第五十二話
あとがきにてお知らせがあります!
(書き溜めギリギリですが情報解禁を祝して投稿させていただきます、毎週投稿できるよう執筆頑張ります…!)
ふにゃりと笑うノア様を見て私達は呆然と口にする。
「ノ、ノア様が魔界を統べる魔王、様? 魔物達の管理をされているということですよね?」
「うん、そうだよぉ。魔物達があまりにも結界を突破してしまうから、フルールから十年くらい前に拝命されたんだぁ」
(十年ほど前って、エリアス達が学園時代に結界を張りなおし、魔物達を魔界へ送り還した時のことよね)
と考えていると、隣にいるエリアスも顎に手を当て口にする。
「魔物達の見た目は獰猛なのに、魔物達を統べる王にはとても見えない……」
「あはは、それもよく言われる〜。なんなら仕事してないって怒られるしねぇ」
ほんわかとした口調だけど丁寧に私達の質問に返しながら、「ところで」とノア様は首を傾げた。
「キミ達はだあれ? 銀色の髪の子は見かけない顔だし、桃色の髪の子は……」
ノア様の漆黒の瞳が私を捉えた刹那、不意に歩み寄ってきたかと思うと顔を覗き込まれて……。
「「っ!/おい!」」
エリアスに手を引かれ、ソールの背に庇われる。
ノア様に顔を覗き込まれたことよりも二人の俊敏な動きに目を丸くする私をよそに、ソールが凄い剣幕でノア様に詰め寄る。
「お前何考えてやがる!?」
「ご、ごめん……って、ボクはキミよりも先輩……」
「あ?」
「違うよ、本当に何もやましいことしようとしたわけじゃなくてぇ……」
ノア様はソールの肩越しに私を見て言った。
「キミ、もしかしなくてもフルールの……?」
私の代わりにノア様の言葉に答えたのは女神様だった。
「そう、私の娘よ。名前はアリス」
「アリス……」
「それで銀色の髪の子がアリスの旦那様のエリアス・ロディン。
シュヴァの先祖が祝福した家の子ね」
「えっ、それはまた凄い組み合わせだねぇ」
「でしょう?」
ノア様と女神様のやりとりを呆けて聞いていた私達だったけど、慌てて我に返ると礼と共に挨拶をした。
「お、お初にお目にかかります。アリス・ロディンと申します」
「お初にお目にかかります、エリアス・ロディンと申します」
「あ、ご親切にどうも〜。ボク相手にそう固くならなくて良いけどねぇ」
「お前は神としての威厳をもう少し保てねぇのか……」
ソールの突っ込みに、ノア様は「ボク、そういうの向いてないんだぁ」と笑う。
(ノア様はマイペースだけど、温和で優しそう……)
やっぱり魔王には見えない、と思わずそんなことを考えていると、女神様は手を叩いて言った。
「さて、自己紹介が済んだところで。早速本題に入るわね。
ノア、魔物の管理を徹底するという役目を担ったはずのあなたが、職務放棄して寝ていた理由を一からきちんと説明してくれるかしら……?」
「わ、わぁ……、目が笑ってないよ? フルール……」
「それはそうよ。私の娘のアリスがそのせいで大変な目に遭ったのだもの、きちんと納得のいく説明をしてもらわなければ困るわ!」
「だ、だからいつにも増して起こし方が雑だったんだねぇ……。
確かに、魔物の管理が行き届かなかったボクが悪いんだし、ちゃんと説明するねぇ」
ノア様はそういうと、ポツリポツリと語りだす。
そして、話を聞き終えた女神様が要約すると……。
「……年に一度、天界で行われる神々の集まりに参加した時、あなたは手土産だとお菓子を渡された。
そうしたら、そのお菓子に催眠効果のある魔法が入れられ、気が付かず食べたあなたは眠らされてしまった。
その結果、魔物の見張り役であるあなたが唯一行き来できる人間界との扉を勝手に開け、そこから魔物達が出入りしていたと……」
女神様の言葉に恐る恐る頷いたノア様を見て、女神様は肩を震わせたかと思うと。
「っ、まんまとしてやられたというわけね……!」
「!? ご、ごめんなさい」
女神様の凄まじいお怒りにノア様が謝ったけれど、女神様は「あなたには少ししか怒っていないわ」と口にしてから憎々しげに言う。
「怒っているのはあなたにではなく、私と、お酒を渡した神々のことよ……!
彼らの狙いは、アリスを試練に失敗させるだけでなく、魔物を逃したとして魔王であるあなたに罪を負わせ、そして、野放しにしていた魔物が悪さをしないようにと、魔王に任命した私をも監督不行き届きとして貶めようとしたのよ……!」
「「ひっ……」」
神々の考えることのえげつなさに、思わず私とノア様は肩を震わせる。
そんな私達に反して、ソールは「良い度胸じゃねぇか」と拳を鳴らしながら言った。
「一発シメに行こーぜ」
「気持ちは分かるわ。けれど、これ以上あなたが出しゃばれば排除されてしまうのはあなたよ。
それに、結果的にアリスが魔物との和解を選んだ時点で試験に合格しているから、神々もこれ以上アリスに手出しはしてこないでしょう」
「合格……?」
思わず反芻した私に、女神様は「あら、肝心なことを伝え忘れていたわね」と口にすると、私の頭に手を載せて言った。
「アリス、あなたは無事に神々が出した試練に合格したのよ」
「え? で、でも確か、魔物と人間との和解が試練の一つだって」
「そうよ。そしてあなたは自分で考え、答えを出した。
“魔物と戦わずして和解する”と。
創世の女神から受け継いできた“癒しの魔法”で皆を守り戦うその姿勢こそが、神々の頂点に立つ女神の座に相応しい。
誰一人として成し遂げることの出来なかったその試練をあなた一人でやってのけたのよ、アリス。
あなたは自らの存在意義を自らの手で証明してみせた。
自分を誇りに思いなさい」
「自分を……」
女神様の言葉を反芻した私の耳に、ソールの言葉が届く。
「でもよ。女神の試練に合格したら、アリスは花の女神の跡を継いで、神々の頂点に立つ女神ってことになんねぇ?」
「「……えっ!?」」
ソールの口から何気なく発された言葉に、エリアスと顔を見合わせ声を上げたそのとき。
「アリス、めがみさまになるの〜!?」
ポンポンッと次々に現れたのは、言わずもがな花の妖精で。
「相変わらず花の妖精は賑やかだな……」
と呆れた声と共にエリアスの風の妖精も現れる。
風の妖精の言う通り、次から次へと現れては花の妖精達がキャッキャッと嬉しそうに声を上げた。
「アリスがつぎのおはなのめがみさま〜!」
「すてきすてきー!」
「ぜったいにあう〜!」
「ちょ、ちょっと待って!」
静止の声を上げた私に、妖精達はピタリとその場で話をやめて止まる。
私は胸の前で手を握りながら言った。
「わ、私は…………」
神々や妖精、それから“彼”の視線を感じ、俯いた私の肩に手が載る。
それは、女神様の手で。
女神様は優しく笑いながら言った。
「アリス。あなたが決めて良いのよ。
あなたの好きなように生きなさい」
「好きな、ように……?」
「えぇ。神として生きるか、人間として生きるか。あなたが選んで良いの」
「…………」
女神様の優しい言葉に、胸の奥が締め付けられる。
そして、ふわりとエリアスのいる方とは反対隣に現れたのはソールで。
「お前、面倒事は嫌いだっただろ? ここにいれば、お前の欲しかったもんが全て手に入る。
花も、時間も、自由も。いけばなだって、誰にも咎められることなくずっとやってられる。
万が一敵がいたとしても、俺が手出しなんてさせねぇ。そばにいてやる。
だから……、こっちを選べよ」
「!!」
ソールに両手を握られる。
その手がかすかに震えていることに気が付き、ソールの夜空色の瞳と目を合わせることが出来なかった。
代わりに、一度深呼吸をすると、私は握られた手に視線を落としたまま静かに口を開いた。
いつもお読みいただきありがとうございます。
この物語の世界の秘密が解き明かされていく中で、アリスが選ぶ道を最後まで楽しんでお読みいただけていたら本当に嬉しく思います。
そして今回のお知らせは……、
11/29(金)、いいにくの日に愛されない悪役令嬢のコミックス第一巻が刊行されることとなりました!
水菊じむ先生による表紙がこちら↓
カラフルで可愛くて本当に麗し美しすぎますよね!
こちら、カバー全体も先行で拝見しているのですが、カバー裏まで本当に繊細で…!
水菊じむ先生のお手によって紡がれるコミカライズ版も、是非お手に取っていただけたら嬉しいです!
特典は、今週から始まったpixivコミックさまでご購入いただくと、豪華書き下ろしイラストをいただけるようですので、是非こちらもチェックしてみてください!
おかげさまで、愛されない悪役令嬢の世界はコミカライズ、そして書籍化も進行中、さらになろう版本編も佳境を迎えております。
これからも広がる世界を、そして物語の世界の行く末を最後まで見届けていただけましたら幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします!