第十六話
大変長らくお待たせいたしました…!
金曜日22時、週一の更新(を頑張りたい)でお届けいたします。
ここから先は、二人がイチャイチャしつつ物語が展開&進みます…!
「来月、エドワールの生誕パレードが城下で執り行われることになった」
朝食の席に着くと、開口一番エリアスに告げられた言葉に前世の小説を思い出す。
(そうだわ、エリアスとエドワールの誕生日が一ヶ月違いだと言うことは知っていたけれど、私が読んだのはアリスが花祭りの日薔薇の園に身を投げたのが最期。今更だけど、その後も生きている私は既に小説とは違う展開を歩んでいる。つまり、ここから先は未知の未来……)
「アリス?」
エリアスに名を呼ばれたことでハッとし、慌てて頭を振ってからふと疑問に思ったことを尋ねる。
「城下で生誕パレード……、従来であれば王城で、生誕祭として夜会が行われるのではなかったかしら?」
「あぁ、従来であればな。だが、このご時世だからな」
ご時世、という単語に足元に目をやる。
いつも私の周りをついて歩いて回るあの魔物の存在がないことにホッとしてから頷く。
「……なるほど、民の前に王族が現れることで、目が行き届いていることをアピールし、国が安全であることを証明しようとしているのね」
「あぁ。夜会なんて開催している場合ではないと俺も思うからな。
魔物は魔法使いを狙う傾向にあり、宵闇の中で開催される夜会には貴族をはじめとした魔法使いが多く集まる。
そう考えると、夜会を開催する方が危険性が増す」
「確かにそうね……」
魔物は依然として数を増しているらしい。
日中には害を為さない初級魔物が、夜間は気性が荒い中級〜上級魔物が姿を現すとも。
(問題は、夜間に現れる魔物よね。魔法使いや最悪魔法を使えない民が狙われ、被害が及ぶことが一番危惧される……)
私がこの邸で上級魔物と対峙したことは、エリアスの計らいにより緘口令が敷かれたことで、王族にも伝わっていないらしい。
そして私があの時助かったのは、奇跡だと自分でも思う。
今はあの時よりも魔力が格段に上がったとはいえ、もしまたあの時のように魔物が目の前に現れたらと思うと、怖くないわけがない。
(それも、魔物の目的が私なのだから)
でも。
「アリス」
再度エリアスに名前を呼ばれる。
顔を上げれば、エリアスは真剣な表情で言った。
「必ず、俺が守る」
「……!」
そう言い切った彼の瞳には、私のことを想ってくれているのだということが伝わってきて。
そっと頷きを返し、微笑めば、エリアスは幾分柔らかな表情をしてから、今度は困ったような顔をして言った。
「君に話そうか迷ったんだが。一応、君宛にも届いているから見せておこうと思う」
エリアスからそう言って手渡されたのは。
「! 招待状……」
他でもない、エドワール殿下からの招待状で。
私はその招待状に目を通しながらエリアスに向かって尋ねる。
「王城の庭園での生誕パーティー……、しかもパレードの日に?
夜会は行わないのではなかったの?」
思わず尋ねた私に、エリアスは苛立たしげに答えた。
「……君に話すべきか、本当に迷ったんだが。
エドワールからだからな。気を悪くしないでほしい。
このご時世だからこそ夫妻で来てほしい、と王太子殿下たってのご所望だ」
エリアスが苛立った理由に気付き、ハッとして口にした。
「っ、まさか、エドワール殿下の目的は、魔物に狙われやすい私……?」
今度こそエリアスは苛立ちを隠すことなく忌々しげに肯定する。
「そういうことだ」
「で、でもどうして私が魔物に狙われ易いと知っているの? 公爵邸に私を探して魔物が侵入してきたことは、私達しか知らないはずでは」
「確かにその件は一切知らないはずだ。だが、魔物を封印してから初めて人間の前に魔物が姿を現したのは、君だった」
「……!」
エリアスの指摘に思い出す。
(そうだわ、結婚が嫌で侯爵邸を飛び出した際に魔物に襲われかけた時、エリアスと初めて出会い、助けられたんだわ……。あの時はまだ魔法が使えなかったから、ソールが『お前の中に宿る俺の魂に反応した』って言っていたけど……)
「魔物が封印を破り、再び現れるようになったことの調査が未だ難航している。
その結果を踏まえた現状打破のための一手として目を付けたのが、最初に魔物が姿を現した第一人者である君、と言ったところだ」
「……つまり私が参加することで、私の目の前に魔物が再び現れるか確認しようとしている……?」
私の呟きに、エリアスが今度こそ拳を握り机に振り下ろした。
驚きそちらに目をやった私に彼は慌てて謝ってから、それでも苛立ちは止まらないようで口にする。
「人の妻を喜んで危険な目に遭わせようとする奴がどこにいる。囮なんてもってのほかだ」
「私が、囮……」
「君は考えなくて良い。考えるまでもなく不参加だ。
俺は顔だけ出して文句を言ってからすぐに帰ってくる。
ましてやこんな物騒な時にたとえ邸の中でも一人君を置き去りになんてしたくはないからな」
「……エリアス」
エリアスがどこまでも私のことを考えてくれているのが分かって。
それがなんだか心が温かく、素直に嬉しく思えてエリアスを見つめると、彼はサッと視線を逸らした。
「そ、そんな目で見つめるな。心臓に悪い……」
「えっ、あ……、ごめんなさい」
「き、君が謝る問題ではない。これは俺の問題だからな」
「「……」」
お互いになんとも言えない甘やかな空気の中で沈黙が続いて。
話している内容を聞かれないよう、エリアスが人払いしていて良かった、と心底思っていると。
「と、とりあえず招待状への返事は俺から出しておく。
君は何も考えず、生誕パレードへ行くための支度だけ済ませれば良い。
日中は安全だとは思うが、それも嫌だったら無理をしなくて良い」
「い、行くわ!!」
「!」
思わず食い気味に答えてしまった私に、エリアスが目を見開く。
少し恥ずかしかったけれど、誰もいないからと意を決しておずおずと口にした。
「……だってあなたも一緒に、城下へ行けるのでしょう?」
「…………」
(あ、あれ? 行けないのかしら。それとも別行動?)
「も、もし、エドワール殿下の警護や任務で何か離れなければいけないのなら、私一人でも全然大丈夫よ。日中は危なくないのでしょう?」
「離れない」
「えっ?」
エリアスはそう呟いたかと思うと、徐に立ち上がり、椅子に座っている私の隣までやってくると。
「!?」
ギュッと抱きしめられた。
「エ、エリアス!?」
「君から離れるものか。ようやく、君と両想いになれたというのに、そんな君を囮に? 冗談じゃない……!」
「エ、エリアス……!」
意外と抱きしめる腕が強いし今まで以上に彼から執着めいたものを感じて恥ずかしいんですけど!
とツッコミたい衝動にかられながらも、顔に熱が集中するのが分かって。
バンバンと彼の背中を叩けば、エリアスは慌てたように私を解放する。
「ご、ごめん! ……っ」
「……あ」
顔が赤くなっている私を見た彼の顔が、同じように染まっていくのを見て身悶える私に、エリアスはボソッと呟く。
「……仕事したくない」
「! ……ふふっ」
その言葉に、思わず笑ってしまって。
私はそのまま言葉を紡いだ。
「お仕事、行ってらっしゃい。頑張って」
「!!」
小さく両手で拳を握ってそう激励すると、エリアスは先程の怖い顔はどこへやら、嬉しそうに心から笑みを浮かべて言った。
「頑張ってくる」
そう言うや否や部屋を出て行った彼を見送り、息を吐く。
(な、何だか夫婦みたい……)
いや、夫婦、なんだよね。
そんなことを今更ながら考えてから両頬を抑えると、一度目を閉じてから気持ちを切り替える。
(さて、問題は、今後の私の身の振り方ね……)
ここから先は、未知の未来。
自分で考え、慎重に行動しなければ。
そう自分に言い聞かせ、窓の外、青い空を見上げた。