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愛されない悪役令嬢に転生したので開き直って役に徹したら、何故だか溺愛が始まりました。

 コンコンと控えめなノック音と断りを入れて部屋に入ってきたその姿に、自然と笑みが溢れる。

 そんな私とは裏腹に、部屋に入ってきた私の愛しいひと……エリアスは、泣きそうな表情をするのを見て、慌てて立ち上がり言葉を発する。


「ちょっと、泣くにはまだ早すぎるわ。我慢して」

「俺も、そう思うんだが……」


 そう言いながら私の元まで歩いてきたエリアスは、私の手をそっと取って言った。


「……あまりにもこの世のものとは思えないくらい君が綺麗すぎて、今日が結婚式なんだと……、君と結ばれるということを改めて実感して」


 そう、今日は私達の結婚式。

 契約ではない、本物の夫婦として歩み始める記念すべき日なのだ。

 私はエリアスの真っ直ぐすぎる言葉に恥ずかしくなりながらも、「ありがとう」と素直に礼を述べてから、取られた手を包み込むようにもう片方の手で握って言葉を紡いだ。


「そうね。長かったわよね、あまりにも……」

「…………あぁ」


 するりと口を吐いた言葉に、エリアスが長い沈黙の後返答する。

 そうして訪れた沈黙の間で、私達は互いに同じ記憶を思い出す。

 あまりにも長い、途方もないほど遠い記憶を……。


「なんてツラしてんだよ」

「「!?」」


 突然訪れた声に反射的に繋いでいた手を離し飛び退く。

 そして、同時に叫んだ。


「「ソール!」」

「はは、息ピッタリ。ってかいーかげん慣れろ」

「な、慣れるわけがないでしょう!?」


 先ほどまで花嫁衣装を着るのに手伝ってくれていたララやミーナ様には、エリアスと二人きりにさせてほしいと言い人払いを済ませていた。

 だから、部屋には誰も訪れないと思って油断していた。


「お、思わぬ死角がここに」

「おい失礼だな。わざわざ神々を代表して来てやったんだから、ありがたく思えよ」


 そう言ってソールは、「ん」とぶっきらぼうに私に向かって花束を渡した。


「っ、これ……」

「天界の花だ。女神サマから頼まれて、花の妖精達が摘んで束ねた。

 それから“おめでとう”って言えって」

「……ソール」

「ほら、早く」

「……ありがとう」


 ソールから受け取り、花に顔を寄せると、懐かしい香りに包まれて緊張から強張っていた身体が解れていくのが分かる。


「……良い香り。ありがとう、ソール」

「あぁ」


 ソールが小さく笑みを浮かべる。

 珍しい表情に思わず目を瞬かせたけれど、それは夢だったかのようなほんの一瞬の出来事で。


「おい」


 次の瞬間にはいつものぶっきらぼうな……、いえ、幾分不機嫌な表情で今度はエリアスを見やると、口を開いた。


「お前、アリスを泣かせるような真似したら今度こそ承知しねぇからな。

 いつでも迎えにくるから覚悟しとけよ」


 ソールの言葉にエリアスは目を見開いた後、小さく首を傾げた。


「それは無理じゃないか?」

「あ?」

「アリスは感受性が豊かだから涙脆いし、人のために泣いたり嬉しくて泣いてしまったりするだろう」

「あー……」


 エリアスがこちらを見てそう言いやったのと同時に、ソールも思うところがあったようでこちらを見やる。

 そんな二人の視線を受けて思わず尋ねた。


「……それ、褒めてるの? どういう視線でどう受け止めたら良いの?」


 私の心からの疑問に、二人は顔を見合わせ、ふはっと同時に吹き出す。


「どうして笑うの!?」

「アリスは無自覚だからな」

「そうそう、お人好しすぎんだよ、お前は」


 そう言って二人して同じように笑うものだから、少し膨れて言葉を返す。


「どうして同じ意見なのよ。というか二人とも、やっぱりなんだかんだ言って仲が良いわよね?」

「「良くない/ねぇ」」

「わぁ、息ピッタリ」


 意趣返しに先ほどのお返し、と棒読みでそう口にすると、彼らは互いに視線を合わせてからふんっと顔を背ける。

 そのやりとりが以前と同じ気がして思わず笑ってしまうと、ソールがふっと小さく息を吐いてから言った。


「アリス」

「なに?」


 ソールの真剣な眼差しに、何かを感じ取った私もまた笑みを消す。

 すると、ソールは私の額を軽くデコピンしてから、微笑みを浮かべて言葉を発した。


「今度こそ、幸せになれよ」


 ソールが意味している言葉に不意に泣きそうになったのをグッと我慢しようとしたけれど、瞼を閉じた瞬間に涙が溢れ出てしまう。

 それを見たエリアスがすかさず言った。


「言った本人が泣かせてどうする」

「ふふ、大丈夫。これは嬉し泣きだから。……お化粧、崩れていない?」

「「綺麗だ/崩れてねぇ」」


 迷いなく答えたエリアスとソールの言葉に、瞳をそっと拭いながら答える。


「こんなに想われているなんて、私は幸せ者だわ」


 私の言葉に二人は顔を見合わせると、ソールが先に言う。


「安心しろ。お前は皆から愛されている。妖精だけでなく、神にも」

「人からも。それは紛れもない、アリスがアリスとして生きている何よりの証だ」

「……!」


 二人の言葉に、心が打ち震える。

 今度こそ涙は流さないよう、一度下を向き目を閉じてから、目を開けて二人を見据え、胸に手を当てて言葉を発する。


「……そうね、私はアリス。

 これからも、私は私らしく生きてみせますわ!」


 わざと悪女っぽく口にしてみせれば、彼らは声を上げて笑った。






 私は孤独。誰からも愛されないと諦めていた。

 でもそれは、私自身がそう思い込み塞ぎ込んでいただけで、本当は……。


「アリス」


 名前を呼ばれ顔を上げれば、エリアスの氷色の瞳が私を見つめていて。

 私もまたその名前を噛み締めるように紡ぐ。


「エリアス」


 そう名前を呼べば、世界で一番愛しい人は破顔し、顔を近付け……、ふわりと唇が重なる。

 それと同時にワッと歓声が上がったことで唇を離すと、照れ混じりに笑い合う。

 そして。


「準備は良いか?」

「えぇ」


 エリアスの問いかけに少し悪戯っぽく笑って返すと、エリアスと私は手を伸ばし、列席してくれた家族や友人に向けて同時に魔法を発動した。

 すると、式場いっぱいに私の幻影魔法である花に合わせ、エリアスによる細かな氷の結晶がステンドグラスから降り注ぐ太陽の光に当たり、きらめき輝く。

 先ほど以上に歓声が上がったことで、私達はもう一度顔を見合わせて笑い合うと、エリアスが不意に私に顔を寄せて囁いた。


「愛している」


 その言葉を何度彼の口から聞いても嬉しくて。幸せに胸が震え、涙が頬を伝い落ちる。

 そう口にしたエリアスの瞳からも零れ落ちた、何よりも綺麗で尊い涙をそっと拭うと、私もまた彼の気持ちに応えるように……、いえ、それ以上の気持ちを伝えるべく、背伸びをしながら顔を寄せて囁く。


「私も。愛しているわ」


 








作者の心音瑠璃です。

ついに!本編が完結いたしました〜!

約49万字と長連載となり、予想を遥かに超えた文字数として連載させていただきました。

(また、予想は45万字くらい〜などと言っていたことがあります、その節は大変申し訳ございません…!)

アリスとエリアスの物語は、始まる当初から結末を考え進めた物語だったので、壮大な世界になることは予想しておりましたが、まさか私もこんなに続けられるとは思わず、本当にここまでお読みくださった読者の皆様の応援のおかげだなとしみじみと感じながら、今の想いを綴っております。


そしてここからは、簡単に私なりのキャラクター達の解説を。

アリスは一見強気に見えますが、本当は繊細で、自分の弱い心を見せないようにちょっぴり背伸びをしてしまう等身大の女の子として描きました。

それを同じく孤独を抱えたエリアスが最初は仲間として共にいることで、お互いにどこか似ていて、いつしかお互いに必要になっていくという、夫婦としても仲間としても最強カップルとなりました。

そしてソールは、私が最も好きなキャラクターといっても過言ではなくて、一匹狼タイプだけど恩人であるアリスのことを放って置けない、どちらかというと守ってくれる騎士のような、神様のような、はたまた兄のような存在として描きました。

アリスとエリアス、そしてソールはこの二年間、いつも私の隣にいてくれたキャラクター達で、その他のキャラクター達も全員の背景を考えるほど大好きで思い入れのあるキャラクター達ばかりです。

…こちらで書くと大変長くなってしまいますので、控えますね(笑)


最後になりましたが、物語を最後までお読みいただき、あとがきまでお読みいただき本当にありがとうございました!


2024.12.26.心音瑠璃

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