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壊れた世界の偽勇者  作者: 天野ラッカ
第一部 偽勇者
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第二章 ニコライ=ハルキウス

この物語の良心、ニコライさん視点のお話です

 

「私は反対です!」


 私は声を上げた


「おやおや、ハルキウス殿の親バカには誠に困ったものですな」


「全くです神官長、娘可愛さに大規模儀式の反対など全くもって馬鹿馬鹿しい」


「娘のことは関係ありません!!」


 バカはどちらだ!儀式の危険さが全くわかっていない。

 一体何が落ちてくるかわかったものではないのに!


「大規模儀式、楽しみだのう、かつての勇者のような人間が落ちてくると良いのう」


 このクソジジイがっ!

 そうだ。全ての元凶はこいつだ。この愚王め!


 前任の兄は賢王だった。病弱で武術などはからっきしだったがそれを補うほどの知性で国を治めた。


 惜しむらくは世継ぎを残さずこの愚弟を残して逝ってしまった事か。


 いや、あるいは逝かされてしまったのか。


 結果神官長や有力者はすべてこの王の息のかかった者たちにすげ替えられた。反対したものの末路は言わずもがなだ。


 私がまだ生きているのはきっとあの子のおかげだろう。


 全くもって頭が痛い。


「大規模な()をあけるには膨大な魔力を必要としますし落ちてきたモノに対処するためにも魔力は温存すべきだ!分かっておられるでしょう?!」


「魔力の弱いハルキウス殿にはそうでしょうが、今回は私を含めた上位8人での儀式だ。魔力を温存したとしても全くもって問題ありますまい」

 その8人は全て国王のねじ込みで位についた者のくせによく言う

「神官長もこう申しておる。それでも危険だというのなら当事者に聞いてみようではないか。のう、クオリ=ハルキウスよ」

 国王が後ろで黙って聞いていた娘に振る


「……私がそれで強くなれるなら別に構わないと思います。何が落ちてきても全力で殺すまで。儀式に使う魔力についてはわからないですけど」

「クオリ!お前っ」

「ほら、娘もこう言っているのだ。何を躊躇うことがある?」

 何を躊躇うことがあるかだと?

 お前らが予定している大きさ穴のを開けるには()()()()()()()()()()()()()()

 それすらわからないのか


「決行は明日早朝、日の魔力が高まる日の出直後に致しましょう」


「おぉそれならワシも早起きをしなければならぬな!こんな機会、滅多にないからのう!なぁに変なものが落ちてきてもそこの化け物が守ってくれるであろう?」

「………は?」

 本人の前で、親の前で、それを言うのか?

 腸が煮えくり返るのを感じる

 だが

「私は国王陛下に力を頂いている身。お守りできるなら身に余る光栄でございます。」

 普段笑わない娘が笑っている

「そうかそうか!ハルキウスは良い娘を持ったな!だが血は繋がっていないのであろう?こんな掘り出し物をよく見つけてきたものだ」

「ハッハッハ!誠に国王陛下のおっしゃるとおりですな!」


 これ以上ここにいたら私は何をしてしまうかわからない。

 握った拳がブルブルと震え、爪が食い込む

「~~~~!」

 暴言に耐えかねて口を開こうとしたその時、震えるその手に娘の手がそっと触れる


「国王陛下、明日の早朝に儀式を行うのであれば。万全に備えたく存じます。何卒父共々退室の許可をいただきたく…」

「おぉ良い良いあとはこの者たちだけで充分じゃ。下がって良いぞ」


「感謝いたします」


 なんとか娘とともに一礼をして部屋を出る

 危ないところだった。



「クオリ、またお前に救われてしまったな」

「父さんは優しすぎる。あんな奴ら放っておけばいい。どうせ魔力不足で小さな穴しか開かないわ」

「気づいていたのか」

「当たり前でしょ」

 儀式は早朝のため、今日は城に泊まったほうが良いだろう。

 宿直神官の為の部屋へ続く廊下を歩きながら話す。

 念の為防音魔法済みだ。

「もう…やめないか?この国を出てもお前と二人くらいならやっていける蓄えはあるんだぞ」

「だめよ。まだまだ足りない。あの国王は愚かだけれどそれはそれなりに使い道はある」

 確かにあの王になってから儀式の回数が増えた。小規模なものであれば毎週のように行われている。


 異世界の物はものによってはとんでもない価値がある。

 国王はそれが欲しいのだ。

 特に食用植物の種などが落ちてきたら、多分国の情勢がひっくり返るだろう。


 そしてクオリの狙いは異世界の生き物の魂。

 大抵落ちてくるのは虫や小動物だがそれでも強い力をクオリに与えているようだ。


「このままこんなこと続けたらお前はどうなる?」

 もはやこの国にクオリを超える強者はいない。それはもうすでに羨望を通り越して畏怖に変わるほどだ。


「そんなことはどうでもいい。私は奴らを殺せる力が欲しいの。それさえ手に入るならなんと言われようが知らないわ。利害は一致してる」


「………っ」

 無力だ。私がこの子を止めるには何もかもが足りない。力も意思も覚悟も何一つとして足りないのだと思い知らされる


「父さんが気に病む必要はない。あの日父さんが拾ってくれなければ私はあそこで死んでいた。今の私があるのは父さんのおかげ……すごく感謝しています」


 彼女の村の救援に、私達は間に合わなかった。

 燃え盛る炎の中で助けられたのはこの子一人だけ。


 この子が一体どんな地獄を見たのか、私は未だに聞けないままでいる。



 目的の部屋の前まで来た。クオリは別室だ

「おやすみなさい父さん。私のために怒ってくれて、すごく、嬉しかった…」


「…あぁおやすみクオリ」


 せめて、せめて私はあの子をこちら側に引き留める存在でいよう。私にできるのはきっとそのくらいだ。


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 部屋の椅子に腰掛け物思いにふける。

 先程激怒した影響か、睡魔が恐れて全くやって来てはくれなかった


 明日の儀式、あれは失敗する。目に見えている。

 ただし穴というものは大きければいいというものではない。

 小さな穴でも良いものが落ちてくる事もあるし、大きな穴を開けても何も落ちてこないことだってあるのだ。


 小さな穴しか開かなくても奴らは気づくことはないし、何も落ちてこなくても奴らの自尊心が傷付くことはない。

 あの愚王は激怒するだろうが。


 何事も無ければよいが


 胸騒ぎがする。こういうときの予感は当たるのだ


 最悪を想定しろ。そしてどう動けばよいか考えろ


 大きめの獣が落ちてきても大丈夫な備えはしてある。

 何も落ちてこなかった時のバカどもの諌め方も…


 だがいざとなったら娘と逃げよう。


 力では敵わないがあの子は優しい子だ。私の命をかければきっと言うことを聞いてくれる


「我ながらずるい考えだな…」


 思わず漏れた自嘲は誰が聞くこともなく、嵐の前の夜は過ぎていくのだった。

親バカであることはあながち間違いではないかも?

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