メイド姿
「部屋は離れにありますので彼について行ってください。私もすぐ向かいますので」
イズミに少年を先に部屋に案内してもらうことにした。
彼はすっかり体調も良さそうで、ホカホカでご機嫌といったところだろうか?
それを見たイズミの顔が引きつっていたのにはまるで気づいていないようだ。
……優秀ですが顔に出やすいのが玉にキズですね
これからはあまりあの少年に接触させるのは避けたほうがいいかもしれない
優秀な彼の意見が聞きたいのは山々だが、なるべくならリスクは避けたほうが良いだろう
さて、
「皆さん危険な任務をこなしていただきありがとうございました。ここで起こったことは他言無用でお願いします。」
最後に少年についたメイドたちに一人一人解毒魔法を施した後、浴場の方も無毒化する。
これで誰でも後始末ができるだろう。
今日何本目が分からない魔力回復薬を飲み干す
「どなたかすみません、ありったけの魔力回復薬を少年の部屋の近くの部屋へ運んでおいて下さい。代金は国持ちでお願いします。」
決して安くない魔力回復薬を今回のことでかなり消費してしまった。
必要なものは言えと言っていたし、ここは遠慮なく使わせてもらおう
その他にも必要そうなものを頼み、その場を後にする。
早く少年の所に向かわねば…
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部屋の前に着くとイズミとククルの二人が待っていた。
「報告をお願いします。まずはククル神官見習いからです。」
防音魔法をかけつつ二人に尋ねる。
「はい!手伝いに呼んだ神官様には詳細は伝えず、壁、柱、家具、布に至るまで耐衝撃の保護魔法をかけていただいています。あまり長持ちはしないかとは思いますが、クオリ様への繋としては充分かと…。動かす必要のない家具に関しては得意なものに頼んで物理的に固定をしてもらっています」
「それは私も確認しました」
イズミが肯定する
「この短時間でよくやってくれました。次はイズミ神官見習い、お願いします。」
「はい!浴場からこちらまで、特に異常はないように見えました。……一見すると本当に普通の少年にしか……見えません。」
よく見るとイズミは少し震えていた
「二人ともありがとうございました。彼の体調が良さそうなときは弱体化が効いている証拠です。覚えておいてください。体調が悪そうなときは絶対近寄ってはいけませんよ。あなた達は私がいない時の接触自体避けたほうがいいでしょう」
体調が良さそうな時は絶対安全という訳では無いのだが、ある程度の目安にはなるだろう
「では中に入ります。あなた達ここでは待っていなさい」
「そんな!ハルキウス様お一人では危険です!それに私はまだあの少年に関する見解の材料を集めきれずにいます。どうか!」
イズミが食い下がる
ククルも同じ気持ちのようだ
「わかりました。許可しましょう。イズミ神官見習い、あなたは顔に出やすい。そこは気をつけるように…」
「………ありがとうございます!」
「では行きましょ「待ってください。私も…行きます」
扉をノックしかけた所で現れたのは
「………クオリ?」
「それ以外誰に見えるんですか?」
メイド姿のクオリが立っていた。手にはカップと水のピッチャーを持っている。
いつも無表情が多いが、…これはどちらかというと死んだような目をしている。
「いや、見違えた。とても似合っているよ」
まじまじと見るのもあれなので、目を泳がせていると、後ろにクオリを引っ張っていったメイドがいて目があった
…素晴らしいでしょう????
…パーフェクトです
彼女逸材ですね。引き抜きを検討しておきましょう。
「………………。馬鹿なこと考えてないで行きますよ」
コンコン アッ、ハイドウゾ
おまっ
「お加減はいかがですか?…はいお水です」
頭を即座に切り替える。正直危なかった
「ありがとうございます。もう大丈夫そうです。」
メイド姿の娘の事を頭の隅に追いやり少年を観察する。
イズミの言うように本当に普通だ。
「それは良かった。あなたになにかあったら一族もろとも首が飛んじゃいますからねー」
「ブフォッ」
「フフフ、冗談ですよ」
軽口を言ってみると普通に反応してくれる。実際は首を飛ばされることになっても二人共(主に娘が)全力で抵抗するので特に問題はない。
「では改めまして、あなたの名前を伺ってもよろしいですか?いつまでもあなたでは味気ないですからね」
「っ」
イズミ君は気づきましたか。
名前を呼び、呼ばれる。それは信頼関係の構築に他ならない。
いざというときに躊躇ってしまう原因になる。
名前を知っているものと知らないもの、どちらかを殺せと言われれば普通は名前の知らないものを殺すだろう。
そういうものだ。
だが信頼関係を気づくことで得られる情報の差、彼に与えられる安心感を加味すれば些細なこと。
「あ、すみません。俺の名前は桜木剣斗です」
「サクラギ様とおっしゃるのですね」
「…あっいや…えっと、こっちでは個人の名前が前か。剣斗!剣斗のほうが名前っす…あっ…です。あと様付けはちょっと…」
家名が先に来る異世界人は記録にも多い。
特に有名なのは勇者シマヅだろうか
「そうですか、ではケントさんとお呼びしますね。ケントさん、状況がまだわからないとは思いますが、すべて陛下がお話致しますのでそれまでお待ちいただけますか?ちょっと事が事なのでお時間をいただくかと思いますが…。」
「………わかりました」
待たされるともっと不安がったり怒り出すかもしれないと思っていたがすんなり受け入れてくれた。
拍子抜けだ。
「ありがとうございます。お待たせする間、食事や衣服など必要なものがあればできる限り準備致しますのでメイドにでもおっしゃってください。」
ちらりとクオリを見る。認識阻害魔法をかけているのか気配がすごく薄い。
メイド姿の娘でなければそこにいることさえ認識できなかったかもしれない。
「えっ………メイドさんってずっといるんですか?」
「メイドは基本ずっと居りますよ。姿が見えないときも側に控えておりますので御用の際はそちらのテーブルのベルをお使いください」
ベルを鳴らされたら出て行ってくださいねと暗に言っているのである。
「メイドは慣れませんか?」
浴場でも思ったことを尋ねる
「いや、俺のところではメイドさんっていなかったし…いや、すごくお金持ちのところとかにはいるらしいけど実物を見るのは初めてで……」
「………」
小綺麗な姿を見て上流階級だと思っていたが、異世界ではこれが一般的な家庭の子供なのか…
こちらではもうこの位の男子ならば普通は何かしら働いているものだが…
「メイドは様々な用途を持つ道具とお考えいただければ良いのですよ?」
「そういうものなんですか…」
「ハルキウス様…そろそろ…」
どうやらイズミ君はある程度の考察ができたようだ。食事も出さねばならないだろうし長居はまずい。あとはクオリに任せよう。
「ああ、そうですね。ではケントさん、私はこれで失礼します。陛下からの呼び出しは今日はないでしょうから、どうかゆっくり休まれてください」
……きっと呼び出しがあるとすれば私達の方だ
「…ぁ…………待っ」
「…?何か?」
「………っ…いえ、何でもないです」
ケントが何かを言いかけてやめる。
無理もない。突然の異世界だ。不安にならないはずがない。
彼はその不安を隠していたいのだろう。
男子特有の強がりというものだ。
「私も近くの部屋におります。体調が悪くなった際はいつでもお呼びください」
安心させるように微笑む。彼の体調が悪くなるのは危険の始まり。すぐに対処せねばならない
私がずっと付いていることができればいいのだが、そういうわけにもいかない。
「……ありがとうございます」
彼の視線を感じながら私達は部屋を後にした。
ニコライの有能化が止まりません。
やることが多すぎて過労死しそうです。
あと無詠唱、バンバン使ってますが普通にこの世界でも超高等技術です