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第二回「シャルド殿下から婚約破棄されるにはどうしたらいいか?」

『本日のテーマ【第二回「シャルド殿下から婚約破棄されるにはどうしたらいいか?」】』


 壁に大きく文字を書くイメージで、ルシアナは早速会議を開始した。

 といっても、参加者はマリアだけなのだが。


「一体、なんでシャルド殿下は私にまた会おうと思ったのかしら。私が言うのもなんですけど、前回のお茶会は、本当にお茶を飲むだけで終わったんですよ。何か意見はありますでしょうか?」


 ルシアナがそう尋ねると、


「はい、お嬢様」

「はい、マリアさん」


 マリアが手を上げ、ルシアナが指名する。

 二人ともノリノリであった。

 マリアが立ち上がり、自分の意見を述べる。


「その場にレジー様もいらっしゃったのですよね」

「あ、マリアもレジー様には面識がありましたね。はい、いらっしゃいました」

「それでしたら、あまりに二人の会話が盛り上がらなかったので、このままではマズイとお思いになり、レジー様がシャルド殿下にもう一度お嬢様に会うように進言なさったのではないでしょうか?」


 そう言われてみれば、確かにその可能性は高いとルシアナは思った。

 レジーは子爵家の人間でありながら、宰相の甥という立場もあり、幼い頃からシャルドの側にいる側近中の側近。

 シャルド殿下に意見を言うことができる数少ない人物でもあった。


「つまり、シャルド殿下の好感度が上がったわけではないけれど、お茶会が盛り上がらなかったのもよくないと、そういうことですのね」

「はい、ですから、傍から見たら仲が良くなっているように見えないと困ります」

「なるほど……って、あれ? それってかなり難易度が上がっているのではありませんか?」


 他人から見たら仲良さそうに話しているように見えるのに、シャルド殿下からしてみたらつまらないと思われなければいけない。

 簡単に言えば、よく本気で喧嘩している子供がいるのを大人たちが見て、「あの子たちはいつも仲がいいね」と言われるようなものである。

 だが、王家と公爵家の確執を生まないために、王子に嫌われすぎてはいけない。

 まぁ、婚約破棄自体が大きな確執になるのだが、ルシアナはそちらは聖女が現れたときに王に進言するのだから割り切ってもらおうと思っている。


「マリア、何かいい方法がありませんか?」

「お任せください。このマリア、休憩中に様々な恋愛に関する指南書(れんあいしょうせつ)を網羅しております。そして、理解しました。お茶会は王城の建物の中でなく、中庭で行われたのですよね?」

「はい、そうですが、そこから何がわかるのですか?」

「ずばり、殿下は仕事ビジネス私事プライベートを分けるお方なのです! そういう殿方は、女性が仕事の場所に押し掛けることを非常に嫌います」

「なんですってっ!?」


 それを聞いて、ルシアナは驚愕した。

 何故なら、彼女は普段、バルシファルと仕事の付き合いが多い。

 マリアの言っていることが事実であるのなら、ルシアナはバルシファルに嫌われているということになる。


「ということは、私もファル様に嫌われて――」

「あの、お嬢様。あくまで、殿下の場合は――という話です。そもそも、お嬢様と、そのバルシファル様が出会ったのは仕事の場だったのですよね? 二人の出発点が仕事場なのですから、押し掛けていることにはなりません」

「そうですか。安心しました。でも、殿下の仕事場に私が押し掛ける。でも、流石に王城に押し掛けることはできませんわよ?」

「それなら、外遊の時に同行すればよろしいのでは?」

「なるほど――」


 シャルド殿下は洗礼式を終えてはいないが、それでも外遊で各地を訪問することがある。

 それなら、同行もしやすい。

 殿方と二人で旅と言えば緊張もするが、護衛もつきそう団体旅行のようなものと思えば、別に恥ずかしくはない。


「素晴らしいわ、マリア! あなたが傍にいて本当によかった」

「勿体ないお言葉です、お嬢様」

「何かお礼ができればいいのだけれども――」

「それでしたら、お嬢様にさらに助言ができるよう、指南書(れんあいしょうせつ)を購入するための費用を頂けたらと思います」

「そんなの当然経費ですわ! 私がお父様からいただいているお小遣いを全部渡しますから、好きに買ってください」

「それでは、お嬢様のお金が――」

「私は自分で稼いでいますから大丈夫です」


 ポーションを作ったお金だけでなく、ゴーストの調査報酬と浄化報酬も得られて、ルシアナの財布は僅かであるが潤っている。洋服などは全て侍従が用意しているので、ルシアナが使うお金と言えば、冒険者ギルドで食べる食事代くらいなものだ。しかし、それも結構多くの頻度で、冒険者ギルドにいる顔は怖いが心は優しい冒険者の方にご馳走になっている。ルシアナが流石に悪いのではないかと思って聞いてみたが、「いいんだ。俺を怖がらずに接してくれる子供はシアちゃんだけだから……俺は本当に救われている」と涙を流して喜んでいるみたいだったので、甘えることにしている。

 つまり、次回のシャルド殿下とのお茶会は、彼から次回の外遊の日程について聞き出せばいい。

 目標が定まった以上、頑張る。


「そういえば、またスコーンを焼かないといけませんね」

「また、シャルド殿下のために?」

「いえ、違います。王城に、スコーンが好きなちょっとかわいい騎士訓練生がいるので、彼のために差し入れをしようかと」


 そう言って、ルシアナは話し相手になってくれたカールのために、スコーンを焼こうと思うのだった。




 そして、お茶会の当日。

 ルシアナは前回と同様、中庭へと案内される。

 予定より少し早い時間だったので、当然、シャルド殿下の姿は見えない。

 そのため、前回と同様、茂みの裏で隠れて待機していると、ある少年が近付いてくるのが見えた。


「あら、カールさん。今日もトイレ掃除ですか?」


 前回と同様、鼻と口を布で覆っているカールが現れた。

 今回はエプロンと手袋はしていない。


「お久しぶりです、ルシアナ様」


 ルシアナの質問には答えず、カールが頭を下げた。


「シャルド殿下が来るまで暫く時間がかかるそうなので、よかったら話し相手になってくれないか……ですか?」


 どうやら、彼は伝達人として送られて来たらしいと、ルシアナは確信した。

 自分と話したことがある彼なら適任だろうと。


「ええ、勿論喜んで」


 ルシアナは笑顔でカールの誘いを承諾したのだった。

お読みいただき、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 万が一…万が一?こいつら夫婦になったら夫婦揃って変装して冒険者やる家臣からしたら傍迷惑なペアに… 転移系魔法取得したら最早脱走止める手立てないな
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