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第二十五話

「アリスは確か、魔物と対峙した後に歴史書を読み、魔法使いの起源については既に知っていたな」

「えぇ。遠い昔、魔物が人間界へと度々姿を現すようになり悪さをするものだから、それを見かねた神々が選ばれし賢者達に力を与えた、ということは知っているわ」

「そう、その神々の頂点に立つのが“創世の女神”であり、神々に人間に力を与えるよう促した神であると言われている」

「言われている?」


 釈然としない物言いに首を傾げれば、ヴィオラ様と共に席に着いた王太子殿下が言う。


「確かに当時の先祖達は記録していたはずだけど、度重なる自然災害や戦争により、その書物は日に日に数を減らし、今では賢者を先祖に持つ王家と公爵家だけが辛うじて厳重に保管している状態だ。

 それを私達は“記録書”と呼び、歴史的証拠がなく定かではないために、迷信や空想と同じ類ではないのかとも言われていた」

「その“記録書”でさえもところどころ文字が読めない場所、もしくは不自然な箇所があるため、もしかしたら創世の女神についてもう少し詳しく描かれていたのかもしれないが。とりあえず今分かっていることは、創世の女神がこの世界を作り出し、神々の頂点に立つ神であること、そして、創世の女神の使う力が“癒しの魔法”であるということだけだ」

「…………」


 神々の頂点に立つ、創世の女神。


(魔界を封印するために必要な魔術を賢者達に与えるよう神々に促した、最高峰の女神……)


 では、ソールのことを知っている、声しか知らないあの女神様が……?

 考え込む私に、ヴィオラ様が言う。


「私も創世の女神については、魔界を封印してエドワールの許嫁になってから初めて知ったけれど、まさかこんな身近にその女神と同じ魔法の使い手がいたなんて……。

 でも、確かにロディン公爵邸でアリス様が主催したお茶会で出していたキャンドル。

 あの時とても良かったから同じものを取り寄せたのだけど、お茶会の日のような癒しの効果は得られなかった。

 ……あの時から、あなたは既にその魔法を使えていたのね?」


 ヴィオラ様の鋭い指摘にギュッと手を握り肯定する。


「はい、申し訳ございませんでした」

「謝ることではないわ。賢明な判断よ。

 ……ロディン様の言う通り、アリス様の魔法は紛れもない特別な力。

 国中に知れ渡るようなことがあったら、それこそアリス様は確実にその力を狙われてしまうわ」

「……そうだね。その力は未知であるがゆえに、脅威にもなり得る。

 昨夜のような魔物を一瞬で、それも二頭も退治し、私の足の傷をも完璧に治してしまった。

 その力は、特別以外の何者でもない」


 二人のお言葉に知らず知らずのうちにエリアスと握っている手に力が籠る。

 エリアスもまたそれに気付いてくれ、代わりに口を開いた。


「特別だからこそ、守らなければならない。

 そもそも、アリスは魔術の使い手ではない、祝福の使い手としても遅咲きの魔法使いだ。

 いくら強大な力を持っているとはいえ、先ほど言った通り王家や国に縛り付けられるようなことがあってはならない。

 アリスがそれでも王族であるエドワールとその婚約者であるヴィオラ嬢に明かそうと思ったのは、国を守るためだ」


 エリアスの言葉に私も続ける。


「封印したはずの魔界から魔物がやってくるのは、私のこの力を狙っているからのようです。

 多分、今お話ししていた“創世の女神”と同じ力を持ち、創世の女神を憎んでいるからこそ、魔法使いの中でも私を一番の攻撃対象として敵視している。

 過去に魔物と先祖である人間の間に何があったかは……、魔物達曰く、“全てを魔物のせいにし、人間達が真実を闇に葬り去った”……、失われた歴史の中にあると」


 私の言葉に、エドワール殿下とヴィオラ様は驚愕に目を見開き立ち上がる。


「本当か!?」

「はい、エリアスも聞いていたので確かかと」

「あぁ。俺も聞いていた。……俺達の先祖である人間が魔物達の居場所を奪い、追いやったのだと」


 私とエリアスの言葉に、ヴィオラ様が口にする。


「その話からすると、魔物も以前この地に住んでいた、というような口ぶりね」

「それに、かつて人間界に魔物が住んでいたことも、魔物達を追いやったなんていう史実も聞いたことがない。

 ……魔物達の言う通りそれが真実なのだとしたら、先祖達が自分達の都合が良いように歴史を有耶無耶にしたということになり、魔物達が自分達を排除しようとした人間を恨む構図も納得がいく」

「「「……」」」


 エドワール殿下の口からまとめるように導き出された答えに、私達の間に沈黙が訪れる。

 エリアスは一つ咳払いしてから言葉を切り出した。


「まあ、魔物の言っていることが本当かどうかは分からない。

 恨んでいるという割に、アリスによく懐く魔物がいたからな」

「アリス様を庇ったあの黒い犬型の中級魔物のことね」


 ヴィオラ様の指摘に頷き、口を開く。


「エリアスの言う通り私を庇ってくれたあの魔物のように、人間を恨んでいない子もいることは確かです。

 ……歴史書を読んで思いました。魔物は本当に“悪”の存在なのだろうかと。

 魔物全てを“悪”と決めつけるのは、違うのではないかと」

「でも、魔物を斃さなければ私達魔法使いが殺されてしまう。

 あなただって、関係性は分からないけれど目の前で庇ってくれたという魔物が殺されてしまったのよ?

 “悪”でなくても、彼らは凶暴よ」


 ヴィオラ様の指摘にギュッと拳を握る。


「分かっています。ですが、クロ……庇ってくれた魔物は、一ヶ月もの間私とずっと一緒にいましたが、“悪”などではなかった。

 現に、妖精達とも遊んでいた。

 ……そんな風に、魔物や妖精、人間関係なく一緒に共存出来る方法はないかと思ったのです。

 争いは悲劇を生み、憎む構造を連鎖させるだけ。

 失われた歴史が本当にあるのだとしたら、私は、その真実が知りたいのです。

 魔物をなぜ“悪”と呼ぶようになったのか。

 魔物がなぜ魔法使いだけを攻撃するのか。

 全てを知った上で私は、どうすべきか判断したい。

 ……魔物達が恨んでいるというこの“癒しの力”は、魔物を攻撃するのではなく戦意を喪失させ、魔界へと帰すことの出来る魔法です。

 そんな力を得た私が今ここにいることで、これ以上魔物も人間も誰も傷つかずに済む方法を見つけよとの神様のお告げなのではないかと思うのです」


 私は戸惑う二人に向かって頭を下げ、言葉を紡ぐ。


「お願いです。私に出来ることなら何でも協力いたします。

 ですからどうか、“失われた歴史”の有無を調べ、魔物達との関係性を今一度考えてみてはいただけませんか。

 もちろん、危害を加える魔物に対しては防御する必要があるかもしれません。

 ですが、敵対心を持たない魔物がいることも知って頂きたいのです。

 魔物は“悪”でない可能性があるということを念頭に置いた上で調べていただきたいのです」

「俺からもお願いします。

 ……間違いなく、異常事態を迎えている今、アリスが創世の女神と同じ魔法の力を授かったということは、アリスの言う通り、人間と魔物との関係性を見直すべきという神々のお告げなのかもしれない。

 魔物を“悪”と決めつけ排除するのが人間の驕りなのだとしら、それは正すべきだ。

 無用な争いや災いは、一層溝を深くし互いを傷つけるだけで何も残らない。

 魔物と争う構図がなくなるのは、王家にとっても喜ばしいことのはずだ。

 だからどうか、アリスと共に新たな可能性を探してほしい。お願いします」


 私の横で、エリアスが頭を下げる。

 そんな私達を見て、王太子殿下は口を開いた。

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