第三十三話
大変遅くなってしまい申し訳ございません…!
多忙と物語が佳境のため、読み直しながら改稿作業をしております(汗)
前話もアリス、エリアス、ソールの会話を改稿していますので、是非お読みいただけたら嬉しいです。
日が完全に昇りきる前に、エリアスはソールの瞬間移動魔法を使って魔物討伐の地へと戻った。
そして、エリアスの口から私が魔物と接触したことを王家に説明がなされ、戦いは一ヶ月後に決まったことを報告した。
それにより、国王陛下直々に魔法を使って大々的に御触れが出た。
魔物との決戦が一ヶ月後に控えていること、それから、国民に被害が及ばないよう魔法使いが身を挺して守る旨を。
筆頭となる魔法使いの中には、エリアスやエドワール殿下、ヴィオラ様、フェリシー様のお名前もあったけど、そこに私の名前はない。
なぜなら、私は公には魔法が使えることを公表していないから。
貴族の間でも知っている者がいたとしても、“花魔法”として伝わっており、私が“癒し”の魔法の使い手であることは、依然としてトップシークレットのまま。
そのため、私の存在が公に伝わることはなく、私の周りの数少ない人達だけが、私が“癒し”の魔法の使い手であり、間違いなく今回の魔物討伐において鍵となるのが私であることを知っている。
(全ては、私にかかっている)
これは決して自惚れなどではなく事実であると。
私は失った小さな魔物……クロを片時も忘れることはなく、来る一ヶ月後の戦いまで自分に何が出来るかをずっと自問自答しながら、鍛錬する日々を送っていた。
日が傾き始め、庭園に咲く花にも影が落ちてきた頃。
「アリス」
「!」
名を呼ばれ振り返ると、そこにはつい先日魔物討伐最前線の地から帰還したエリアスの姿があって。
「また思い詰めていたな」
「……えぇ」
エリアスにたとえ誤魔化したとしても彼には気付かれてしまうだろうと素直に認めれば、エリアスは私の肩にふわりと自身の上着を掛けてくれながら口にする。
「思い詰めるのは、君の性格上仕方がないとして。
この時間はまだ日が登っている時間帯だとはいえ、季節柄気温が低いのだから部屋にいた方が良い」
「……ありがとう。でも、部屋にいると余計なことを考えてしまって。それに……」
言葉を切り、花畑を見やれば光……花の妖精が舞う幻想的な光景に目を細めながら言葉を紡ぐ。
「ここで待っていれば、クロがまた花の陰から顔を出しそう、なんて」
「……アリス」
分かっている。もう、クロはここにはいない。
たった数ヶ月一緒にいただけで、その姿に心を癒された。
クロは魔物なのに。
(だからこそ、私は)
「戦わなければいけない。向き合わなければいけない。
自分に与えられたこの力の意味と、魔物と。
クロのために」
「……あまり一人で抱え込んでは駄目だぞ」
「分かっている。エリアスもソールも……、私には頼もしい仲間達がいるんだもの。
怖くないと言ったら嘘になるけれど、一人だと思っていた時とは比べものにならないほど、心強いわ」
「…………」
冗談のつもりで口にしたのに、エリアスは真面目に捉えてしまったらしい。
私は肩をすくめ、小さく笑って言う。
「あら、今のは冗談だから笑って欲しいのだけど?」
「……笑えるわけがないだろう。俺だって、っ」
エリアスが言わんとしていることが分かった私は、人差し指を立て、彼の口に軽く当ててそれを制する。
「知っているわ。だからこそ、もう二度と失敗はしない。
誰一人犠牲を出さず、この世界のことわりを覆すの。
私達なら、それが出来ると信じているから」
「!」
目を丸くするエリアスにもう一度微笑んでみせてから、彼の唇から人差し指を離し、かけてくれた上着を脱いで皺にならないよう簡単に畳んで手渡す。
「さて、お休みはこれくらいにして。まだまだやるべきことは沢山あるのだから気を引き締めないと。
……そうだ、リオネルさんの試作品ってそろそろ送られてくる頃だと聞いているけれど、送られてきた? どれほどの威力なのか、試作品が出来たら試してほしいと言われているのだけど」
エリアスにそう尋ねると、彼は「いや」と首を横に振ってから静かに口にする。
「それらについてはまだ送られてきていない。
だが……、代わりに、これが送られてきた」
エリアスに差し出されたのは、手紙のようで。
それを受け取り、宛先に目を落としてから封を切り中身を取り出す。
手紙に目を通してから、私はエリアスを見上げ、口を開いた。
「わざわざお越しくださりありがとうございます、お父様、お兄様」
私の言葉に、向かいに座っているお父様とお兄様は首を横に振って答える。
「いや、こちらこそ、時間を作ってくれて……、承諾してくれてありがとう」
「エリアス様も、ご多忙の中お時間を作っていただきありがとうございます」
お父様に続くお兄様の言葉に対し、エリアス様は「構いません」と返してから私を見やる。
その目には、私を思いやる気持ちが滲んでいて。
それを嬉しく、心強く思いながら大丈夫、というふうに一度頷いてみせた。
どうしてお父様とお兄様が公爵邸を訪れたかというと、手紙に綴られていたのが私と会って話がしたいという旨だったから。
その手紙を見て、何を話したいのかと戸惑う気持ちはあったけれど、承諾したのだ。
だって私は、何からももう逃げないと心に決めたから。
それに……。
(隣には、エリアスがいてくれるから)
だから、と正面にいるお父様、隣にいるお兄様と向き合って言葉を発した。
「本日は、どのようなご用件でしょうか?」
「「……っ」」
目の前で驚いたように固まる二人を見て、やってしまった、と心の中で思う。
(わ、我ながら他人行儀がすぎる……)
あれからお二人に会うのは約三ヶ月ぶり。
期間が空いたこともあるけれど、家族とはいえ血の繋がりがないお二人とどう向き合えば良いか分からなかった結果出てきた言葉に、色々な意味で頭を抱えていると。
「……余計なお世話、だとは思ったんだが」
恐る恐るといったふうに言葉を発したお父様を見れば、お父様もまたどこか固い面持ちで口を開いた。
「アリスも今回の魔物討伐に参加すると、王太子殿下からお聞きした」
「「……!」」
私は思わずエリアスと顔を見合わせる。
(っ、公には知らされていないと聞いたけど、お父様には私が参加することを伝えられたんだわ……)
息を呑んだ私に対し、お父様は私を見つめて静かに尋ねる。
「アリスは本当に、参加するのか」
(……今なら分かる)
お父様は、私を心配してくれているのだと。
私が血の繋がりのない家族だから、世間の目に触れないように屋敷からあまり外に出さないようにしていた。
私にとってそれは、苦痛以外の何物でもなかったけれど。
今回の討伐も、もしかしたら危ない目に遭うかもしれないと心配して、私を止めに来たのだとしたら。
(それなら、私は)
ギュッと膝の上で拳を握りしめると、迷いなく告げる。
「はい。私は、魔物討伐に参加いたします」