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第三十話

 ミーナ様から礼を述べられ、私は気になっていたことを口にする。


「ミーナ様は、元は平民でいらっしゃったのですか?」


 その言葉に、彼女は小さく頷いて答える。


「はい。私は商家の娘であり、父がお金で男爵位を買ったのですわ。成り上がり貴族だからと、平民と貴族どちらの輪にいても何となく浮いてしまって……、休み時間の殆どを妖精とデザインの絵を描いて学園時代を過ごしていたところに、ファビアンが現れて意気投合、というよりはアプローチを受けたという感じで」

「まあ、そうだったのですね」


 私の言葉にミーナ様は頷き、苦笑いを浮かべて口にした。


「“プチット・フェ”を設立するときも、ここだけの話随分家同士で揉めたのですわ。でも、お店を持つことは私とファビアンにとって幼い頃からの夢でしたから、もしこのまま反対されるようだったら駆け落ちをしようかとも話していたんです」

「!? そ、そうなんですか?」

「えぇ。ですが、そこに口添えを頂いたのが他ならないロディン様でしたの。おかげで無事に、両親から承諾を得られたのですわ」

「エリアスが……」


 そう言ってエリアスを見やれば、彼は気恥ずかしいのかそっぽを向いている。


(だから以前、ミーナ様が“エリアス様に救われた”的なことを言っていたのね)


 それから、ミーナ様は笑みを浮かべて言った。


「そして今度は、アリス様にも助けて頂きました」

「い、いえ、それを言うならエリアスの方ですわよね?」


 そう尋ねると、黙っていたエリアスが口を開いた。


「いや、止めに入ったのはアリスだろう。アリスが先に出ていなければ、俺がその女性達の輪に止めに入る事はできなかっただろうしな」


 つまり、エリアスは私がいたから止めに入ったということになる。


(確かに、エリアスがもし先に庇っていたら、今度はミーナ様との間に変な噂がたってもおかしくないものね……)


 考えが行き着いた私に、ミーナ様は少し下を向くと言った。


「私の妖精の力を知っている方からこういうことを言われるのは結構あったのですが、今まで庇ってくださった方はファビアン以外にいなかったものですから、本当に嬉しくて。

 アリス様、ロディン様、ありがとうございました」

「い、いえ、そんな。勝手に私が腹が立って前に出てしまっただけですわ。……本性も分かりましたし、あの方々とは二度とお近付きになりたくないと思います」

「ふふ、同感です」


 そう答えながら、彼女は言葉を続けた。


「でも本当に、アリス様とロディン様はお似合いの夫婦ですね」

「「!?」」


 私達がその言葉に思わず顔を見合わせると、彼女はクスッと笑って言った。


「私をお二人して庇って頂いたこともそうですが……、こう言ってはなんですけれど、ロディン様はアリス様を大切に想われているんだなと、そう思いました」

「……っ」


 その言葉に、エリアスが赤くなる。

 そんな私の視線を受けた彼は、咳払いをしてそっぽを向いた。


「け、結婚しているからな」

「あらあら」


 そんな彼に対し、ミーナ様はクスクスと笑うと、私に向かって言った。


「アリス様」

「何でしょう?」


 少し畏まったような口調に、私が思わず居住まいを正すと、彼女は少し間を置いて口にした。


「もしよろしければ、私とお友達になって頂けないでしょうか?」

「……!?」


 その言葉に驚き目を見開けば、彼女は慌てたように言った。


「お、お嫌でしたら無理なさらなくて良いのです。アリス様ともしお友達になれたら、それは本当に光栄なことだろうと、以前から思っておりましたの」

「……」

「ダメ、でしょうか?」


 ミーナ様の言葉に、私は口を噤んでしまう。

 恐る恐る尋ねてくれた彼女に対し、エリアスは口を開いた。


「アリスが困っているから、返事は待ってほしい」

「そ、そうですわよね、申し訳ございません、いきなりこんなことを」

「ち、違うんです!!」

「「!?」」


 ミーナ様の言葉を遮るように、私が口を開くと、思ったより大声が出てしまったらしく、彼らは目を丸くする。

 それに私もハッとして、声を小さくして口を開いた。


「その……、そんなことを言われたのは、初めてなので、驚いてしまって」

「「!?」」


 それに対し、これ以上ないほど更に目を丸くする彼女達に向かって、私は慌てて付け加えた。


「わ、私はこの通り、万年引きこもりと言いますか、とにかく夜会にすら出たことがなかったので、その……、お恥ずかしいことに、お友達なんて、いたことがなくて」


 言葉通り、悪女であるアリスには友人などいなかった。

 そしてそれは、転生する前、私の前世でも同じことを言える。

 施設育ちということもあって、自分より幼い子のお世話をするとかは当たり前のようにしていたけど、とにかく人付き合いとかそういうことが苦手だった私に、友達がいたことなどなかった。だから、余計に戸惑ってしまったのだ。


(まさか、友達になって下さいなんて言われるとは思わなかったもの!)


 そう思い、彼女達を見遣って、え、と今度は私が驚いてしまう。

 それは、ミーナ様が(見間違いでなければ)目をキラキラとさせてこちらを見て指先を組んでおり、対して私の隣にいるエリアスは、なぜか耳を真っ赤にして目元を覆い、天を仰いでいた。


(ど、どういう状況??)


 一気に頭の中が疑問符を駆け巡る私に対し、ミーナ様は口を開いた。


「ロ、ロディン様!? 薄々気付いておりましたけれど、アリス様は天使なのではなくて?」

「……全くだ」

「はい??」


 何を言っているんだろう、と二人の会話についていけず、首をかしげる私に対し、ミーナ様は笑って言った。


「こちらの話ですわ。アリス様は気にしないで下さいませ」

「は、はぁ」


 気にしないでと言われたら変に追及しない方が良いだろう。

 そう結論付けた私に対し、ミーナ様はもう一度私に問いかけた。


「友達というのは、そうですわね、普通はこういうふうに面と向かって言うことはあまりないかもしれないですわね。ですけれど……」

「!」


 そう言って、彼女は私の目の前に手を差し伸べた。

 そして、そのまま彼女は微笑み口にした。


「お茶会までした仲ですもの、私は是非、アリス様と正式にお友達になりたいですわ」

「……!」 


 その言葉に戸惑い、思わずエリアスを見上げる。

 すると、彼は少し笑って言った。


「君は、“自分で考えすぎるのはやめた”と、以前言っていただろう? だから今回も、自分で決めれば良い。素直に、彼女と友達になりたいかを」

「ミーナ様と……」


 そう呟き、彼女の方を見ると、ミーナ様は微笑みこちらを見ていた。

 そんな彼女に対して、私も誠実に答えなければと口を開く。


「……私、未だに友達がどういったものだとか、そういうのが全く分からないのですが、その……、こんな私でも、お友達になって頂けますか?」

「「!」」


 二人が息を呑んだのが分かる。

 そして、ミーナ様は恐る恐る尋ねた私の手を取ると、笑顔で頷いた。


「もちろんですわ!」

「……!」


 友達。

 その単語に、何だか心が温かくなるような、こそばゆいような、そんな気がして。


(今まで友達とか、正直煩わしいし、面倒くさいだけだと思っていた)


 けれど、今は。

 私は自然とこぼれ出た笑みをそのままに、言葉に思いをのせて言った。


「ありがとうございます、ミーナ様。これからよろしくお願いいたしますわ」

「……っ、か」

「か?」


 急に下を向き、繋がれた手が震え出した、かと思うと。


「可愛いですわぁっ!」

「「!?」」


 ミーナ様がそう叫び、私は気が付けば抱きつかれてしまっていた。


「ミ、ミーナ様!?」

「あら、ごめんなさい、つい。ロディン様も、ごめんなさいね?」

「な、なぜ俺に謝るんだ!?」


 話を振られたエリアスが困ったように、そしてなぜかまだ顔を赤らめてそう口にすると。


「アリス〜!」

「わ〜! ミーナとなかよしだ〜!」

「アリス様、ごきげんよう。ミーナと仲良くしてくださってありがとうございますわ」


 そう言って次々と光の中から現れたのは、花の妖精達とミーナ様のデザインの妖精だった。

 特に花の妖精達は、私達の頭上をクルクルと回り、「めでた〜い!」と口にしながら、花の雨を降らす。

 そんな彼らに、私とミーナ様は互いに顔を見合わせ、照れ交じりに笑ったのだった。

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