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第四十三話

 暗闇の中から、真っ赤の瞳をギラギラと光らせた魔物達が次々と姿を現す。


「っ、数が多い……」


 思わず呟いた言葉に、ヴィオラ様もまた魔物達から目を離すことなく答える。


「それだけではないわ。やはり王族の結界魔法が機能していない」


 ヴィオラ様の示す結界とは、国を守るために王族が国を覆うようにして展開している結界のこと。

 前世の小説“とわまほ”の5巻、そしてこの世界ではエリアス達の学園時代に魔物が出現した際は、学園の上空の結界が破られ、外部からの侵入を許したためにヴィオラ様を筆頭にした魔法使いが魔物と戦い、その間に王太子殿下が破れた結界を修復することで無事に戦いは収束した。


(だけど、今回の場合は魔物の侵入が内部から……つまり、魔物の侵入経路は不明)


「我々ガイナガラ考エ事トハ。良イ度胸ダナ」


 そう口にしながら、空中に発生した異空間につながっていると思われる穴から現れ降り立ったのは、以前王城の庭で対峙した、まるで架空の物語に出てくる龍を模った魔物……、それも以前とは比べ物にならないほど個体数が多く、大きさも更に一回り大きくなったように思える。

 それだけ人間を恨んでいる証拠なのだと改めて実感しながら、禍々しいオーラを纏う魔物に向かって予め考えていた言葉をゆっくりと発した。


「……一ヶ月前、『正々堂々勝負しましょう』と私は言った。

 戦いを今日という日に承諾したのも、また私」

「……何ガ言イタイ」


 苛立ったように口にした龍型の魔物に向かって、私は真っ赤な双眸をじっと見つめて言った。


「今日ここに来たのは、戦うためではない。

 あなた方と戦いたくないと、伝えるために来た」

「戦イタクナイダト? 笑ワセルナ!」


 龍型の魔物の言葉に周囲にいる魔物達も激昂するように声を上げる。

 私はその声に負けじと言葉を続ける。


「このまま戦いを続けても溝は埋まらない上に何の解決にもならない。

 それどころか互いに犠牲を払い続けるだけ。

 その証拠が、“現在(いま)まで”よ。

 あなた方は私達を排除しようとして、私達は排除されてはいけないからあなた方を魔界へ還し封印しなければいけない。

 そんなことを続けていたら戦いは永遠に終息しないわ」


 私は息を吸うと、大声を張り上げた。


「教えてほしい! 

 あなた方はかつて、私達と共にこの地に暮らしていたというのは本当なの?

 それも“失われた歴史”の内に含まれているの?

 私達は知らない。だから教えてほしい。

 あなた方と戦うことなく、分かり合える世の中を作るために!」


 ギュッと胸の前で手を握り、祈るように魔物達の言葉を待っていると。


「……ナラバ教エテヤロウ」

「えっ」


 思わぬ返答に声を上げるけれど、魔物は「タダシ」と言葉を続けた。


「最モ憎イオ前ヲ排除シテカラナ!!」

「「「アリス様!」」」


 三人の声が耳に届いたのと龍型の魔物が真っ黒な炎をこちらに目掛けて放ったのは同時だった。

 でも私は逃げることなくその魔法をキッと睨み見据えれば、目の前に氷の壁が私を守るように出現する。

 それは紛れもない、エリアスが私の指輪に込めてくれた魔法の力で。


(エリアス、ありがとう)


 目を伏せ、指輪に触れながら心の中で礼を述べ……。


「そう、それがあなた方の答えというわけね」


 次に魔物と目を合わせた時には覚悟が決まっていた。

 不敵な笑みを浮かべ、わざと挑発するように“悪女”を演じる。


「でもおあいにくさま。私はあなた方に絶対に負けないわ。

 ……クロを殺し、私の大切な人に扮して私を倒そうとした、卑劣な手を使うあなた方を許すはずがない。いえ、許したいと思って譲歩したけれど交渉は決裂したから、私達の魔法であなた方の目を覚まさせてあげる。

 この戦いが、いかに不毛であるかを分からせるためにね!!」


 私の言葉を合図に、ヴィオラ様が腰に差していた武器を手にしたのと同時に、私もヴィオラ様と同じ武器を腰から取り出す。


(出来ることなら使いたくなかった)


 でも戦うことでしかきっと、魔物達の心には届かないし響かない。

 だから私は武器を取る。

 リオネルさんとフェリシー様が考えてくれた、最強で最高の魔道具を。


「アリス様、行くわよ!」

「はい!!」


 ヴィオラ様がそう声を張り上げると、私と同じ武器である“杖”を空に向かって真っ直ぐと振り翳す。


「妖精さん、私と共に戦って! 魔法陣!」

「貴女のためなら喜んで」


 ヴィオラ様の言葉に、光の妖精がヴィオラ様の手に小さな手を重ねる。

 そして、杖からは眩いばかりの金色の光が放たれ、光は森をも覆うような大きな魔法陣を私達の頭上に描いた。


(っ、これがヴィオラ様の魔法……!)


 なんて強大で美しい魔法なんだろうと思ったけど、見惚れている場合ではない。

 魔物達が魔法陣から放たれる光で目を晦まし苦しげに呻いている間に、私も杖を魔物達に向けて声高に告げた。


「妖精さん達、私に力を!」

「「「はーい!」」」


 私の言葉に赤、黄、青の花の妖精達が現れたのを確認してから呟くように呪文を唱えた。


「癒しよ。やはり私は魔物達と戦いたくない。

 だから魔物達を、傷つけることなく魔界へ還して」


 紡ぎ祈りながら魔物がいる一帯に向けて杖を振れば、杖の先端にある花の宝石から桃色の光が魔物目掛けて放出される。

 ヴィオラ様の光魔法で弱っている魔物達が今度こそ耐えきれずに消えていく中、反対の手のひらで足元に魔法陣を展開させて二つ目の魔法を唱える。


「花よ。魔物が敵対しないよう、その香りで魔物達の敵意を惑わせて」


 呪文に呼応して、今度は魔法陣から大量の花弁が舞い、ヴィオラ様の魔法陣同様魔物達がいる場所だけでなく森一帯に花弁が広がっていく。


(そう、これが私が選んだ計画())


 魔物の戦意を消失させ、出来るだけ戦い傷つけ合うことなく話し合う機会を……和解の道を探る。

 そのための最善の手段は、私とヴィオラ様の魔法を使うことなのだ。

 そうして魔法陣が消え、ヴィオラ様が照らす光だけになると、現状が見えてきた。


「……中級魔物の半分以上は耐えきれなかったようね」


 ヴィオラ様の言葉に私は頷くと、先ほどの龍型の魔物に向かって尋ねる。


「すでに半分ほどの魔物は魔界へ還り、私の魔法で援軍も期待出来ないけれど……、これでもまだ戦いを続けるの?」


 そう尋ねた私に龍型の魔物は鼻で笑う。


「当タリ前ダ。弱者ナドドウデモ良イ。我々ノ勝利ハ、魔法使イヲ殲滅スルコトダケダカラナ!!」


(……分かってはいたけれど、戦いは避けられないわよね)


 杖を握る手に力が籠る。

 それでも俯いてはいけないと、口角を上げて口にした。


「分かったわ。あなた方がその気なら、私達が全力でお相手してあげる。

 もう二度と、『殲滅する』なんて物騒な言葉がその口から出ないようにね」

「オ前達ガ何ト言オウト、殲滅スルマデ戦イハ終ワラナイ!!」


 魔物の言葉にヴィオラ様が後ろの二人に向かって口にする。


「武器を構えて! 私達が負けるわけにはいかないわ!」


 ヴィオラ様の指示に、フェリシー様は剣型の魔道具を、リオネルさんは銃型の魔道具を取り出しそれぞれ構える。

 その二人も同様に妖精を呼び寄せたところで、皆が戦闘態勢に入ったのを確認してから、戦い前最後の言葉をかける。


「ヴィオラ様の言う通り、私達は負けられない。

 愛する人を、大切な人を、家族を、仲間を守るために私達は武器を取り戦う。

 そして、誰一人欠けることなく生きて帰りましょう! 離れていても、今も共に戦っている皆の元へ!」

「「「えぇ!/はい!」」」


 皆が力強く頷く。

 そうしてもう一度魔物に目を向けたと同時に、皆が一斉に地を蹴った。


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