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コミックス第二巻6/30発売記念SS-心臓に悪い時間

ご無沙汰しております。

時系列は夜会前のとある日、今回はアリス視点でお送りします♪

そして、あとがきにてお知らせがあります!

「アリス!」

「! エリアス様」


 侍女のララを連れ、庭師のクレールと談笑しながら庭園でお花を見ていたところで、エリアス様が慌てたように走ってくる。

 お花を見るためにその場にしゃがみこんでいた私は立ち上がると、軽く服の裾を整えながら、エリアス様に向かって尋ねた。


「そんなに慌ててどうされたのですか? 私に何かご用事が?」


 特に何も聞いていなかったけれど、と首を傾げると、エリアス様が困ったように言った。


「いや、先ほどアリスが受けているダンスレッスンに俺も参加しようと思っていたのだが、アリスが完璧すぎて教えることが何もないと教育係から報告を受けて」


 そう、エリアス様の言う通り、私は夜会の準備の一環として、彼に頼んで夜会までの間、教育係を付けてもらっている。

 侯爵家で教わったことはアリスの頭にきちんと入っていたけれど、マナーやダンスといった実技は、アリス自身があまり経験のないことで少々不安があったため、念のためそちらを重点的に見てもらうよう計画を立てたのだけれど……。


「一通りダンスを躍ったら絶賛してくださって、大丈夫だとお墨付きをいただいたので、予定より早く終わったのです。

 エリアス様がいらっしゃることを知らなくて……、ごめんなさい」

「いや、君が謝るようなことは何も。むしろ、褒められたのなら喜ばしいことだ。

 ……だが、俺もダンスは久しぶりというかあまり踊ったことがなくて不安でな」


 そこで言葉を切ると、エリアス様はコホンと咳払いし、私に向かって手を差し伸べた。

 そして。


「一曲、俺と踊ってくれないか」

「え……」


 サァッと花の香りを載せて、私達の間に柔らかな風が吹く。

 エリアス様からの突然の申し出に、思考が追いついていない私は思わず見惚れてしまっていると、エリアス様が少し顔を赤らめながら言った。


「この状況で放置されると、大分恥ずかしいのだが」

「……え? あ、はい」


 エリアス様の言動にようやくハッとし、まだ頭が追いついていない状況で何となく返事をしてしまったところで、エリアス様は私からの了承を得たと思ったらしい。

 差し伸べた手で、私の手を不意に取った。


「……へっ!?」


 それに驚いた私には構わず、エリアス様はクレールに向かって尋ねた。


「クレール、少しの間場所を借りても良いだろうか?」

「もちろんです」

「ララはワルツのカウントを取ってくれないか」

「かしこまりました!」


 てきぱきと二人に指示をしながら、私の手を引いて歩き出すエリアス様を見て、ようやく思考が追いついた私は声を上げた。


「こ、こちらで踊るのですか!?」

「あぁ、生憎あまり時間がないんだ。それとも、外で踊るにはその靴では躍りにくいだろうか?」

「いえ、大丈夫ですけれど……」

「そうか」

「!」


 エリアス様が笑う。それがどこか嬉しそうに見えて直視出来ずにそっと視線を逸らした私をよそに、エリアス様は「着いたぞ」と開けた場所で立ち止まる。

 そして向かい合わせになると、ララによるワルツのカウントと共にそれぞれお辞儀をして、手を取り躍り出した、のだけど……。


(ち、近い!!)


 ダンスのレッスンの際、指導は女性の先生から教わっていたため意識したことがなかったけれど、実際に男性と踊ってみると、こんなにも緊張するものなのかと思ってしまう。

 特に相手は、あのエリアス様で……。


「ははは」

「!?」


 不意に頭上から聞こえてきた笑い声に顔を上げれば、他でもないエリアス様が笑みを浮かべながら言った。


「笑ってすまない。珍しくアリスが緊張しているものだから、つい」

「ば、馬鹿にしていらっしゃるのですか!?」

「違う。可愛いなと思って」

「〜〜〜!?」


(こ、この状況でそんなことを言う!? そ、そうだわ、揶揄っているのね! 私が緊張しているのを面白がっているんだわ!!)


 そうに違いない、と何気なく視線を逸らした先に、ララとクレールの姿があった。

 二人は私が見ていることに気が付くと、ララは手でハートの形を、クレールは親指を立ててそれぞれ頷いた。


(違う違う違う違う!!)


 私は彼の契約結婚相手なのよ! と心の中で突っ込んだところで、不意に囁かれる。


「視線が一向に合わないんだが」

「!」


 バッと反射的に顔を上げれば、私の顔を覗き込むエリアス様と至近距離で目が合って。

 その氷色の瞳に動揺する私を映し出しながら、エリアス様は切実な声音で言った。


「俺のことだけを見てほしい。少なくとも、君を独占しているこの時間は」

「…………っ」


 やはり揶揄われているのではないか。

 そう思ったけれど、エリアス様の表情や声音からは、とてもそんな風には見えなくて。

 視線を逸らしたいのに逸らさない、逸らしたくない、なんて矛盾した想いを抱える自分に、一番戸惑いながら。

 これ以上ないほど高鳴っている自身の鼓動を聞いて、心臓に悪い! と思うのだった。


アリス視点でお送りさせていただいた番外編、いかがでしたでしょうか?

両片想いでないじれもだな二人を執筆するのもとっても楽しく、永遠に書ける気がします(笑)皆様にも楽しんでお読みいただけていたらとっても嬉しいです…!


ついに明日、水菊じむ先生によるコミックス版の愛されない悪役令嬢、完結巻が発売となります!

目印となる表紙がこちら↓

挿絵(By みてみん)


とっても素敵ですよね…!♡夜会服を身に纏う二人が最高に幸せそうで、拝見、拝読することが出来て私も嬉しいです。

ぜひ可愛すぎる二人の姿を、コミカライズ版最後まで見守っていただけたら本当に嬉しいです。


愛されない悪役令嬢をいつも応援いただき、ありがとうございます!

皆様のおかげで、書籍化、コミカライズと素敵な機会をいただくことが出来ました。

こちらで完結表示とさせていただきますが、またどこかで、番外編を執筆させて頂けたら良いなと思っております。

最後までお読みいただき本当にありがとうございました!!

2025.6.29.心音瑠璃

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