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第一話

周りの様子がどんどんおかしくなっていく第三部、開始いたします!

 お茶会から一週間、契約結婚から三ヶ月。

 あれから変わったことといえば、エリアスの様子がおかしい。

 ……いや、正確に言えばいつにも増して、というのだろうか。

 とにかく、彼の身に何か異変が起きていることは間違いない。

 一緒に朝食を摂っている今だって。


「……」


 完全に食べる手が止まり、ボーッとしている彼に向かって耐えきれず声をかける。


「エリアス、疲れているなら休んだ方が良いわよ?」


 その言葉に、彼はハッとしたような顔をした後、軽く首を横に振ってから言った。


「すまない、大丈夫だ。少し考え事をしていただけで」

「そう? もし辛いのなら朝食は無理にこちらには来ず、自室で摂ると良いわよ」


 そう口にすると、彼は少し間を置いてから言った。


「……それは、俺はここに来ない方が良いという意味か?」

「え?」

「っ、何でもない」


 彼はそう言って、今度は猛スピードで食べ始める。

 変なの、と思いつつも彼の言葉が聞こえていたため返答した。


「そういう意味ではなくて、無理をしてほしくないだけよ。ただでさえ忙しそうなのに、朝食の席が貴方にとって負担になっては元も子もないでしょう?」

「……そういうことか」


 彼はそう呟くと、どこかホッとしたように続けた。


「この時間が負担になることはない。むしろ、君と過ごす時間は不思議と穏やかで、居心地の良い時間だと思っている」

「!」


 そう言いながら何事もなく食べ勧めている彼を見て、逆に私がドギマギとしてしまいながら慌てて口を開いた。


「そ、そう。そういえば、例のお仕事の件は解決したの? 国全体で節電……いえ、光の節約をと騒いでいた件」

「あぁ、あれか。あれは全く解決していない」


 その言葉に、やっぱり、と思わずため息を吐きそうになった。


(公爵邸でも、昼間は廊下の電気を消しているから、そうではないかと思ったのよね)


 そんなことを考えていると、エリアスが口を開いた。


「そういえば、以前夜会でその話が出た時、君は『効率が悪い』というようなことを呟いているのを聞いたんだが、あれはどういう意味だろうか?」

「え!?」


 夜会といえば、今から二ヶ月ほども前のことになる。

 確かに言われてみれば、何となくそう言ったことを思い出したけれど。


「よく覚えていたわね」

「っ、き、君の話はとても興味深い話ばかりだから」

「そ、そうかしら?」


 そんなことは初めて言われたわ、と驚く私に、彼は真剣な眼差しで言った。


「それに、君はいけばなといい物知りだから。もし、何か知っていることがあれば是非教えて欲しい」

「……」


(私の考えが果たして役に立つのかしら? 

 でも、もし役に立ったとしてもそれはそれで面倒なことになりそうな予感……)


 前世の知識を教えるか躊躇している間に、彼が訴える。


「アリス、お願いだ。何か分かることがあったら、教えてくれないか」


 そう切実な目をして言われてしまったら、知らぬ存ぜぬを通せない気がして。


(この人、本当におねだり上手よね……)


 なんて思わず考えてしまいながら、少し息を吐くと口を開いた。


「私の知識が、役に立つとは思えないけれど」

「何か知っていることがあれば、何でも良いから教えて欲しい。こちらとしては藁にもすがる思いでいる」

「……もし私の案が罷り間違えて採用されることがあったら、その時は庇ってね? 

 絶対に私の名前を出さず、あくまで貴方の意見ということにするのなら良いわ」

「!? それはどうしてだ? もし君の案が採用されたら、それは国にとって大きな恩恵にあずかることなのだから、君は名誉ある人物として認識されるんだぞ?」


 そんな彼の言葉に、私は大きく首を横に振って言った。


「言ったでしょう? 私、面倒事は嫌いなの。

 だから、いくら手柄になるからと言われても、表に出るのだけは嫌。

 本当に嫌だから私の名前は絶対に出さないでね?」

「……本当に君は面白いな」

「は?」


 エリアスがそう言って、クスクスと口元に手を当てて笑う。それに思わずムッとしてしまえば、彼は言った。


「普通は、我が我がと前に出て自分の手柄だと言い張るところだぞ?」

「私としては、謙虚でも何でもなく、面倒くさいから巻き込まないでの一択だわ」


 その言葉に、彼は再度笑ってから言った。


「分かった。君がそこまで言うのなら、君が出してくれた案だということは避けて、会議にかけるとしよう」

「まだ私の案を聞いていないのだから期待しないで。話しにくいから」

「あぁ」


 そう彼は頷きつつも、本当に分かっているのかしらと思わず疑ってしまうほど、その氷色の瞳はキラキラと期待に満ちてこちらを見つめているため、言葉を喉に詰まらせながらも、前世の知識をフル活用して話を切り出した。


「私的には、“光”魔法だけに頼るのは非効率……というより大変だと思うの。だから、その分も他の魔法から代用できるのではないかしら」

「代用?」

「たとえば、“火”や“水”。“火”魔力で燃やした時に出る熱を“光”に変えるとか、“水”魔力だったら、“水”を沢山貯水した池のようなものを作って、その水を水車に向かって流す……というのを何かの書物で見たことがあるわ」


 これは、前世でいう火力発電と水力発電のことを言っている。


「他にも、自然から得られるエネルギーを光に変えることも出来た気がするわ。

 たとえば、太陽光とか風とか、そういったものね」


 ソーラーパネルに風力発電。

 それらを思い描きながら口にすると、彼は驚いたように目を丸くして言った。


「それは全部、書物の知識なのか? 少なくとも、俺はそんな書物を見たことがないが」

「そ、そうね、少し遠方の国の本を読んだ時に読んだくらいかしら」

「驚いた。君は本当に物知りなんだな。ちなみに、それらはどういう仕組みなんだ?」


 彼からの質問攻めに、私は思った。


(完全に加減を間違えた……!)


 と。そして、その後悔はまたまた時既に遅く、彼からの怒涛の質問攻めに、半目になりながら答えたのだった。




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