書籍第一巻6/2発売記念SS-エリアス・ロディンの苦悩〜結婚指輪の場合〜
あとがきにてお知らせがあります!
本編完結後の初めての番外編、時系列はエリアスが結婚指輪を渡す前日のお話です。
「……出来た」
ポツリと呟いたことで訪れたのは、開放感と達成感。だがそれは、一瞬のことで……。
「……問題は、アリスに気に入ってもらえるだろうか?」
またもや口にしてしまったことで、一抹どころではない不安に苛まれる。
なるべくアリスの好きなものに寄せ、依頼している職人にも提案してもらった上でデザインしてみたは良いが、今までただの一度もデザインなどしたことがなかった上……。
「……いくら意味があるとはいえ、対になっているのはさすがに気持ち悪かったか?」
箱に収まっている二つの大小の指輪を見て頭を抱えていると。
「まだこの後に及んでお悩みなのですか?」
「わあ!?」
不意に声をかけられ、本気で驚いた俺に、声をかけてきた俺の従者であるカミーユが眉間に皺を寄せた。
「人に向かって『わあ』はないと思いますが。まるで魔物が出た時のような反応をなさらないでください」
「魔物が出た時はそんな反応はしな……って違う、お前こそ、ノックくらいしてから入室してくれ」
「ノックをしても返事をしてくださらなかったので、何かあったのかと心配したんですよ。そうしたら……」
カミーユの視線が俺の執務机の上にある箱に注がれていることに気が付き、慌ててその箱の蓋を閉じると、カミーユは眉間に皺を寄せて言った。
「……なぜ、わざわざ隠されるのですか? 見られて減るものではないでしょう」
「……お前に見られたら減る気がする」
「失礼な。そんなことを言って本当は、アリス様に一番に見せたいからなのでしょう?」
「っ!」
「図星ですね。あのお忙しいエリアス様が自ら指輪をデザインし、屋敷の誰の目にも触れないように自ら足を運んでデザイナーの元へ通うだなんて……」
目を細めてこちらを見る嫌な視線に、俺は睨むようにして低い声音で返す。
「何が言いたい」
「いえ、健気で意外とロマンチストなところがおありなんだなあと。
それから、アリス様は愛されているなあって」
「!!」
完全に見透かされ、揶揄われている。
忠実すぎるほどに忠実で腹黒な、俺の従者に。
いつもだったら言い返すが、今はそんな気力もなく、相手がそんなカミーユだと言うのに、本音を吐露する。
「……やはり、引かれてしまうだろうか……」
「は?」
カミーユの口から、遠慮なく素で漏れ出た本気の『は?』にはさすがにじろりと睨んだというのに、カミーユは全く動じることなく、それどころかわざとらしく咳払いをし、居住まいを正してから言った。
「どうして、そのように?」
「……対のデザインにしたんだ、アリスと」
「……わあ」
カミーユのまたもや失礼な反応に反射的に睨むも、俺のそういう視線には慣れているカミーユは「話を続けろ」と言わんばかりに黙って微笑む。
そんな態度に腹が立ちながらも、心外なことに目の前の男に話すしか、この心の内を吐露出来ずにいる自分を情けなく思いながら話を続ける。
「ちゃんと、意味があったんだ。アリスを支えられる男になりたい、と」
「……それは、何というか……、余計なお世話な気もしますが」
「うっ」
カミーユの容赦ない一言に、返す言葉もなく。
余計に落ち込み再び頭を抱えた俺に、カミーユは「ですが」と口にした。
「アリス様がどう思われるかは、アリス様次第です。
エリアス様が真摯にその想いをお伝えになれば、アリス様にもその想いは届くのではないでしょうか」
「! そう思うか?」
顔を上げた俺に向かってカミーユは頷きつつも、口角を上げて言い放つ。
「まあ、アリス様がその上でどんな反応をなさるか、楽しみですね」
「っ、お前なあ」
「ふふ」
(全く、この男は)
学園時代から、カミーユは勝手に俺をライバル視して、何かと俺に突っかかってきた。
最初は煩わしいと思っていたが、一人でいることの方が多かった俺は、裏でコソコソと陰口を叩く連中よりもずっと、真正面にぶつかってくるこの男のことの方が良い奴だと、いつしか思うようになった。
だからこそ、今こうして隣で俺が迷うたび、遠慮なく本音をぶつけてくるカミーユに、救われている部分もあったり、なかったりするわけだが。
「……お前の言う通り、くよくよしていても仕方がないな。
何より、俺が悩んでいる時にお前が嬉しそうにしているのを見る方が癪だ」
「ふふ、そうですか」
カミーユは相変わらず笑っている。
見守られているようにも見えるそれは、腹が立つのに悪い気がしない、なんて死んでも言わないが。
「結婚式を挙げるはずだった明日、きちんと指輪を渡して、彼女に想いを伝えることにする」
「ですが、明日は王城での会議では?」
「ああ、そうか……、あの面倒臭い何の意味もない会議があるのか……」
「仰りたいことは分かりますが、その言い方はちょっと」
「お前もそう思っているだろう。そんなことよりも彼女と話がしたい。当日でなければ、意味がないんだ」
そう口にした俺に、カミーユは目を丸くした後、笑って言った。
「やはり、アリス様は愛されていらっしゃいますね」
「…………」
カミーユの言葉を肯定するのも否定するのも違う気がして、沈黙で答える。
(だってこの結婚は、あくまで“契約”。彼女との繋がりは、それだけなのだから)
今は、まだ。願わくばその形が変わってくれたらと願わずにはいられないまま、俺は大小違う二つの結婚指輪が収まった箱を、そっと大切に机の引き出しにしまうのだった。
それから二日後。
アリスに指輪を無事に手渡すことができ、彼女の侍女を任せているララから「無意識に眺めては喜んでいらっしゃいます!」という報告を受けた俺が、思わずガッツポーズしたところをカミーユに笑われるのは、また別の話。
初めてのエリアス視点での番外編、いかがだったでしょうか?
結婚指輪を渡す経緯となる物語の裏側、そしてカミーユとの関係性まで執筆させていただくことが出来て、とても楽しかったです。皆様にも楽しんでお読み頂けていたらとても嬉しいです。
そして、小説家になろう様版本編完結から約半年(早い…!)もの月日が流れようとしていますが、ついに!
愛されない悪役令嬢書籍第一巻が、Kラノベブックスfさまより6月2日に発売されます!
目印となる表紙がこちら↓
しがらき旭先生によるアリスとエリアスの美しいこと…!
口絵や挿絵まで本当に眼福で、私も一目見て心が奪われました…大好きです…ありがとうございます…と、こうして無事に刊行させていただくことが出来たのも、応援してくださる皆様や編集者様、携わってくださった多くの皆様のおかげです、本当にありがとうございます!!
すでに電子書店様では配信が、書店様でも並べてくださっているところもあるようなので、是非是非チェックしていただけたら嬉しいです…!
特典などの詳細は活動報告にまとめましたので、こちらもお読みいただけたら本当にうれしいです!
リンクはこちら↓
https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1528460/blogkey/3449975/
愛されない悪役令嬢書籍版も、読者の皆様に楽しんでいただけますように。
引き続きどうぞよろしくお願いいたします〜!