第三十一話
第三部、最終回です!短めです。
「今日は一緒に来てくれてありがとう、エリアス」
フリュデン侯爵邸からの帰りの馬車の中。
隣に座るエリアスに向かって礼を述べれば、彼は首を横に振り答える。
「礼には及ばない。自分の気持ちは、しっかりと話せたか?」
エリアスの言葉に私は微笑みながら頷く。
「そうね。言いたいことは言えたけれど……、多分、全てを許して受け止めるのには、まだ時間はかかると思う。
でも、間違いなく今日がなかったら、私は一生、彼らとは縁を切って過ごしていたと思うわ」
あの後、私達が案内されたのは、亡きお母様のお部屋だった。
部屋の壁に飾られている肖像画に描かれたお母様の姿は、やはり私には似ていなかったけれど、でも。
「……とても、温かな表情をしていた」
たとえ血の繋がりがなかったとしても、お母様が生きていたら、また少し違ったのだろうか。
なんて考えてしまうこともあるけれど。
「私は……」
その時、ガクンと馬車が大きく揺れた。
そのせいで、頭をエリアスの肩にぶつけてしまう。
慌てて退こうとしたけれど、肩に回ったエリアスの手がそれを許さなかった。
驚く私に、エリアス優しい声音で言った。
「昨日の今日で、疲れただろう? 今は何も考えず、ゆっくり休むと良い。
これから先のことは、またゆっくりと考えよう。
俺も、大した力にはなれないかもしれないが、君の力になれることがあったら遠慮なく言ってほしい」
そう言ってくれたエリアスの言葉が、遠くに聞こえる。
(私、疲れていたのね)
重い瞼を閉じ、薄れていく意識の中で口にした。
「そんなこと、ない。貴方が居てくれるから、私は強くなれる。こうして貴方の隣にいるのが、一番、安心するの……」
「……っ」
温かな温もりに包まれた、微睡の中。
私は安心して意識を手放した。
アリスが眠ったことを確認したエリアスは、人知れず赤い顔で呟く。
「とんだ殺し文句だ……」
寝息を立て、無防備に眠るその姿は、安心し切った表情をしていて。
そんな彼女の華奢な身体が自身の腕の中にあることを確かめ、その腕に力を込めながらエリアスは思う。
(……彼女は、俺が守りたい)
彼女が幸せになれれば、それで良い。
いつか離れていく彼女の、ほんの一瞬でも力になれればそれで良いと思っていた。
手放したくないという感情は、自分勝手なものであり、いくら自分が我儘を言ったところで、彼女の方からいつか離れていってしまうだろうとエリアスは思っていた。
だが、一度手放されたこの手に、彼女はまた帰ってきてくれた。
その上。
「……そんな無防備な顔をして言われたら、俺は、自分の都合の良いように解釈してしまいたくなる」
アリス。
そう彼女の名をそっと壊れ物を扱うかのように紡ぐと、眠る彼女の顔に、自身の顔を寄せたのだった。
第三部、いかがでしたでしょうか?
この第三部が一番、アリスとエリアスにとって成長した回、それからそれぞれ大切なものに気付けたのではないかなと思います。
そして、更新が大変遅くなってしまい申し訳ございません…!
この物語を最後まで紡ぐために、もう少々お時間をいただくことになるかと思いますが、よろしければ最後までお付き合いいただけましたら本当に幸いです…!
第四部が作者の見解では最終章になるかな、と思っております。いよいよ物語は佳境に、次々と謎も明らかになっていきますので是非、お待ちいただけたら嬉しいです。
引き続き、アリスとエリアスの物語を楽しんでいただけたらと思います。どうぞよろしくお願いいたします!
*第四部は9月中の更新開始を予定しております*