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突然の告白

 トールガンド王国は十六年前、ルシアナが生まれる三年前までこの辺りを支配していた国である。

 さらに東にあるレギナ王国により攻め込まれ、壊滅状態となったとき、トールガンド王国を治めていた女王のフレイヤはレギナ王国から自国民を守るため、トラリア王国に併合される道を選んだ。

 その時、前女王であったゲフィオンと一部諸侯が反発し、トールガンド解放軍を結成。

 結果、トールガンド王国の領土は、トラリア・トールガンド王国の連合軍、トールガンド解放軍、レギナ王国軍の三つ巴の戦いとなり、中央部と西部をトラリア王国が、東部をレギナ王国が支配することになった。

 そして、この遺跡はその戦争時代のトールガンド解放軍の隠れ拠点だったらしい。


 先ほどの地図を見てわかったのだが、戦争の終結間際にこの拠点は放棄されたらしく、連合軍やレギナ王国軍に攻め込まれたようなことはなかったらしい。

 怪我人を治療するために使われていたと思われる場所はあったが、死体がそのまま放置されていたりとかそういうのがなかっただけ助かった。

 もっとも、そういうものがあったら、遺跡を最初に発見した人だったり、前に清掃に来た青年団が発見していただろうし、その前に、この辺りの獣が食い散らかしていただろうが。


「慌てて撤退したんだろうな。いろいろと残ってる……が、金目の物は残ってねぇな」

「青年団が持ち出した武器が一番金目の物かもしれないよ」


 キールとサンタが遺跡の中に放置された書類や物資を見て言う。

 食材は残っていない。

 こちらも腐敗していたり、獣に食い荒らされたりした痕跡もない。

 十六年前の戦争の原因は飢饉だったから、武器よりも食材の方が貴重だったのかもしれない。


「あれ? この壁画?」


 ルシアナが一枚の壁画を見つけて立ち止まった。

 こちらは随分と古い物だった。


「ん? あぁ、古代トールガンド王国の壁画だね」

「そうですよね。前にも似たようなものを見たことがあったので」


 サンタの言葉に、ルシアナは頷いて言う。

 蛇やリザードマンの絵、そして文字が彫られていた。


「リザードマンといえば、ファル様と最初に会ったのは、レッドリザードマンに襲われた海の民を助けたときでしたよね」

「そうだったね。あと、その時は俺も一緒にいたから、忘れないでね」

「トールガンド王国の方は、リザードマンを操る呪法みたいなものを扱えたのでしょうか?」


 あの時はモーズ侯爵かその配下がレッドリザードマンを操っていたのかとルシアナは思っていたが、結局、モーズ侯爵が自殺してしまったため、結局真相は闇の中となった。


「どうしてシアはそう思うんだい?」


 そう尋ねたのは、ファルだった。

 そのバルシファルの表情は、先ほどと違い怖い雰囲気はない。いつも通りのバルシファルだった。


「え? ほら、前にファル様が、海の民を襲ったリザードマンは、モーズ侯爵の領内から運ばれたって仰っていたじゃないですか。それで、モーズ侯爵って、元々トールガンド王国に仕えていた貴族だったそうですから、そうなのかな? って思いまして――」

「あぁ、そういうことか。確かに、トールガンド王国には、シアが言っていた呪法が存在する。こっちに来てくれるかい?」


 そう言って、バルシファルはルシアナを遺跡の奥へと案内する。

 すると、そこにはさらに古い壁画があった。

 そこに描かれていたのは、四種類の絵だった。


「蛇、ドラゴン、リザードマン、そして人間ですか?」

「いや、リザードマンじゃない。竜人――ドラゴニュートと呼ばれる種族だよ」

「ドラゴニュート? 聞いたことがありませんが」

「そうだね、人は神が造った生物であるという教えに反しているからね。人が蛇から竜に、竜人に、そして人にと進化していったなんていう話は表には出ないよ。蛇神信仰が国教だったトールガンド王国においても教会の影響力は強く、この話はトールガンド王国でもごく一部の人間しか知らない話だよ。そして、その竜人の力を強く受け継いだトールガンド王国の王族の一部には、かつて竜の眷属であったリザードマンを統べる力があったとも言われている」

「トールガンド王国の王族が犯人……ということは、モーズ侯爵も?」

「いや、彼は代々トールガンド王家に仕えていた貴族ではあったが、王族の血は薄い。彼にリザードマンを操るのは不可能だ。そもそも、実際にリザードマンを操ることに成功したのはフレイヤ王妃とその母、ゲフィオンの二人だけなんだ。彼女たち以外にリザードマンを操れる者はいない」

「え? でも、ゲフィオン様は既に――」

「十六年前の戦争で亡くなっている――が、誰も死体は見ていない。もしかしたら、まだ生きている可能性もある」


 そう言ったときのバルシファルの表情から、また笑顔が消えた。

 その感情の無い彼の表情に、ルシアナは少し怖くなった。

 だが、彼女は聞かずにはいられない。


「今の話は、トールガンド王国でも一部の人しか知らない話……なんですよね? ファル様は何故、そのことをご存知なんですか?」


 そう言ったとき、バルシファルはゆっくりとルシアナを見た。


「あ、いえ、別に言いたくないならいいんです。ちょっとした好奇心で――」

「母から聞いたんだよ」

「ファル様の……お母様?」


 一体どんな人なのだろう? とルシアナが思った。

 紅茶が好きだったとしか聞いていないが。

 ルシアナも紅茶は好きだから、話が合うかもしれない。

 もしもまだ生きているのなら、きっといい嫁と姑関係になれるような気がする――なんてことを妄想したのだが。


「私の母の名はゲフィオンという。トールガンド王国の元女王だよ」


 バルシファルは言った。

 あまりにも自然に。

 だから、ルシアナは直ぐに理解できなかった。


「私はトールガンド王国の王子だったんだよ」

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