第十二話
「好きよ、エリアス」
この気持ちよ、どうか届いて。
そう願いながら紡いだ言葉だけど……。
(は、恥ずかしい……っ!)
彼のことだから何かしら反応してくれると思ったけど反応がないし!
と焦りが思考を鈍らせ、口からはツラツラと勝手に言葉が飛び出る。
「って、こ、告白って意外と恥ずかしいものね……! エリアスが告白してくれた時凄く冷たい態度をとってしまったと思うけれど、あなたも勇気を振り絞って伝えてくれたのよね。だけどあの時の私はあなたの想いが信じられず受け止めることが出来なかったというか……、本当にごめんなさい」
口に出すうちに、今までの行いが走馬灯のように蘇ってきて。
過去のこともあり彼から逃げたい一心であしらってしまったことを、今更ながら反省して謝罪したけれど。
「……エリアス?」
やっぱり名を呼んでも当の本人からの返事はなくて。
(というか、固まってない?)
それこそ、“氷公爵”……彼の異名が思い起こされるほど、彼の持つ美貌も相まってまるで氷の彫像のように固まってしまっているわね、とそんなことを考えてしまいながら待つこと数十秒ほど。
「……俺は、夢を見ているんだろうか?」
「え?」
そうポツリと呟いた彼に首を傾げたのも束の間、エリアスは私の瞳を見てハッとしたように口にした。
「そうだ、これは自分に都合の良い夢だ。きっとそうだ、誕生日マジックにかかっているんだ」
「ま、まさかの夢オチにしようとしている!?」
私の一世一代の初告白を!? と驚く私に、エリアスは声を上げる。
「だ、だって信じられるか!? この俺が、君に愛していると言ってもらえるとは」
「ごめんなさい、そこまでは言っていないわ」
「そ、その切り返しはアリスで間違いないな」
「お誕生日をお祝いしているのも告白したのも今現在お話ししているのも他ならない私だけど?」
信じられない風なエリアスに向かい、間髪をいれずに思わず突っ込めば、彼は目を丸くして再度尋ねる。
「……本当に、これは現実なのか?」
そう慎重に尋ねられたため、私もゆっくりと迷うことなく頷く。
「えぇ」
「…………」
今度は黙って私を凝視し始めたため、今度こそ居た堪れなくなった私は行動に移すことにする。
「それでもまだ、信じられないというのなら……」
「!」
意を決して彼の顔に自分の顔を寄せ……、その頬に口付けを落とした。
「!?」
そんな一瞬の出来事に、彼は予想通り固まってしまったため、さすがにもう信じていただこうと口にする。
「……私が勇気を振り絞って行った告白も、口付けも、あなたはなかったことにするというのね?」
さすがに私の羞恥から来る少しの苛立ちには気付いたらしい。
彼は今度は壊れた人形のように、忙しなく目を動かし口を開いた。
「ちょ、待て、違う、そうじゃない、そうじゃなくて……、あまりにも、今目の前にいる君が、俺が望んでいたことの遥か上を上回ってくるものだから、状況に理解が追いつけていなくて……」
「…………」
エリアスの焦りと困惑が入り混じった表情を見て、確かにこれは私が悪いわと頷きつつ、膝に置かれていた彼の両手をそっと握り、その手を見つめながら言う。
「……私は、あなたが私に向ける感情が信じられなかった」
前世で一度失敗しているから、同じ轍を踏みたくない。
その一心で必死に距離を取ろうとした。けれど。
「それでもあなたは、私のことを想ってくれた。ずっと、私が求めていた言葉も、その時に一番欲しい言葉も、あなたが真っ先に私にくれた」
家族のこと、魔法のこと、誕生日のこと……。
「受け止め切れなくなって天界へ逃げてしまった私を、あなたは必死になって探してくれた。そうして遠くにいた私を、あなたは迎えに来てくれた。それが何より申し訳なくも、とても嬉しかった」
「……っ」
エリアスの瞳から透明で、何よりも綺麗な涙が頬を伝う。
そんな彼に伝えるべき言葉を、思っていたことを全て吐露する。
「今度は私、絶対にあなたを置いていなくなったりしないわ。
もし反対にあなたがいなくなったとしたら、私が探しに行く。そうしてまた出会って、一緒に笑いあって。
年を重ねて死ぬ時まで……、寿命が尽きるまで一緒にいられたら、私はとても、この上なく幸せだと思うのだけど。
エリアスは、どう思う?」
「……っ、そう、だな」
エリアスは流れる涙をそのままに、はにかみながら口にした。
「俺も、心の底からそう思う。そしてそれも、夢なのではないかと思うくらい幸せなことだ」
「……夢ではないと言っているのに」
そう言いながらも、私も似たようなものだわと言い、笑ってしまう。
そうして笑い合ってから、私は今だと、誕生日パーティーの準備の中で何よりも早く用意していたものを彼に手渡す。
「! これは……」
「私からの誕生日プレゼントよ。開けてみて」
まだ開けていないというのに、エリアスが破顔して述べる。
「ありがとう」
「き、気に入っていただけるかは分からないけれど」
期待を裏切ってしまったら困ると思い口にすれば、彼は首を横に振って言葉を返す。
「君からもらえるものなら、何でも嬉しい」
「っ、だからそれが一番困るのよ……」
彼はとことん私に甘すぎると改めて思いながら、彼に贈り物を開けるよう促す。
その笑顔と丁寧にリボンを解く彼を見て、気に入ってもらえるかどうか気が気でない私をよそに、リボンを解き終わった彼は木の箱の蓋を開けて……。
「……!」
驚き目を見開く彼の手には、黄緑色の宝石が埋め込まれたブローチが木箱に収められていて。
「……これは」
「ブローチよ。……もしかしたら、人前では付けない方が良いかもしれないけれど」
「な、なぜだ?」
「その石をよく見てみて」
「……?」
彼は木箱を持つ両手を持ち上げ、石を覗き込んでから……ハッとしたように私を見て言う。
「これは、魔石か?」
その言葉に頷き言葉を発した。
「えぇ、そうよ。あなたへの想いを込めて作ってみたの」
そう口にすれば、彼はもう一度、その石……よく見ると、私の魔力が込められた証である花が浮かんでいるのを信じられないという風に見つめた。