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再び冒険者ギルドへ

 その日、ルシアナは、シアとしてトーマスと一緒に冒険者ギルドに訪れた。

 やはり、ルシアナが冒険者ギルドに入ると、酒を飲んでいた男たちが見下ろすように彼女に視線を向けるが、先日のように恐怖は感じない。


「おじさん、以前は蜜飴ありがとうございました」

「あ……あぁ。また食べるか? 種類は前と違うが」

「いいんですか? ありがとうございます」


 男が差し出した蜜飴を、ルシアナは笑顔で受け取り、口の中に入れてコロコロと転がす。

 以前の蜜飴の時と違い、微かに柑橘系の果汁が含まれている気がした。


「よかったな、食べて貰えて。昨日とか、『あの子もう来ないのかな』って心配そうにしてたし」

「お前、わざわざ店に行って、子供が一番好きな飴はどれか、店の人に聞いてたもんな」

「うるせぇ! ここで泣かれたら迷惑だから仕方なくだな!」


 男たちが騒いでいると、またも受付嬢のエリーが、笑顔で手招きをしていたので、ルシアナは男に再度礼を言って、そちらに向かった。


「シアちゃん、いらっしゃい。トマさんは今日もお守り?」

「こんにちは、エリーさん」

「一応、親族だからね」


 トーマスはもはや慣れた様子で嘘をついた。


「あの、エリーさん。バルシファル様はいらっしゃいますか?」

「昨日は昼過ぎに来ていたけれど、今日はまだ来ていないわね。シアちゃんが来ていないって知って残念そうにしていたわよ」


 そう聞いて、ルシアナは悲しむべきか、喜ぶべきか複雑な気持ちだった。

 バルシファルがせっかく来てくれたのに会えなかったのは残念だが、しかし彼が自分にわざわざ会いに来てくれたということが嬉しかった。


「今日も来るって言っていたから、きっと来てくれると思うわよ」


 エリーがウィンクをしてルシアナを励ます。

 そこに、ギルド長のルークが訪れた。


「やぁ、シアくん。よく来たね。さっそくだが、今日もポーション作りを頼んでいいか?」

「バルシファル様がいらっしゃるまででしたら」


 先日作ったポーションは、全部、治療のために使ってしまった。

 そのため、今日ここに来たら、きっとポーションを作ることになるだろうということは覚悟していた。

 バルシファルがいたら断っていたところだが、ただ何もせずに待つのは時間が勿体ない。


「うん、それでいいよ」


 ルークは微笑を浮かべて頷き、ルシアナとトーマスを別室に案内する。

 そして、ルシアナは早速ポーション作りを始めた。

 以前壊してしまったアルラウネの魔石は、新しい物を用意してくれていた。

 魔力液も十分に用意している。


「ルークさん、以前より魔力液が多くありませんか?」

「うん、いっぱい購入したからね」

「……私に作らせるつもりだったんですね」

「もちろん、作った分だけ報酬は渡すよ。あ、これ、前作ったポーションの代金ね」


 そう言って、ルークは銅貨と銀貨の詰まった皮袋をルシアナの前に置く。


「ありがとうございます。トーマスさん、預かってください」


 ルシアナは中身を見ずに、そのままトーマスに渡した

 そして、ポーション作りを始める。


「相変わらず手際がいいね。それに綺麗だ」


 ルークはうっとりした表情で、ルシアナが作った中級ポーションを眺めた。

 この前、薬師ギルドのギルド長から守ってくれたときはカッコいい人だと思ったのに、いまのルークはちょっと変態さんだと、ルシアナは思った


「ルークさんは仕事はないんですか?」

「いまはシアくんのことを見ているのが仕事かな?」

「それって、何もしていないのと同じですよね?」

「それを言うなら、トーマスさんだって何もしていないだろ?」


 トーマスは本当にルシアナを見ているのが仕事なのだけれども、ルシアナもトーマスも、それを言うことはできない。

 この話を続けるのは、自分に不利だと思ったのか、話題を変えることにした。


「そういえば、海の民のみんなはどうなりました?」

「うん、薬師ギルドが責任をもって治療にあたってくれたよ。王家の命令だからね、彼も嫌とは言えないさ。おかげで、犠牲者も少なくて済んだよ」

「犠牲者がいたんですか?」

「ああ、七人亡くなっている」


 七人という数にルシアナは言葉を失った。

 自分が見たときは全員助けられると思ったのに、それだけの人が亡くなっていたなんて。

 ルシアナはそう思い、責任を感じた。


「シアくん、その七人はレッドリザードマンに襲われたときや、逃げる途中に亡くなった人だ。君が治療した人は、全員無事だよ」

「そうなんですか」


 でも、だからよかったと思えない。

 たとえルシアナに責任がなかったとしても、七人もの人間が亡くなっているというのは悲しい事実だった。


「シアちゃん、バルシファルさんがいらっしゃいましたよ」

「本当ですかっ! 直ぐに行きます!」


 ルシアナは作りかけのポーションをささっと完成させ、早速、冒険者ギルドのホールに向かった。

 ちょうど昼の食事の時間なのか、テーブルで食事をする冒険者で、ホールはごった返していた。


「こっちだよ」


 テーブルに座っていたバルシファルが先にルシアナを見つけ、手を上げてルシアナを呼んだ。

 ルシアナは顔を輝かせ、食事をしている冒険者の間を走り抜けていった。


「ファル様!」

「やぁ、小さい聖女様」

「私の事はシアって呼んでください、ファル様」

「わかったよ、シア」


 バルシファルが

 本当はルシアナと呼んでほしいけれど、それは許されない話だ。

 でも、公爵家を追放された暁には、シアと正式に改名すればいい。そう思った。


「あの、ファル様。私のことも紹介してもらえませんか?」


 突然、隣から声が上がった。

 そこで、ルシアナは初めて、テーブルにファルとは別の少年が座っていることに気付いた。

 年齢はルシアナより年上の十三歳くらいの赤い髪の少年だ。

 カッコいい美少年だとは思うけれど、バルシファルと比べると少し見劣りしてしまう。


「ああ、そうだった。彼はサンタ。いろいろと気の利く男でね。一緒のパーティを組んでいる」

「サンタさんですか。初めまして、シアです。サンタさんは小さいのに冒険者なんですね」

「小さいって、シアちゃんよりは大きいつもりですが」


 サンタはそう言って苦笑いする。

 背の低いことを気にしていたようだ。


「まぁ、若いのは事実だが、腕もそこそこ立つ男だ」

「サンタさん、強いんですか?」

「ああ、剣術大会で準優勝の経験もあるよ」

「やっぱり優勝はファル様ですか?」

「やっぱりって……いや、ファル様は年が離れているから。普通に、剣術学校の首席に負けただけだ」


 拗ねるようにサンタは言う。


「あぁ、ごめんなさい。でも準優勝でもすごいです。尊敬します!」

「ふふん、そうだろそうだろ」


 サンタは直ぐに機嫌がよくなった。


「ところで、シアはこれから時間があるかな? よければポーションのお礼に食事を奢りたいと思ったんだけど」

「いえ、それは結構です! ポーション作りでもらったお金がありますから、自分の分は自分で支払います!」


 ルシアナはきっぱりと断った。

 ポーションは、助けてもらった依頼料として渡した物で、それに対してお礼をされたら、さらにお礼をしなくてはならなくなってしまう。それでずっとバルシファルと繋がりを持てるのはいいことだが、いつかお礼をなんでも受け取る図々しい女だと思われたくなかった。

 もっとも、バルシファルにとって、ポーションのお礼というのはあくまで口実で、年下の女性を相手にしている以上、関係なく食事の代金を支払うつもりだったのだが。


「初めてだ……ファル様の申し出をそんな風に断った女の子は」

「ふふっ、本当に面白い聖女様だ」


 トーマスに預けていたお金を受け取って食事の注文をするルシアナを見て、サンタとバルシファルはそんな風に呟いたのだった。

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