って、今日の責任者つまりホーム長はいたって愛想が言い。

「ま、お茶でも飲んで一息入れてからやってくれ。最初にわたしが挨拶するからね」

お茶と駄菓子が出たのでお礼を述べて少しいただいた.

それから大したこともないが衣装を着け小道具の籠も整えて部隊の裾に置き、北山さんの車を

敦君が押して舞台の隅に並ぶ。ホーム長が舞台の真ん中へ立つ。

「えー、みんな聞こえるかな?聞こえない人がいたら手を挙げて係が行きますから。大丈夫と言う事でこれからね、若い人たちが来てこれからお芝居をやってくれるそうだ。題は注文の多いレストランと言うそうだ。宮沢賢治の話からとったものらしい。少し本と違う所があるそうだが大筋は変わらないとか聞いている。原作を知ってる人も知らない人も楽しんでほしい。なお今日来た人たちは去年までここの中学校の演劇部で活躍し皆推薦を受けて高校に入った人達ばかりだ。みんな静粛にして聞くように」

拍手が起こった。北山さんが舞台の右手に進み出る。マイクはそこにも用意されていたのでそのマイクも遣わさせてもらう事に。北山さんの綺麗な声で芝居が始まる。

次に敦君達の扮する男二人と犬に扮した女性二人が左手より登場となる。

犬役は腰を落として犬らしさをアピール。敦君たちはお腹を押さえて腹ペコ状態を見せているが、敦君は決して大袈裟でなくいかにも自然体だ。ここには学校のように看板もレストランの背景もないが、十分にその情景は伝わっていると思いたい。

場面2になった。又北山さんのナレーターで始まる。篠原女史とわたしの出番。セリフの前にまず脱衣籠をを二つ並べて左手に下がり、二人の男の登場を待つ。

ここではウエイトレス達と男達のやり取りにお年寄りからの笑いも取れる。特に敦君の演技には拍手も起こる。セリフもないのにウエイトレスのセリフに合わせて取る仕草が一々可笑しいのでみんなの注目を浴びるのだ。いよいよ最後のドタバタ劇、怯える男二人を除いてあの昔最初の旅人と北風のシーンのように、思いっきり女4人と男が一人、正に汗だくで舞台の上で組んずほぐれつ。客席からも笑い声と拍手の嵐だった。

劇が終わった。皆に促され挨拶に立つことになった。

「皆さん、本日はわたし達の俄か台本と俄か芝居にお付き合い下さってありがとうございます。ここにいるもの、まだ駆け出しの演劇部員でございますが、お芝居にかける情熱はだれにも負けないものでございます。最後まで見てくださって感謝いたします」

頭を下げる。又拍手、とっても嬉しい、これは芝居する者にとってはありがたいご褒美みたいなものだ。

「やあ、ご苦労さん、特に最後は疲れたよねえ。お茶が入ってるよ、飲んで行ってくれたまえ」

ホーム長のお誘いでお茶を頂く。ついでに駄菓子も頂く。運動をした後だしさっき頂いた時より数倍美味しく感じられた。

「君達、芝居うまいねえ、このまま劇団作ってもやっていけるよ。所が島田さん、あんたこのクラブの中心人物だろう、そのあんたがさあ、目標は化学者目指してんだって?」

「は、はあ一応目標はそうですが、まだはっきり決めてる訳ではありません」

「そう、そうだろうな、あんなお芝居がうまい子が化学者なんて残念だよ、いや、わたしじゃなくて、君の学校の先生達がさ、そう話していらしてたよ」

「でも、学校側が夏休みに教科の補強を、面には出していませんが、彼女の為にそれなりの人数集めてこの間までやってたんですよ。学校側だって彼女に良い大学に入って貰いたいんです」

敦君が抗議し他のみんなも同調した。

「あ、そうなの、わたしの聞いた話とはちょっと違うな。うんまあ、島田さんが要するにあっちとこっちに引っ張りだことと言う訳だな」

「彼女に来てもらいたくって、その条件を持ち出したのは学校の方だし・・・そうでなければ、彼女もっといい高校に受かっていたのみ、俺たちの為にそれを捨ててさあ、あの高校に入ったんだよ」

南都君も付け足した。

話が終わった所で場所を提供して貰ったり、お茶やお菓子を食させてもらったお礼を述べてホームを後にした。

「この後すること決まってるの?」と篠原女史に尋ねてみた。

「ううん、学校の宿題はまだ全然だけど、部活の稽古、稽古と言っても見学みたいなもんだけど、それは20日過ぎから始まるから、それまで今の所なんの計画もないの。あなたは?」

「わたしも同じようなものよ。でさあ何時ものメンバーに声かけて一日ぐらい何処か遊びに行きたくないかなあと思って」

「え、本当、行く行く、沢口君も行くんでしょう?」

「まだ誰にも声かけてないから彼が来るかどうか分からないわ」

「うーん、でもわたしは行くわ、約束する。ああでも、沢口君が来て呉れたらなあ、どんなにすばらしい事か、楽しみ楽しみ」

篠原さんが大騒ぎするもので結局全員の知るところとなってしまった。仕方がないので参加したい人の決を採ると北山さんと村中さんだけが不参加と言う結果になった。もうこれだけでも十分と言う人数だ。

みんなと別れ、わが家へ戻ると昔のメンバーに電話を入れる。まずは美香へ電話。これは直ぐオーケイ。千鶴は?オリンピック疲れがあってちょっと無理みたいと言うか、あっちこっち取材があって忙しいのだ。次は睦美だ。テニスの練習でこれも無理かなと思いきや「あ、良いよ、行くよ。計画決まったたら連絡して」と言う軽い返事。健太には彼女から連絡するそうだ。さて、問題のお隣さんと沢口君だが、これは中々の難物だ。まずは沢口君に電話しよう。

「はい沢口ですが」沢口君の母上が出た。うーん、やっぱりお隣の方からすれば良かったかなあ?

「あのう、あのう、島田と申しますが」

「ああ、久しぶりね、どうしてる、元気?ハハハ、わたしなんかどうでも良いわねえ、清和だわね、丁度良かった、今練習から帰って、おやつと言うか何回目かの食事中なのよ。ちょっと待ってね」

母上の息子を呼ぶ声、「あー」と言う返事。

「え?あ、島田さん、島田さんなの?嬉しいな君から直接電話貰えるなんて」

「ごめんなさい食事中だったのね、失礼しちゃったわね」

「ハハハ、まあ食べるのもスポーツしてる者にとっては大事なルーティーンだから、気にしない気にしない。で、君からの電話、嬉しいな、デートの申し込み?それなら直ぐにでもオーケイだよ、いや本当にさ待ってましたと言いたい所」

「えっ、それは・・デートと言うには人数が多くて、むしろ団体旅行と言った方が早いかな」

「団体旅行?一体どこへ出かけるのかな」

「本当は何時ものメンバーでちょこっと出かけたいと思っていたんだけど、先日篠原さん達と合同でお芝居を老人ホームでやったの」

「へー、みんな喜んだろう?」

「まあそれは喜んでもらえたと思ってるんだけど。で、帰りがけに篠原さんにどこか行かないって声をかけたの。そしたら篠原さん喜んじゃって大騒ぎするもんだから、全員知る所になって2名を除くみんなが参加する事になったの。千鶴ちゃんはオリンピックの帰りで今取材で忙しくて来られそうもないし、武志君には連絡するの良くないかなと思って、まだ何にも連絡してないの」

「あ、藤井ね、あいつ受験受験で頭が一杯でさあ、この所凄く不機嫌なんだ。もし話をするんだったらやんわり遠回しに話した方が良いよ」

「で、あなたはバスケの練習忙しそうだけど、この団体旅行参加する?」

「あ、俺?勿論参加するよ、愛しの島田さんが企画する団体旅行、行かなくてどうするんだよ。で、何時何処へ出かけるの?」

「うーん、20日を過ぎると秋の大会に向けて演劇の稽古が始まるの、だからその前。行くのは母が良いと言ってた三波渓谷かな、それとも嵐山渓谷、このどちらかに行きたいと思ってるの」

「うん、そのどちらでも良いと思うよ、泊る所借りるんだろう、楽しみだよ。もし出来たらキャンプファイヤーやれるといいなあ、うん、それは俺たち健太も行くんだろう?俺たちが手はずを解けるよ。おおむね決まったら知らせてくれ。ハハハ、又電話君からもらえるの楽しみだよ」

沢口君との約束も取れた。あと一人残るはお隣さんだ。暫く彼とは話もしてないと言うか、顔さえ合わせていないのだ。でも一応行くことだけは知らせておかねばならないだろう。チャイムを押した。

「あら真理ちゃん、久々ねえ。猫のチャトラーちゃんの方には何時もあってるけどさ。なあにわたしに御用かな、そう言う事はまあないわねえ、武志?武志、この頃凄く機嫌悪いんだ、机に座って本を開いて、いかにも受験生ですって振りしてるけど、実際はどうなのかしら。信じてはいるけれど・・」

「何を信じているんだよ」と後ろから武志君。何かやつれた?嫌々男で夏休み中だから少し無精髭が伸びている所為かも知れない。

「ま、ここではなんだから上がって上がって」とおばさんごまかす。

武志君の後について何時もの食堂のテーブルに座る。

「猫飼い始めたんだって」

「うん、長崎に言った時にさあ、足元に来てアンマリ可愛かったもんで連れて帰ってきちゃたの。そうか、まだ武志君見てないんだ、忙しいもんね、もう高校2年生、しかも夏休み。追い上げの真っ最中だよね。だから、色々迷ったんだけど、やっぱり何も言わないで出かけちゃいけないと思ってさ、こうしてやって来たの。あ、そう、と聞き流して良いから一応聞いて」

「何を聞くんだよ、どっかに行くのか、俺を残して」

「べ、別に君チンを一人残して行きたくはないけど、君は受験勉強の真っただ中で忙しいと思うからさ、聞き流してもらって構わないと言ってるの。わたし達ね、この間までボランティアで老人ホームに篠原さん達も含めて演劇披露をやったのよ、その帰り篠原さんに何時もの仲間で何処かに行かないかと尋ねたら、あの人舞い上がちゃって大騒ぎするもんだから、みんなの知る所になって彼らも一緒に行くことになってしまったの。で、まだ行く日も場所も決まっていないけど、わたし達のメンバーから千鶴ちゃんはオリンピック帰りで、あちこち取材を受けて忙しくて行けはいけどその他は大丈夫なの」

「沢口もオーケイなのかい?」

「ええ、キャンプハイヤーやりたいから計画まとまったら連絡して欲しいって」

「うん、面白そうだな・・俺も行くよ」

「えっ?あなたもいくの、本当に?」

「うん、行くよ。俺さあここの所少々腐りかけていたんだ。だからさこれは腐りかけた脳みそをリフレッシュするのに丁度良い機会だよ」

「本とに本とに大丈夫なの、わたしの同士さん」

「10日も出かける訳じゃないんだから2,3日位は平気さあ。この所受験の要領も分かって来たし、そうだな、俺の同士の足元ぐらいには追いついて来たんだよハハハ」

「うわ、自身がついて来たんだも、おばさんもこれで一安心だねえ」

「まだ足元だよ、しかもまだ受験の準備すらしてない同士のだよ」

「あ、わたしねえ、学校でね、英語と数学、古文の強化塾と言うのを10日間やってもらったんだ。一年だけの特別の人だけ。敦君も受けたよ。うん、中々有意義だったし2学期からは放課後にもやるんだって

先生が言ってたよ」

「ええっ、そこが柔軟性に富む私立の好いとこだよなあ、俺の所はそれは塾の仕事と割り切ってるからなあ、そんなことは夢の又夢さ。ま、あんたんとこだって島田真理みたいなものが転がり込んだから、その気になって必死に成ってるんだろうけどさ」

「わたし、それを感じてありがたくも思う一方で重圧も感じちゃうんだ。本当よ、わたしの親はどう思っているんだろう、彼らは他人事みたいに考えているからね」

「いや、真理ちゃんの親だって本当は考えていると思うよ。それを口に出したら真理ちゃんが益々重圧感じてさ潰れちゃいkrないと思ってさ、言わないだけだよ」

「そうかな、そうあって欲しいけどどうだろう。でさ、あなたも結局行くのね。みんな驚くだろうな、人によってはわたしが無理やり連れだしたと思うだろうな。うん、それは仕方のない事だ、甘んじて受けよう、仕方がない」

兎も角武志君もこの旅行に参加すると言う事、おばさんも快く承知した。それよりもこれ以上机にしがみつくのは決して武志君にとって良くないことだと思っていたので心から喜んで賛成してくれた。

ではどこに行く?三波渓谷はとても良い所だと母は教えてくれたけど、一体そこがどこにあるか私には分からない。パソコンで検索してみた。分かったことはこの三波渓谷のあるときかわ町が嵐山町の目と鼻の先にあると言う事、地図の上では非常に近い、すぐにも行けそうだが実際に歩くとなると飛んでもなく離れているに違いない。しかも車を持たないわたし達にはハイハイでは直ぐに参りますと二つ返事で行けない所なのだ。すったもんだ苦しんだ。母から聞いたときかわ町の木の村キャンプ場も、昔国の天文台だった堂平観測所ドームも若い心を引っ張るじゃないか。でもアクセスが悪いのだ。嵐山駅から出ているときかわ町行きは途中のせせらぎバス停までしか行かないらしい。その後は何とかタクシーで行くしかないみたい、タクシー?それは高校生には贅沢と言うものだ、ああ、でも何とかして行きたいものよ。

「少々の距離だったら歩けば。結構スポーツマン多いんでしょう、一時間位平気よ若くもあるしバス停からてくてく、テクシーが一番。わたし達絵描きだって重い荷物背負って一時間所かもっと歩いているわ」

これはこれは母上様のおっしゃる通りです。決めた決めた、ときかわ町に行くんだ、清らかなせせらぎの音が聞こえるじゃないか。満天の星が輝く夜空だって足があれば大丈夫。

兎も角宿だ、バンガローを借りなくちゃ。男6名女5名、17,18日くらいならもうピークは過ぎている、きっと大丈夫。大丈夫だった。丁度隣り合わせに手頃の大きさのバンガローが開いていたのだ。だがキャンプファイヤーは禁止だとか。

次はご飯だ。ここはみんなと打ち合わせしよう。夜はバーベキューに決まっているが、あの大食いの沢口君の分は如何すべしや?

「俺の食い分、悪いから倍出すよ」沢口君の申し出。

「まあ男はさ女の3割増しは出さなきゃいけないだろうね」と言う健太や武志君の言葉に敦君以下も喜んで賛成した。

「買い出しは健太先輩とわたし、美香で行くよ。その前にお金を先ず集めるかな」さすが睦美はこう言った事には気が利いている。

そんなある日千鶴ちゃんから電話が入った。偶々取材も終わって行けるので是非参加したいと言う電話だった。大歓迎とみんなに知らせる。

これで男女仲良く6人ずつになった。

わたしの周りでチャトラーも嬉し気に騒ぐ。

「あーチャトラー、ごめんなさい、この旅行にあなたは連れていけないの。連れていける旅行だったら良かったのにねえ」でもチャトラーにはわたしの言葉が通じていないのか、用意したもの中にもぐったりはいったり忙しい。仕方がないので暫しチャトラーと遊んでやることにする。

「ああ、チャトラーと遊ぶことがこんなに楽しい事だなんてどうして今まで気づかなかたんだろう、早く気づけば、猫と一日遊ぶ会なんて催して、それでお茶を濁すことも出来たのに」なんて言いながら支度を進めるしかない。

お盆が終わりいよいよ出発の日が来た。足は池袋の方が便利なようなので早朝、池袋から東部電車に乗り込んだ。朝は通勤とは反対の方向なのでゆっくり座られてほっとする。

男は男同士、女は女同士1列を占領する。

「ねえ、千鶴ちゃん、オリンピックはどうだったの?」ここで一応落ち着いたので睦美ちゃんが千鶴ちゃんに尋ねた。

「ええ、色々勉強させてもらったわ。それに半分手伝いみたいなもんだから、細々とした事に気を使ってすっかり疲れちゃったわ」

「あ、そうね、千鶴ちゃんてさあ本当に気づかいの人だから、使わなくても良い所まで気を使って、ばてちゃうんだよね」美香ちゃんが一言。

「ばてるとこまでは行かなかったけど、でも凄ーく疲れたわ」

「でも勉強にはなったんでしょう?」と、わたしが助け舟。

「ええ、そりゃ口には出さないけど感謝感謝よ。今度はわたし達が頑張らなきゃって思ったもの」

「でさ、フランスはどうだったの、フランスのパリはどうだったの?」と又睦美ちゃんが利く。

「ええ、見物出来るのは本の少しの時間だけだったの、お土産はちゃんと買ったわよ。帰ったら渡すわねえ」と千鶴はフランスにもパリにも浮足立った様子は全然見せなかった。

「わたしにもお土産あるの、嬉しいわ」

「モチよ、お餞別貰ったんだし、ちゃんと買って来たわよ」

「帰りの荷物大変だったんじゃない?無理しなくて良かったのに」わたしが又助け船。

「だから全部小さいものばかりよ、安心して」千鶴ちゃんの晴れやかな顔を始めてみた気がした。

「所でさ、島田さん、あなた秋の高校演劇大会出るんでしょう?」と篠原女史が切り出した。

「ええ、本のチョイ役よ」

「どんな役なのよ」と篠原女史が突っ込んでくる。

「うーん、そうねえ、話してはいけないんじゃないかなあ・・でも特別サービスで親を亡くした子供の役よ。相変わらずの汚い格好した」

「ふうん、良いなあ、汚れ役で親を亡くした子供の役って遣り甲斐があるわよねえ」と隣に座る林さんに話しかける。林さんんも大きく肯く。

「でも島田さんならどんなチョイ役だって立派にやり遂げるわね」

「わたし、見に行くわ。関東大会で好い成績だったら全国大会に出れるんでしょう、楽しみよねえ」と美香ちゃんが笑顔で応援の声。

「で美香ちゃんは一体何の部活やってんの、あれ以来全然聞いていないけど」

「そうそう、あなたバレーの部活やめたんでしょう?私も気になるわ」

睦美も気になっているようだ。

「わたし?わたしは家族の勧めもあって料理クラブに入ったの。大学も短大で食物科を取ることに決めているのよ」

美香の突然の発表に持ってきたお菓子をぱくついてた睦美ちゃんも驚いた。

「ええっ、何時そう言った話きめたの?食物科に行くなんて今までとは方向が全く違うじゃないの」

「まあ、わたしにはぴったりの学問だと思うけど」

「わたしは賛成だわ、栄養士に成るんでしょう。美香の性格からいって栄養士はずばりあってるわ」

わたしの意見に千鶴も頷く。

「本当に美香ちゃんにはぴったりよ。良い栄養士に成ってどんなものがスポーツには良いのかアドバイスして欲しいわ」

「そうね、栄養士って実生活に役に立つわ、栄養士に成ったらそのノウハウを是非教えて欲しいわ」

篠原女史も大いに賛成の意を表した。

「ついでに言わせてもらえれば、化学者になるって言うより、ずっと可能性が高いし想像しやすいわ。大いに応援させてもらいたいわ」

「うーん、それはそれで立派だと思うわ、特に真理ちゃんは治らない病気の為に頑張るんだから、凄い努力と勉強、それに運も必要よ神に祈る気持ちだわよ」

流石美香ちゃん、分かってるー。

「それは分かっているのよ。でもさみんなに演劇の能力を認められながら、それをほいと捨ててよ、大成するかどうかも分からない化学者に人生を賭けるなんて馬鹿みたい、もったいないと言ってるの」

篠原女史食い下がる。

「ありがとう、篠原さん。その言葉肝に銘じるわ。もし化学者になって、行き詰った時は篠原さんのその言葉、良く噛み締めてみるわ」

「ねえチャトラー、元気にしてる?」

美香ちゃんが気を利かせtて明るい話題に切り変える。

「なあに、そのチャトラーって?」みんな一斉に声をあげる。

「猫よ、猫。この春に長崎で巡り合った猫で茶色のとても利口な雄猫なの。うんとても元気よ、今日の別れが寂しくって辛かったわ。この旅行を取りやめてチャトラーと戯れる会にしたかったくらいだったわ、ハハハ」

わたしの高笑いに比して殆ど皆の冷たい目線。ま、そういうことよねえ。

間もなく嵐山駅に着く.。全員一斉にがやがやと降りる。

目指すは先ずときがわ町を目指す為バスに乗り込む。

「随分女子会、賑やかだったねえ」と沢口君が切り出した。

「色々聞いて置きたいことや、言っておかなきゃならない事があるものでね」篠原女史が答える。

「何しろオリンピックから猫の事まで話題が尽きないから」美香ちゃんが引き継ぐ。

「猫?猫がどうしたんだ?」猫の事を知らない沢口君が続ける。

「猫?俺知ってるよ。真理が飼い出した猫の事だよ」

「え、島田さん猫を飼い出したの」

「うん、4月に長崎に行って茶色の猫にあって一目惚れしちゃったの。だから、飛行機やめて列車に代えて一緒に帰って来たんだ」

「そう、全然知らなかったよ。可愛いだろうねえ、今は暑いから離れて寝てるんだろうけど、気温が下がってくると一緒に寝るんだろうね」

「何々真理が猫を飼い出したんだって」

大きな声で健太が騒ぐ。

「あ、バスが来た」タイミング良くバスの到着。みんな元気良く乗り込んだ。

「運転手さんに聞いたんだけど、ここの終点からバスもあるんだって。でもその気になって歩けば大した距離ではないと教えてくれたわ」千鶴ちゃんの情報だ。みんながやがや言い合っていたが、まだ全然疲れていないと言う事で、一応行きは予定道理歩く事に決定したのだが。

バスが動き出した。知らない街を走って行くのは何故か心弾み期待に胸膨らむ思いだ。これから起こることを想像してみたがそれは神のみぞ知る事で我々はそれに応じて楽しく過ごすだけだ。

バスの終点せせらぎバスセンターへ着く。

「ちょっと待って、うーん12名かあ、少し多いけど連絡してあげるよ」

運転手さん、電話をしてる。

「あのさ君達、木の村キャンプ場に置くんだろう?普通予約をしないといけないんだけど、来てくれるってさ。どうする乗っていく?」

「えっ、本当ですか、嬉しいな。乗っていきます、ぜひお願いします」

運転手さんが指示した場所で待つこと暫し。来た来た乗り合いタクシー、小型のも少し小さめのバスがやって来た。

「すみません、予約なしで乗り込んで」

目的地についた。

「あーあ、腹減った」

「俺も腹減った、何か作るか?」男の子達が騒ぐ。

「待ちなさい、手続きを済ませないといけないのよ」睦美ちゃんが厳しい声でたしなめる。手続きが終わって指示されたバンガローに向かう。あちこちで美味しそうな匂いがしている所がある。清流を見下ろす所に借りたバンガローが並んで建っている。

「はいはい、着きましたよ、さてどうしますか」

「あ、どっちにするか決めるのよねえ。じゃんけんにしましょう、わたし達の代表は篠原さんにお願いするわ」

「じゃあ男の代表は武志にしよう」

直ぐに建物は決まり皆それぞれ荷物を置きに入る。何しろ寝袋がかさ張って邪魔な上に暑苦しい。

「さあ、お昼ご飯を作るわよ。始めはラーメン、誰でも作れるし簡単。お鍋は3つ用意してもらったから

各お鍋に免個ずつね、お肉と野菜はそれぞれ分けて持って来たわ」荷物係1の健太のクーラーバックより取り出したものを手際よくさばいて行く。

みんな適当にお肉を入れ麺を入れ野菜をぶち込む。スープの素は睦美の号令の下入れて出来上がり。

「あ、あんなに適当に作ったのにこれ美味しく出来てるわ」

「うん、うまい。俺たち料理の天才だ」

「うまいうまい、幾らでも行けるね」

「はいちゃんとパンも買ってありますよ、ほれこの通り」今度は敦君の持ってきた、いや持たされた袋からパンが出て来る。

「後からおやつ用にパンケーキを焼くわ。フライパンも借りたから」

睦美益々胸を張る。

「うん、その前に一泳ぎしようか、藤井」

「そうね、その前にここを片付けてね」美香ちゃんの声あり。

「あ。ごめん、それを忘れてた」みんな笑う。

洗い物が済むとみんなで水遊びだ。

「もっと奥の方に行くと飛び込める深さの所があるらしいよ」

「そこ面白そうだな、行ってみるか?」

沢口君の言葉に男は目を輝かせて同調する。

女たちはそれを冷ややかに横目で眺めていたが。少々心配になった。

「うーん少し心配よね、まあ女子組はそこの近くで水遊びするか?」

「賛成、男の子って何をやらかすか分からないから、ちゃんと見張っていないとね」と言う訳で女子組も上流へと向かう事にした。

「貴重品はきちんと袋に入れて女子組に渡すのよ。分かった」道筋でやはりしっかり者の睦美が男達に命令する。

「うん、中々高橋さんは気が利くねえ」沢口君が睦美を褒める。

「へへ、何しろ相棒がそう言った事に疎いからさあ。沢口君、どう真理ちゃんやめてわたしに乗り換えない、色々便利よ」

「うん、でもさ、山下が哀れじゃん、路頭に迷うよ、君がいなくなちゃったら」

健太、あらぬ方向を見て目を白黒。周りはどっと笑う。

「ほらここ、良いだろう、下はいい加減に深くなってるし、周りは草木が生えてて登り易い」

「うん、そんなに高くもないから危険な所はないようだ」

「もっと高さがあっても良いくらいだ」

「それがさ、下から見るのと上から見るのでは大違いでこれくらいが丁度良いと思うよ」

男組は喧々囂々言い合っていたが、話し合いはついたらしく荷物を女子組に預けて岩を登り始めた。

先ず飛び込んだのじゃ沢口君だ。次に健太。それから武志君、敦君、南都君、岸部君も負けずに飛び込んだ。女子組から拍手が起こる。

「あっ、小さい魚が一杯いるわ」

「本当、小さくて可愛いわねえ」

「こっちにはアメンボウもいるわ、名前を知らない魚と昆虫、もっと良く調べて来ればよかったわねえ」

「本と本と、それは真理ちゃんの領域だからしっかり頼みましたよ」

女子組も男組に負けてはいないで、川辺の魚や虫,植物にも眼を光らせ観察中だ。時にはスマホも引っ張り出されて皆さまのお勉強のお手伝い。

睦美ちゃんが時計を見る。

「ねえ、あんた達、そろそろ引き上げる時間よ。早くしないとホットケーキを焼く時間が無くなるわ」

又来た川の道を引き返す。

「これから特大のパンケーキを焼くのよ」

「うーん、特大のパンケーキ、上手く焼けるかしら?小さいのを幾つも焼いた方が確実よ」

「そうそうyその方が焦げなくて良いんじゃないの?」

「そうかな?どう思う美香ちゃん」

「え、わたしに聞くの?わたし、パンケーキは食べるけども焼いたことないもん、分かんない」

「情けない将来の栄養士さん。うんそりゃあ小さい方が失敗はしないだろけど、わたしは失敗しても良いから、一度大きいパンケーキ焼いてみたかったのよ」

睦美ちゃんの言葉に今まで煩かった女子組も頷いた。

「そうよねえ、誰だって小さな夢を持ってるのよねえ。良いじゃないの半分は思い切り大きいの作ってさあ、それが焼き過ぎて真っ黒けでなければ食べてみる。でも生焼けだったら・・そしたらもう一度やく?

そこが難しいのよね、どうする真理ちゃん」

「え、わたし?そうねえ、先ず半分に切るのよ、まだ焼けてないようだったら、そのまままた焼くのよ」

「うんうん、それが良いわ、そう言う事ね。そうしましょう」

睦美ちゃんの顔がぱっと輝く。

早速定位置に戻って来た面々、先ずは男組普通の遊び着に着替えてもらう。それから南都君が運ばされた荷物からホットケーキの素を取り出し砂糖を少々塩本のちょぴり良く混ぜながら水を加える。ボールは3個。バス停で持ってた時に買った牛乳も入れる。準備完了だ。

「先ずは睦美ちゃんの夢である大きいパンケーキに挑戦」わたしがさけぶ。拍手が鳴り響く。フライパンに油が引かれ睦美ちゃんがごくりと唾を飲み込んでパンケーキの素を流し込む。じゅじゅーと言う音。

「さあ行くわよ」彼女の興奮した声。

「落ち着いて、大丈夫よ。慌てない慌てない」

「火はも少し小さい方が良いんじゃない、焦げると食べれなくなるけど、生焼けだったらも少し焼けば良いんだから」

「わたしもそれに賛成。弱火でじっくり焼いた方が絶対良いと思うわ」

「でも大きいから少しは火力が欲しいわよねえ」

「時計係は誰なの、えっ、決めてないの?敦君お願い、今から3分?いや5分は必要かな?」

「5分なの、それとも3分かな?」突如時計係を命じられた敦君目を白黒。

「先ずは3分でお願い。それで駄目な様だったら5分経過を教えて頂だい」

3分経過。まだまだ焼けていないようだ。次に5分経過。

「うーんまだ焼けていないようよ?」

「蓋してないからかな?」

「それは言えるわ、ふたがあるとないとでは全然違うもの」

「でもそろそろ裏返した方が好いんじゃない?匂いもしてきたし」

「あ、本当、美味しそうな匂い」

「じゃあひっくり返そうか?ええっとこのフライ返しで返すのよね」

「そうそう、ここは大事なとこよ、上手に引っ繰り返してね」

引っ繰り返すのは睦美ちゃん。フライパンの中のパンケーキの上部は未だ半煮え状態だ。でも睦美ちゃんは覚悟を決める。

「えいやあ!」大きな掛け声とともにパンケーキを普通のフライパン返しでひっくり返す。

「ありゃ、全部裏返っていない」

「大丈夫よ、他の所も裏返せば好いんだから」「そうよ、気にしない気にしない、まだ殆どは生焼けなんだから、ひっくり返して修正すればいいのよ」『頑張れー睦美、栄光は君に輝く」

みんな睦美ちゃんにエールを送る。睦美ちゃんはぐしゃぐしゃの残った部分を兎も角裏返そうと必死だ。

「何とか全部裏返せたけど」

「うん,大丈夫だよ、これで裏がきれいに焼ければ分かんないわ」

「そうそう、裏が問題よ、真っ黒けにならない限り大丈夫よ」

「それにはも少し火を弱めた方が好いわよ。じっくり焼いて中まで火を通すのよ」

「分かった。でも時間はどの位?」

「時間?時間は分からないな、誰か知ってる?」

「さっきは7,8分で返したから、今度は10分くらいよね」

「まあその位よ、谷口君お願いします」

10分立った。

「じゃあもう一度ひっくり返してみましょうか」

「あ、きれいに焼けてる」「ほんとだ綺麗に焼けてる」「中まで焼けてると良いね」

無事一枚目のパンケーキが焼きあがった。最初が少し焼き過ぎだったが,全体的に見て食べるのには十分だった。他のパンケーキは一度の経験によって得た知識のお陰で失敗なくスムーズに焼くことが出来たのだ。ふっくら焼けたパンケーキは水遊びで少し疲れたみんなの胃袋を美味しく満たしてくれた。

そしていよいよ夕焼けの時間が迫るころ、みんなが待ちに待ったるバーベキューの時間がやって来た。

「はーい、ご苦労さん、お肉係や野菜係の男性諸君。出して出して、健太先輩、沢口君。ほうれこれを食べるんだぞう」

睦美嬢、今日は、いや何時もかも知れないが、兎も角大活躍。男性諸君も嬉しそうにその声に従っているように見える。

「良くそんなにクーラーバックあったわねえ」

「みんな各自持ってこさせたのよ、内一軒にこんなにクーラーバックあるわけないわよ。野菜は美香と二人で洗って切っておいたわ。これで手間が大分省けたし、時間も節約出来たわね」

バーべキューの網にくっつかないように少し油を塗ってカボチャやピーマン、玉葱を並べシイタケやシメジ、ヒラタケなどのキノコ類も並べる。

「お肉は真ん中ね.それにソーセージはやや中央から話してね」

ソーセージの焼ける好い匂いがして来た。

「さあ、もう食べ始めて良いわよ、ソーセージは。お肉もそろそろだわね」

「お皿にバーベキューソースは入れたわよね」

「そうね、これからは各自自分でやる事ね、睦美ちゃんの食べる時間がなくなちゃうわ」

「あ、お野菜はキノコやピーマンは火が通るのが早いけど、カボチャやイモ類は時間かかるわよ」

「玉葱も時間かかるわ、ニンジンもこの厚さだと時間かかるわ」

「肉食べても良いかな?この肉上手いよ」沢口君の声。

「良いわよ料金倍貰ってるんだから。でも次のお肉はちゃんと乗っけてて頂だい」

「うん、肉もうまいけどこのソーセージもうまいぜ。うん、ちゃんと次のソーセージ乗っけるよ」

健太の声にみんなの笑い声。

「でもさ、お肉だ、ソーセージだとそれだけ食べるよりピーマンやキノコ類等と一緒に食べる方が体の為には好いわよ」

「それに一緒に食べたほうが断然美味しいわよ」

「もう直ぐカボチャやおナス、玉葱も良いかもよ」

「うんこのお箸で刺してみたら分かるわ」

「あ、好いみたいね、わたしがまず頂くわ」

睦美ちゃんが玉葱を食べてみる。

「わあ甘くて美味しいわ」

「どれどれわたしも。カボチャにしようかな」

「わたしはナス、ナス大好きなんだもん」

「わたしはサツマイモ。焼けてるかな?」

篠原女史がサツマイモに挑戦。

「どう、焼けてる?」

「大丈夫、大丈夫よ。甘くて美味しいわ」

その声に女子軍わーとサツマイモに群がった。

みんな幸せな顔をしてこのバーベキューの一時を過ごした。肉類も野菜類、イモ類キノコ類も綺麗に無くなり後は片付けだけだ。

「さあさ後は片付けが綺麗に出来たらがこの宴が大成功と言えるわ」と睦美ちゃんの言葉。 

ここも睦美嬢のてきぱきとした役割分担と掛け声に洗い物も綺麗に早く片付いた。

「さて次はキャンプファイヤーを皆さん楽しみにしている事と思いますが、残念ながら事務所の方からオーケイが出ませんでしたので、仕方なくここは丸くなって星空を眺めようではありませんか?惜しむらくはこの昔、国の天文観測所があったことで知られるこの地に来たのに、夏の星座の事も一切知りませんし調べても来なかった事です。もし何方か星座に詳しい人がいらしたら、是非話をして下さるようにお願いします」とここは言い出しっぺの責任を取ってわたしが重々しく言うしかなかった。

「うん、キャンプファイヤーはとても残念だったよ、するき満々だったのになあ」沢口君の残念そうな言葉に「俺も真っ先にそれを考えていたんだ、それを聞いた時、何かそれに代わるもんはないのかと文句言いたかったよ」と健太が続ける。

「仕方ないわよ、山火事も怖いし、きちんと後片づけしない人が多いのよ」

篠原女史の言う事もしかりである。

「でもこの中に星に詳しい人いる?」

美香ちゃんの言葉に誰も返事する人がいない。

「まあ、星空眺めるだけでも良いじゃないかな?知りたかったらスマホがあるからさ、スマホで調べれば良いんだもん。俺さ、この所全然星をじっくり見てないんだ、先ず星をじっくり眺める事から始めようかな?」

武志君がしみじみとした声で呟く。

「あ、それ僕も言えます。この所かずうっとずうっと星を星として認識していなかった様な・・・」

敦君の言葉に皆頷く。

日は落ちてどんどん暗くなって行く。

「少し寒くなってくるわ、何か羽織るものを持って来た方が好いかもね」

千鶴ちゃんの言葉にそれもそうだと頷いて一旦バンガローに戻って羽織るものを持ってくる。

「本当に昼間は向うとあまり変わらないのに夜はがたんと気温下がるわねえ」

「ここいらあたりに光がないから足元危ないわ、気を付けて」

「うん、でも月の明かりがあって良かった」

「そうね、満月だったらもっと良く見えたでしょう」

みんなで助け合いながらバンガローを降りて元の所に戻る。

「少しぐらい星の名前を憶えて置くんだったなあ」

「そうだなあせめて夏ぐらいはは知っていたいよねえ」と皆ブツブツ言ってるが、知ってる者は皆無のようで、スマホでやっと3,4個の星の名を認識したくらいだった。

「ギリシャ神話は知っていてもそれを実際の星に当てはめるのはねえ」

「ああ、ギリシャ神話ねえ、詳しくは知らないし、それがどう言う風に実際に関係があるのやら、さっぱり分からないわ」

「でも、とても良く見えるわ。堂平天文台の所まで登ったらもっと良く見えるかしら?」

「うん見えるかも知れないけど、それで星の名前が分かるはずがない」

キラキラ輝く星空を唯々見つめるしかないわたし達であった。

「お月さんも綺麗だし星も最高。でもそろそろログハウスに戻ろうか?」

「そうね、話はログハウスの中でしよう。女子のログハウスを使った方が気持ち的に好いと思う、少なくとも男子の方より片付いているわ。でも明日は早起きして朝ご飯に挑戦するから、何時までも話してはいられないわね」

「今まだ8時半だから10時前・・40分までと言う事にしようか?」

話はまとまって又ぞろぞろと女子のログハウスに向かう。

「わたしは個人的に凄く島田さんの今度やる劇に興味あるんだ」篠原女史が真っ先に話の口火をきった。

「ええ、そそれは・・それはライバルの高校の演劇部院には教えられないのよ。どうしようもなく汚れた役で、もう一つ教えられるとするなら敦君はわたしの兄の役をやるの」

「まあ僕は島田さんが出るんでその付け足しで出るんだと思う。でもさ、理由がどうであれ、役がもらえてセリフがあるなんてありがたいし最高だよ」敦君が付け足した、

「二人ともガードが堅いのねえ」篠原女史のがっかりした様子。

「さあさ、学校の部活の話はここまでにして他の話しようよ。武志君は医学系を受けるんでしょう。勉強進んでいる?」美香が切り出す。

「彼はね、おばさんが心配するくらいやってるの、今日も来るか来ないのか分からなかったけど、彼が自分から行くと言い出した時は吃驚しちゃったわ」わたしが答える。

「まあ息抜きも必要だよな、藤井」

沢口君が出されたコーラの缶を飲み干しながら喋る。

「沢口さんは今もスカウトが煩いの?」睦美ちゃんが気になっていた事を話題にする。

「ああスカウトね。うーん大体決まっているんだ。だから今は殆どいないけど、進学も少し心の片隅に残っているから、複雑なんだ」

「進学?そりゃ複雑だな、一体進学だったら何処へいくんだい?」

「ハハハ、バスケと体の関係とか精神とスポーツの関係とかさ、そんな方面だよ」

「健太は如何するんだヨ」武志君が聞く。

「お、俺、俺はよう、どこからのプロからも声かけられていないから、ま何処かの大学行って、出来たら留学してさ、テニスの腕を上げてさオリンピック何かに出れたら好いなあと考えているんだ」

「留学かあ、テニスはアメリカ留学が一つのポイントだよねえ」

「千鶴ちゃんはこれからどうするの?まさか中国へ行くなんて事ないよね」

「わたしが中国へ行くの?そんな話もちらほら合ったけど、丁寧に断って来たわ。わたしの家庭的事情を知ってる人には分かると思うわ」

「でもわたしはあなたの家族はあなたがもっと強くなるためなら喜んで中国に行かせてくれると思うわ」

「わたしもそう思うわよ、絶対」

美香とわたしは千鶴ちゃんの人の好さそうな両親の顔を思い浮かべながら千鶴の案を否定した。

「留学かあ・・」睦美ちゃんが大きなため息をつく。きっと健太の事を思っているのだろう。

予定の9時40分を少し過ぎる頃会は終了した。

夕べ11時前後に皆(女子だけだが)根袋に収まったので6時半の起床は容易いものだ。

「おはよう、寝れた?」

「まあ寝れたわよ、気温は丁度良かったし何の音もしなかったから。ただ、お姫様育ちのこの身にはこのベッドの堅さが、少し気になったわねえ」

「あ、それそれ。私も気になったわよ。何度か目が覚めたわ

「わたしも気になったわよ、3回は目が覚めたわね」

「ふん、何言ってるのよ、そんなんじゃこれから先生きて行く事なんて出来ないわよ。スポーツウーマンとしても失格だわ。私は朝までぐっすりよ」

睦美ちゃんが皆の木のベッドの堅さに否定的意見をうち砕く。

「さあさあ、それより早くここを片付けて朝ご飯の支度に取り掛かりましょう」

それもそうと寝袋を袋に詰め、顔を洗ったら朝ご飯の支度だ。男軍団も外に出て来る。

「ええっと、最後のお米は・・武志君かな、朝の荷物の係は?」

「うんどうやら俺の係らしい。ほらここに持って来たヨ」

「へへ、気が利くねえ、流石武志君だ。これは必要な分だけ計って来たから後は水を入れるだけなの。無洗米だからね」

幾つかの容器にお米は分けられ分量の水が入れられて火にかけられた。

「沸騰したら火を弱めなくちゃならないから時々監視してなくちゃいけないわ」

「わたし達鮭を焼くわ」

「じゃあわたし達味噌汁作る」

「うーん俺たち焼き海苔配って置くかな」

「だれか漬物切ってよ、おナスと胡瓜の漬物」

「あそれわたしが切るわ。敦君それを小皿に並べて頂だい」千鶴ちゃんの声。

ご飯も中には少し焦げたのもあったけど何とか炊き上がりテーブルの上に並べられ、楽しい朝食の時間となりました。

「これに卵料理があったら完璧なんだけど」睦美ちゃんの残念そうな声。

「いやあこれだけで十分だよ」敦君が真っ先に声をかける。

「うんどれも美味しそうだよ、食べてみよう。頂きます」次に沢口君が声を上げ食べ始める。

「うまいよ、朝の空気の爽やかさに負けないくらいに美味しいな」

その声にみんなも一斉に食べ始める。

「わあ、本当に美味しいわ、我が家の朝食に負けないくらい」

「本と本と、美味しいわ」

「鮭ならもう少し焼いたのが残っているし、漬物はほらまだ沢山あるわ。お代わりしてね」

「あ、鳥があの枝に富んで来たわ、可愛い!」

やがて炊いたご飯も鮭も漬物も綺麗になくなり朝の宴も終わりを告げた。

「ここを早く片づけたら少し水遊びしてから出発しましょう」

「帰りは徒歩でせせらぎセンターまで戻りましょう」

「途中にラーメン屋があったらお昼を兼ねて食べようよ」

「うんそれ良いね、川遊びの後のラーメンは格別にうまいと俺は思う」

朝の水遊びは少し水が冷たくて早めに切り上げた。

「さあ忘れ物ないかな。もう一度バンガローといたところを点検して大丈夫だったら出発するわよー」

みんなで点検し終わると鍵を返しに事務所に行って名残惜しいが木の村キャンプ場とはお別れだ。

事務所の人に帰りの地図と美味しいラーメン屋の情報を仕入れて出発した。

帰りの道も快適で順調に進む。

「あ、あそこが美味しいと聞いてきたお店よ」美香が指さす。

「十二人座れるかなあ」武志君が心配そうに皆を見回す。

「まだお昼前だから、何とか座れるかなあ」健太も心配そう。

「兎も角お店に入って聞いてみましょう。ここで議論しても始まらないわ」

「そりゃそうだ、先ずはお店を拝見だなあ」

わたしの意見に沢田君が応じた。

「お、思ってたより広そうだ、12人賭けられそうだ」

お店の人もさっさと12人分の席を確保してくれ皆ほっとして腰掛ける。

わたし達女性軍はわかめラーメンや山菜ラーメンが人気だったが、男性諸君はダブルのチャーシューや卵も2つ入れた方が好まれるようだった。

「あー、楽しい日々ももう終わりだ。明日から又練習の繰り返しだなあ」健太の呟き。

「それはこっちも同じさあ。でも昨日今日と素晴らしい夏の思い出を貰ったよ、みんな、本当にありがとう、心から感謝するよ」

「ぼ、僕もとても楽しかった、これからの演劇の練習の励みになるよ」

敦君の言葉に南都君も岸部君も大きく肯いた。

「お、俺も思い切って来て良かったよ。勉強の事すっかり忘れて、童心に帰ってさあリフレッシュ出来たよ。俺もみんなに負けないように帰ったら頑張る、ありがとうみんな。そして誘ってくれた真理ありがとうな」

「あ、狡いどさくさに紛れて真理ちゃんの名前、入れてさあ」

「そうよ、真理ちゃんだけ狡いわ」女子軍団が騒ぐ。

「そうじゃないのよ、彼はノイローゼ一歩手前だったの。そこへわたしが来てこの話をしたのよ。彼はきっと一度荷物を自分の肩から降ろしたくなった、それとわたしの話とがピッタリタイミング良くあったと言う訳よ。だからこに話を持って来たのが誰であっても感謝したのよ」

「でもこの話は元々真理ちゃんから出たものだわ、わたし達真理ちゃんに感謝すべきだわ」

「そうね、ここはみんなで真理ちゃんに感謝しよう」

みんなわたしにありがとうを言った。ラーメンも来た。ラーメンもとても美味しかった。

 二十日から早速演劇部の稽古が始まった。わたしの役は前も述べたように爆撃で両親が守る様にして亡くなってその残された幼い子供と言う設定だ。うーん幼い子供ねえ?少し無理があるかもねえと思いつつ只管幼い子供を演じた。特に今は未だ台本の読みの段階だ。これが実際の舞台で演じる時どうなるか不安は募るばかりだ。

しかしこれは外国の話、と割り切って考えれば気が楽になる。それに爆撃で真っ黒けになってる。じゃあ真っ黒けになってみればいい、顔も体も真っ黒け、そうそれならばお客にはこの美しい容貌も全く分からないだから。大体その子が幾つなのか判断着かないではないか。

うん、これで半分以上楽になったので思いっきりやるぞ。まあ一応先生には言っておこう。

「わたし、顔も服も真っ黒けにするから、探し出してる時直ぐ探し出しちゃだめよ。良ーく顔を見てそれから妹の名前を呼んでちょうだい。行き過ぎても良いのよ、そしてもう一度戻ってから何回もわたしの顔を見て、いぶかし気に尋ねて頂だい。ここはわたし達二人の舞台なんだから、じっくりやりましょうね」

昨日まではどう、さっぱりと髪を短くしたらもっと幼く見えるかしらとか、行きも帰りもその事しか言わなかった島田真理がそれを忘れたか捨て去ったかの様に、今日は舞台の上の二人の話だ、敦君は相槌をつきながらわたしの顔を見る。

「わたしね、幾ら努力してもこの人相も姿形もこれ以上変えることが出来ないし、又お客さんも期待していないと思ったの。それなら爆撃でやられているんだから、いっその事顔も体も真っ黒けになろうと決心したの。それには直ぐに兄であるあなたに見つけられたら困る訳なの、それにこの場面でわたし達の出番は終わるわけだから、ね、少しでもお客さんの気持ちを引っ張って記憶に留めて置いて欲しいの」

「うん、分かったよ真理ちゃん。僕も少しでも長く舞台に立っていたいしね、了承したよ」

「敦君が了承してくれたら鬼に金棒よ、もう誰もかないっこないわ」

気の所為か年齢を気にしなくなって芸にゆとりが生まれ厚みも増したと自分ながら感じられる。それは見ている先生方にも伝わったようだ。

「うん大分良くなったよ、本来の君の味が出て来たみたいだ」

「昨日までは何かこう、変な感じのイリーナだったけど今日は伸び伸びしてて本来のイリーナに戻ってほっとしたわ」と評判は上々だ。

そんな中2学期も始まった。どうも学校内塾も週4時間ほど行われるらしい。勿論わたしの為に開かれるのだからわたしの参加は勿論決まっているが、表向きには勉学を愛し学力を伸ばして、いい大学を目指そうと言う事だから、他の子の参加も大いに推奨される。

この1時間の後、1年生は演劇部の練習に参加する。勿論塾に参加しない者は即演劇部に直行だが、殆どが勉強の指導を受けている。ま、真面目と言うべきで喜ばしい、この学校に入って実に良かったと親御さんには実に評判が宜しい。それにしてもこれは演劇部の為だけでは表向きには決してないから他の子達にも開かれているので、この高校は2学期で名を挙げて受験生が増えると評判だ。これは思わぬ高評価でこれには先生達もにんまりだ。

「これは何としても島田さんに頑張ってもらって良い大学の医系に入って貰わなくちゃいけないなあ」

「彼女を見てると少しもがり勉には見えないけど、でもちゃんと教科書にも目を通しているし、大切なとこは調べているみたいでこっちが脱帽してしまうよ」

「そうそう、演劇部は実は隠れ蓑で実際は秘かに猛勉強をしてるらしいよ」

先生達の噂も半分は当たっている所もあるし、そうでないとこもある。夜は猛勉強とまでは行かなくても結構頑張っているし、土日も人並み以上に勉学に勤しんでいるのだ。演劇部の先生達を除けば、わたしへの期待は、東大の医学部を筆頭にそれに似通った大学に入って欲しいと願っているし、その協力も惜しまないで接してくれているのは明らかだから、ここは真理、手を抜くわけにはいかないのだ。

中間テストが終われば愈々演劇部も全国大会に向けての稽古が始まる。ま、他のスポーツのクラブも同じかも知れないが今は他のクラブなど目には入らない。まずは東京地区の予選を勝ち抜かねば。

わたしの強い要望で衣服はボロボロで顔は黒と赤で塗ってもらった。

「うーん、これじゃあ折角の美貌も全く分からないわねえ」と副主任の石川先生は嘆いた。

「ハハハ、それが良いんです。これで年齢不詳になるじゃありませんか。もう小さい子であることを気にする事は全くありません、思いっきり演技できます」

勿論わたしはこの女の子が小さい子供である事はちゃんと頭の中に入れてあるが、それでも違和感は拭えないから、顔を煤煙と血の感じで塗ってもらったのだ。

「でも、これだけでも不憫さや痛々しさは伝わって来るわねえ」

「じゃあ、腕や足にも塗って貰えばもっと痛々しさが出ますよ」

「そうね、顔だけじゃおかしいわよねえ、腕や足にも塗りましょう」

こうして黒と赤に塗られてわたしの思い通りの小さなイリーナは出来上がった。

わたしの出番。暗転の中爆弾が鳴り響く。

「あなた、イリーナが危ない」

「早くイリーナを守らなくては」

イリーナの両親の熱演だ。わたしの上に二人が覆いかぶさる。舞台明るくなる。

やおら両親から抜け出る。

「お母さん、お母さん、どうしたの。何故返事をしないの。お父さん、お父さん、お母さんが返事をしないのよ、お父さん」

イリーナは黒くなった両親を揺り動かす

「ああ、お父さんもお母さんももう全然動かないわ。わたしはこれからどうすれば良いのかしら?」

その前を兄のぜナスがキョロキョロしながら通り過ぎる。

「今のは、今のは・・今のはお兄ちゃんのぜナスだったような」

ここは初めは無かったので入れさせてもらった。

ぜナスが又キョロキョロしながら戻って来る。

「ぜナス、ぜナス兄ちゃん」か細い声で呼びかける。ぜナス、足を止めイリーナを見つめる。

「イリーナ、お前、本とにイリーナか?」

「本との本とのイリーナよ。で、でも、お父さんとお母さんは、真っ黒くなってもう幾ら読んでも返事してくれないの」

ぜナス両親の亡骸を見て頭を振る。

「もう、お父さんもお母さんも天国に行っちゃったよ。だから、、これからはお兄ちゃんとイリーナ、二人で生きて行かなくちゃあならないんだ。分かったかいイリーナ」

イリーナ暫くぜナスの顔を見つめていたがこっくりと頷く。

「イリーナ、傷は痛いけど我慢してお兄ちゃんと一緒に頑張るね」

「傷が痛むのかい?」

イリーナ頷く。

「じゃあここは大人の人に任せて二人で救急処置施設に行こう」

イリーナよろよろと立ち上がる。

「歩けるかな?」

「大丈夫、イリーナ負けない、頑張る」

「イリーナ!」

「ぜナス兄ちゃん!」二人抱き合う。

ここまでがわたし達の出番は終わりだ。中々の評判で東京の代表に篠原女史の高校と共に選ばれた。

「ふーん、中々の演技だったけど、あのメーキャップじゃ、少し酷過ぎて顔が全く分からないんじゃないの?も少し控えた方が良いと思うな、わたし」

後から篠原女史に捕まってそう言われた。

「うーん、そうね、も少し加減するかな。少しオーバー気味だったとわたしも反省してるの。全国大会までに考えるわ」

それを見ていた敦君が傍に寄って来た。

「篠原さん、なんて言ってたの?」

「演技はまあまあだったけどメーキャップがね、少し酷過ぎるってアドバイスを貰ったわ」

「そう、で、全国大会の時はどうするつもり?」

「うん、わたしもそう思ったから全国大会までに如何するか考えるって答えて置いたわ」

「ぼ。僕ももう少し控えめの方が良いと思うよ、折角の舞台なんだし、顔も売らなきゃ勿体ないと思うもの」

「そうだねえ敦君、これが健太なら演劇部に喧嘩売りに出るわよね。も少し控えようかなメーキャップ」

全国大会は冬休み期間中に行われるから、それまで休み?トーンでもない、稽古も毎日行なってより質を高めるのが決まりだ。

「へええ、全国大会が冬休み中にあるの?もし行けたら絶対行きたいなあ」と沢口君は色めき立ち、睦美ちゃんから聞いたと言う健太も「絶対行くぞ!」と張り切っている。

お隣の武志君は如何してるかと聞かれれば、只只管勉強中でわたしなんぞがチョイ役で全国演劇大会に東京代表に選ばれて出ようが出なかろうが、全く論外の話だと無視するであろうと、話をしなかった。でも彼は知ってた。

「オイ真理、真理は今度全国大会の演劇大会に出るんだってな」と土曜のお昼にばったり会って言われた。

「あ、武志君、こんな所で何してんの、まさかお使いに行けとおばさんに出されたんじゃないでしょうね」

「お使い?俺がお使いに出されたんだってえ、飛んでも八分だ。俺は俺の意思で下のコンビニに買い物に行くんだよ。お前こそ使いに出されたんだろう?」

「お昼にね焼きそば作ろうとしたら青海苔がないんですって。それで青海苔買って来てえって頼まれたのよ。分かった?」

「まそんな事はどうでもいいや、一緒に行くか?」

「そうだね一緒に行こう」

エレベーターに乗り込む。

「でさあ、全国大会出るんだって」

「誰に聞いたの、美香ちゃん?」

「俺が美香に聞いたって?そんな事あるわけないだろう。沢口から聞いたんだよ。何時あるんだ、沢口行く気満々だよ」

「そうね、12月の25日から3日間に決まったんだけどまだ詳しい日程は決まってないんだ」

「25,26,27日のいずれかだなあ、良し昔みたいに3人で出かけるか」

「ええっ、3人って?」

「俺と沢口と健太だよ」

「あなたも来るの?本当に来るつもりなの?」

「来たら不味い?」

「不味くはないけど、受験勉強の方が不味いんじゃないかなあと思ってさ」

「あの夏の日を思い出してさあ。不安はあの時も心の中に渦巻いていたけど、帰って来てから勉強凄くはかどって、こりゃ良いなあ、勉強勉強と自分を追い詰めてみても、捗らないときはあるんだよ。あの時思い切って息抜きしたから、帰ってきて本を開いたら、嘘みたいに分かるし、問題も解けるんだ。だから今回も中学時代のように3人で出かける事に決めたんだ」

気づけばもうコンビニに着いていた。

「良いよ、見に来て頂だい。わたしの出番は、いえ敦君とわたしの出番は1幕しかないし、顔も真っ黒けに汚してるけど、それでも応援宜しく頼むわ。でも中学校みたいな掛け声は止めて頂だい。これ、他のみんなにも行って聞かせてね」

「ああ、あれは不味いかもしれないな、何しろ全国大会だから、ハハハ」

「しかも悲劇の真っ最中で、掛け声は禁句よ」

「うん、分かった、他の二人にも言っとくよ。でも真っ黒けに顔塗ってるってどんな役何だい?」

「それは・・・見てのお楽しみと言う事にしようかな。今度は東京大会程には真っ黒けにはしない積りなの、篠原さんにも言われたし、敦君にも折角の舞台なんだから、少しは自分を売らなくちゃあって」

「ふうん、あいつもそんな事言うようになったか、昔のあいつから想像も出来ないね」

「そうね、自分を売れるチャンスは絶対に逃さない、心の中に強い決心があるようよ」

「うんあいつの堅い決心、絶対に立派な俳優になって見せると言う根性、見習うべきだなあ」

その日の久々の会話はそういった所で終わった。

帰って母特性の焼きそばをチャトラーを膝にのせて食べる。

「何だか嬉しそうね?」と母が訪ねる。

「あらそう?別に何もないわよ。チャトラーを膝にのせて焼きそばを食べる、それは平和でありがたい事だとしみじみ感じたのよ」

「ふうーん、そうね戦争の絶えない国に住んでる人にはもしかしたら羨ましいほどの幸せかもしれないわねえ。でもそれだけじゃあないでしょう、何か良いことがあったに違いないわ、例えば・・隣の武志ちゃんに会ったとかさ」

「ひえー、ど、どうして分かったのさ、そ、そんな事」

「あららずばり当たったのねえ。まあ真理ちゃんの行動範囲は狭いから嬉しい事と言えば、その位しかないわよね」

「そ、それは言えてる。わたしの知ってる世界って本当に狭い世界なのね。もっと見える世界を広げなくちゃあな、チャトラー君」

「チャトラーもね、そろそろお年頃になる前に去勢手術をしなくちゃいけないわ」

「えっ、去勢手術をするのチャトラーに?」

「そうほんとはもっと早くやるべきだったけど、ま、それでも今が健康状態も良いからチャンスだわ、下村獣医さんに電話して見ようっと」

「チャ、チャトラー、お前手術するんだってよー、少し可哀そう。話が飛んだ方向に行ってしまって御免なさい」

チャトラーはわけが分からずきょとんとわたしの顔を見ているだけだ。

期末も終わり、27日の最終日に決まっていたわたし達の劇の発表も間近に迫っている。

「もう直ぐだねえ、僕さあ、何だかそれを考えるとね、体が何だかこう震えて来るんだ。別に怖い訳ではないけれど。可笑しいね僕の体って」

電車の中で敦君がこう言った。

「ハハ、それ武者震いじゃないの、これから敵をやっつけて来るぞー、俺様のこの太刀裁き皆の者良ーく目を見開いてしかと御覧じよ、ってやつよ。敦君の体の中からあふれ出て来る自信よ。決して体がおかしいわけじゃないわ」

「え、そうなの?そうか、そうなんだ。別に怖くもないし、心配もないんだ。むしろ楽しみだし、早く来ないかなあって思っているんだもん、それで体が震えるんだから可笑しいなと思っていたんだ、ハハハ」

「良かった、敦君がそういう状態で。この劇を見にあの3人組も来るんですってよ、頑張ろうね」

「あの3人組って武志君も来るの?」

「そう、あの夏休みのキャンプで悟ったんだって、息抜きも大切だって事をさ」

「僕もそう思うよ、勉強勉強と机にしがみついてても、体にも悪いし肝心の勉強の方も捗らないと」

「ええ、わたし達も頑張りましょう、今度の舞台。何しろ全国大会なんだから誰が身に来てるか分からないじゃないの、大いに名を上げるときよ敦君」

「そう言う事を言われると少し心配だよ、武者震いでなく本物の心配の震えが来るよ」

「あらーご、御免なさあい。これは私の妄想だから忘れて頂だい」

全国大会は何と言っても高校の大会でNHKと小さな民放の数社が取材に来てるだけのものだから、大きなホールを借りてやる訳がない。小さなところを借りて行われるのだ。お客はわたしや篠原さんの関係で中学の演劇部からも見学者がいるし、高校関係の生徒も勿論やって来る。そしてあの3人もやって来た。

『頑張れよー、掛け声禁止されたから劇が始まる前に一言言いたくてさ、頑張れ、汚れ役でもひるむんじゃないとね」とまず健太が切り出す。

「汚れ役でも心は綺麗なまんまなのだろう、顔に汚れた色を塗ってるだけだから、そんなのは全然気にしないよ俺は」と沢口君はおとなしめ。

「でも拍手は構わないんだろう?俺は拍手で応援するよ、敦の分もね」武志君は大人の雰囲気。

「も。勿論拍手は俺も負けていないぜ、割れるような拍手をして見せるぜ」

「うん、拍手は禁じられていないのなら拍手で応援だな」沢口君も大きく肯く。

「でも変な所で叩かないでね、とても悲しい場面なんだから」

わたしは拍手で異常に燃えている二人に一抹の不安を感じてくぎを刺す。

「大丈夫よ、ちゃんとわたし達が見張っているから」

後ろから女性3人組の声あり。

「あら、あなた方も来てくれたの、嬉しいわ」

「そりゃ来るわよ、我らが同士の全国大会の晴れ舞台よ。見に来なくてどうするの?」

「頑張ってね、わたし達も拍手だけは負けないで応援出来るわ」

女性の応援は安心していられるので大歓迎だ。

敦君は如何してるかって?彼は両親の接待に忙しそう。あんなに演劇部で活躍するのを反対してたのにころりと態度を改め、二人そろって全国大会に出る敦君を応援しに来たのだ。

良かった、良かった。

あともう一組応援しにやって来た人たちがいる。東京の杉並に住む祖父母だ。本来ならば私の両親が応援に来ても良かったのだが、二人の代わりに中学時代から見たい見たいと言っていたこの祖父母がやっと念願かなってやって来たのだ。

「おじいちゃん、おばあちゃん、今日は来てくれて嬉しいわ。でもね、今日のわたしは汚い格好に顔も黒

や赤で塗りたくってるから、思うような役じゃなくってきっとがっかりすると思うの。でも役の上だから失望しないでね」

「何を言ってるのよ、あなたが金ぴかのお姫様やろうが、汚い浮浪児をやろうがどちらでも良いの。わたし達、真理ちゃんが演技をしてるのを直に見てみたかったのよ。今日はここでやるって教えてくれてありがとう」

「そうだよ、全校大会に出れるなんて凄いじゃないか。しかも一年でさあ。冥土への好い土産話が出来たよ」

祖父母にはこう言った汚れ役は心の何処かで反対されると思っていたのでこの二人の反応にはとても嬉しく感動しきりだ。

客席の挨拶はそこそこに楽屋の方へ引き上げる事にする。

「今回は顔の方、も少し控えめにお願いします。あれじゃどっちか前か後か分からないので宜しくお願いします」

まず初めに顔のメーキャップについて頼んだ。

「フフフ。誰か好きな人でも見に来てくれたの?」

先生は茶化して言う。

「はい、直ぐ近くの祖父母が身に来てくれました。祖父母は中学時代からわたしの劇を直に見たいとずっと言ってたものですから、やっと今日その念願が叶った訳です。だからこの間よりもメーキャップ薄めにしてわたしの演技をしっかり記憶して欲しいと思いまして」

「そう、そうよねえ、この間のメーキャップじゃ凄すぎて男だか女だかも分からなかったものねえ。うん、今回はそれを踏まえた上でメーキャップするわ。勿論悲惨な状況は踏まえてね」

物わかりの好い先生はニッコリ笑って引き受けてくれた。これで他の応援団にもわたしであることが十分にわかる事だろう。

ライバルの篠原女史の高校の方が先に演じられた。彼女のクラブは掃除に関する男女の立場や社会的問題を取り上げたものだった。これはこれで考えさせられる問題を含んでいて興味を惹かれる。そして一つ挟んで我々の番だ。

「いよいよ我々の番だ。何も力むことはない、何時もの調子で臨めば、もうそれだけで上出来なんだからな。3年生にとっては高校最後の舞台だし、2年生にとって来年への小手慣らしだ。ようく見て何事も吸収するように」

林田先生の言葉が述べられ劇が幕を開ける。

ナレーターの戦争が今起こっている国の説明が静かに語られる。舞台は人が騒いでいる状態で何も爆発せず、殺し合いも起こっていない。

しかし一転、舞台は真っ暗くなる。爆撃の轟音、建物が崩れる音。本とにここは裏方の腕の見せ所、と言うか。裏方様様だ。と感心してる暇はない、早速わたしの出番だ。

賭け声禁止のわたしの号令、大丈夫のようだ。安心して演技出来る。父や母を揺り起こすイリーナ。その後ろをうろつくぜナス。皆よく我慢してくれている。戻って来たぜナス。顔を見合わすぜナスとイリーナの場面。その時拍手が起こった。と思う間もなくあっちこっちで拍手が起こる。えっ何故?拍手するならも少し後の方が良いのに!と思いつつ演技は続く。立ち上がり抱擁しあう兄妹。

「頑張れー」と声が上がったと思ったら、今度もあっちこっちで「頑張れー」「頑張れー」の声が上がり拍手の洪水だ。まるでもう劇の終わりのように。参った参った。

でもその後は何事もなく劇は続けられ無事終わった。やれやれだ。

「最初の方にピークきちゃたなあ」林田先生少し渋い顔。

「済みません、掛け声は絶対ダメと言って置いたのに」小さくなって誤るしかないわたし。

「うーん、掛け声賭けたくなる場面だもんね、仕方ないわ」

メーキャップをしてくれた石川先生は優しいが、もしこれで落選が決まったらこれは一大事だ。

「わたしはあそこの掛け声も拍手も別に良いと思います。爆撃に会い父と母を亡くした子供でしょう?掛け声賭けるの自然だと思います」もう一人の斎藤先生も石川先生の側を持っている。

「ま、我々が議論しても仕方がない、審査を待とう」林田先生の言葉が終わり静かになった。

そうだスケールの大きさから言っても装備や背景の素晴らしさから言っても、ここは日本一と言えるだろうし、肝心の演技も唸らせるものがあるのだ、掛語一つで如何なるものではない。

愈々発表の時間だ。高鳴る心臓の音、そんな気持ちになった事が今まで一遍もなかったのに、あの3人組と他の知らない連中の為、少し惨めな気持ちで待たねばならない。

次々に読み上げられる学校名と演劇名。無い、まだその中に我らの学校名も演劇の題名もない。

「きっと大丈夫よ」北山さんが傍に着て励ましてくれる。

篠原女史の高校の名前も読み上げられてしまい残るは後一つだけだ。思わず北山さんの手を握り締めた。

「今回の全国高校演劇コンクールの最優秀校を発表致します」

しんと静まり帰る場内。我々の演劇部だけではない、他の学校の演劇部も見物に駆け付けた人達も皆固唾を飲んで見守っている。

「最優秀高校は色々意見が分かれましたが、こんな劇の応援があっても良いと思い今回は今中高校を選ばせていただきました。台本も舞台装置も立派でしたし、何より演技がずば抜けて良かったと思います。最優秀高校は、東京都代表今西高校です」

嬉しそうにキャプテンの黒川君が代表として前に出て行く。割れるような拍手だ。

「バンザーイ、島田真理バンザーイ」賞状を黒川君が受け取って帰ってくるなり健太の声が響く。

「島田真理バンザーイ、あんたが一番だ」

「そうそう、真理のメーキャップ、一番すごかったぜ」

沢口君と武志君が後に続く。

「彼ら今まで抑えていたからこの時とばかり爆発したんだねえ」

いつの間にか敵地よりわたしの傍にやって来た篠原女史が呟いた。

「うーん、でも一つ解せぬ事があるわ」

「何が解せないのよ?」

「拍手や掛け声が一か所だけでなく、あっちこっちで起こった事よ」

「中学時代の演劇部のメンバーが身に来てたから、その人達が拍手したり掛け声賭けてたんじゃない?」

一応成程と頷いたものの解せない処もある。しかしその場はそう言う事と我が心に言い聞かせ引き下がった。何しろ余り行かない杉並の祖父母が来てくれたんだもの、この後二人に付き合わないと言う事は考えられない。二人はきっと喜んでいるだろうから。

例の3人と女性4人組には頭を下げて今日の礼を述べ、帰りは祖父母と日頃の無沙汰の詫びも兼ねて付き合わねばならない事を報告した、一方敦君も御両親が身に来てくれた事に対してのお礼を兼ねて食事に付合わねばならなおようだ。へ、若いって辛いね!

 お正月が来た。元旦の日の夕方近くお隣の武志君を訪ねた。

「おーう、この間はご苦労さん」

珍しく武志君が玄関に現れた。

「勉強忙しくないの?」

「まあな、元旦だしさ、それにこれからオヤジの部下が来るんでね、騒がしくて勉強所じゃないんだよ」

「あらあら大変、ねえ、だったら内に来ない?父は教授の所に出掛けてるし、母は絵を描いてるんだ。わたしはコーヒーしか淹れられないけど、しかもインスタントしかね」

「おっ、お前が入れたインスタントコーヒー飲んでみたいな」

武志君がおばさんに一言言って我が家へお引越し。

「ああここ静かだな」ポツリと敦君。

そこへチャトラーがお出迎え。

「アッこれが噂の猫だな?」

「うん、チャトラーって名前よ、茶色のトラ猫だから」

チャトラーを抱き上げる。

「でも受験生の家なのに静かじゃないの?」

「まあね、俺のかけてるラジオが煩いだろう?それに負けじと母のテレビの音が煩い。今はオヤジが家にいるから、父は父で煩いんだ」

「へえ、でも一番煩いのは君のラジオだろう、多分」

「うーん、正解かな。でもラジオかけてないと勉強やっていられなくってさ。ラジオ入れなくっても勉強出来る方法って何かあるかな?」

「ラジオ聞きながら勉強するって私には考えられないな。静かな環境で静かに勉強する、と言うのがわたしの理想よ。ま、有ってもクラシックが穏やかに流れていると言うくらいね」

「へえ、俺さあ昔っから騒がしい音楽聞いて勉強してたからさ、もし静かな部屋で勉強してたらさ寝てしまいそうなんだ」

「じゃあ仕方ないわねえ、諦めるか、もしくは図書館みたいな所で勉強してみたら。もしそこで寝てしまうんだったら、騒がしい音楽の方をとるしかないわね」

チャトラーを下ろして、約束のコーヒーを淹れる。冷蔵庫に今日お客さんに頂いたケーキがあったのでそれも一緒に出した。

「あっ、上手そうなショートケーキ、冬にイチゴが旬なのもおかしいけどさ」

「そうね、石油がなせる技かなあ。わたしはレアーチーズケーキよ。これには旬はないわよね」

「でさ、今日はどんなようで内に来たの」

「ああ、今日は正月だし、武志君の顔を見なくちゃ始まらないかなあと思ったのと、この間の応援のお礼を言いに行ったのよ」

チャトラーは大人しくわたしの足元に座り分けてもらったレアチーズを食べている。

「応援か。あれさあ、タイミングが合わなくて焦ったんじゃない?」

「わたし達は別に焦らなかったんだけど、他の人からは少し苦情が出たわ」

「そうだろうなあ、頼んだ奴らはど素人だし、転電ばらばら」

「あ、あれ、あなたが頼んだ人達だったの?うん、これでスッキリしたわ、篠原さんに言わせれば中学の時の演劇クラブの連中達がやってたんじゃないかって言ってたけど、それにしては素人臭くっておかしいと思っていたんだ」

「一言言って置くべき事だったな、御免」

「うううん、そこまで応援、手を回してくれたのね、とっても嬉しい、ありがとう」

「ハハハ、アイツらも長い間俺の顔見てなかったからそれもあってやって来たんだよ。沢口の顔も見たかっただろうしね。帰りはさ、みんなで、男も女も集まって喫茶店に入って、主役はいないのに大騒ぎして帰って来たよ」

「本当にそれは申し訳なく思っているわ。祖父母には長い事あってなかったから無視する訳にはいかなかったの。敦君は敦君で、あんなに高校入ったら演劇するのを反対してたお父さんが見に来てくれたでしょう。お礼とこれからの事も宜しくと言う気持ちがあって、両親との会食喜んで、少なくとも表面上はね、一緒にするのを選ばない訳には行かなかったの」

静かに頷く武志君。

「あらー武志君、来てたの?珍しいわね、内に来るなんて」母が絵の仕事が一段落したのか、絵筆と手を洗いに台所に姿を現した。

「はい、お邪魔してます。何しろうちはこれから父の関係のお客が来てどんちゃん騒ぎですから」

「ああそうなの、新年会が始まるのね。そうだ、じゃあ武志君さ、今日の夕ご飯わたしの所で食べて行かない?お母さんにはわたしから電話するから。それにそろそろ大樹さんも帰って来るし、久しぶりに一緒に食べようよ。と言っても島田家特性の正月料理しかないけどね」

こうして藤井家は藤井家の客を呼んでのどんちゃん騒ぎ、島田家はその藤井家のはみ出し息子を入れてのささやかな正月料理を囲んでの宴。

こうしてそれぞれの正月元旦は暮れて行く。勿論チャトラーも入れて!

      番外編2 終わり  3もお楽しみに










 








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