第十七話
ソールの言っていたことは気になるものの、お茶会の日は待ってはくれない。
お茶会の準備で私に出来ることをまずは整理しながら書き出してみることにした。
「スイーツは任せて欲しいと言われているから料理人と侍従達に任せるとして、私が担当すべきことは、やはり会場のセッティングと幽霊屋敷払拭のための屋敷の改造計画よね」
丁度この前、リオネルさんから剣山の試作品が送られてきた。
試作品の段階で、私が知っている剣山よりも重さが軽く仕上がっていたため、もう少し土台を重く出来ないかという依頼と、出来れば三週間後までに同じ物を数個作成して欲しいという不躾な要望を出すと、リオネルさんは快く承諾してくれた。
「決して妥協をしないと彼は言ってくれていたけど、本当にその通りで安心してお任せできるわ」
こうしてみると、ミーナ様にファビアン様、リオネルさんとエリアスの友人は本当に良い方ばかりね。
「何だかんだ言って、エリアスも周りに恵まれているじゃない。……私と違って羨ましいわ」
そう呟いてからハッとする。
(ダメダメ、弱気になんてならない。私はあの頃とは違うの。私は、今は悪役令嬢なのよ)
そう弱音を吐きそうになる自分を叱咤し、軽く頬を叩くと気持ちを切り替える。
「そう、今考えるべきことはお茶会のこと。
剣山はリオネルさんに任せるとして、いけばなは玄関や会場のスペースに設置、ガーデンテーブルやチェアはお客様の数によって設置する数を決めてから、クレールに報告して相談しなくては」
それから、他にも何か特別なことが出来ると良いのだけど……。
「「「アリス〜!」」」
「!」
私の目の前で光が弾ける。
それを見て驚く私の周りを、今日は赤、黄、青の前世で言う信号と同じ色の三人の妖精が現れた。
そんな彼らの姿を見て、私は自然と笑みが溢れる。
「こんにちは、妖精さん達」
「こんにちは!」
「あそびにきたよ!」
赤と黄の妖精が元気にそう口にしたのに対し、青の妖精が心配そうに私に尋ねた。
「アリス、なんかげんきない?」
「!」
まるで子供のようだと思っていた花の妖精に、まさか見破られるとは思わず、一拍遅れて返事をする。
「え、あ、そうね。少し疲れてしまったのかしら」
嘘を吐くのも何となく違う気がしてそう素直に口にすると、彼らは顔を見合わせる。
「アリス、げんきないのかなしい」
「どうしたら、げんきになる?」
そう困ったように首を傾げる彼らに対し、気にしないで、と声をかけようとした瞬間、今度は赤の妖精が言葉を発した。
「まほう、わけてあげたらげんきになるかも!」
「え?」
「「それがいい!」」
「魔法!?」
私が状況を飲み込み声を上げるのと、彼らが先端に花が施されているステッキを取り出したのは同時だった。
固まる私をよそに、彼らはステッキを一振りしてから私に向かって呪文を唱える。
「「「えいっ!」」」
「!?」
呪文がまさかの「えいっ!」に現実逃避のため突っ込みたくなったのも束の間、私の周りを赤と黄と青の淡い光が円を描くように私の周りに降り注ぐ。
そして、最後に私の手の甲に花の印が現れたかと思ったら。
「消えた……?」
「ふせいかい!」
「せいかくには、みえなくなったんだよ〜」
「つまり、アリスはわたしたちからしゅくふくされたよ!」
そう言った赤色の花の妖精の言葉に、驚愕に目を見開き震える声で反芻する。
「しゅ……、祝福って言った!?」
「うん! アリスは、きょうからおはなのしゅくふくのちからがつかえるよ!」
「そ、そんな……っ!!」
信じられない思いで自分の掌を見つめる。
それを見た花の妖精達が口々に言葉を発する。
「アリス、きにいらない?」
「わたしたち、ひょっとしてよけーなことしちゃった……!?」
「どーしよ! クレールにおこられる!!」
わーん、と泣き出す彼らに、私はパニック状態のまま慌ててブンブンと首を横に振る。
「だ、だだだ大丈夫! 少し混乱してるだけで……っ」
「ア、アリスぜんぜんだいじょーぶじゃない!」
「やっぱりクレールにおこられる〜!」
「クレールとは、ちがうまほうなのにぃ!」
「!? クレールとは、違う……?」
同じ花の妖精の祝福の力なのに、それはどういうこと? とついていかない頭を必死に動かしている私に、彼らは慌てて告げる。
「お、おはなのまほうには、しゅるいがあるの〜」
「かんたんにゆーと、クレールにはおはなをそだてるまほうで」
「アリスには、めがみさまとおなじ、おはなのいやしのちからなの〜」
「……女神、様? 癒し……?」
「「「そー!!」」」
口を揃えて肯定した彼らに対し、私はより一層ズキズキと頭が痛くなる。
(ちょ、ちょっと待って?? 癒しの力? 女神様って……)
「ちなみに、いやしのちからをひとにあげたのははじめてー!」
「ねー!」
褒めて褒めて、と言わんばかりにキラキラという瞳を向けられて、怒ることなんて出来ず、私は何とか作り笑いを浮かべて言った。
「あ、ありが、とう……?」
「「「どーいたしましてー!」」」
「でも聞きたいのだけど、ど、どうしてそんな力を、私に……?」
回らない頭で何とかそう尋ねると、彼らは顔を見合わせて口々に言った。
「アリスには、ここにきたときからおはなのしゅくふくのちから、あげたかった」
「いけばなをみせてくれたし、おはながとってもだいすきなの、めをみてわかった」
「だけどアリス、まほうはすきだけど、じぶんでつかうことをのぞんでいなさそうだったから、よーすみてた」
「それで、アリスにはきょうひつようだって思ったの! めがみさまにもたのまれたし!」
「め、女神様に……」
彼らの口から何度も飛び出てくる女神様という単語は、聞き間違いであってほしいという私の願いを尽く打ち砕くもので。
(小説内でアリスの魔力は皆無だったはず。祝福の力だって、もちろんなかったはずなのに……、転生した私が与えられた? それも、女神様と同じ力って……、えぇ……)
ありえない現実、信じたくない現実を突きつけられ、後戻りが出来ないところまで来てしまったことをじわじわと自覚していく。
そんな私をよそに、彼らは先程の戸惑いはどこへやら、元気に口を開いた。
「じゃ、さっそくみんなにほーこくしよ!」
「クレールにも!」
「ちょ、ちょっと待って!!!」
部屋の外へ出て行こうとした彼らを、慌てて止める。
そんな私の制止の声に振り返った彼らを見て、私は息を吸うと意を決して口を開いた。
「あの、お願いがあるのだけど」
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ついに祝福の力を手に入れたアリス、彼女の紡ぐ物語をこれからも見守って頂けたら幸いです…!