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壊れた世界の偽勇者  作者: 天野ラッカ
第一部 偽勇者
8/41

入浴の裏側で…

 

 少年に手を貸しながらゆっくり浴場へと向かう。


 途中弱体化魔法を流し続けることと自らの保護魔法を忘れない。


 クオリならともかくこれは普通のメイドや兵士には務まらないだろう。

 私達が出た後の儀式場は、少年の持ち物らしき物を回収の上、出入りを禁止を命じてある。


 一緒に何か小さなものが落ちてきている可能性が否めないからだ。


 だが今はそれにかまってはいられない。


「はい、着きましたよ。あとはメイド達が全てやってくれますので。……この少年のことをよろしく頼みます。」


 浴場担当メイドたちの肩に触れてありったけの保護魔法をかける。


 今はほぼ普通の少年ほどの力しかないはずだが油断はできない。

「あ…あの!」

「?なんですか?」

 少年が口を開く

 怪しまれたか?

「俺風呂ぐらい普通に入れます……だから……その……メイドさんに洗われるとかそういうのは………」


 この少年、日常的に湯に入れる生活をしていたのか?やはり上流階級の出なのか?しかしそれにしてはメイドに対する態度が変だ。


「彼女達は今、あなたの湯浴みを手伝うためにここに居ますので、彼女たちの仕事を取らないであげてください」

 笑顔でそう告げると少年は渋々納得したようだった



 そして彼が浴室に消えたことを確認した上で、懐に入れていた魔力回復薬を飲み干す。

 また補充をしておかねば…


「ハルキウス様!こちらを!」

 駆け寄ってきたイズミ神官見習いの手には魔力回復薬があった。

 アロモーラと一緒に持ってきてくれていたのだろう。

 やはり有能だ。

「ありがとう。で、首尾はいかがですか?」

 防音魔法をかけつつ尋ねる。これで風呂場の方には何も聞こえないはずだ。

「はい、全草を叩き、強い酒をかけた後湯に入れております。メイドには事前に解毒薬、耐性薬を服用していただきました。外まで効果が及んでしまわぬよう窓も通気口も塞いでおります」

「上出来です。あれだけの指示でよく理解してくれました。……ディトキス!」

 イズミの肩に手を当てて解毒魔法を施す。

 彼も対策無しでアロモーラに触れはしないと思うが念のためだ。


 アロモーラとは多くの生物を魅了する香りを放ち、その香りを嗅いだものを脱力させて動けなくした後その死体を養分に育つという恐ろしい性質を持った植物だ。

 凄まじく高価な香水に加工されるため、採取しようとして亡くなるものが後を絶たない。


「ありがとうございます。あの草は初めて扱いましたが思った以上でした…自分が用意しておいてこういうのはおかしいかもしれませんが、あれの入った湯に入るなど想像しただけで身震いがします………」


 普通の者が何も知らずに入ればそのまま湯に沈み死ぬだろう。それほどの毒性だ。メイド達が心配だが今は任せるしかない。


 今のうちに次の指示だ


「ククル神官見習い、彼が使う離れの部屋に他の神官を連れて行って保護魔法をかけておいてください。これを見せるといいでしょう」

 後ろにいた神官見習いの一人、白金色の髪と桃色の瞳、一見すると少女にも見える少年にポケットから出した指輪を渡す。

 神官長の印のある指輪だ。残された服の中から拾っておいた。他の神官たちを動かすのに良いだろう。

「責任重大…ですね…!行ってきます」

 指輪を受け取り一礼して走っていく。

 彼は交友関係が広く、他の神官の受けがいい。ものを頼むには適役だ。


「ヨマ神官見習い、次はあなたです。多分食事を出すことになるでしょうから、私の薬草庫からいくつか持って行ってください。何にどれを使うかはおまかせします。ネムタケ類はアロモーラと相性がいいので使うと良いでしょう。イズミ神官見習い、鍵を…。そこのメイド、この子を神官室経由で調理場まで連れて行ってください」

「かしこまりました。ではヨマ様、参りましょう」

「…ほらヨマ…」

 後ろに控えていた長い緑髪をゆるいお下げにした眼鏡の神官見習いの少女にイズミが鍵を渡す

「ふぁ!?ふぁい、がんばりましゅ…」


 返事は噛み噛みだが大丈夫。人と話すより草と話すのが好きな子だ。良い組み合わせを選んでくれるだろう。

 薬草以外は頼りないが薬草一点に対して特化している、それがヨマだ。


 ヨマもメイドに連れられパタパタと部屋を出る。


「イズミ神官見習いは私の後ろに控えておいてください。彼に対する私以外の見解が知りたいです。一挙手一投足を観察してください」


「承知しました。……ですがこれほどのことが本当に必要なのですか?やりすぎて死んでしまったりとか…」


 イズミが恐る恐る尋ねてくる


「彼は今、私の超弱体化の魔法がかかった状態です。あれはそんなに長く持続する魔法ではありません。今のうちに長期持続するものを入れる必要があるんです。」


「……っ!」

 イズミが息を呑む


 あの少年の危険さを改めて理解したのだろう


「くれぐれも、最深の注意を払ってください。」

「肝に銘じます…。」


「おしゃべりはこのくらいにしましょう。そろそろ中のメイドが限界かもしれません。交代人員の準備をしてください。解毒薬、耐性薬を飲んだ方はこちらへ。保護魔法をかけます」


「はい!すぐに!」


 結局少年がアロモーラ風呂から上がって服を着て出てくるまでに2度のメイド交代をすることになったが、なんとか怪しまれず、重度の中毒者を出すこともなく無事やり遂げることに成功した。


 ただピンピンしてこの風呂から出てきた少年の姿は、関わった者たちに未知の恐怖を植え付けるには十分すぎるものであった



神官見習い三人衆が出揃いました


イズミ→野生の超有能

ヨマ→薬草オタク

ククル→人間観察のプロ


です


みんなニコライが拾ってきました。


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