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第二十話

 そして。


「「わぁ…………」」


 感嘆の声を漏らしながらお二人……ミーナ様と本日の主役と共にパレードに参加なさったヴィオラ様の視線が注がれ、居た堪れず声を上げる。


「い、いかがでしょうか」


 尋ねた私に二人は顔を見合わせた後、手を叩いて口にする。


「素敵ですわ。予めデザインを作る段階からアリス様が着られる姿をイメージしてお作りしていましたけれど……、想像以上に綺麗で、言葉が出ませんわ」

「ミーナ様と妖精さん達の作るドレスがとても素敵で、ドレスに着られていないかと不安になっていたので、そう言って頂けて安心いたしました」


 ミーナ様の言葉にそう返した私に、ヴィオラ様が首を横に振る。


「ミーナ様と妖精達が作ったドレスは確かに素敵だけれど、あなたからはこう、何というか……、人間離れした空気を感じるわ」

「!? そ、それはヴィオラ様の方だと思いますが」


 さすがは小説中のヒロインというべきか、パレードの時とはまた別のプチット・フェのドレスに身を包んだヴィオラ様は、その場にいるだけで目を引く華やかな印象を受けて。

 そんなヴィオラ様に褒めて頂けるとは思わず首を横に振れば、ヴィオラ様は「ありがとう」と笑ってから言葉を続ける。


「でもお世辞ではなく本当のことよ。

 あなたからは今まで出会ったどの方よりも強いオーラのようなものを感じる。

 ……それは、エリアス様をも凌ぐほどに」

「……っ」


 ヴィオラ様は全てを見透かしているような瞳で私をじっと見つめる。 

 それにより、いつかエリアスが言っていた言葉がふと蘇る。


『彼女は勘が鋭い。君の秘密も、もしかしたらバレる……、いや、もうバレているかもしれないからな』


(ヴィオラ様はエドワール殿下の婚約者であり、次期王太子妃、ゆくゆくは王妃となるお方。

 たとえ私の魔法を隠し通すことが時間の問題だったとしても、エリアスと出来る限り隠し通すことを約束したから)


 私はふっと微笑むと、笑みを浮かべて口を開いた。


「ありがとうございます。ヴィオラ様にそのように仰って頂けてとても光栄です。

 エリアスの隣に並び立つに相応しくありたいと、そう思っておりますから」


 にこやかに告げた私に、ヴィオラ様もまた微笑んで返す。


「それなら全く心配はいらないと思うわ。

 ……日中のあなた方を見ていたら、とても仲睦まじく……特に、エリアス様の方があなたにご執心でいらっしゃるようだもの」

「!? み、見られていらっしゃったのですか!?」

「ふふ、もちろん。パレードの後はお忍びで城下を歩いてみた時に、たまたまお見かけして。

 もちろん久しぶりに城下を歩くのも楽しかったけれど、お二人の仲睦まじいお姿を見られてとても新鮮だったわ」

「……っ」


(ま、まさか、お忍びでいらっしゃった上見られていたなんて……っ)


 約束した通り片時も離れないようにと、殆どの時間を手を引かれたり肩を抱かれたりしていたことを思い出し、顔に熱が集中していくのが分かって。

 思わず頬を抑えた私に、ミーナ様が笑みを溢して言う。


「それに、まだデザインはお見せしておりませんけれど、そのお色味はロディン様たってのご希望なのですわ」

「!? そ、そうなんですか!?」

「はい。それもペアルックで、と」

「…………っ」


 その言葉に、ヴィオラ様は手を叩いて口にする。


「まあ! あのエリアス様がそのような?」

「はい、あのロディン様がですわ! どれもこれも、アリス様は愛されていることが伝わってきて、今のアリス様をお見せした時のエリアス様の反応がとても楽しみだと、ファビアンとも話していたのですわ」


 二人で興奮気味に話し始めたことに居た堪れなくなった私は慌てて切り出す。


「そ、そろそろお時間ですわね! 行きましょう!!」


 そんな私を見て、二人はクスクスと笑ってから長椅子から立ち上がったのだった。




 エドワール殿下が主催するパーティーは、日が落ちる前から始まることになっている。

 そのため、王城の一室をお借りしてパレードから夜会のドレスに着替え、ミーナ様やヴィオラ様と合流し、その後に別室で着替えている男性方と待ち合わせをしていた。


(エ、エリアスに何と言われるかしら)


 お二人は素敵だと言ってくれたけれど、エリアスもそう思ってくれるかしら、とドキドキと高鳴る鼓動の音を聞きながら歩いていると、ドンッと何かに頭がぶつかる。


「きゃっ……!?」


 勢い余って危うく転びそうになったところを、腰に力強い腕が回ったことで支えられ、転ばずに済んだと顔を上げた先には。


「「あ……」」


 その人は、紛れもない彼……エリアスの姿があって。

 私の腰を支えたまま、氷色の瞳に戸惑う私の姿が映っているのが見えるほどの至近距離で固まってしまう彼に向かい、言葉をかける。


「あ、の……?」


 あまりの近さにそう声を出すのがやっとで。

 恐る恐る顔を覗き込む私に、エリアスはようやく我に返ったように私を立たせてくれる。


「す、すまない。この世のものとは思えないほどにあまりにも綺麗で……、見惚れてしまった」

「……っ!?」


 この世のものとは思えない。

 エリアスの口からもそんな言葉が出てくるとは思わず、頬を抑えて身悶える。


(ちょっと待って!? どうしてそういうことをストレートに言えるの……!)


 とても嬉しいけれど、後ろから感じるお二人の視線もあり、戸惑うことしか出来ずにいる私に、エリアスが後ろに向かって不機嫌そうに口を開く。


「エドワールもファビアンも待っているぞ。早く行ったらどうだ」

「はいはい、私達はお邪魔虫ということね。分かっているわよ、退散するわ」

「お邪魔しました!」


 そう言って私に向かってヴィオラ様は手を振り、ミーナ様はウインクをして……、二人とも良い笑顔を私に向けて行ってしまう。

 その生温かい視線を受け内心悲鳴を上げている私に、エリアスは拗ねたように言う。


「こちらを見てくれないか」

「……ちょ、ちょっと待って」


 心の準備をと思ったのに、エリアスはそれを許さないと言わんばかりに不意に私の手を取り、その手に口付けられる。


「!?」


 手に訪れた柔らかな感触に反射的に顔を上げた私に、エリアスは嬉しそうに笑う。


「やっとこちらを向いてくれた」

「……っ、エリアスが、そういうことをするから……っ」

「そういうことって?」

「か、からかっているでしょう!?」


 怒る私に、エリアスはまるで子犬のような瞳をして尋ねる。


「それで? 俺には感想を言ってくれないのか?」

「……っ」


 そう、今度は私が彼の服装に対して感想を言う番だ。

 私はその前に、とエリアスに向かって言葉を切り出す。


「今回は、黄緑色でのペアルックなのね」


 尋ねた私に、エリアスは笑って言う。


「あぁ、そうしてもらった。君が誕生日にくれたお守り……、あれは特別なものだから付けられていないが、あの色を見て着想を得てこれにしたいと思ったんだ。君と同じ瞳の色だから」

「!」


 そうして今度は、髪をさらりと撫でられる。

 エリアスはクスリと笑い、甘やかに口にした。


「身につける衣装の色には意味があって、互いの色を身につけあったりすることで婚約者同士だということを表すそうだが……、今回はあえて君の色を身につけたいと思った。

 ……俺にはアリスしか見えていないという意味と、他の男達への牽制も兼ねてだ」

「……!?!?」


 あまりの言葉にぶわっとこれ以上ないほど顔が熱くなっていく。

 ……とはいえ。


「〜〜〜こ、今宵の誕生日パーティーに参加される方は皆様知り合いよね!?」

「そうだが?」

「け、牽制も何もないと思うけれど!?」

「……嫌だったか?」


 そうしゅんと項垂れる彼を見てやけになって口にする。


「い、嫌だとは言っていないわ! け、けれど……っ」

「けれど?」


 自身のドレス……エリアスの胸元で輝く宝石と同じ色をしたキラキラのドレスを見て、思わずつぶやく。


「で、溺愛が、過ぎないかしら……?」

「今更気付いたのか?」

「!?」


 顔を上げたことで目が合った私を見たエリアスは、ふはっと嬉しそうに笑う。


(な、なんて心臓に悪い……っ)


 そんな彼をじっと見上げてから、お返しの代わりに背の高い彼の顔に手を伸ばし、軽く頬をつねってみる。

 さすがにこれには驚いたように目を丸くしたエリアスが尋ねる。


「な、何をやっているんだ……?」

「……駄目だわ。美貌のお顔が崩れても腹が立つくらいに似合ってしまうわ」

「そ、それは、褒めているんだよな……?」


 呆気に取られたようなエリアスの表情を見れて満足した私は、吹き出して笑いながら言う。


「もちろん、褒めているわ。とてもよく似合っている。

 私を想ってくれていることが伝わってきて……、とても、嬉しい」


 これは本心だった。

 私の瞳の色を身につけるエリアスなんて、小説で見たことも現実で想像もしなかったことだから。

 お揃いの色、それも私を想ってくれてのことで、両想いなんだという現実に改めて嬉しさが込み上げた私に、エリアスは顔を逸らしてしまう。


「そ、そうか。そこまで、嬉しいと思ってくれるとは思わなくて、俺も嬉しい」


 そう言った彼の耳が赤いことに気が付き、笑みを溢してから口にする。


「そろそろ行きましょうか。皆様お待ちよね」

「そ、そうだな」


 そう言ってエリアスのエスコートを受けながら歩き出した私は、少しだけ爪先立ちをして小声で言う。


「私のことを心配して迎えに来てくれたのよね。ありがとう」

「……それもあるが、君のドレス姿を見るのが待ちきれなくて来てしまった」


 こちらに目を向けることなく紡がれたその言葉を理解するまでに数秒の時間を要して。

 隣を歩くエリアスの赤くなった耳に負けないくらい、私の顔も赤く染まっていくのが鏡を見なくても分かった。

2/23〜いつも通り金曜22時に投稿いたします。

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