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壊れた世界の偽勇者  作者: 天野ラッカ
第一部 偽勇者
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落ちてきた少年

 

 つい椅子に座ったまま眠ってしまったようだ


 いつの間に寝てしまったのか記憶がない。


 部屋の時計を見る


 時間は…まだ余裕があるようだ


 私は儀式に直接関わりはないとはいえ上級神官の身。何があるか分からないのだから、娘のためにもいるに越したことはないだろう。


 服も何もかもそのままにしてしまったな


「…クリーン」


 光が包み、体と服を清める。


 だがおかしい


 この時間ならもう侍従の神官見習いたちが起こしに来ても良いはずなのに……


 まさか


 カーテンを開けると日がまさに顔を出そうかといったところだった


 くそ、やられた!時計をずらされた!!


 扉にも防音と鍵の魔法がかかっている


「ブレイクマジック!」


 打ち消しの魔法をかけたが壊れない。こんなことができるのは………


 私は持ち物の中から魔力向上薬と回復薬を口に含む。そして先程よりかなり力を入れて呪文を唱える

「我に仇なす力を打ち消し給え、ブレイクマジック」

 パリーン

 破れた!


「ハルキウス様!!申し訳、申し訳ありません!!」

 扉を出ると神官見習いが涙目になっていた

「話は儀式場に向かいながらでお願いします!!」

 二本目の魔力回復薬を飲みながら儀式場へ急ぐ!


 一体何をする気だ……クオリ!!!


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 儀式場の前まで来ると、扉から男が飛び出してくる。

「あぁ、良かった神官様!勇者が、勇者が呼び出されました!!王が神官をお呼びです!何故かあちらに居た神官様たちはすごい光の後で姿が見えなくなってしまわれて……」

 神官でも兵士でもない男。この者何故儀式場にいたのか

 それはわかりきったことだ。愚王め、儀式を見世物にしたのだ。


 でもまあそれはこの際どうでもいい


「勇者…だと?」


 あのバカ共に人間が通れる穴など開けられないはずだ。何かの間違いだろう……?


 信じられない思いで扉をくぐって見えたのは、見慣れぬ衣服を身にまとった少年とそれに手を差し伸べる王の姿だった


「おお、言葉もわかるのだな!僥倖僥倖!!申し訳ないが説明は後じゃ。まずは体調と……着替えじゃな。湯の準備じゃ!!立てるかね?」


「……は、はぃ…………うっっ」

 少年は立ち上がろうとして崩れ落ちる


 ありえない………


 最悪を想定していたつもりだったが生易しかった


 儀式に参加した神官たちが立っていたであろう場所には彼らの服が残されていた。魔力の不足分をその身体で補ったということなのだろう…


 通常儀式の魔法陣にはこうならないための安全装置が組み込まれているのだが、意図的に削り取られたようだ。


 やはりクオリか……!


 この場に自由に出入りできて魔法陣に触れられるのはあの子しかいない…!

 そして当の本人は壁際で酷く不機嫌そうな顔をしていた。

 すぐに殺そうと思ったらこのバカ王が出てきてできなかったとかそういうことだろう。


「急ぐことはない。今は休まれよ。神官はまだか!」


「は、ここに!」


 前へ出てひざまづく

 考えろ、思考を止めるな


「ハルキウスか。……まあ良い。命令じゃ。この少年を癒やせ。不備があればおぬしと一族の首はないものと思うがよい!」

 私の一族は、この王が化物と呼んだ娘だけなのだがまあいい。今はこの少年を刺激しないことが第一だ。その点に関しては王はうまく動いてくれている


「この身にかえて努めさせていただきます」



「わしはこれから他国との調整に入る。すべてが決まるまでは()()じゃ。よいな?人は自由に使え。入用なものはメイドに準備させればよかろう。では少年よ、先に失礼する。また会おう」


 わざと王が周りに聞こえるように言ったのはクオリに聞かせるためだろう

 クオリが少年に手を出せば私の首が飛ぶ。愚王にしては頭が回ったな。まあただかっこつけたかっただけの偶然の可能性もあるのだが。


 王と取り巻きが儀式場を出ると私は早速指示を出す

「あなたは何か胃に優しそうなスープを用意してください。大至急です」

「湯の準備をするものは神官室に保管してあるアロモーラを使ってください。抽出していない全草があります。イズミ神官見習い、ついていってあげなさい。鍵はこちらです。扱い方は分かりますね?」

「はい!大丈夫です!」

 後ろに控えていた濃い青髪の少年に指示を出す。

 イズミは優秀だ。ちゃんと私の意図を理解してくれるだろう


「衣服は普通のもので、少年に合いそうなものを見繕って持ってきてください」


「部屋は他に誰もいない離れに準備をお願いします。」


「そしてクオリ」

 まだそこにいた娘に声をかける

「説教でもするつもり?」

 悪びれもしない不機嫌そうな顔で言う

「それは後でたっぷりする。お前はメイドになりなさい。」

「は?」

「わかってるだろう?他のものでは務まらない。準備してきなさい。そこのメイド、服がある場所にこの子を連れて行って着替えさせてください」

 近くにいた赤毛のメイドに声をかける

「っかしこまりました!クオリ様、こちらへ…」

「くっ…………ちゃんと行きますから引っ張らないでくださいっ」

 ……良く訓練された良いメイドだ


 そしてすべての指示が済み、少年の方に向かう


「おまたせしました。私は上位神官を務めておりますニコライ=ハルキウスと申します。ニコライとお呼びください」

 まずは安心させることが先決だ。

 できる限り自然な笑みで自己紹介をする。


「にこらい…さん?…うっ」


 やはり言葉が分かるのか。言葉の通じない獣よりはやりやすいがボロは出せない


「すみません、まだ喋らなくて結構です。ちょっと背中に触れますよ。私の力がどこまで及ぶかはわかりませんが…………」


 無詠唱だ。呪文の内容も理解される恐れがある。

 そして練り上げる魔法は超弱体化だ。


 娘の求める異世界生物の魂を手に入れる助けとなればとひたすら探した弱体化魔法の一つ、対象に触れないと発動しないし抵抗されても効かなくなるため、今日までは日の目を見ることがなかった。


「いかがでしょうか?」


「ものすごく楽になりました。……あ…、あのっニコライさん、ここは一体どこなんでしょうか……?」

 やはり私の予想は当たっていた。

 つまり彼の不調の原因は、異世界とこちらの世界の感覚の差違だ。

 軽く動かしたつもりでも強く動いてしまうために脳が混乱しているのだ。まともに動けるはずがない


 それを弱体化させることで無理やりこちらの感覚に近づけているというわけだ


「…………。それは私から申し上げることではございません。国王陛下よりお聞きになってください。………こちらをどうぞ」

 王は()()()()調()()と言っていた。

 外交の道具として彼を使うつもりだろう。それならば彼に入れる知識は慎重に選ばなければ。


 メイドが持ってきたスープを鎮静薬が入ったカップに注ぎ、彼に手渡す。


「湯浴みをしていただきますが、その前に胃が空っぽではお辛いでしょう?果実のスープです。温まりますよ」


「…ありがとうございます」


 少しも疑うことなく口をつける。

 警戒心が薄い

 一見するとなんの変哲もない少年だ。

 艶のある髪に肌、どこかの貴族の生まれなのだろうか?


 いや、そんなことを考えている場合ではない。これからどう動くのか、最善を選ばなくては。


 胃がひっくり返りそうだ


 この選択の一つ一つに世界の命運がかかっているのだから




血の繋がらない娘のために実は父はとても頑張っています


ちなみに王様の手が無事だったのはとても運が良かっただけです

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