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第三十話

「こちらがアリス様とエリアス様にと考えている武器です」


 そう言ってリオネルさんから手渡された資料を見て、申し訳ないけれど顔が引き攣る。


「……ごめんなさい。エリアスはともかく、私のは武器になるの……?」


 心の底から不安が募った私の言葉に、フェリシー様が力説する。


「もちろんです! アリス様の場合は武器ではなく広範囲に“癒し”の魔法で相手を喪失させることができるようにと考えた結果なんです!

 決してアリス様が持つと可愛いだろうなという邪な考えからご提案したのではありません!」

「フェリシー様、そんなことを考えていたのね……」


 フェリシー様はしまった! というような顔をし、リオネルさんも困ったように笑ったため、思わず頭を抱える。


(確かに魔物を傷つけたくないから、武器はなるべく戦いを避けたものを所望したわ。

 所望したけども……!)


 これでは戦う時に私だけが浮いてしまうこと間違いなしだわ! と悲鳴を上げかける私に、フェリシー様はまたもや拳を握ってやや前のめり気味に言う。


「大丈夫です、ノルディーン様も同じような(タイプ)のものを選びましたから!」


(……つまり、ヒロインであるヴィオラ様と悪役令嬢である私にフェリシー様が持たせたかった型のものだと)


 本当に申し訳ないけれど想像しただけで半目になる私に、リオネルさんが慌てたように口を挟む。


「な、何も可愛いだけではないんですよ!

 こちらは攻撃・守備どちらにも特化したもので、広範囲魔法を司るにはもってこいの型なんです。

 柄の部分にはあらかじめ自分の魔法を付与した魔石を装填しておくことで、効果が割り増しになるように計算して妖精と共にお作りする予定です」

「……割り増し」

「はい。剣や銃型のものはエリアス様にお作りし、アリス様には違う型……、魔物が警戒しないよう、武器らしくない武器を目指しました」

「…………」


 彼らなりの考えがあっての型なら仕方がない。


「……分かったわ。せっかく考えてくれたのに、不満を口にしてしまって申し訳なかったわね」

「い、いえ、僕達の中で可愛いデザインという点で盛り上がってしまった部分は確かにありましたから……」


 ね、と視線を合わせるフェリシー様とリオネルさんの姿に瞠目する。


(確かに、フェリシー様はリオネルさんの魔道具作りに協力していると聞いていたけれど……)


 案外この二人、身分差以外の相性は趣味も合うようだしお似合いかもしれない……? と思ったけれど、二人の関係性に首を突っ込むのは不粋よねと頭の隅に追いやり、自身の意見を述べる。


「でも、お二人が考えてくれてのデザインなのだから、型はこのままの形でお願いするわ。

 後は……そうね、エリアスの武器も含めて私からの要望としては……」






『そうか、衣装も武器作りの方も順調そうなんだな』


 エリアスの言葉に、私は頷きながら言葉を返す。


「えぇ。皆凄く力を入れてくれているわ。

 ……私としては、武器が武器になるのか一抹の不安を覚えてしまっているのだけど。

 あっ、腕は確かなことはもちろん分かっているのよ。だけど、その、デザインがあまりにも可愛らしすぎて……」

『良いじゃないか。君が好きな花のデザインなのだろうし、何より可愛いものを見て恥じらったり幸せそうに笑ったりしている君を見ることが俺としては一番楽しみなところだ』

「〜〜〜エリアス!」

『ははは』


 エリアスの笑い声に、鼓動が高鳴り、擽ったい気持ちになる。


(……一先ず良かった、元気そうで)


 指輪を媒介に、“親愛魔法”を使って会話をしている私達。

 エリアスはこの後、すぐに前線へ向かい、魔物の監視をしなければいけないのだという。


(こういう時、“親愛魔法”があって良かったと心の底から思う)


 前世では当たり前のように使っていた携帯電話という便利なツールがここにはない。

 だからこそ、エリアスと話すことか出来る“親愛魔法”が貴重であり、とても大切に思える。


「……エリアス」

『ん?』

「無茶は、しないでね」


 その言葉に、エリアスは少し黙ったかと思うと……。


『無茶はしているな』

「えっ?」

『本当なら、アリスを一番近くで守りたい』

「……!」

『アリスと、一緒にいたい』


 いつもの彼がたまに見せる弱々しい口調で発せられた言葉に、私の瞳から涙がこぼれ落ちそうになるのを必死に堪え、顔が見えなくて良かったと思いながら、笑みを浮かべて返す。


「……うん、私も。エリアスに会いたい、凄く。

 だから無茶はしないで、無事に帰ってきてね」

『……あぁ。必ず、君の元に戻る。約束する』

「絶対よ」

『絶対にだ。……まだ、君と叶えられていないことは沢山あるからな』

「え……?」


 叶えられていないことって、と尋ねようとしたけど、その前にエリアスが遮るように言う。


『時間だ。アリス、おやすみ。君こそ無茶をしないで早く寝るんだぞ』

「あ……、お、おやすみなさい」


 耳に届いたエリアスの小さな笑い声を最後に、光を帯びていた指輪は元の桃色の石に戻る。

 そして、石にそっと触れながら首を傾げた。


「叶えたいことって何だろう……?」


 エリアスの口からそんな話は聞いたことがなくて。

 うーん、と考えている間に足元に黒猫が現れる。


「そんなどーでも良いこと考えてる暇があったら早く寝ろ」

「わっ!?」


 ソールが人間の姿に戻りパチンと指を鳴らしたことで、またベッドに寝かされ、バサッとかけられた毛布を見て抗議した。


「ちょっとソール! 早く寝ろと声をかけてくれるのはありがたいけどいくら何でも乱暴すぎない!?」

「うるせぇ。こうでもしないと眠らねぇだろ、お前は。

 誰が“無茶はしないで”だ。一番無茶をするのはお前のくせに」

「うっ……」


 否定は出来ずに口籠もれば、ソールは腕組みをして言う。


「良いから花でも何でも出して早く寝ろ。

 お前に必要なのは戦力よりも睡眠だ」

「……分かっているわよ」


 幻影魔法、と小さく呟けば、ソールが灯りを消した代わりに魔法の光を纏ったお花が現れる。


「……綺麗」


 最近忙しくていけばなが出来ていない。

 魔物の件が無事に収束し、平和になったらその時はまた、沢山お花を生けたい。

 やっぱりお花を見ると落ち着くわ、と提案してくれたソールに感謝しながら、目を瞑りあっという間に意識を手放した。





 そんなアリスの寝顔を見て、ソールは人知れず息を吐く。


「……ったく、お人よしもほどほどにしろっての」


 そう言いながら、得体の知れない不快感が胸を過り、窓の外、星一つ見えない真っ暗な夜空を睨みつける。


「……嫌な予感がするな」


 当たってほしくないと願いながらも、“運命”を司る神であるソールの勘は百発百中なのだ。

 ソールはもう一度、すやすやと眠るアリスの寝顔に視線を向け、自身の顔に陰を落としながら彼女を注意深く見つめた。

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