表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

93/160

第二十六話

「……待って、女神様」

「おい、起きろ」

「……!?」


 微睡の中で突如降ってきた男性の声に、一瞬で覚醒し、飛び起きる。


「ソール!?」

「驚いてる場合じゃねぇ。もうとっくに約束の時間は過ぎてんだ」

「……あ」


 その言葉で思い出す。


(今日は、人間界へ帰る日……)


 ソールはじっと私を見つめると、口を開いた。


「一応聞いておく。本当に、お前は人間界に戻るんだな?」


 ソールの言葉に、私はゆっくりと顔を上げ迷いなく頷く。


「えぇ」


 そう口にすると、ソールは「分かった」と言ってから扉に向かって歩いていく。

 そして、その扉に手をかける前に言った。


「早く仕度しろよ。こっちは待たされてるんだからな」


 そうどこか苛立ったように言い放ち、扉を開けて外へと出て行った。


「……ごめんなさい、ソール」


 どこまでも優しいソールに甘えてばかりでいてはダメね、と息を吐いてから、彼の言う通り手早く身支度を整える。

 妖精達がプレゼントしてくれた可愛らしい服に身を包み、髪を梳かしている間に花の妖精達がスーッと現れる。


「アリス、ほんとうにいっちゃうの?」

「もうもどってこないの?」


 その言葉に、私は頷くと口を開いた。


「ごめんなさい。行かなければならないの。

 ……本来の私の居場所は、ここではないから」

「っ、アリスはぼくたちのこと、きらい?」


 青の妖精の言葉に首を大きく横に振る。


「まさか! 私は貴方達のことがとても大好きよ。この場所で、貴方達やソールとお話をしたりいけばなをしたり、花畑を散歩したりしたのもとても楽しかったわ」

「なら!」

「でも、ここにはいられない。

 ……私の帰りを、待ってくれている人がいるから」

「「「……っ」」」


 花の妖精達は息を呑む。

 それを見て、小さく笑って言った。


「私は人間界で、また貴方方に会えるのを楽しみにしているわ。

 ……それとも、人間界にいる私には、もう会ってはくれない?」

「そんなわけないよ!」

「だってわたしたちだって、アリスのことがだいすきだもの!!」


 そう言ってくれる彼らに、私は本当に救われている。

 だから。


「皆、本当にありがとう。……また会いましょうね」

「「「うん!」」」


 そう言って手を振ると、部屋の扉を開ける。

 その扉をゆっくりと閉め、眩しすぎるくらいの青い空に目を細めた……その時。


「え……」


(どうして、ここに……)


 そこにいたのは。


「……アリス」


 私と同様目を丸くして佇むエリアス……、私がずっと会いたかったその人の姿だった。


(ちょっと、待って)


 理解が追いつかない。

 彼のいる人間界に帰ろうと思った矢先、まさか、天界で会うことになるとは思ってもみなくて。

 だから全然、心の準備など出来ていなくて。

 私はようやく震える声で口を開いた。


「……どうして、ここに」


 そう尋ねると、エリアス自身もまた戸惑ったような表情で口を開きかけた、その時。


「あーあー見てらんねぇ」

「っ、ソール!」


 いつの間にか隣にいたソールが、私の肩を引き寄せる。

 それによって驚く私とエリアスに対し、ソールは呆れたように言った。


「アリスが大事とか言っておきながら、かける言葉が見つからないとか。

 はっ、ヘタレだな」

「ちょっと、ソール!」


 何てこと言うの、と怒る前に、エリアスが私達の元へ歩み寄ってくる。そして。


「!?」


 ぐいっと私の手を引き、ソールから引き剥がして言い放つ。


「ここへ連れてきてくれたことも、アリスをここに住まわせてくれていたことも礼を言う。

 だが、彼女の許可なく気安く触るな」

「っ、エリアス……」


 思わずエリアスの顔を見上げると、ソールは呆れたように言葉を返した。


「許可なく気安く触るなとか言いながら、お前は良いのかよ?」

「「っ」」


 その言葉に息を呑んだのはエリアスだけでなく私もだった。

 咄嗟に繋がれていたエリアスの手が離れ、彼に慌てて謝られる。


「す、すまない」

「い、いえ……」


 彼と会わなかった間に、距離感というものを忘れてしまったような気がする。

 それは彼も同じなようで、お互いの間に気まずい空気が流れる。


「……もうほんっとに爆発してほしいわ」

「「え?」」


 ソールの言葉に私達は顔を上げて首を傾げる。

 ソールはそんな私達とは視線を合わせず、パチンッと指を鳴らした、刹那。


「「え」」


 ふわりと私達の身体が浮いたのだ。


「後はどうぞご勝手に」


 そうソールが口にし、指を鳴らした刹那、私達は別の場所に移動していた。

 そしてそれは。


「っ!?!?」


 公爵邸……ではなく、その遥か上空にいた。

 つまり。


(っ、落ちる!!!)


 身体が傾き、真っ逆さまに落ちていく……と思った矢先、強く身体を引かれ、よく知る温もりに包まれる。

 それがエリアスで、彼が短く何かを口にした一言が呪文だと理解した瞬間、パァッと光に包まれ、足元に魔法陣が浮かび上がる。

 ハッとして顔を上げれば、エリアスと至近距離で目が合い、思わず二人して息を呑んでしまって。

 それが何だかおかしくて、私達はどちらからともなく笑い出す。


「ソールに呆れられてしまったわね」

「彼はソール、というのか。ちょっとムカつくやつだが……、悪いやつではないのかもな」

「そうね。口は悪いけど、ソールは良い人よ」


 そう言って小さく笑うと、エリアスにじっと見つめられていることに気が付いて。


「……な、なに?」


 久しぶりに見るその氷色の瞳に見つめられ、早まる鼓動を聞かれないように慌てて尋ねれば、彼は微笑みを浮かべてゆっくりと口を開く。


「折角だし、久しぶりに“空中散歩”しながら話さないか」


 その言葉に対し、私も微笑みを返して頷いた。


「えぇ、是非そうさせてほしいわ。

 私も、貴方に話したいことがあるから」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ