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第三十二話

2024.5.20.三人での会話の流れの一部を修正致しました。

「落ち着いたか?」


 頭上から発せられたエリアスの言葉に、その胸元に顔を埋めたまま答える。


「……えぇ、何とか」

「それなら顔を見せてくれたら嬉しいんだが」


 せっかく帰って来たんだし、という言葉に顔を上げることなく首を横に振る。


「……いや」

「えっ」

「だって……、泣き顔だもの。お化粧もしていないし、酷い顔をしているに違いないわ」

「見ないと分からないじゃないか」

「鏡を見なくても分かるの」


 そんな顔を見られたくないと顔を上げられずにいる私に、エリアスはクスクスと鼓膜を震わせる声で笑った後、私の耳元に身を寄せて囁くように言った。


「久しぶりだと言うのに、目を合わせて話すことを許してくれないのか?」

「……っ」


 甘やかな声に加え、耳に吐息が触れ、羞恥に身悶える私にエリアスは続ける。


「君は俺を翻弄するのが上手いな。俺はこんなにも、君に焦がれて仕方がなかったというのに。

 ……会いたかった、アリス」


 ギュッと再び抱きしめられた私は、ちょっと顔を上げて口にする。


「……その言い方はずるいわ」

「君も同じ気持ちなんじゃなかったのか?」

「きゅ、急に帰ってくるものだから何の準備もしていなかったのよ。

 本当に、心臓に悪すぎる……」

「それだとまるで“帰って来ないで欲しかった”というように聞こえるが」

「!? そんなわけがな……っ!」


 反論しようとして、氷色の瞳と至近距離で目が合った瞬間ハッと息を呑む。

 空が白み始めているとはいえ、まだ薄暗い部屋の中で吐息が触れる距離にいるという、何とも心臓に悪すぎる状況に反射的に視線を逸らそうとしたけれど、頬に添えられた長い指先がそれを許してはくれなくて。

 見上げることしか出来ない私に、エリアスは私の目元をなぞりながら呟く。


「……ようやく目が合った」


 そう心から嬉しそうに笑うものだから何も言えなくて。

 視線を逸らすことも出来ず見惚れてしまっていると。


「……君の方こそ、その表情は心臓に悪すぎる」

「え……、っ」


 腰に回った腕に力が込められ、近いと思っていた距離がさらに縮まる。

 そして、エリアスの瞳の奥に宿る甘やかな熱に誘われるようにそっと目を閉じた、刹那。


「そこらへんにしておけ、バカップル」

「「!!」」


 口の悪い俺様神様の声が耳に入ってきた私は慌ててエリアスから距離を取る。

 エリアスはというと、口を挟んできた俺様神様を恨みがましげに見て言った。


「今のはわざとだろう」

「さあ、何のことだか」


 ソールは机の上から飛び降りると、床に足をついた瞬間人間へと姿を変え、腕組みをして呆れたように言った。


「ってか待ってやった方だ、俺は。

 時間もねぇのに二人でイチャつきやがって……、お前ら見てると胸焼けするし日が暮れるっての」


(ば、バッチリ見られていた……っ)


 そうよね、ソールがエリアスをここまで連れて来てくれたんだものね……、とお礼を言おうとするより先にエリアスが鼻で笑う。


「妬くなよ」

「誰が妬くか」


 仲が良いのか悪いのか。睨み合う二人のやりとりこそ日が暮れそう、なんて思ってしまいながら、一つ咳払いして口火を切る。


「エリアスがどこまで知っているかは分からないけど……、私の夢の中に魔物が現れたの」


 話を切り出した私に、二人の真剣な眼差しがこちらに向く。

 そんな二人に向かって私は言葉を続けた。


「魔物と再び対峙することになったのは一ヶ月後。

 それまでは、上級以上の魔物が現れることはないはずよ」

「どうして言い切れるんだ?」


 疑問に思ったエリアスが尋ねてきたから、答えるよりも先にソールが口を挟む。


「アリスが挑発して誘導したんだよ。“正々堂々勝負しましょう”ってな」

「ソ、ソール!」


 いらないことを言わなくて良いのよ! と止める私に対し、エリアスの心なしか呆れたような眼差しが返ってくる。


「……本当に君は、無茶をする」

「っ、だって仕方がないでしょう?

 エリアスの容姿を勝手に使われて精神的に追い詰めてくるなんて卑怯なやり方じゃない。

 許せるはずがないわ」

「アリス……」


 グッと拳を握る。

 少しでも隙があれば脳裏に浮かぶあの光景を隅に追いやるように、不敵に笑ってみせる。


「だからね、やられたらきちんとお返ししようと思っているの。

 手加減なんてしてやらないんだから」


 私の言葉に、ソールは笑う。


「ははっ、さすがはアリス。そう来なくちゃな」

「えぇ」


 頷きを返すも、エリアスは心配そうにこちらを見ていて。

 エリアスに向かって今度は力強くはっきりと言葉を告げる。


「大丈夫、もう惑わされはしないわ。

 ……だってエリアスは、私と共に戦ってくれるでしょう?

 それ以上に心強いことがある?」


 それでも何とも言えない顔をしているエリアスの手を握ると、彼の瞳を真っ直ぐ見つめて言った。


「エリアスは、氷属性の魔術と風属性の祝福を受ける妖精にも認められた最強の魔法使い。私は、まだまだ魔法使いとしての日は浅いけれど、女神様と同じ“癒しの魔法”を妖精さん達から授かった祝福の使い手。

 ね、私達二人で“最強”でしょう?」


 私の言葉にエリアスが目を見開き、何か口を開きかけたのと同時にニュッと私とエリアスの間にソールが顔を出す。


「俺もいるぞ」


 そう言ってくれたソールに、私は驚き尋ねる。


「手伝ってくれるの?」

「ここまで手伝わせといてよく言うな。神である俺をコキ使うのはお前達くらいだぞ。全く、人使いが荒い」


 腕組みをして文句交じりに口にするソールを見て、エリアスがにっこりと笑って返す。


「気のせいだ」

「清々しいまでの開き直りっぷりだな。マジで全部良いとこ取りするお前だけが気に食わねぇ」

「そういう割に、俺のところへ『アリスを助けてやれ』ってすっ飛んできたのは自分の意志だろう?」

「そうなの?」


 初耳の情報に思わずツッコミを入れ目を瞬かせれば、ソールは「そんなことはどーでも良いだろ!」と顔を真っ赤にさせ、私達が握っていた手に乱暴に自分の手を重ねる。

 私とエリアスは顔を見合わせて小さく笑うと、ソールが上から重ねた方の手を同時に離し、ソールを仲間に入れるようにそれぞれ手を繋ぎ直す。

 そして、私は二人の目をしっかりと見て口を開いた。


「二人とも、本当にありがとう。頼りにしているわ」

「「……!!」」


 二人が目を見開いたと思ったら、顔を寄せてボソボソと何かを囁き合った。


「これも惚れた弱みってやつなのか。冗談じゃねぇ」

「そうだ。不思議なことに、アリスの頼みならどんな無茶振りでも答えなくてはと思う。

 そしてその無茶振りでさえも可愛く見える魔法にかかる」

「俺はそこまでじゃねぇからお前は重症だな。ご愁傷サマ」


 二人のやりとりは聞こえないけれど、私の話をしていることだけは分かって。


「ちょっと、二人して何の話をしているの? 私の悪口?」


 と怒れば、二人同時に笑い出す。


(……まあ、良いわ)


 一ヶ月後、私達に待ち受けているものがどんな未来かは分からない。

 だけど、かけがえのない最強な仲間達が一緒だから。


(もう、怖くない)


 話している二人の後ろの空は、先程に比べて明るい。太陽が昇るのもすぐだろう。

 明けない夜はない、大丈夫とそう自分に言い聞かせるように、ゆっくりと目を閉じた。

いつもお読みくださりありがとうございます。

皆様の応援のおかげで、ついにこの物語も40万字を迎えることが出来ました。本当にありがとうございます。

後残りわずかというところで大変申し訳ございませんが、少し長めのお休みを頂くことに致しました。

リアル多忙と物語終盤の最終確認が重なったためです。

楽しみにしてくださっている読者の皆様には本当に心苦しいですが、もうしばらくお付き合いいただけましたら幸いです。(今のところ、6月中に再開できたらと思っております)

どうぞよろしくお願いいたします。


2024.6.23. 6/28に更新再開いたします。

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