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第二十四話

 翌日。

 朝食を部屋で摂った私達は応接室へと呼ばれた。

 そこには、王太子殿下とヴィオラ様の姿があり、私とエリアスも促されてその向かいの席に座る。

 最初に口火を切ったのは王太子殿下だった。


「まずはお礼を言いたい。ありがとう、私達を助けてくれて」

「……お怪我の方は」


 何とか尋ねた私に、王太子殿下は足に目をやってから微笑み口にした。


「おかげさまで、傷跡ひとつ残っていないよ」

「……良かった」


 小さく呟けば、王太子殿下はヴィオラ様を見て……、次の瞬間、二人共に頭を下げていた。


「「すまなかった/ごめんなさい」」

「!? お、お顔をお上げください!」


 まさか謝られるとは思わず慌てる私に、王太子殿下は自身の膝に置いていた手をギュッと握り口にする。


「完全に驕っていた。自分なら皆を守れると。

 私の力は守護の力だ。あの場にいる全員を守れると信じて疑わずに自身の誕生日会と称して皆を集めたんだ」

「エドワールだけではないわ。光属性である私も魔物の力を弱めることが出来る。だから大丈夫だと侮っていた。

 学園時代に魔物達を封印したのは私達だから、今度も魔物を斃せると、迷っていたエドワールを後押しした私にも責任がある。本当に、ごめんなさい」

「そんな、お二方共、顔をお上げください!

 私もエリアスも、何よりお二方にお怪我がなくて良かったです」


 慌てて首を横に振る私に、ヴィオラ様は目に涙を浮かべて言った。


「でも、私達だけではあの時、斃すことが出来なかった。

 ……見たことのない魔物、それも今までに見たことのない強い力を前に、私は足がすくんでしまった。

 そのせいで、魔物から放たれた魔法から私を庇ったエドワールが足を……っ」

「ヴィオラ、落ち着いて。ロディン夫人のおかげで、後遺症すら残らず完璧に治癒してもらえたから」


 震えるヴィオラ様の肩を、王太子殿下が大丈夫と繰り返しながら摩る。


(……そうか、ヴィオラ様は自分のせいで王太子殿下が怪我をしたから動転していたのね)


 無理もない。あんな凶暴な魔物の攻撃を庇ってエリアスが怪我をしていたらと思うと、私もゾッとする。


「とにかく、そんなに恐縮なさらないでください。お二方をお助けすることが出来て良かったです」

「「…………」」


 顔を上げた二人に向かって微笑めば、お二方はようやく少しだけ落ち着きを取り戻す。

 だけど、その顔が晴れないのはきっと。


「……魔物を斃し、王太子殿下のお怪我を治した私の“魔法”が何なのか。

 それを尋ねられるために私をこちらへお呼びになったのですよね」


 目の前にいるお二方は戸惑ったように顔を見合わせる。

 私もエリアスの方を見て頷くと、エリアスがパチンと指を鳴らした。

 刹那、エリアスを中心に風が起こり、部屋の壁や床が銀色の光の粒に覆われ、やがて光が消えるのを見届けてからエリアスは重く口を開いた。


「……ここからの話は、他言無用だ。

 アリスがどうしても話しておきたいと言うから、俺はアリスの意見を尊重する。

 だが、万が一アリスを傷つけるような真似、あるいは国で縛り付けるような真似をしようものなら、俺は国をも敵に回すことは厭わないからな」

「っ、エリアス、押さえて。それは駄目よ、本当に。私は大丈夫だから」


 部屋の空気が物理的に凍りついたのを阻止すれば、冷たすぎるほどの冷風が止む。

 目の前にいるお二方が固まっているのを見て、私はコホンと咳払いして言った。


「話を戻させていただきます。……お二方が知りたいのは、私の魔法のことですよね。

 私は今まで、この魔法の“本当の力”を黙っていました。……いえ、正確に言えば分からないから、なのですが。

 この力が未知の力であり、魔物達が敵対視していることから、何となく、特別な力なのだということは分かっておりました」


 ずっと目を背けてきた。

 この魔法から、私が一体何者なのか。

 でも、もう逃げない。だって私は。


(皆を……、エリアスを守りたいから)


 エリアスに手を重ねれば、彼も握り返してくれて。

 私はその手をしっかりと握り、意を決して言葉を発した。


「私の魔法は、公には“花の魔法”とお伝えしていましたが……、本当の名称は、“癒しの魔法”です」


 その言葉に、お二方が同時に立ち上がり、エドワール殿下は、まさか、と呟く。


「“癒しの魔法”なんて……、それは、幻の魔法ではなかったのか……? 人間が“祝福”として、ましてや属性で受け継ぐような魔法でないことは確かだし、そもそもその力を使える人間がいるなんて、聞いたことがない」


 エドワール殿下の信じられないというような言葉に静かに言葉を発したのは、私の手を握ってくれているエリアスで。


「幻などではない。彼女の力は、紛れもない“癒しの魔法”そのものだ。

 妖精の口から直接聞いたんだ、間違いはない」

「そんな……、間違いはないって。でも、なぜ……、“癒しの魔法”は」


 その先の言葉を口にしなかった王太子殿下の代わりに、エリアスが冷静に言葉を紡ぐ。


「そうだ。紛れもない、“創世の女神”の力だ」

「創世の、女神……?」


 聞いたことのない名称、それも女神の呼称に目を見開いたのは私の番で。

 そんな私を見たヴィオラ様が慌てたように言う。


「まさかロディン様、創世の女神についてアリス様に教えていないの!?」

「創世の女神については分かっていないことの方が多い。

 第一、創世の女神について知っているのは国の中でもごくわずか……、王族や侯爵位以上の貴族くらいしか知る者はいないだろう。

 まさか俺も、創世の女神の力をアリスが妖精達から祝福されるとは思いもしなかったから、黙っていただけだ」

「それでも! アリス様には教えるべきだわ!」

「今まで魔法を使ったことのないアリスが魔法を授かっただけでも大変な思いをしているのに、その魔法が幻であり希少なものであると知ったら混乱させるだけだろう」


 エリアスの言葉にヴィオラ様が押し黙る。

 

(確かに、最初に“癒しの魔法”を授かったことをエリアスに伝えた時、エリアスは何かを知っているようだった。それが創世の女神様のことだったというわけね……)


 私はエリアスに請う。


「教えて。創世の女神について……、私の魔法が、どんなものなのか。

 知っていることを全て、私に教えて」


 エリアスは頷くと、一度深く息を吸ってから口を開いた。

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