表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

66/160

第三十一話

「本日は素敵なお茶会にお招き頂き、ありがとうございました」


 そうヴィオラ様に微笑みながら礼を述べられ、私も言葉を返す。


「こちらこそ、お忙しい中お越し頂きありがとうございました。

 庭園でのお茶会は、楽しんで頂けたでしょうか?」

「もちろん。皆様と歓談するのも楽しいけれど、何より貴女やエリアス様とこうしてお話ができて良かったわ」

「はい、私もです」


 そう返しながら、隣にいるエリアスをチラリと見やる。


(お話が出来たと言っていたけれど、エリアスと彼女は何を話したのだろう?)


 幼馴染同士だし、何よりエリアスの想い人だった方とのお話だもの、聞くのは無粋よねとそう結論づけると、ヴィオラ様は「それと」と掌を合わせて口を開く。


「先程盗み聞きのようになってしまって悪かったけれど、ミーナ様と“友人”になったのだとか」

「い、いらっしゃったのですか?」

「ごめんなさい。私も会場へ戻ろうとして、偶然耳にしてしまって」


 そう申し訳なさそうに謝る彼女の姿に、首を横に振ってから答える。


「大丈夫です。確かに、ミーナ様とそのお話をしておりましたが、それが何か?」


 その問いかけに対し、彼女は笑みを浮かべて言った。


「私とも、是非お友達になって頂けないかしら?」

「え……」


 その思わぬ言葉に目を見開けば、彼女は笑って言った。


「ただ純粋に、対等でお話が出来るお友達が欲しかったの。この通り、私は次期王妃という立場でしょう? 

 だから、周りからは気を遣われてしまって。

 本当の友人と呼べる人は少ないのよね」


 その言葉に、私は驚く。


(確かに小説内で、ヴィオラは万民から愛され、人気者だったけれど、どちらかというと崇拝されるような立場にいるような人だった)


 彼女の言う通り、次期王妃という立場なら尚更だろう。

 そんなことを考える私に対し、彼女は顔を覗き込むようにして言った。


「どうかしら?」

「か……」

「か?」

「考えておきます」


(だってミーナ様とは違って、彼女の立場もそうだけど、小説内ではヒロインと悪女という敵対関係にいたのよ!? それがいきなり友達なんて)


 そんなことをぐるぐると考えていた私に対し、彼女は「そうよね」と頷くと口にした。


「では、良いお返事を期待することにしておくわ。私も是非、貴女とお友達になれたらと思うのだけど」

「……ヴィオラ嬢、君は何を考えている?」

「エリアス?」


 エリアスの問いかけに、彼女は首を傾げた。


「何のこと? 言ったでしょう? 私は彼女と純粋にお友達になりたいだけだって」

「本当に、それだけなのか?」


(急にどうしたの、エリアス?)


 ヴィオラ様に突っかかるような真似をするとは思わず、彼らを交互に見ていると、ヴィオラ様は肩を竦めて言った。


「疑り深いようですけど、私はあくまで自分がしたいように行動するだけ。

 ……その裏に何かあるのかを疑われているようだけど、私は個人的に彼女と仲良くしたいだけであって、それをどうこうしようなどと考えていないわ」

「……いまいち信用できないが、まあ、そういうことにしておこう」

「お分かり頂けたようで何よりよ。

 では、アリス様、エリアス様、ごきげんよう」


 そう言って彼女は流れるような動作で淑女の礼をすると、踵を返した。

 その後ろ姿を見送っていると。


「……君は、やはり色々な人から興味を持たれる存在のようだ」

「エリアス……、っ!」


 不意に後ろから腕が回る。それによって、背の高い彼にまるで包み込まれているようなそんな感じまでして。

 驚いてその手を振り払うことも出来ず固まっている私に、彼は続けた。


「気をつけてほしい。君が友人となるかどうかは分からないが、特にヴィオラに対しては気を許さない方が良い」

「ど、どうして……」

「彼女は勘が鋭い。君の秘密も、もしかしたらバレる……、いや、もうバレているかもしれないからな」

「!!」


 その秘密というのはつまり、この“癒しの力”のことを指しているのだろう。

 思わず黙り込む私の身体から、彼の温もりが離れる。

 そして、私の肩に手を置いて身体を反転させると、向かい合わせになるようにして言った。


「でも、だからと言って君の行動を縛るわけではない。リンデル夫人のように、友達となりたいと言ってくれる人は、君の心の支えにも、また強い味方ともなるだろう。

 ……だから俺は何度も言うようだが、そんな君を守りたいと思う」

「……!」


 そう言って彼は、私の頭を撫でて言った。


「ヴィオラ嬢のことも自分で決めると良い。嫌だったら嫌だと言えば、彼女も身を引くだろうから」

「っ、エ、エリアスは」

「?」


 彼が首を傾げる。私はそんな彼に向かって咄嗟に口にした。


「彼女の、ヴィオラ様の味方をしないの……?」

「!」


 エリアスが目を見開く。それを見て、ハッとした。


(わ、私、また何をっ)


「それも何度も言うようだが」

「!?」


 今度は両頬を優しく大きな手に包まれる。

 そして、彼は目線を合わせるとその質問に答えた。


「俺は君の味方だ。誰より何より、君の味方であり続けること。それこそが、今の俺が君に出来る一番のことだと思うから」

「!」

「そして」


 彼は私の髪を自然に取り、口付けを落とす。

 そして、微笑みを浮かべて言った。


「君の“心からの信頼”を勝ち得たいと、そう願っている」

「……っ」


 その言動に、不覚にも顔に熱が集中するのが分かって。

 そんな私を見て、彼は満足げに笑うと、スルッと口付けた髪から手を離して言った。


「仕事に戻る」


 その言葉に対して返事をする間もなく、彼は踵を返して行ってしまう。

 その背中を呆然と見つめていると。


「アリス〜!」

「!」


 ポンッと光の中から現れたのは、以前いけばなを持って行った橙色の花の妖精だった。

 その妖精に声をかけられる。


「アリス、きょうもおはないけてたでしょ? すこしのあいだもっていってもいーい?」

「え、えぇ。良いわ」

「わーい! ありがと〜」


 そういうと、会場の中央に飾っていたいけばな2つが、目の前で消える。


(……きっと、例の女性に持って行ったのよね)


 そう考え、どこまでも広がる青空を見上げる。


(アリスとして転生して、エリアスと契約結婚してこのお屋敷に来て。

 予想外のことばかりで頭がついていかない)


 特に……。


『君の“心からの信頼”を勝ち得たいと、そう願っている』


 そんなことを言ってくれる彼の言動には振り回されてばかりだ。


(魔法より何より、彼のことになると戸惑ってしまう)


「……私、これから先どうすれば良いのかしら」


 ポツリと呟いた言葉は、どこからともなく流れてきた花弁と共に風にさらわれていったのだった。

次回、第二部最終回です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ