第四十話
更新時間が遅くなってしまい申し訳ございません。
運命の決戦編、スタートです!
「みんな!」
「いくよ〜!」
「せーのっ」
花の妖精さん達の言葉を合図に、この場に集まった女性陣……、ヴィオラ様、ミーナ様、フェリシー様それぞれの妖精が現れ、私達の服に“最後の仕上げ”と称した魔法を施してくれる。
その光景を見て、私達は揃って感嘆の声を漏らした。
「「「わぁ……」」」
「いかがかしら? デザインは私が皆様の意見を基に作成いたしましたの」
そう大人びた口調で口にしたのはミーナ様の妖精、デザインの妖精さんで。
私は思わず手を合わせてから、花の妖精さん達が施してくれたことで服の裾にあしらわれた魔法の光を帯びて輝く色とりどりの種類のお花の刺繍を見つめ、服の裾が持ち上がるようにくるりとその場で回りながら声を上げた。
「素敵だわ! 本当に可愛い……」
「「「でしょー!」」」
得意げな花の妖精さん達に向かって頷き、笑みを浮かべてみせれば、他の妖精さん達も次々に声を上げる。
「ヴィオラの服の裾には、太陽にも負けない金色の光を散りばめてみました。闇夜の中でもヴィオラの存在が光輝き、皆の道標となるように」
「ミーナの服には沢山レースをあしらいましたの。可愛いを沢山詰め込むことで、自信を持てるようにとエールを込めてみましたわ」
「フェリシーも自信が持てるように、ゴージャスにしてみたからな! 燃えるようなデザインにしたら皆に止められたから、とりあえずルビーの宝石を散りばめてみたぞ!」
そんな妖精さん達の言葉に感動している私とは裏腹に、皆は戸惑ったように口を開く。
「や、やっぱり慣れないですわ、この光景」
ミーナ様の言葉に、ヴィオラ様が頷き答える。
「そうね、無理もないわ。こんなこと……、妖精さん達が堂々と、それも契約者以外の人間の前に姿を現すなんて、史実にもどの書物にも載っていないもの」
そして、フェリシー様も戸惑ったように賛同する。
「そうですよね、一族でも平均程度の魔力しか持ち合わせていないような私が、まさか妖精さんから祝福を受けるなんて夢にも思いませんでしたから……。
やはりこの異常事態と呼べるべき現象の原因は……」
そこで言葉を切ったフェリシー様とお二人の視線が間違いなく私に注がれていて戸惑ってしまうと、私の視界に真っ赤に燃えるルビーの瞳を宿したフェリシー様に祝福を授けた火の妖精さんが元気よく声を上げる。
「そりゃそうだ! なんたってアリスは特別だからな! だって」
「「「しーっ」」」
何かを言おうとした火の妖精さんの口を、他の妖精さん達が慌てて塞ぐ。
「だめだよ!」
「それいじょういわないで!」
「あ、あぁ、ごめん、つい……」
火の妖精さんが謝ると、花の妖精さん達は分かればよろしいと言うふうに頷く。
(私が特別……)
火の妖精さんが何を言おうとしたのか気になったけれど、花の妖精さん達が「とにかく!」と言葉を発する。
「みんな、アリスのちからになるためだよ!」
「アリスがまものとなかよくなりたいっていうから」
「きょーりょくするためにあつまったの!」
ねー! と花の妖精さん達の言葉に妖精さん達が頷く。
フェリシー様も頷いて言った。
「そうそう、私がこの子と契約したのも『アリス様の力になるなら』という理由なんです!
やっぱりおねえ、アリス様は特別なんですよね!」
「あ、はは……」
お姉様、と言いかけ特別と言ったフェリシー様の言葉にどんな反応をすれば良いか分からず苦笑すると、ヴィオラ様が「そろそろ時間ね」と呟き言った。
「皆準備が出来たところで行きましょうか」
ヴィオラ様の言葉に、私達は頷き気を引き締めた。
討伐の編成は、私達8人のメンバーも二手に分かれ、役割を担う。
城下で民を守る筆頭メンバーとなるのが、エリアスと王太子殿下、リンデル夫妻の4人。
そして、最前線で魔物との交渉を試みながら戦うのは、私とヴィオラ様、リオネルさんとフェリシー様の4人だ。
(最前線に立つ皆を私が守らないと)
そんなことを考えながら歩き、城から出たところには既に男性陣の姿があって……。
「「……!!」」
何気なくこちらを見やったエリアスと目が合い息を呑む。
それはまるで、太陽の下で彼だけが光り輝いているかのように私の目には映って。
一瞬思考が停止してしまったけれど、エリアスを待たせてしまっている事実に気付き、私は慌ててエリアスの元に駆け寄る。
「ごめんね、お待たせてしてしまって」
「あ、あぁ……」
何だか歯切れの悪いエリアスの物言いに首を傾げている間に、エリアスは私の服をじっと上から下まで眺めていて。
(そ、そうだわ、エリアスの今日の装いを初めて見たのと同様、私のお洋服も彼に初めてお披露目するのよね)
ミーナ様から『せっかくだからお互いのお洋服は当日までのお楽しみにしましょう!』という提案があり、作成してくださったリンデル夫妻以外男性陣と女性陣はそれぞれどんなお洋服を着用するかを今の今まで知らなかった。
唯一知っていたのは、私が『学園の制服を着てみたい』といつか何気なく言った言葉をミーナ様が覚えていてくださっていたことで、男女共に制服風のデザインで、ということだけ。
確かに試着を幾度となく重ねてはいたけれど、そういうわけでエリアスに初めて見せたために注がれる視線に何だか居た堪れなくなり、私はその場で回ってみせながら口を開く。
「どう? 似合っているかしら?
妖精さん達に魔法を施してもらったらまた雰囲気が変わって凄く素敵になったのだけど、同時にお洋服に着られていないか心配で。
ほら、私学園に通ったことがなくて制服を着たことがなかったから凄くドキドキしていて……」
(前世でだって学生時代、10代の時に着用して以来だものね)
と、嬉しさ半分不安半分でエリアスに尋ねると。
「……可愛い」
「! そうよね! とても可愛いわよね!」
制服を褒められて私も嬉しくなり笑みを溢すと、エリアスが「違う」と不意に私の髪を掬う。
驚く私に、エリアスは心からの笑みを浮かべて言葉を発した。
「そうではなくて。君自身が可愛い」
「……へ!?」
思わぬ言動に驚き固まっている間に、エリアスの口からすらすらと言葉が紡がれる。
「心配することはない。制服はとても似合っているし、何より制服に似た服を着ることが出来た喜びが隠しきれずに顔に出ている君がとても可愛い」
「!?」
「髪型もいつもとは違って新鮮だ。いや、いつも可愛いから誤解しないで欲しいんだが、まるで学生時代を君と過ごしているかのようで俺もとても嬉しい。
……それで? 俺の服はどうだろうか?」
「!!」
間髪容れずに誉め殺してきたかと思えば、今度は私に話を振ってきて。
「……っ、か、からかっているでしょう!?」
「ははは、緊張しているようだったから解そうと思っただけだ」
「〜〜〜っ」
そんなことを言われたら文句を言うことは出来なくなってしまう。
少し悔しい気持ちとこんな時でもいつも通りのエリアスにホッとした気持ちとで複雑だったけれど、それでもエリアスを見上げた私は自然と笑みを溢して言葉を返す。
「とても似合っているわ。格好良い。
私も、学生時代をエリアスと過ごしているみたいで嬉しい」
「!!! アリス!」
「きゃっ!?」
突然ガバッと抱きつかれ、思わず声を上げると。
「はいはい、お二人さん。そこまでにしようか」
「!」
王太子殿下に声をかけられたため、私は慌ててエリアスの腕から逃れるように身一瞬の内に距離を取る。
(み、見られた……っ)
距離を取り熱くなる頬を押さえた私だったけれど、なぜかまたあっという間にエリアスの腕の中に囚われ、頭上から拗ねた声が耳に届く。
「この後は別行動なんだ、これくらい良いだろう」
「引き離してしまった私が確かに悪いけれど、一応私とヴィオラも別行動な点は同じなんだけどね……、まあ良いや。これで最後だから、話すことをしっかりと聞いておいてね」
「あぁ」
(『あぁ』じゃないでしょう!? この状態で話を聞くなんて私には出来ないのだけど!?)
と思ったけれど、そういう私も、彼の言う通りこの後お別れだと思うと彼を引っ剥がすことなど出来なくて。
その腕の力強さを、温もりを忘れないようにギュッと彼の腕を握ってみたのだった。