第三十八話
いつもよりお話が長めです。
そして、題名で既にネタバレしていますが、後書きにてついに…!のお知らせがあります…!!
扉を開けた先、私達の目に飛び込んできた光景にエリアスと二人、思わず感嘆の声を漏らす。
「「わ…………」」
そんな私達を見て、王太子殿下とヴィオラ様は説明してくれる。
「部屋の中は予め魔道具で灯りをつけておいたから明るいと思うけど、部屋は狭いし床には至るところに書物があるから気を付けて」
「階段があるけれど触らない方が良いわ。劣化していたのに気が付いてエドが慌てて保存の魔法をかけたけれど、気が付かずに踏み抜いていたら危うく落ちてしまうところだったの」
そう説明してくれながら先導するように部屋へと入って行く王太子殿下とヴィオラ様の後に続き、エリアスと目を合わせてから「お邪魔します」と言って、そっと部屋に足を踏み入れる。
(それにしても)
「幻想的……」
「あぁ。城の地下にこんな部屋が眠っていたなんて……」
王太子殿下の幼馴染として王城へよく来ていたはずのエリアスでさえも、驚いたように辺りを見回す。
一階と二階を隔てる壁一面には年季の入った書物が隙間なく並べられ、ヴィオラ様が危ないと言っていた階段がその部屋を一周するように螺旋状となり二階へと繋がっている。柱には、魔道具であるウォールランプが書物を読める程度の明るさで照らされているため、幻想的な雰囲気を醸し出していた。
そうしてもの珍しさに部屋の中を見回していると、王太子殿下が言った。
「ここにある書物は、地上にはないものばかりだ。
もしかしたらエリアスの屋敷にもある書物もあるかもしれないけど、ほとんどが機密文書であり先祖達が選び運んだとされる。
これだけあれば、何かしらの情報が得られると思ったけど……、私達が欲しい情報として見つけられたものは、たったのこれだけだ」
そう言って王太子殿下が取り出したのは、保存状態が悪くボロボロになってしまった紙で。
その紙に描かれているインクもまた薄くて、エリアスと顔を寄せ合い目を凝らして見ると……。
「……これは」
ハッと目を見開きエリアスとほぼ同時に王太子殿下を見やれば、王太子殿下は頷いて言った。
「その紙に描かれているのは、魔物と人々。
そして右上をよく見ると、文字が書かれている。
……『嘗て人間と魔物は共存していた』と」
「「……!」」
王太子殿下の言葉にハッと息を呑む。
続けてヴィオラ様が言葉を発した。
「それ以外の証拠が見つかっていないから真偽の程は分からないけれど。
王族しか知らないこの場所にあり年季が入っていることから、もしその絵に描かれていることが本当だとしたら」
「魔物がアリスにも言った通り、かつてこの地で……、人間界で人間と魔物は共に暮らしていたということか」
エリアスの言葉に王太子殿下とヴィオラ様が静かに頷く。
私は絵から目を逸らさずに言った。
「……この絵に描かれていることは、本当だと思います」
私の言葉に、皆がこちらに視線を向ける。
私は絵から目を逸らさずに続けた。
「今まで対峙した魔物達の恨みや怒りは、ただ人間が嫌いなだけだとは思えないくらい強いものでした。
とすると、やはり魔物達が言うようにかつて人間と魔物は共存していて、何かしらの原因で双方の間に亀裂が入り、人間が……、というよりは魔法使いが魔物を追いやってしまった。
だからこそ、魔物達はそれに納得がいっていないどころか私達魔法使いを恨み、排除しようとしている……と考えれば、今まで続いている因縁にも説明がつくかと。
何より、王族の方々がこのお部屋にわざわざ持ち込み保管していたものなら、尚更」
クロのような魔物もいれば、攻撃的な魔物もいる。
私を始め、魔法使いだけに牙を向くということは、魔法使いが昔魔物達を恨みを買うような酷いことをしてしまったと考えるのが妥当だ。
「人間と魔物との間にどんな歴史があったかは、たとえここに仔細に描かれた書物があったとしても、歴史の全てが分かりはしなかった。
ただ、この絵が示している通り、人間と魔物には繋がりがあった。
それが分かっただけでも、とても大きな収穫だったと思います」
そこで言葉を切ると、王太子殿下とヴィオラ様に向かって頭を下げる。
「お忙しい中本当にありがとうございました。
王族しか知り得ないこの場所に案内してくださったことも、この資料を見せてくださったことも。
改めて、人が、魔法使いが、何より魔物の目当てである私が魔物と向き合い、対話をしなければならないと強く思いました。
……それも、今までのように魔物を魔界に封印するのではなく、魔物との新たな関係性を……、和解の道を探し出すために」
私の言葉に、三人は何も言わない。
けれど、真摯に耳を傾けてくれているのが分かり、私は自分自身の決意を固めるために今度こそ顔を上げ、三人に向けてあえて自分の気持ちをはっきりと告げる。
「私が、必ず見つけ出します。
失われた歴史も、魔物と人との在り方も。
この戦いで今度こそ、決着をつけるために」
そう言ってギュッと胸の前で手を握りしめれば、頭に浮かぶのは、私を庇って亡くなった小さな魔物の姿。
(もう、あんな思いはしたくないしさせたくない)
大切な人達を失わせはしない。
人間も、魔物も。命は等しく平等であるべきだから。
「……そうだな」
私の言葉を肯定するように口を開いたのはエリアスで。
エリアスは私の肩に手を置くと、頷き言った。
「アリスの言う通り、互いに溝を深めるだけの不毛な争いはもうおしまいにしよう。
魔物を傷つけるのではなく、和解する方法を見つける。
そのためには、魔法使いが一丸となるべきだ」
そんなエリアスの言葉に、今度は王太子殿下が頷く。
「うん、その通りだね。そこは、私にどうか任せて欲しい。
王族として……、次期国王となる立場の者として、責務を果たすよ」
そして、ヴィオラ様も凛とした口調で言った。
「私も。未来を切り開く力のあるあなたを応援し守るために、魔法を、妖精から授かった祝福を使うわ」
「っ……」
一人一人の言葉に、心が震える。
この強大な力が何なのか、私が何者なのか、何一つ分かったわけではない。
魔法使いになってまだ日が浅いのに、魔力は強力になる一方。
それも、この地では私にしか使えない魔法。
しかも、魔物が最も敵対視するのはその魔法を使える私で、知らず知らずのうちに重くのしかかる運命に、重圧から息が詰まりそうになるのも事実で。
でも、下を向きたくなる衝動に駆られる度、救い上げてくれるのは……。
目に込み上げてきた思いをグッと堪え、代わりに笑みを浮かべて告げる。
「ありがとうございます。誰一人犠牲になることなく、この戦いを終わらせましょう。
二度と魔物との不毛な争いが起きないように」
先程の決意と同様、誓いの意味を込めてはっきりと口にしてみせれば、皆微笑を浮かべ頷いてくれたのだった。
こうして、魔物と再び対峙することになる一ヶ月という期間はあっという間に過ぎていき……、ついに決着の日の前日を迎えた。
「アリス様、お支度が整いました」
そう言われゆっくりと顔を上げれば、鏡越しに侍女のララと目が合って。
ララに向かってありがとう、と礼を述べれば、ララは突然泣き出してしまう。
「ラ、ララ!?」
「っ、す、すみません、絶対に泣かないと、決めていたのですが……っ」
よく見ると、後ろの侍女達も皆肩を震わせ泣いていて。
それを見て私の身を案じてくれているのが伝わってきて、温かな気持ちが広がっていくのと同時に、涙が込み上げてくるのをグッと我慢する。
「涙を拭いて。私も泣きたいけれど、泣くわけにはいかないから。
せっかく皆が張り切ってお化粧を施してくれたのに、涙で台無しにはしたくないもの」
「っ、アリス様……」
「それに、そんなに泣いてしまったらまるで今生のお別れのようでちょっと不吉だわ?」
冗談のつもりで口にした瞬間、皆の顔が青褪め、慌てて涙を拭い出したから私も慌てる。
「じょ、冗談よ! 心配してくれる気持ちはとても嬉しいのだけど……、要するに、絶対に無事で帰ってくるから、皆無事で私達の帰りを待っていて欲しいの」
「アリス様……」
私は笑みを浮かべると、立ち上がり、ララを抱きしめる。
突然のことで驚いたようだけど、私は皆にも聞こえる声で言った。
「よろしくね」
「「「……っ、はい!」」」
皆の良い返事に、自然と笑みが溢れた。
部屋を出て玄関へ向かうと、すでにエリアスとカミーユやクレール、屋敷に仕えてくれている侍従達の姿があって。
私が近付いていくと、エリアスが笑みを浮かべ手を差し伸べられたためその手を取る。
そして、集まってくれた侍従達に向き合うと、エリアスは言葉を発した。
「俺達がいない間、屋敷の指揮はカミーユに任せる。
留守を頼んだ……と言いたいところだが、屋敷はどうなっても良い。
自分の命が最優先だ。何かあったら皆で力を合わせ、避難すること。
俺達も必ず無事に帰ってくる。
そうして生きて、また皆で会おう」
(エリアス……)
自分の命が最優先。
迷わずはっきりと告げた言葉は、私だけでなくこの場にいる皆の心にしっかりと届いたようで。
「「「公爵様の、仰せのままに」」」
口を揃え、臣下の礼を取った侍従達を見回し、エリアスは満足げに頷くと、今度は私に向かって言った。
「アリス」
「はい」
いつもより少し緊張の色を帯びた口調のエリアスに自然と背筋を伸ばすと、私のもう片方の手を握ったエリアスは言葉を紡いだ。
「一緒に戦い、皆の元へ一緒に帰ってこよう。
それから……」
「?」
不自然にそこで言葉を切り、固まってしまったエリアスに首を傾げれば、エリアスは「いや」と首を横に振って言った。
「やっぱり良い」
「……え!? そこで切られると逆に気になるのだけど!?」
思わず突っ込めば、周囲から笑い声が上がって。
私としては笑い事ではないとちょっと怒ってみせれば、エリアスは誤魔化すように苦笑してから「また今度」と言って握った方の手を離して言った。
「では、行くか」
「……えぇ」
不完全燃焼だけど、まあ急ぎの用ではないようだから良いか、と結論づけてから踵を返そうとして……、侍従達の方を振り返ると笑みを浮かべて言葉を発した。
「行ってきます!」
私の言葉に、侍従達が驚いている間に、エリアスも続ける。
「行ってくる」
そう口にすると、侍従達は……。
「「「行ってらっしゃい!!」」」
と元気よく私達に返してくれ、その声に背中を押されるように、今度こそ魔物との決着をつける明日に備えるために王城へと向かったのだった。
お待たせいたしました!ついに!!
こちらの作品のコミカライズが、本日より講談社様漫画アプリPalcyにて配信が開始されました〜!!
担当してくださる漫画家様は、水菊じむ先生です♪
そして、水菊じむ先生による愛されない悪役令嬢の世界とアリエリがこちら!↓
凄く素敵ですよね…!いただいた瞬間、あまりの破壊力に目がくらみました…本当に。
しかも、アリスはこの可愛さで百面相するし、エリアスはどこをとっても美形で、物語もクスッと笑えて最高に可愛いので、皆様にも是非お読みいただきたいです!
こちら、木曜連載となり、別作品『その政略結婚、謹んでお受け致します。〜』が金曜連載となっていますので、木金と合わせてお読みいただけたら嬉しいです。
(愛されない悪役令嬢コミカライズは、いいねボタン下バナー画像クリックでPalcy様に飛んでいただけます)
そして、明日は金曜連載の『その政略結婚、謹んでお受け致します。〜』原作小説書籍第二巻(完結)の発売日です!目印となるすざく先生の美麗書影はこちら↓
すでに電子書店様では電子版が発売していますので、お手にとっていただけたら幸いです…!
本来、愛されない悪役令嬢も漫画化記念番外編を更新したいところなのですが、まずは本編物語を紡ぎ続けることが最優先だと思いますので、今後とも応援のほどどうぞよろしくお願いいたします。
また、コミカライズ木曜連載に合わせ、なろう版は木曜日朝8時にお引越し投稿しますので、引き続きお好きなお時間にお読みいただけましたら嬉しいです(更新頑張ります!)
本編から告知まで、長文失礼いたしました。
最後までお読みいただきありがとうございました。