総合司界者「「異世界転生」とか「異世界転移」ってやってるけどさぁー、君らミス多くなぁい?」
ベタすぎる呼び方だったので、それらしい呼び方を考え修正しました。
あとは若干加筆修正。
白い空間。
何も染まらない、染めることのできない白で作られた空間には、同じく白いテーブルと椅子。
映画館のように段差が付けられた無数ともいえる数の席に座っているその存在は、様々な姿をしていた。
人の姿をしていたり、動物や獣の姿をしている物、また物理的な体もなく光だけの存在だったり、常に黒い靄を纏わせ姿が包み隠されている存在も見える。
彼らは「司界者」と呼ばれ、各々が一つの世界を管理し、調整し、時に整理する。
世界を司る者。故に司界者。
今この場には、その司界者達が、数千、数万という数で集まっている。
数多の椅子に座る司界者達。その向かいには壇上でもあるのか、最前列よりも高い位置に人の姿をした者が、小さなテーブルに両肘をついている。見た目は熟年の男性のように見えるが、今この場にいる司界者の中で最も位の高い存在である。
総合司界者。
この場に座っている数多の司界者々を統べる存在であり、全ての世界を見聞きし、調べ、今までの過程と結果を確認、裁定する立場にある。
未だにぞろぞろと入ってくる司界者々を、総合司界者は少し不満げな目で見ていた。
それから人間の時間で一時間程、漸く全ての司界者が着座し、場は静かになる。
沈黙が暫く続いてから、総合司界者から溜息が一つ漏れる。
「あのさぁー、時間守ろうよぉ、始まる時間決まってるんだからさぁ。遅れてくるの殆ど同じじゃん。いい加減直せよぉ」
呆れ顔に舌打ちを一つ混ぜ、
「ちゃんと数えてっからなぁ。次また遅れた奴その世界ごと消滅ね」
と言うと、総合司界者は右手を上げる。それと同時に分厚い本が現れ、テーブルにやや乱暴に置いた。
その本には、司界者々のとある記録が記載されている。
総合司界者は表紙を開き、本人自身のほどほどのペースでパラパラとページをめくっていく。
書かれている内容は司界者の名前、その横に数字が書かれ、その下には文章が書かれている。この本の中身は全てそうした形式の記載で埋まっている。
数字の殆どが「3」以上で書かれており、中には二桁、更には三桁にも及ぶ所があった。「1」や「0」というのは本当に数える程度しかない。
本人はほどほどだが周りから見れば圧倒的なスピードでページをめくり、やがて最後のページを見て本を閉じた。
総合司界者の視線が本から司界者々に向けられ、皆を一瞥すると再び大きく溜息をついた。
「…あのさぁー……」
呆れた様子を露わにした声を出して一拍間を開けると、再び両腕をテーブルに置き、それから一言。
「「異世界転生」とか「異世界転移」ってやってるけどさぁー、君らミス多くなぁい?」
そう。それこそが今回総合司界者が問題としてあげたかった内容だ。
異世界転生と異世界転移(以後転生としてまとめる)。今ではどこの世界、どこの国でも当たり前のように起きている現象。
主な理由は全ての世界における魂の総量に対し、各世界によってはその魂の数に著しい偏りが発生する場合がある。
そうした偏りのある世界に転生という形で魂を送ることで、各世界での魂の数の調整を取るためである。
各世界の住人からすれば、そんなことがある訳ない、空想上の話だと思っても無理のないことだが、こと司界者の視点からすればそれなりの数で起きている。総合司界者からすれば大量と言ってもいい。
だが問題はそこではなかった。
転生を行う上でも取り決められたルールがある。それに則って行われるものであれば特に咎めるものでもない。
問題は、転生の原因にあった。
転生をさせる理由は様々ある。だがその中には「司界者々の間違いやミスによる結果」、転生が行われている場合がある。
それこそが今回総合司界者が議題に上げたかった内容だった。
先程流れるようにページをめくっていた本に書かれていたのは、どの司界者(世界)がこの千年の間に転生を行った回数と、間違いを犯した数、そして間違えて行ってしまった際の経緯が詳細に記されていた。
司界者自体が転生を行うケースもあれば、各世界の住人が言わば「召喚」という手段で行うケースもある。
司界者自身の行いではないにしろ、それが本来のルールから外れている場合は、司界者の手によって止めることが決められている。それが出来なかった回数も含まれていた。
「魂の調整を行うための異世界転生とか転移なのにさぁー、それで間違って死なせちゃいましたーとか、転移させちゃいましたーとかってさぁー。これ本末転倒じゃんよぉー」
総合司界者の話し方は今の外見らしい話し方をしている。以前とある世界の情報を確認している時に見た「ゲイノウジン」で「エムシー」をしている男の話し方などが気に入ったらしいと、司界者の間で噂されている。
それを真似ているのを知ってか、「チキュウ」という星がある世界の司界者は顔を俯かせたまま小さく震えていた。
現に前回の会議ではこんな話し方をしていなかったし、ましてや前回の会議では今と全く異なる姿だった。
毎回総合司界者は気紛れで姿形を変えているので、壇上に上がるまでどのような姿かが分からない。
「間違いを全部ゼロにしろとまでは言わないけどさぁー。これ本当多すぎなんだけどどういうことよぉー?」
壇上から全体を見渡す総合司界者の視線と合わせようとする司界者は誰もいない。
「そんで詳しい内容色々見てみたけどさぁー。スキルだなんだ付けたりするのはまだいいよぉー? 寧ろ間違えて転生だなんださせたんならそれ位しなきゃだと思うんだよぉ」
ここでまた中年男性の総合司界者から大きなため息が一つ。
「でもさっき見たけど何なのあれぇ? 「スキルをルーレットで決めます」とかぁ? 「本人の希望スキルを付けた後でデフォで付けるものと被ってました」とかぁ?」
総合司界者の言葉に段々感情が込められていくのが分かる。
「最悪なのはこれよぉ。「同じ名前の人間に間違ってスキルつけちゃったから当の本人にはもう付けられるスキルはない」とかぁ? 「目の前で別の人間が他人のスキル奪ったのに奪われた人間にスキル渡さないでそのまま送った」とかよぉー?」
司界者々を見る目が段々と険しくなる。
「なぁー、お前らだよお前ら! 立てよさっさと!」
総合司界者がそう言うと、今話した対応やミスの上塗りをした司界者々を怒りながら指差し、強制的に立たせた。立たされた司界者々は直立不動のまま動くことはない。
「先こっち聞こうかぁ。自分の目の前で他人がスキル奪うようなことされてさぁ、なんで奪われた側に何のフォローもしねぇのよぉー、ちょっと教えてくんない?」
質問された司界者は、総合司界者の力で首から上だけ拘束力が解け話ができる状態になった。
「ねぇ、何でよ?」
光がそのまま人型になったようなその司界者は、話が出来る状態になっても答えられず黙ったままだった。
「……何でだって聞いてんだよ! さっさと答えろよお前よぉ!」
両肘をテーブルに置いたままで怒鳴りつける。そこから数十秒の後返ってきた答えは、「他人のスキルを奪うことを考えておらず、予備も用意していなかった」だった。
それを聞いた総合司界者は手を頭にやって顔を顰める。
「そもそも各々に与えたスキルを他人が触れるような状況にしたってのがまず問題じゃないのぉそれ?あと予備とか保険考えないって普通に考えて論外でしょぉよぉ。何やってんの本当?」
もういいと言い、光の人型の司界者を強制的に座らせた。
次に目をやったのは、白髪と白髭を蓄えた司界者だった。
「でこっちの方が問題おっきぃよねぇ。もっかい言うよ? いい? 「同じ名前の人間に間違ってスキルつけちゃったから当の本人にはもう付けられるスキルはない」でそのまま送ったんだよねぇ」
先と同じく話ができるようにして、再度強めに総合司界者は「ねぇ?」と聞く。それに対して白髪白髭の司界者はただ頷くことしかできなかった。
「挙句その人間には「不幸な人生を送る」って言葉かけて、その通り不幸になって死んだらまた呼び出して、記憶なくさせるから早々に死ねとかってさぁー。……お前なめてんの? 今の立場」
白髪白髭の男は首を横に振るが、そこに机を激しく叩く音が割って入る。
「じゃあなんでこんなことやってんだよ! お前さぁ! しかも同じ事過去にもしてるよなぁ!? 三千年前だっけぇ? えっと待ってろちょっと」
再び本を開きページをものすごい速さでめくっていく。ものの数秒で総合司界者の手が止まる。
「あぁあああ! やっぱりあったよ! しかも三回! 千年の内三回もやってんじゃんよぉ! 三百年に一回のペースだよこれぇー。全然反省も改善もしてないじゃんよぉ! なんでよこれぇ?」
先の光の人型の司界者同様に、白髪白髭の司界者は黙ったままだった。
「…………」
総合司界者は黙って見つめているが、見られている方も黙ったままである。話が進まない。
「……あのさぁー。なんつぅかさぁー」
今度はテーブルの横に立ち、肩ひじをついてそこに体重を乗せながら白髪白髭の司界者を見る。
「自分の立場に胡坐かいてさぁー、間違いでスキルとか渡さなくてぇ? 不幸な人生送るしかないとか早々に死ねとかって言ってさぁー、勝手に転生させておいてそういう事言うんでしょお?」
白髪白髭の司界者を、怒りを通り越し最早哀れみを帯びた目で見て一言。
「これもぉパワハラだと思うんだよねぇー」
言葉の意味を大半の司界者は理解出来ていなかった。その言葉を知らないからだ。
だが逆にその言葉も総合司界者が真似ている人物も知っているチキュウの司界者はつい小さく吹きだしてしまう。すぐに口を塞ぐが、既に遅かった。
「チキュウの司界者ぁ? ちょっと吹いたでしょぉ? 今ぁ」
笑いをこらえていたが名指しで呼ばれ、すぐに顔は青ざめる。恐る恐る総合司界者の方を向くと、何故か笑顔だった。
「やっぱ分かるよねぇ? そっちにいる「人間」真似てるから分かっちゃうよね」
チキュウの司界者も笑顔でそう言われて、つい釣られて笑って答えてしまう。
「だよね? 似てたでしょ?」
と言ってチキュウの司界者と談笑していたが、一息つくと続けて言葉を切り出す。
「であとちょっと気になったんだけどさぁー。結構そっちから人持ってかれてない? えっとぉー、特に「ニホン」って国から。じゃない?」
自分を責めるような質問ではないと安心したのか、総合司界者の答えに対して素直に肯定する。
「だよねぇー、ありがとぉー。もういいよぉー。あと似てて良かったわぁ」
そういうと笑顔をしまい込み、再びその場にいる司界者全員を一瞥する。
「きみらさぁ、チキュウが一番転生についての知識あるからって、そこから人呼びすぎじゃなぁい? しかもその一番知識持ってる国から決まって持ってくじゃんよぉ。せめて他の国からも連れてかないと国の人口偏っちゃうでしょぉ? 」
そこも何とかしてよねぇ、と言っている中、白髪白髭の司界者は未だ立たされている。それは総合司界者がまだ話す事があるというのを暗に告げていた。
「……で、お前なんだけどさぁ」
そう思っていた矢先、眼と指を向けられ、ただでさえ動けないでいた体がより一層固まる。
「お前の世界、消すから」
その言葉と同時に、白髪白髭の司界者の目が驚きで見開いた。世界を消すとは、即ちその世界の主である司界者を消すことにもなるからだ。
「理由言わなくても分かるよねぇー。こんだけのミスしても何も変えようとしないでサボりちらかしてたんだからさぁー。お前の世界にいる人間には痛みも何もなく眠って、そこから他の世界に全員いい塩梅で転生させるから。よろしく」
白髪白髭の司界者は首を横に振るが、そんな事お構いなしに総合司界者が右手を前に出すと、掌の上に光の球が現れる。
「じゃあお疲れさまでーす」
そう言うと光の球は砂粒が風で飛ばされていくように細かく空中に散り散りになっていき、それに伴って白髪白髭の司界者の体も同じように少しずつ光となって散っていく。
最後まで首を横に振り続けていた司界者は、数秒後にはその場からいなくなった。その司界者と、その司界者を主とした世界の消滅である。
「少ししたら数の少ない所を中心に振り分けるからねぇー、あと対応よろしくぅ」
静まり返った司界者々を一通り見て本をテーブルに置くと、今一度チキュウの司界者を一瞥した。チキュウの司界者も目が合ったと分かる。
総合司界者は正面を向くと軽くお辞儀の姿勢を取りながら言った。
「続いては、ニ〇ダイ問題です」
チキュウの司界者は吹いた。
そして悟った。
これは「エムシー」ではない。「モノマネ」をしている「ゲイニン」だ、と。
話の中に出て来るミスに関しては他の作品を参考にさせて頂きました。