第二十六話
後書きにて、作者よりお知らせがあります!
ヴィオラ様とミーナ様とお茶をした後は、各テーブルを順に回った。
どの方も気さくで会話が弾み、話題に尽きることなく話をしていた。
ある会話では庭園の話を。
「庭園が本当に素敵ですわね。確か、庭師の方はお花の祝福を得られているのだとか」
「えぇ。ただし、彼は本当にお花が好きなので、祝福の力に頼らずに花の手入れをしているところが尊敬出来ますわ」
「まあ! それは素敵ですわね」
また、ある会話ではいけばなの話を。
「あの独特で不思議な魅力を持つ生け方は、いけばなと仰るのですね。見たことも聞いたこともないですが、どなたに学ばれたのですか?」
「名前を忘れてしまいましたが、とある異国の書物で知識を得て独学で勉強しました」
「独学で!? 凄いですね。今度学ばせて頂こうかしら」
「はい、是非!」
あるいは。
「ガーデンパーティーなのに、どうしてキャンドルを?」
その問いかけに、私は笑みを浮かべる。
「そのキャンドルに鼻を近付けてみてください」
「こ、こうかしら?」
そう尋ねてきた女性と同じように、皆も一人一人目の前に置かれたキャンドルに顔を近付け、声を上げる。
「あら、良い香りがするわ」
「アロマキャンドルかしら?」
その言葉に、笑みを浮かべて頷く。
「はい。このアロマキャンドルは特注で作らせたもので、香りにこだわったものです。
皆様にリラックスして頂きたいと、“癒しの効果”を得られるよう、数種類の花の香りをブレンドしております」
その言葉に、彼女達からほぅっとため息が漏れる。
「確かに、心が落ち着きますわ」
「疲れが取れる気がいたします」
「それは何よりです」
このアロマキャンドルこそ、私が真夜中必死になって魔法を習得した努力の結晶である。
(既存のアロマキャンドルに、“癒しの力”をほんの少しだけど足してみたのよね)
五感の内の嗅覚は、香り次第でリラックス効果を得られると知っていたから、そんな花の香りに加えて癒しの力をほんの少し混ぜてみたら、更に効果が上がるのではないかと思い実験してみたのだ。
その結果、昼間の明るい時間にキャンドルを灯すというイレギュラーな感じにはなってしまったものの、お陰で香りが良く、参加者から評判だった。
(せっかくだもの、一味違ったお茶会も悪くないわよね)
そう思い、次のテーブルに向かうと。
「「「……」」」
そこには、沈黙を貫いている三人の見知った女性達の姿があった。
そんな女性達に向かって声をかける。
「ごきげんよう、皆様」
そう声をかければ、ハッとしたように彼女達がこちらを見上げる。
それは、夜会で私を罵倒した方々だった。
その内の一人、バシュレ伯爵家のフェリシー様が、これ以上ないほど目を見開いた……と思ったら。
「先日は、大変無礼なことをいたしまして申し訳ございませんでしたっ!!」
「!?」
突如そう謝罪の言葉を口にしたかと思うと、椅子から滑り降りるように綺麗に土下座した。
そして、他の二人も同様に土下座をする。
「え、ちょ、待っ……」
他のテーブルに着いている方々も、何事かとこちらに視線を向け始める。
(完全にこれでは私が悪役だわ! いくら何でも、こんな弱いものいじめをしているような悪女になることは望んでいない)
と青褪める私をよそに、フェリシー様は言葉を続ける。
「あの時の私は私でなかったというかそんなのどう信じろという話ですけどとにかく言い訳に聞こえるかもしれませんが私の意志ではなかったのです!」
「あ、あの、どうか落ち着いて」
息継ぎなしでそう訴える彼女に対し、引き攣った笑みを浮かべてそう口にするけれど、その言葉を遮るように他の二人も言葉を続けた。
「わ、私は完全にアリス様に対して嫉妬してしまいました! 申し訳ございません!」
「私も同じく、アリス様が羨ましくて嫌味を吐いてしまいました! 本当に申し訳ございませんでした! もう二度と致しませんんん」
「あ、あの、本当に顔をお上げになって……」
でないと私、完全に悪役だから!(2回目)
と背中を冷や汗が流れる私をよそに、更にフェリシー様は言葉を続けた。
「私も決して二度と嫌がらせなどそんな愚かで滑稽で馬鹿な真似はしないとお約束いたします! ですからどうかお許しください……!」
(〜〜〜あぁ、もう!)
私は深く息を吸うと……、庭園に響くくらいの大きな声を上げた。
「皆様、どうかお顔をお上げになって! 私のために、わざわざお膝をついてまでそんなことをしてくださらなくてもよろしいのです!」
「「「え……?」」」
それまで土下座していた三人がやっと顔を上げる。
そんな三人に続き、私も膝をつかないようその場にしゃがむと、三人に向かってにっこりと笑みを浮かべて続けた。
「ありがとうございます! おかげさまで私の大事な形見であるブレスレットが見つかりましたわ!」
「「「??」」」
全くの嘘をつらつらと並べ、その場を乗り切ろうと演じ続ける。
「この形見は、本当に大切なものでしたの。亡きお母様から戴いた唯一の品で……、そんなブレスレットを、お召し物を汚してまで一緒になって探して下さって本当にありがたいですわ。というわけでその感謝の意味も込めて、お着替えを別室にご用意しておりますので、そちらへどうぞ。ララ、案内をお願い」
「かしこまりました」
「「「え!?」」」
そこまでしてようやく、三人が状況を把握したように息を呑む。
そんな三人に対し、私は笑みの中に無言の圧をかけ、それを見て押し黙ってしまった彼女達をララが屋敷へと連れて行ってくれる。
その姿を見届けていると、ヒソヒソと会話が聞こえてきた。
「喧嘩かと思いましたが、そうではないようですわね」
「えぇ。アリス様の大事なお母様の形見であるブレスレットを一緒に探されたのだとか」
「お優しい方々ですわね」
そんな声が聞こえてきて、ホッと息を吐く。
(良かった。何とか面倒なことにならずに済んだ……)
いくらエリアスから門前払いをくらっていたとはいえ、謝罪するならもう少し時と場所を考えてよね! と内心怒りを覚えつつ、一気にドッと疲れを感じた私は、とりあえず挨拶回りを休憩してヴィオラ様達の元へと戻った。
「お疲れ様です、アリス様」
「何か騒ぎがあったようだけれど、大丈夫なのかしら?」
ミーナ様に続いたヴィオラ様の言葉に、私は笑みを浮かべて口にする。
「大丈夫です、大したことはありませんでしたから」
「そうなのね」
ヴィオラ様の言葉に頷くと、彼女は安心したように紅茶に手をつける。
そして、今度はミーナ様が口を開いた。
「そうそう! 今ヴィオラ様とお話をしていたのですけれど、もう少しで花祭りですわね!」
「花祭り……」
そう呟いた後、あ、と声を上げる。
花祭り。それは、建国祭のことである。
(もうそんな時期なのね……)
「今年の花祭りから、私も殿下とご一緒に城のバルコニーから民の前で挨拶をすることになっているの」
「ちなみに、衣装は私共がデザインしたものですわ!」
ヴィオラ様とミーナ様の言葉に、私は笑みを浮かべて返した。
「そうなのですね! それは是非伺いたいです。エリアスに頼んでみますね」
「えぇ、是非。ドレスも素敵だから、観に来て下さったら嬉しいわ」
そう言ってふわりと笑うその笑みは、本当に綺麗で。
(……あぁ、これがエリアスの好きなヴィオラ様の表情なのね。こんな表情を浮かべられたら、アリスが勝てるはずがないわよ)
建国祭、別名花祭り。
それは、年に一度の記念祭であり、そして、アリスの自害したとされる彼女の命日でもあるのだ。
(彼女が本当にその時に亡くなったかは分からないけれど、でも、前世持ちの私からしたら、花祭りはアリスの印象が強い)
とは言っても、花祭りはその名の通りお花がモチーフの祭典。
花々が朝から晩まで街を彩る、老若男女問わず楽しめるお祭りと評されているのだ。
(せっかくの大好きなお花のお祭りだもの、楽しまなければね)
そんなことを考えながら、その間にも続いている二人の会話を聞いていると。
「お話中失礼致します」
そう声をかけられ顔を上げれば、そこにはララの姿があって。
ミーナ様とヴィオラ様に断りを入れて席を立つと、ララに向かって小声で尋ねた。
「何かあったの?」
「いえ、それが……、バシュレ様が二人きりでお話をしたいと、仰っていまして」
「フェリシー様が?」
私の言葉に、ララが困った顔で頷き言葉を続ける。
「何度もお断りをしたのですが、どうしてもと仰っていまして。とりあえずアリス様にお伺いしてからということで、今は落ち着いているのですが……」
「彼女は今どちらに?」
「お着替えを済まされて応接室にいらっしゃいます」
「分かったわ」
ララに向かって頷くと、ミーナ様とヴィオラ様に「少し席を外します」と声をかけ、ララと共にフェリシー様が待つという応接室へと向かったのだった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
そして、作者よりお知らせです。
この度、こちらの作品の書籍化&コミカライズが決定致しました…!!
皆様の応援のおかげです!本当にありがとうございます…!
レーベルなどの情報は公開になり次第、随時お知らせさせて頂きたいと思いますので、引き続き楽しんでお読み頂けたら幸いです。
これからもどうぞよろしくお願いいたします!!
2023.2.23.