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第一話

第二部連載開始いたします!

登場人物設定は明日以降に更新いたします。


 王家主催の夜会。


 それは、前世の小説『永遠の愛を、魔法に込めて』に描かれていた、正真正銘小説の舞台である。

 この夜会は、次期国王であるエドワールが主催の大々的なもので、次期王妃であるヒロイン・ヴィオラのお披露目も兼ねた夜会となっている。

 余程の事情がない限り全貴族が参加を義務付けられており、小説中では、エリアスと結婚したアリスがド派手な衣装を着て、初めてヴィオラに喧嘩を売るという問題行動を起こしたことで有名なイベントだ。


(……まあ、私が転生したからにはもうそんな馬鹿な真似はしないけれど)


 面倒くさいもの、と小さく嘆息し、喉を潤すためワインを煽ると、隣にいたエリアス様が小声で言った。


「今夜は絶対に俺の側を離れないでくれ」


 その言葉に、私は扇子で口元を隠し、苛立ちを隠さず口にする。


「分かりましたと言っているでしょう! 何度仰れば気が済むのです」

「君は一瞬で迷子になりそうだからな」

「失礼ですわね。元より貴方のお側を離れるつもりはございませんわ」


 私はそう言って、扇子で隠しながらチラリと周りに目を向けると嘆息した。


(好奇の目に晒されるとは、こういうことを言うのね)


 特に、この人の隣にいる私について、あるいは、エリアス様のことを噂している、または、このドレスが“プチット・フェ”だと気付いて話している、の内のいずれかでしょう。


(嫉妬、妬み、怒り……、誰一人味方がいないことは確かなようね)


 息を吐くと、私は口を開いた。


「エリアス様」

「何だ?」

「今宵の夜会、売られた喧嘩は買ってもよろしいでしょうか?」


 その言葉に、彼はフッと笑うと遠い目をして言った。


「……ほどほどにしてくれ」

「心得ておりますわ」

「どの口が言ってるんだか」


 エリアス様の言葉に、私はあら、と扇子の中で笑みを浮かべて言った。


「私は貴方のために、喧嘩を買おうとしているのですよ? ミーナ様に教えていただいた、貴方の敵と思われる方は全て把握しておりますから」

「全て!?」

「えぇ」


 私はにっこりと笑うと、彼に見えるようにだけ扇子を外し、笑みを浮かべたまま言った。


「ご安心くださいませ。目にものを見せてやりますわ」

「……頼むから大人しくしていてくれ」

「味方を増やしてから仰ってくださいな」


 容赦なく放った言葉にグッと喉を詰まらせた彼を横目で見て思う。


(彼に味方が少ないのも無理はない。人間不信に陥ったのは他でもない両親のせいなんだもの。

 だからせめて)


「まあ、私は貴方の味方ですけどね」

「え?」


 私は彼を見上げると、胸を張って言った。


「だから今日は、守られるのではなく私がお守りいたしますわ!(ビジネスパートナーとして)」


 そう告げると、彼は私の言葉に笑って言った。


「それは頼もしい。期待しておく」

「はい!」

「ただし、無茶はしないように」

「もちろんですわ。大船に乗ったつもりでお任せくださいませ」

「……やはり不安だから離れないようにしよう」


 最後の一言は聞こえなかったことにして差し上げましょう。


「ところで、気になっていたのですけど」


 そう言って辺りを見回してから、私は首を傾げた。


「何だか少し、会場全体の照明が暗くはありません?」


 王家の夜会というのだから、もっとこう、眩しいくらいに明るくて豪華!という感じを予想していたけれど、天井に吊るされているシャンデリアは、一つ置きに明かりが灯されていないし、申し訳程度に配置された蝋燭も目に付き、思わずそう口にすると、彼はあぁ、とそれらに目を向けて言った。


「それについては、エドワールから話があると思う」

「殿下から?」


 そんな描写なんてあったかしら、と驚いていると、会場内が一瞬にして静まり返った。

 彼らの視線の先、壇上を見て、私も思わず息を呑む。

 そこにいたのは。


「……ヴィオラ様」


 エドワールにエスコートされながら壇上に姿を現したのは、紛れもない小説の主人公、ヴィオラだった。


 ヴィオラ・ノルディーン。

 侯爵家の長女として生まれた彼女は、全てにおいて恵まれていた。

 光魔法を司るノルディーン家の中でも魔力の才はずば抜けている。その理由は、光の妖精から愛されているからだ。

 元々血統で受け継がれる魔法使いの中で、且つ同属性の妖精からも祝福の力を得ている魔法使いは極めて少ない。その因果関係は証明されていないが、少数派の中に彼女がいることに間違いはないのだ。


(だから彼女は、ただの血筋だけでなく妖精からも愛されている)


 つまり、氷属性の力を持ち、風属性の妖精から祝福されているエリアスと似たような方だ。

 そして何より、彼女には存在感がある。


(主人公補正なのかしら)


 そう思ってしまうくらい、“プチット・フェ”の清楚なドレスを身に纏い神々しくも見える彼女は、まさにヒロインであり、次期王妃に相応しい人物なのだろう。


(そして彼女と殿下は、流行りのペアルックというわけね)


 殿下は白地の衣装に金糸の飾緒と豪奢な刺繍が施され、対するヴィオラは、清楚なAラインドレスに、淡い金色のドレスに同じく金糸の刺繍が施されている。

 そんなお二人を見て、確かに前世の小説の巻の表紙になっていた姿だということを思い出す。


(こちらはシナリオ通りというわけね)


 一つ一つ、記憶の中にある小説と今を照らし合わさなければ、と目を凝らしていると、ふと隣にいたエリアス様のことが気になり見上げる。

 すると彼は、私の視線には気付かずじっと壇上の方を見ていた。

 その視線は、間違いなくヴィオラに向けられているものだろう。


(……彼は一体、今その瞳の奥で何を考えているのかしら)


 この前お話しした感じだと、彼女に対しての未練というものはあまりない印象を受けたけれど、真意は分からない。

 今はそっとしておきましょう、と結論付け、もう一度舞台に視線を戻す。

 すると、主催者であるエドワール殿下が口を開いた。


「本日はお集まりいただきありがとうございます」


 丁寧な口調で物腰柔らかに話すその姿は、一見王太子としては頼りなくも見えるが。

 

(本来の姿ではないのよね)


 それはさておき。


「エドワール殿下のお声はよく通りますのね」


 壇上から距離があるというのに、はっきりと聞こえるその声に驚けば、彼はあぁ、と口にして言った。


「大勢の前で話す時は、大抵魔法を使っている。王族の場合は、自らその魔法を使えるそうだ」

「そうなのですね」


 ここでも魔法、と納得した。


(つまり前世で言うと拡声器のような感じかしら?)


 科学の世界の前世からしたら、こちらの世界のことには驚いてばかりだわ、と魔法も便利だということを改めて認識していると、隣にいた彼が笑い出す。


「なぜ笑っていらっしゃるのです?」

「いや、本当に君は見ていて飽きないなと」

「……良い加減飽きてくださいませ」


 すぐそうやって子供扱いするんだから、と膨れている間にも殿下の挨拶は続き、ある話題に移った。


「私の婚約者であるノルディーン侯爵家を筆頭に供給している“光”について、近年それらが不足していることが問題になっているのは、皆様ご存知でしょうか」


 その言葉に、私は小説の内容を思い出してハッとした。


(そうか、そういえば科学のないこの世界では、“光”魔法を司るノルディーン家を筆頭にした魔法使い達による魔力で、電気の代わりに光が供給されているのだわ)


 電気という概念がない世界で、ヴィオラ様を含めた光魔法の一族が司る“光”。

 それらをエネルギー源として、前世で言う電気の代わりに国内で供給されているのだ。

 今の今まで忘れていた設定だったけれど、確かにその描写も、実際に光不足が深刻化しているということも描かれていた。

 また、当時読んでいて思っていたことがある。それは。


「……何て効率が悪いのかしら」

「?」


 そんな私の呟きにエリアス様が首を傾げていることには気が付かず、私は続く殿下の話に耳を傾ける。


「“光”が不足し、より深刻な状況になる前に、まずは皆様に節約をお願いしたいと存じます」


 その言葉に、隣にいた彼女が歩み出て口にする。


「ノルディーン家代表として、私からも宜しくお願い申し上げます」


 初めて聞くその凛とした、それでいて透明感のある綺麗な声に、会場内が柔らかな空気に包まれ、ヒソヒソと話し声が聞こえてくる。


「やはりヴィオラ様は素敵ですわ」

「次期王妃殿下に相応しい」


(さすがはヒロインのヴィオラ。人気者ね)


 エリアスの心さえも掴んだ、万人から愛される魅力を持つ女性。

 それがヴィオラ・ノルディーン、この世界の物語の主人公なのだ。


 そうして彼らの挨拶と、彼らに対する周りの反応とを見て、エドワールとヴィオラ、この物語の世界で二人が主役だということを改めて思い知らされた気がしたのだった。

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